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第2部 神の喪失  作者: 小島もりたか
1章 霊視装置
2/20

一話 成功(1)

「ミライ、今のあなたは誰なの?」


夜、寝る前。先に朋里と優希が寝たタイミングで切り出した。

ミライは「は?」と片眉を上げて、私を可哀想な者を見る目で言う。


「お母さん、今さら厨二病発症したの?」


隣にいた悟が吹き出す。

以前のミライと変わらないやり取り――だけど、以前と同じだからこそ疑問が浮かぶ。


「ねぇ、ミライ。クラゲをやっつける前のあなたに、『自分はここにいられない』みたいなことを言われたの。でも、あなたは前のまま変わっていない。強いて言うなら、情報構造体が他の機械的生命体と同じ感じになっただけ。私はその実情を知りたい」


細かく説明して、やっと考える気になったのか、ミライは椅子に座り直して首を捻った。


「『去年の僕』について、やっと分析しようと思えるようになったんだね」


ミライの言葉に、私と悟は深く頷く。

飛行場の関係でヨーロッパを発てない状況や、帰国してからも復興でバタバタしていたため、ミライに何が起きたのかゆっくり分析する時間が取れなかった。

というのもあるけど、何となくそれを避けていたのもある。


「今のあなたは、誰なの?」

「今の僕は、かつての『僕』の延長線上の存在にあるよ。『僕』のクローンとでも言えるかな?」

「体はそのまま残して、記憶のコピーが残された認識でいい?」

「そうそう。それだよ、お父さん」

「前のあなたはどういう存在だったの?」


核心を訊く言葉に、思わず生唾を飲み込んだ。

一方ミライは首を傾げて、悩ましそうにする。


「それね……それは覚えてないんだよね……。前世の記憶があったって言ったらいいかなぁ……。前の僕は前世の記憶があって色々すごかったんだけど、今の僕はその前世に関する記憶が全部なくなってる状態って感じ?」

「ミライは過去のあなたに乗っ取られていたってこと?」

「それは違うよ。僕はずっと僕だった。だけどあの日以降、前世の僕がいなくなった。今は前世の記憶がない僕ってだけ」


悟は終始頷いているが、私は理解はできても納得ができないでいた。


「ミライは前世の自分は何だったと思う?」


悟の問いかけに、ミライは再び頭を捻った。

前世の『ミライ』は、私は視覚的に把握できていた。あの特殊な情報構造体だ。今のミライは情報構造体を視ていても、目が痛くはならない。


「前の僕は――なんだったんだろう。地球外の文明の名残り……?」


――地球じゃないの?


悟の予想とは異なる分析に驚く。

悟を見ると、面白そうに笑んでいた。


「今も変わらないけど、前の僕も家族が大好きで大好きで大好きで、愛していた感覚は鮮明に残ってる。離れたくないって……」


ミライが切なそうに笑うので、思わず悟と抱き締める。


「そんなに離れたくなかったのに……私たちを助けるために、選んでくれたんだ……」


禁忌を犯し、帰還することを……。


「ありがとう」と伝えると、ミライが小さく頷いたあと、「まぁ、正確には『僕』がやった訳ではないけどね」と笑った。



特にクロウリーさんやケラーさんから催促された訳ではなかったけど、そろそろ霊視装置の開発に再着手しなければと思うようになったのが、それから約一年後、ある程度日本が復興してきた頃だった。


人口が大激減して不足した労働力を確保するために、大量の機械的生命体やロボット達が量産され続けた。

今や人口の一割は機械的生命体である。

生命体に分類されないロボットは、もっと多く存在して、少なくとも人口と同数程度はいるんじゃないだろうか?


とにかく、街に出ると機械的生命体と思われる人に出会わない日はなくなった。


私たちの研究所は、機械的生命体の生産場所でもある。


つまり、ここ二年程度は馬車馬のように働いていた。

生産地は二箇所増やしたけど、それでも復興するための生産は凄まじいものだった。

それに加え日本だけでなく、海外からの受注もあった。だからフルオーダーやセミオーダーは、国内含め注文は停止させてもらっていた。


まだまだ復興については問題が山積みだけど、目処は立ってきた。

だから私は、久しぶりにやっと霊視装置に関する研究を進める気になった。


ゆくゆくは開発しなければ、アイゼンベルクさんが強行手段に出てくる可能性もある。

先に少しでも動いた方が安全だろう、という判断もあった。


「――ミライ、もしかして、前のあなたって研究の妨害してた……?」


久しぶりに行った実験は、あまりにも予想外が理想値だった。

ミライが首を傾げて笑う。


「うーん。それについては、『以前の僕』が僕の身体を出ていく前に謝っていたと思うよ」


「……そういうことか……」


去り際の急な謝罪についての謎が今さら明らかになって若干スッキリするが、それ以上に怒りも沸々と湧いてくる。


――ミライ!!

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