その後……
それから父は王都で暮らし、日々、ドヴァル先生に怒鳴られながらも頑張っている。
祖母は先日刑期を終え、父が一緒に暮らすことを提案したが断った。二人の娘の魂を祈りながらボランティアに精を出したいと、教会で暮らす道を選んだ。
「無表情のお祖母様が、珍しく晴れやかな顔をされていたよ。本当のご自分を取り戻したのかもしれないね」
断られたが、感情を見せてくれたことが嬉しかったと、父は言った。
祖母はそれから数年後、ボランティアで通っていた孤児院の子どもたちに見守られ、その生涯を閉じた。
あの襲撃後、正式にアボッカセ兵団へ所属した私は、アローンさんの家に居候している。兵団員として活動する傍ら、上流社会の教育を受けに王都へ足を運んでいる。
「ジャスティー、今日は王都でしょう?」
「はい。ダンスやマナーのレッスンを受けに行きます」
「遅くならないようにね」
すっかりレイネスさんは私にとって、第二の母のような存在となった。
最初は居候を拒み、兵団の寮に入ろうとしたが、アローンさんから、レイネスさんが母という友人を亡くし、意気消沈している。元気を取り戻すのに協力してほしいとお願いされた。
そう言われると断れなくて一緒に暮らし始めたが、救われたのは、私自身もだった。
母を亡くし、父と離れて暮らす寂しさを、もう一組の両親が、温かく埋めてくれている。
「陛下の発言を受け思ったのだが……。仮に私が、あのままお前の母と結婚していても、お前が産まれ、私はアボッカセに配属されたのかもしれないな」
ある日、アローンさんがそんなことを呟いた。
国王やアローンさんの見解が正しいのかは、誰にも分からない。
本当にアボッカセでエルフィールを守ることが、私の宿命だったのか。それは神のみぞ知る。
だけど……。
本当に宿命だとしたら、この運命のナンバーは、神からの褒美かもしれない。エルフィールを守れた後、私が好きな人と結ばれるように……。
「全員処刑?」
「ああ」
女王たちは世界連合が開いた裁判にかけられ、全員……。エルーノも処刑されたと、二人でお茶をしている時に、フェーデが教えてくれた。
エルーノの両親、ホーベル王国の宰相夫妻は消息不明。国民の手により、私刑が執行された噂はあるが、真実かは分からない……。
「処刑と言っても、神の裁きだけど」
「神の裁き?」
「世界連合の開きに参加できるのは、国王である父上だけだから、僕も伝聞に過ぎないけれど……。皆の見ている前で、突然、全員の姿が消えたそうだよ。魔法よりも大きな力を以て」
フェーデから伝え聞いたそこは、裁判所というより、まるでコロシアムのような場所だった。そこで各国代表は闘技を見るよう、今回裁判にかけられる者を見下ろしていた。
女王やエルーノたちは、まるで闘技場のような地面の上に立たされ、多くの者が震えていた。女王は諦めていなかったのか、一人堂々と立っていた。エルーノは無表情だった。
「取決めを無視し、他国への侵略行為を行った此度の罪、神に裁きをお願いする!」
世界連合の代表者がそう言い木槌を下ろすと、魔法よりも巨大な力が発生し、空間が歪んだように感じる。その間に、女王たちは姿を消した。その場にいた誰もが、神の力により、どこか違う世界……。あの世へ全員、送られたのだと理解した。
つまりそれは、女王たちを神は許さなかったことを意味する。
裁判を終えると、インバーション帝国の皇帝は震え、怯えていた。
ホーベル王国、女王である自身の娘が姿を消した直後、神の声を聞いたそうだ。その内容については口を割らなかったが、怒った神が、帝国に裁きを与えるお告げをされたのだろうと、人々は噂した。
「インバーション帝国は、これからどうなるのかな」
「さあ……。帝国では最近、天災が多く発生している。あの国は皇帝の住む都を中心に栄えているけれど、流通する物は全て、侵略した国々に頼っていたから。天災に襲われていることで流通が滞り、日々の生活に影響が出ているそうだ。良い未来が待っているとは思えない」
「魔法で物資を転送すれば、解決する問題じゃない?」
私の疑問に、まずフェーデは首を振って答えた。
「帝国は現在、なぜか国土内で転送魔法が使えないんだ。きっと神が封じたんだ。天災もだけど、帝国は今、神の裁きを受けているんだよ」
少し冷めた紅茶に口を付け、考える。
……神はなぜ、今ごろ動いたのだろう。長年帝国の傍若無人を放置していたのに……。我慢の限界を迎えたのだろうか。
謎は残るが、私などに神のお考えが分かるはずもない。
結局インバーション帝国は、なす術なく衰退の一途をたどり、これより数年後、消滅する。
「そうだ。ジュビー様がジャスティーに、結婚式のドレス用のレースを編んでほしいと言っていたよ」
「本当⁉ 嬉しい! 絶対に編むって伝えておいて! ジュビー様も、もうすぐ花嫁かあ……」
今もイデレータ王子が女性に甘い言葉を囁いては、ジュビー様が叩いたり耳を引っ張ったり大変そうだと聞く。フェーデが言うには、あの二人はあれで仲が良いそうだ。
ナンバーが現れるまでは、二人で野原を駆けまわり、木刀で打ち合ったり、一緒に体術の訓練を受けたり……。まるで男友達のような関係だったそうだ。だからか夫婦になると分かり、おかしなこじれ方をしているそうだ。
「次は……。僕たちだな」
照れたように顔を赤くしたフェーデが、頬をかくと、ちらりと私を見てくる。
「そうだね」
私も顔を赤らめながら、笑顔で頷いた。
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次話、ついに最終回です。




