戦闘~3~
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「炎よ!」
「うわあ!」
ラウルの行動は、エルーノに読まれていた。
しかも信じられないことに、彼女は魔法使いだった。
呪文を唱えただけで、小さい炎の球が、いくつも一斉に飛んできた。それは髪の毛や服に燃え移ったので、慌てて手で叩き消す。だが視線はエルーノに向けたまま、ラウルは叫ぶ。
「あんた……! あんたが裏切り者なのか⁉ あんたがホーベル女王の手の者なのか⁉」
「……女王……。……私、生えている状態のエルフィールを見たことがなくて……。光っているからすぐ分かるとしか、聞いていなくて。こんな山の中で生活したことなんて、なくて」
だが質問には答えず、彼女は俯きながら、ぶつぶつと口の中で喋りはじめた。
がりがりと真ん中三本の指の爪を噛みながら、なおもぶつぶつ呟くが、その声は徐々に大きくなる。
「だけど知らないって言えなくて。そんなこと言ったら、また刺されちゃう。また切られちゃう。こんな傷のある顔じゃあ、マシェット様に嫌われちゃう。そうよ、これが終わればマシェット様と結婚できるのよ。だからこれ以上、傷を増やせない」
マシェット。その名を聞いたラウルには、処刑されたマシェット・シューペスしか浮かばなかった。
「おい、あんた。なにを言っているんだ? マシェットって、マシェット・シューペスのことか?」
女が爪を噛むことを止め、顔を上げる。嬉しそうに唇の形を変える。
「知っているの? マシェット様を」
「知っているもなにも……。フレイブ王国では有名人じゃないか。知らない訳がないだろ」
「じゃあ、マシェット様が今、どこにいるのか知っている? どこに行けば、マシェット様に会える? フレイブ王国に行けば、マシェット様に会えるって、女王が言ったのよ」
会いたかった知り合いとは、マシェットのことだったのか?
ひょっとしてエルーノは、彼が処刑されたことを知らないのだろうか。一体この女は、マシェットとどんな関係なのか……。
どうやらマシェットに好意を抱いているようなので、真実を伝えるのは心苦しいが、正直に口にする。
「マシェット・シューペスは……。何年も前に、処刑され、もう生きていない」
それを聞いたエルーノの顔が、無表情に固まる。瞬きさえ忘れているよう、ただ真っ直ぐラウルを見つめたまま、じりじりと距離を詰めてくる。
「嘘よ。なんでそんな嘘を言うの? ラウル、あなた、私の両親に頼まれたの? 私がマシェット様を諦めるように、協力しろと。そうでしょう? だからそんな嘘を、言うんでしょう⁉」
急に飛びかかられ、押し倒される。
「マシェット様が死んだなんて、嘘を言うな!」
今やエルーノの顔は、怒りで染まっている。吊り上がった目は血走り、顔全体が真っ赤に染まっている。
歯を食いしばりながら首を絞めるエルーノの力は、女と侮れないほど強い。だがこのまま好き勝手にやられるようでは、団員の名折れだと、ラウルは足を動かし、エルーノの腹部を蹴り飛ばす。そうやって自分からはがすことに成功する。
しばらく咳が止まらないが、無理やり背を丸めつつも、立ち上がる。
「えほ……っ。ごほ……っ。……マシェットは、死招き草の栽培や販売、殺人未遂一件、殺人数件、幼児誘拐……。王族反逆……。幾つもの罪で捕らえられ、処刑されたんだ!」
エルーノは地面に投げ出され、身を起こすと、腕を突き出す。
「……嘘だわ。炎よ!」
それだけで、また炎の球がいくつも現れ、飛んできた。
しかし今度は簡単に全て、避けることができた。
この炎の球は、飛ぶ速度が遅い。先ほどは奇襲されたので被弾したが、状況が変われば、避けることは容易だった。
「マシェット様を侮辱するとは、許せない! 炎よ、炎よ!」
それでも連続して撃たれると、数が増え、避けることが難しくなってくる。
下がって距離を開け、対策を考えようと避けながら後退する。
「炎よ!」
「封ぜよ!」
新たな少女の声が、その場に響く。
途端に、シャボン玉のような輝く薄い膜が、エルーノを四角く囲う。さらに驚くことに、エルーノの魔法は膜に跳ね返され、彼女自身が、燃え移った火を打ち消すことに躍起になる結果に。
「我がフレイブ王国、国民を攻撃する狼藉。見逃すことはできません」
「レーム……?」
現れたのは、レームと名乗る、友人デューネの運命の相手だった。
いつもほとんど顔がよく見えない恰好をしているが、間違いない。その目や声は、彼女だった。
「この人……っ」
火を消すことに夢中になっているエルーノを見て、レームこと、エニュスが目を開く。
「マシェットの、運命の相手……」
「え?」
エニュスの隣に立ち、改めてエルーノをまじまじと見るラウル。
「間違いない。ホーベル王国、宰相の娘、エルーノ・ノンロイ様。マシェット・シューペスの運命の相手が、なぜここに……」
「エルフィールがどうこう言っていたけれど……。なんかぶつぶつ言って、おかしな女なんだ。なあ、本当にマシェットの運命の相手なのか? こいつ、マシェットが亡くなったことを知らないようだぞ」
マシェットの逮捕と処刑は、ホーベル王国でも報じられたはず。それを知らない? 本当に?
わざと父親である宰相が、報道が耳に入らないよう伏せていたのか。それとも……。
エニュスは様々な理由を思う浮かべ、真実を掴もうと試みる。
「とにかく助かった。レーム、ありがとう。お前も魔法を使えたとは驚いたよ」
「魔法の気配を感じたから、慌てて来たのだけど、ラウルに怪我がなさそうで良かった。ラウル、一人でこんな場所で、なにをしていたの?」
避難場所に転移するなり、ここから魔法の気配を感じ、慌てて向かったので、ラウルの話を聞く余裕はエニュスにはなかった。
「俺はエルフィールを摘みに来たんだ。少しだけど、ここに生えていてさ」
「エルフィールが、あるの?」
「ああ、ほら。そこに」
指された場所には、本当に僅かだがエルフィールが生えていた。
ふらふらとエルフィールに寄る。
「良かった……。良かった、お兄様……っ」
これで兄は助かる。そう思ったエニュスは泣き崩れた。
お読み下さり、ありがとうございます。
明日(1月25日)の更新は、ありません。
私は書く→推敲→公開という形ですが、この推敲を、プリントアウトした紙で行います。
しかし家にプリンタがないので、コンビニ等を利用。
しかも終盤なので、書く→推敲→修正後推敲→公開としましたが、前述通り、コンビニ等に行かねば推敲ができないという……。
その為、余計に時間がかかっております。すみません……。




