着飾って出かけましょう
加筆修正を行いました。ストーリー内容に変更はありません。
翌朝、祖父から贈り物だと言われ、女中が持ってきたドレスに袖を通した。
ピンクの布地に胸元には赤いリボン。袖は丸く先はしぼみ、フリルを作っている。いわゆるパフ・スリーブだ。それはスカートの裾も同じように作られていた。さらにスカートには刺繍で花も描かれ、とても可愛い。私は嬉しくて、全身が写る鏡の前で何度もクルクル回る。
靴も用意されていた。茶色いく、やはりピンクのリボンがついている。髪は母にセットしてもらい、これも贈り物であるレースのついたピンクのリボンを飾ってもらう。
全身ピンクだけど、私は気に入った。まるで自分が絵本から抜け出したお姫様のように思えた。
「綺麗だよ。お姫様のようだ」
父が私を抱き上げながらそう言ってくれ、嬉しくて頬ずりする。
両親と一緒に食堂に向かうと、すでに祖父母は昨晩と同じ席に座っていた。
「おはよう! ドレスありがとう、お祖父ちゃん! どう? 似合う?」
私は全身を見せたくて、その場でクルリと一回転する。
「おはよう。ああ、似合っているよ。サイズも問題ないようで良かった」
「レディがそのような振る舞いをするものではありません。はしたない」
祖母の冷たい一言に、私の楽しい気分が一気にしぼむ。
「……ごめんなさい」
「普段からしつけていれば、こんな不作法な振る舞いをしないというもの。貴女は一体、子どもにどんな教えをしているのかしら」
「貴族の振る舞いを教える必要はありませんから」
「必要になるかもしれませんよ。その子の運命の相手が貴族かもしれないのだから」
「確かにその可能性はあります。でも、ジャスティーの相手は国文字が不明の外国人です。国文字の分からない国に、嫁がせるつもりはありません。それにこの子は庶民ですから、この国の貴族と結婚するなんてあり得ませんしね」
「国文字が不明? ナンバーを見せなさい」
椅子に座り、左足の靴下を脱いで左足の裏を祖父母に見せる。
「……確かにこんな国文字、見たことがないな」
二人は納得し、それから朝食となった。
◇◇◇◇◇
朝食後、祖父は気分が優れないと寝室へ向かう。昨晩と同じく、しっかり朝食を全て平らげたのに、無理をしたのだろうか。祖父の背中を母は、怪しんで見つめていた。
祖母が家にいても退屈だろうから、どこか観光に行ってきてはと提案してきた。
「あら、よろしいのですか? 私が王都を出歩いても」
「この家に戻ってきていると言わなければ構いませんよ。国民が一度は王都を訪れたいと思うことに、不思議はないでしょう? それに今はシーズン前。皆さん王都へ向けて移動中か、王都へ到着したばかりで忙しいでしょうし、あまり外を出歩いていないでしょうから」
「ならありがたく出かけるとしますわ。ジャスティー、どこに行きたい?」
いきなり言われても、王都になにがあるのか分からない。それでも考えると、思い出すものである。
「あ! お城! お城を見てみたい!」
「馬車の中で、お父さんとそんな話をしていたわね。じゃあお城を見に行きましょう」
「オーベンス、馬車の手配をなさい」
「かしこまりました」
祖母の言葉を受け、部屋を出て行くオーベンスさん。
「モディーン、せっかく久しぶりの王都なんだ。君も着飾ってはどうだい?」
「私、もうドレスなんて持っていないわよ」
「チェルシーのお古でよければありますよ。貴女とチェルシーは身長も体型もそんなに変わらないですし、問題なく着られるでしょう。ファイオスさんも、よければ服をお貸ししますよ」
「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」
「妻と娘は着飾るのに、貴方だけみすぼらしい服装で歩き回るなんて……。恥ずかしくないの?」
父は結局、祖母の申し出を受けることに改めた。
父の支度は服を着替えるだけなので、すぐに終わった。母は別室で着替えて化粧をして身なりを整えているので、時間がかかっている。その間、父と他にもどこかへ行こうかと相談する。
「そうだ、美術館はどうかな。あそこはお薦めだよ」
「美術館?」
「いろんな絵や宝石とか、あらゆる芸術品が展示されているんだ。王都で一番の観光名所で、外国のお客様もよく訪れるほど有名な所だよ」
絵には興味ないが、宝石には興味がある。道端に転がっている石ころと違い、キラキラと輝く特別な石。見たいと思った。
母の支度が終わる頃、手配された馬車も裏口についた。
母は華美ではなく、シンプルなチェック柄のドレスを選んでいた。シンプルとはいえ、いつもより上等品な服。さすが元貴族なだけあり、着こなし様になっている。
ドレスは胸元にボタンがあり、スカートの裾がゆったりとしたフリルを作っている。髪も結って上げ、普段は化粧っ気がないのに顔は鮮やかに彩られ、あまりの美しさに見惚れてしまう。
「ああ、すごく似合っている。とても綺麗だ。惚れ直すね」
少し掠れた甘い感嘆の声をあげた父が母を抱き寄せ、その頬に唇を優しく当てる。
「ふふ。ありがとう、あなた」
幸せそうに笑う美しい母。私も将来こんな女性になって、父のような人と結婚したいなと、改めて二人に憧れを抱いた。
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