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女王の命令

ブクマ登録ありがとうございます。

「なんですって? 植え替えられたエルフィールがある?」


 メッチェルの報告を聞き、思わず女王は、玉座から立ち上がる。


「どこに⁉」

「場所は不明ですが、これからアコッセ副団長の一団が、現場へ向かうそうです。また新たな情報を掴み次第、連絡が入る予定です」


 エルフィールは生息できる土地が限られている。アボッカセより、遠く離れていないことは確かだ。

 それにしても植え替えられるとは、想定外だった。燃やしていた事を、勘づいた者がいたということだろう。これはまずいと、歯噛みする。何者かは知らないが、植え替えた者を殺してやりたいほど、怒りを覚えた。


「余計な真似を……!」


 アローンが動く前に、予定通りアボッカセ周辺のエルフィールを殲滅できたと、連絡を受けたというのに……。

 そんな頃で、ドヴァルがアコッセに接触した情報を聞き、むしろ好都合だとも喜んだ。

 あの老医師から、病気に効く薬を作る為には、エルフィールが必要という情報を知り、フレイブ王国は慌てふためくはず。そこを狙い、こちらが有利になる条件を持って、取引しようと画策していた。

 例え取引を拒まれたとしても、病気により疲弊した国など、乗っ取りは容易いと企んでいたのに……。


 女王は気を静めようと目を閉じ、深呼吸を繰り返す。同時に怒りに囚われるな、焦るなと、自分に言い聞かせる。

 まず、どうすればいいのか考えろ。エルフィールがフレイブ王国に生息したままでは、取引ができない。エルフィールの殲滅が、やはり急務だ。


「地図を持って来なさい」


 やがて落ちついた口調で、メッチェルに告げる。

 用意された地図を机の上に広げ、女王は考える。

 植え替えた報告など、これまで一度も挙がっていない。とすれば、見つかりにくい場所に間違いない。何年もかけ、種飛ばしのたびにフレイブ王国に密偵を放ち、生息地を把握していた。エルフィールは種飛ばしの時に光るので、嫌でも目立つ。生息地の把握など、容易いものだった。

 それなのに、一度も報告に上がっていない。光っても分からない場所は、絞れる。


 どこだ? どこなら光っていても気づかれない? 女王は地図に目を走らせる。


 幸いエルフィールは、生息できる土地が限られているので、探索範囲も狭まれる。それでも地図と向き合っていれば、焦りが生じる。


 足留めから解放されたアローンは、襲撃者の捕獲に動いている。

 アローンと第三王子、フェーデが行動をともに始めたと報告を受けた時は、まずいことになったと歯噛みしたが、そのフェーデも発熱を起こし、現在は寝込んでいる。

 フェーデという戦力が失われたことは朗報だが、アローンは、今も自由に動き回っている。武人としての働きを考えれば、アローンにこそ、病に倒れてほしかった。


 焦りの理由は他にもある。帝国からの連絡で、フレイブ王国連盟がユレントロ王国に開戦を申し込み、今やユレントロ王国の制圧を完了したと聞いたからだ。

 帝国から軍を魔法具で送りこもうとすれば、どうしたことか。場所を転送中に知られ、そこを狙われ、被害を負うばかり。これ以上は戦力を削げないと帝国は判断し、ユレントロ王国を諦めることが決定された。


 フレイブ王国……。ルーチェがユレントロ王国で暴れることを想定し、その戦乱のどさくさで、ユレントロ王国も手中に収めるはずが……。

 世界政府も一分後に開戦を許可するなど、ふざけている。人が何年もかけ作戦を練り、準備に労したというのに……。これでは全て水の泡となってしまう。だからこそ、余計にフレイブ王国からの撤退など考えられない!

 ここでフレイブ王国に勝てば、ユレントロ王国にも、再度獲りに乗り出せる。連盟の国々にもだ。絶対に負けられない。


 集中している女王は、メッチェルに通信が入ったことさえ気がつかなかった。


「その名前は……。なるほどな。連絡ご苦労」


 やり取りも聞こえなかったようだ。それだけ集中しているのだろう。メッチェルは通信を終えると、女王の正面に立ち、一緒に地図を眺める。


「谷間の底……。いえ、標高が高い場所? 違うわね。どちらも見つけようと思えば、見つけられる」

「どこか洞窟の中でしょうか。そういった場所に群生することもあるようですし」

「そうね、それなら目立たないわね。植え替えても分かりにくく、目立たない……。アボッカセ周辺……。洞窟……」


 その時、地図に書かれたある山の名が、女王の目に飛びこむ。

 どこかで聞き覚えのある山の名。そうだ、昔聞いた噂。幼いルーチェが、どれだけの規模の魔法を使えるか試したところ、一つの山が崩れたという話。その山の名が、これだったはず。

 メッチェルにも分かるよう、山を指す。


「この山……。噂によると、ルーチェが崩したという山ね。頂上から深く、縦に穴が開いたという話だけれど、その話が事実だとすれば、ここほどいい場所はないわ」


 メッチェルは、なるほどと頷く。


「確かに。それならば空を飛ぶか、山の頂上に登らない限り、分かりませんな」

「撤退した軍を、確認に向かわせなさい! 手の空いている魔法使いも向かわせて! エルフィールがそこにあるのなら、殲滅するのよ!」

「承知しました、女王陛下。それから先ほど連絡がありまして、先ほど伝えた植え替えの件ですが、犯人が分かりまして。第三王子フェーデと、ゼバルの孫娘が犯人でした」

「なんですって⁉」


 あの時マシェットを切り捨てず、孫娘も処分していれば……。

 ぐしゃり。手元にあった地図を握り締める。怒りで手が震えていた。体を曲げ腕も机につき、握り締めた地図を持ち上げ、悔しさに顔を歪ませる。

 それから、ゆらりと体を起こす。

 見下すような鋭い眼差しを、メッチェルに向ける。


「……通達せよ、部隊は二班に分けるようにと。一班はエルフィール殲滅。もう一班は、ゼバルの孫娘を探しだし、殺せ」


 怒りをはらむ冷たい声だった。底冷えするその声に、メッチェルは震えながら、報告を続ける。


「……娘は現在、アコッセ副団長とエルフィールを摘みに向かっている模様です」

「あら、居場所は分かっているのね……。ふふ……。好都合だわ」


 しわくちゃになった地図を手放す。


「娘もろともアコッセ副団長たちを殺せば、エルフィール殲滅も、楽勝じゃない」

お読み下さり、ありがとうございます。

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