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4/4

~潰しますか?~


たくさん感想・ご指摘ありがとうございます^^

10/27 00:50直させて頂きました。




夕方。ユウイは緊張でうるさい心臓の音が、ソルティに聞こえていないか心配していた。

「ユウイ。そんなに緊張しなくていいですよ。」

ソルティは優しく言う。

「う、うん……。」

「早めに切り上げて、部屋に戻りましょうね。」

ユウイは頷くだけで精一杯だ。

ソルティは苦笑してから、時間を確認する。そろそろ帰ってくる頃だろう。


思った所で、階下が騒がしくなる。

「……来た様ですね。大丈夫ですか?ユウイ。」

コクコク首を振る。声も出なくなっている様だ。

ソルティは思わずクスリと笑った。


「私から離れなければ大丈夫。……体調が悪いと、会わない事も出来ますが。」

あまりの緊張振りにソルティは何度目かの言葉を掛けた。

「だいじょうぶ…ソルティのおにいさん、会ってみたいの。」

兄ならイルティの方がいい…そうも思ったが、ユウイの決定は変わらないだろう。ユウイは二人の兄に会いたいのだから。


そのまま階下へ降りると、マリーナがキウティを抱き締めている所だった。

「キウティ!もう、ろくに文も寄越さないで…元気そうで安心したわ。」

「ついこの間元気だって文を出したよ。母様は相変わらずだね。」

キウティは言いながら、母の腕から抜け出す。

「学園はどうだ?キウティ。」

「…いつも通りだよ、父様。」

そしてソルティとユウイに気がついた様で、あからさまに顔を歪める。

何か言おうとしたが、マリーナが阻んだ。


「あら!二人共やっと来たのね。夕食にしましょう。いつまでも玄関にいる物じゃないわ、積もる話しはそこでね。今日はキウティも居るから、とっても豪華なのよ。」

マリーナの声に促され、5人は食卓の間へ向かった。




「それではサデス、食事を。」

ハウズールが言い、サデスが配膳をする。


「キウティ兄様。お久し振りですね。お元気そうで何よりです。」

ソルティはにっこり笑って言った。

「はっお前も相変わらずなようで。ああ、一匹小汚ない獣がくっついているようだけど。」

キウティは嘲笑う。

「あ、は、はじめまして、ユウイです……えっと、このあいだから、」

「喋らないで貰える?獣の鳴き声を聞きながら食事する趣味はないんだ。」

「ご、ごめんなさ……っあ。」

慌てた様にユウイは口に手を当てる。隙間から、唇を噛みしめているのが見えた。

ソルティは目を細めたが、結局何もせず。

「はは、キウティ兄様も相変わらずな様ですね。」

笑って流した。

それに少し驚いた顔をしたのはハウズールだ。


「もう、キウティ。ユウイちゃんに酷い事言うのは止めなさい。それより、学園の事をもっと話して?」

マリーナが場を繕う様に言い、キウティもそれに乗り話し出す。

「ああ、この間の試験では8位だったよ。」

誇らし気に。

「まあ!8位?凄いじゃない!」

実際凄い事だ。生徒数はひとつのレベルに恐らく200人強。

「クラスで一桁は僕だけだったんだ。先生に表彰されちゃったよ。」

「良くやったキウティ。次もこの調子で頑張れ。」

「うん、父様。」


学園には、人数が多すぎる為、6~10才まで通う初等部、11~15才まで通う中等部、16~18才まで通う高等部がある。


それぞれの等部の年齢範囲内ならば、年齢の区別なく実力でクラスに振り分けられる。


レベルA~Fがあり、大体の子供はレベルFから始まり、一年毎にひとつ上のレベルへ上がっていく、という訳だ。


中等部から高等部へは、レベルCまでの生徒しか進学できない。


故に多くの生徒は中等部まで学び、それから家の仕事だったりを覚えていく。


キウティは現在13才、中等部レベルEだ。詰まり普通に進学しているということ。

来年にはレベルDになるだろう。



「おめでとうございます。キウティ兄様も高等部まで行けそうですね。」

「まあな。」

イルティもレベルA生として高等部に進んだ。

「楽しみね、卒業後はキウティも魔術騎士団に入るのかしら?」

「うん、そのつもり。体も鍛えてるんだ。」

魔術騎士団は所謂、花形だ。末端でも所属していると言うだけで、羨望と尊敬の的になる。

「イルティも血を吐きながら鍛えていた。キウティもきついだろう。」

「そうでもないよ。合ってるのかな。」

「…そうか。それは凄いな。」

質と量が違うのだろう、という言葉をハウズールは飲み込んだ。




食事は最初以外、始終和やかに終わった。

ユウイは一言も喋らなかった。



食事後も暫く談笑し、ソルティとユウイが部屋に戻ろうとした時。

キウティが追い付き、廊下で呼び止められる。


「おい、ソルティ。」

「キウティ兄様。何ですか?」

「その獣の事だよ。」

ユウイの顔が少し強ばる。

「一体いつまで置いておくつもりだ?屋敷が獣臭くなっているよ。」

ソルティは苦笑する。

「ユウイはもうアーカイル家の保護下と決定しているんですよ。聞いていませんか?」

「聞いたよ。人間に飼われていたんだって?そんな薄汚い獣、何匹も飼って何になるのか分からないね。」

ユウイの足に力が入る。キウティに殺意が向けられるが、本人は気づいていない。

ソルティはユウイの頭を撫で、自分に寄り掛からせる。


「そもそも仲間の獣はどこに?まさか共食いか?下等な獣にありそうな――」

〈キウティ兄様。本当に聞いてないのですか?〉

“念話”だった。本来念話は相手の許可を得て繋げる、上級魔法。

それを一方的に聞かせるのは、相手の波数に無理矢理魔力を捩じ込む様なものだ。

かなり高度で、繊細。


〈ユウイは私の大切な子です。今まで私の事では構いませんでしたが――ユウイを傷付ければ、私も動きますよ。〉

目を細め、局地的にキウティへ殺気を飛ばすと、さすがに気付いた。


「…っ上級魔法…!?」

顔を蒼くし、鳥肌を立てる。

こいつは化け物だ。知っている。しかし僕は畏れてなんかないはずだろ。

こんな獣の一匹、僕が好きに出来ないはずがない――

〈……分かって居ない様ですね。ユウイはキウティ兄様よりも数百倍価値があると言っているのです。貴方如きがユウイを貧ずしてはいけないのですよ。〉


「――っ」

ソルティの殺気が強まった。耐えきれないのだろう、ガタガタと震え、今にも倒れそうだ。

ソルティは、意識を無くす一瞬前に殺気を消した。


「ユウイは獣ではなく獣人ですよ、キウティ兄様。私たち人間より優れた所を沢山持っています。」

にっこり笑う。何もなかった様に。

「分かって頂けますよね?頭の宜しい兄様なら。」

確認する様に言うと、キウティは首をガクガク縦に振る。

「良かった。…それで、ユウイ何か言い掛けだったのでは?」

一瞬意味が分からなそうだったが、直ぐに理解できたのだろう。信じられないと顔を歪めるが、ソルティが目を細めるとビクッとする。



「、悪かっ…た…」

絞り出す様に言うと、ソルティはまた笑った。

「ユウイ、兄様がすみません。…許して頂けますか?」

ユウイは着いて行けてなかった。

自分を侮辱していたキウティが、なぜいきなり脅えているのか。増して謝った。

良くわからなかったが、とりあえず頷く。

「許して頂ける様です。良かったですね、キウティ兄様。」

そこまで言って、ソルティはユウイを促して背を向ける。

「では、おやすみなさい。キウティ兄様。」

ユウイも訳が分からないまま頭をぺこっと下げ、ソルティに続いた。



残ったのは、ソルティ達が居なくなったことで気が抜け、膝を付いて冷や汗を流しながら二人を睨み付けるキウティだけだった。




*




「ソルティ、ソルティ。さっきのなに?どうしてキウティさま、…」

「少し怒っただけですよ。ユウイを悲しませたのですから。」

「………かなしんでない。」

「そうですね。私が嫌だっただけです。」

頭を撫でると、ユウイの目が少し潤む。

「ユウイ…辛かったでしょし、怒りも湧いたでしょう。良く我慢しましたね。」

「…、…っ。」

「もう泣いていいですよ。」

「…ふ、っ…、うえ、」

ソルティは頭を撫で続ける。

暫く泣き、ユウイはそのまま眠った。





深夜。屋敷は静まり返っていた。そこを歩く人影――ソルティ。

ユウイを自室のベッドに寝かせた後、側に付いていたが、ハウズールから念話で呼ばれたのだ。



「父様、失礼します。」

「ああ、ソルティ。すまないな夜に。」

「いえ、大丈夫です。…キウティ兄様の事でしょう。」

「ああ…。どうする積りなのか、と思ってな。」

ソルティは笑って答えない。


「サデスから報告は受けている。 暴力はなく、殺気だけ。それも謝らせるなんて、キウティは黙っていられる程大人ではない。」


キウティはプライドが高い。また何かするだろう、とハウズールはユウイを心配しているのだ。


「…ソルティ?何を考えている。」

これを聞きたかったのだろう。

「父様、私学園に行こうと思います。」

「――!」

だがソルティの答えは的外れだった。

それを置いても、ハウズールは驚く。

「……学園に?ソルティが?ユウイちゃんとか?」

「ええ。ユウイの友人を増やそうと思いまして。」

「そう、か…いや、親としては嬉しい。ソルティも友人を作ってくれればと―――」

ハウズールは、何かに気付いた様に言葉を止める。


「……ソルティ。技とか。」

「何がです?」

「技とキウティを半端に抑え込んだのか……。」

ソルティはにっこり笑って、言う。

「ええ。障害物は、消すまではいかなくても早めに潰さなければ。」



ソルティ達が学園に行く事になれば、当然初等部。キウティは中等部だが、何かしら仕掛けて来るだろう。


自分は学園に来たばかり。不慣れ故に、隙が出来るかもしれない。


ならば今の内に、屋敷にいる間に逆らう気を無くしてやろうと。弱味でも握っておこうと。


それにはユウイへの暴言では足りないので、こちらが煽って行動に移させればいい。


故のあの行為である。


「……では、何故最初はキウティに好きにさせていた?ユウイちゃんは傷付いていただろう。」

夕食の席での事だ。ソルティならば抑えられただろう。

「人間の友人は作る積りですが、人間にもどうしようもない人は居ますから。全員に気を許すのも困ります。」

つまりキウティは「どうしようもない人」の例なのだ。それに、とソルティは続ける。


「ユウイは人間に反撃する事も覚えなければいけません。いつまでも怯えさせるのは可哀想ですからね。」


「……。」

ハウズールは何も言えない。ソルティもユウイも可愛いが、勿論キウティも可愛いのだ。


それでも止めないのは、ハウズールがキウティの欠点も理解しているからだろう。――出来れば、改善して欲しいと。


「…いつ、キウティは行動すると読んでいるんだ?」


その言葉に、ソルティはまた笑った。

「―――今夜。」




*




「くそっくそっ…!」

キウティは眠れなかった。あんな獣を父も母も庇う。使用人もほぼ受け入れている様だ。


それも気に入らないが、一番はソルティ。

獣を屋敷に匿い、信じられない事に可愛がっているという。


大切な子?獣だろう!

その上僕が、この僕が!獣に謝らされた!人間の中でも秀でている僕が、家畜にも劣る獣に!

そんな事があっていい訳がない。処分してやりたい。獣を殺して罪に問われる訳がない。


……だが…あの化け物がいる。ソルティが、あの獣に手を出したら動くといった。

っなにを考えているんだ僕は。あいつは弟だ。5才も年下だ。僕があいつに劣っている訳ない!

それでも、あの殺気を思い出すと…っだからといって、獣が、獣がこの屋敷に住み着くのを許す訳には…!


――そうだ獣を森に返そう。

ソルティも言っていた。魔の森から拾ったと。

ならば魔の森に返すべきだ。そうすれば5分もせずに死ぬだろう。

僕が直接手を出す訳じゃない。いや、ソルティなんて気にしてないからどうでもいいが。


だが、捨てに行くとしてもいつ行くか…

ソルティが獣を構う事を嫌っているニールに寄れば、二人の部屋は室内で繋がっているらしい。ソルティが居ない時でなければ直ぐにバレるだろう。

ニールに探らせよう…考えて、キウティは室内にあるベルを鳴らし、ニールを呼ぶ。


「お呼びですか、キウティ様。」

「うん。少しあの獣と話がしたくてね。だけどソルティはいい顔をしないだろ?」

ニールは目を輝かせた。キウティなら、ユウイを口弁で追い出してくれると思ったのだ。

「そうでございますね。大分あの少女を可愛がっている様ですから。…今ならば、ソルティ様はハウズール様に呼ばれておりますが……。」

「今?」

キウティは驚いた顔をする。

「はい、つい先程…暫くは居られる様で、お茶とお夜食をお運びしました。」

「夜食も…という事は、数時間は話されるんだね。」


今するべきか?とキウティは思う。だが急過ぎかもしれない。

魔の森まで歩いて15分。小竜を使えば3分も掛からない。

眠りの魔法であの獣を眠らせれば…。

「…そう。僕の小竜はいつもの厩舎にあるよね。」

「? はい。」

「じゃあ、もう下がっていいよ。父様とソルティには秘密ね。二人で話がしたいから。」

「畏まりました。…では失礼致します。」


ニールにはもう意識もくれず、キウティは魔法を準備する。

前準備もせずに魔法を使えるのは、一流の魔術騎士くらいだ。

魔力を溜め、眠りの魔法の術式を組み立てておく。

それから風の下級攻撃魔法も。

キウティが一度に準備できるのは、ふたつくらいだ。


キウティは護りの加護が付いているローブを羽織り、部屋を出た。



*



「ああ、動きましたね。やはりニールに夜食を持ってきて頂いて良かった。」

「……ニール。」

あの馬鹿、とでも言いそうな表情をするハウズール。


「大丈夫です。誰も殺したりしませんから。」



*



明かりもつけずに廊下を歩き、キウティはユウイの部屋をそっと開ける。

獣人故に耳もいいユウイは扉が開く音に目を覚ます。今までの生活故もあっただろう。

「―――っ」

キウティだと気付き、今夜の自分への態度からいい訪問ではないだろうとソルティを呼ぼうと口を開けたが、一瞬先に魔法を使われる。


抗えずに意識が遠退く中で、ソルティを思い浮かべた。



「…はっ。獣風情が焦らせやがって。」

キウティは呼吸を落ち着かせる。

ソルティを呼ばれるなんて溜まったものではない。


「さっさと小竜へ運ぼう。」

キウティは13才。ソルティの様に魔法で重力を操れるならともかく、ユウイを抱えられる程筋力はない。

結果、引きずった。腕を持ち、壁に当たるのも階段も気にせず引き摺る。


それにソルティが別室で怒りを露にするのも知らず、そのまま小竜へ乗せ、魔の森へ。


「さすがに不気味だな…。」

入り口近くまで来たが、余りの不穏な森に小竜は足を止めてしまう。

「ちっ動け!速く歩けよ!」

いくら蹴っても、怒鳴っても小竜は進まない。

キウティは気付かないが、脅える先にはウィーが樹に隠れ無音で怒っていた。


「役立たずがっ」

キウティは悪態を付き、ユウイを蹴り落とした後自分も飛び降りる。

「小竜、動くな、ここで待ってろよ。」

小竜に言って、またユウイを引き摺り森の中に少し入る。

「これ以上進めば僕も危ないな…。」

キウティは呟き、ユウイを投げ捨てる。


すると、その衝撃でかユウイの目が覚めた。

もともとソルティ程完璧な眠りの魔法でもなく、階段を引きずられた事や突き落とされた事で魔法が解けたのだろう。




「…、? っ!?なに、ここっ…そる、ソルティっ!」

「っ起きたのか!?くそ…っ。」

「や、やだ、ソルティっソルティ!たすけて!ソルティ、」

「黙れ!」

「いやー!!ソルティっ。離してー!!」


「この…!小竜といい、獣といい…!黙って言う事聞いとけばいいんだよ!」

ユウイを蹴る。

「獣がっ…人間様に、僕に逆らうな!あの化け物に気に入られたからっていい気になってんなよ!獣は獣らしく、人間の言う事聞いて這いつくばってろ!」


そこまで言われ、ユウイは動きも声も止める。

獣人を貧ずされたからか。

暴力を振るわれたからか。

それともソルティを化け物と呼ばれたからか。

どれが理由かは分からないが、腹の底から怒りが湧いてくるのを感じた。


命令も理不尽もないアーカイル家の生活に、少しでも慣れていたからだろう。

以前の、施設での様に無力感はない。逆らう気力があった。


「――はなせっ!」

叫ぶと同時に、キウティの腕に肘を打つ。


「いっ…た、この…っ獣が!」

キウティが言い終わる瞬間、頬にユウイの蹴りが入った。

「っぐあ!」

倒れはしなかったが、尻を着く。

所詮は実戦も行った事がない、安全な中で訓練していたキウティ。痛みに耐性はない。


ユウイは震える声で、抑えていた感情を、考えずにはいられなかった思いをぶつける。


「わ、わたしが、わたしたちがっおまえらにんげんになにをした?」

「けものと、見下されるようなことなんてなにもしてないっ」

「おまえのようなにんげんが、わたしたちになにをしたっ」

「わたしの、かぞくに、ともだちになにをした!」


「……っころしてやる…!」


明確な殺意だった。

キウティよりずっと幼い子供の、殺気だった。


「な――っ舐めるなよ、獣が。僕に勝てる訳ないだろ!」

一瞬怯むが、それを否定する様に大声を出して、準備していた風の下級攻撃魔法を発動する。


「お前が死ねよ!!」


キウティが放った魔法は、下級とはいえ攻撃魔法。

それをユウイは距離が近かった事もあり、正面から食らってしまった。


「――っ!」

「は、ははっいいか、所詮獣が……」

そこまで言った所で、キウティの声が不自然に止まる。

ユウイが不振に思いそちらを見ると、周囲には沢山の赤い粒。


――目だった。集団で行動する凶暴な魔猪が、数十体。

いくら魔物が現れにくい入り口近くだとしても、長時間騒げば寄ってくる。

それもキウティは魔法を使った。ここに居ますと言っている様なものだ。


「う、嘘だろ…」

呆然と囁く。準備していた魔法は使ってしまった。

魔猪一体でも絶望的なのに、数十体…。


「っお前が囮になれ!」

キウティは倒れているユウイを突飛ばし、逃げようとする。


しかし既に囲まれていて、その動きに反応した魔猪に体当たりされる。

「ぐふ…!」

恐らく骨が何本かいっただろう。口に血が溜まる。

「う、な、なんでだよ…。僕じゃなくてあいつを狙えよ!」

ユウイにも魔猪は向かっていたはずなのに、何故か傷ひとつない。


勿論魔猪に言葉は通じず、大声を出したキウティに、更に向かう。

先程とは別の魔猪が、大きな二本の牙でキウティの肩にかぶりついた。


「っうああああ!」

余りの痛みに声を上げる。それに興奮した様に、更に数体近寄ってきた。


「来るなっ来るな!嫌だ、っ!だれか、たすけっ」

死に物狂いで肩に刺さっている牙を抜き、背を向けて走り出す。

だが数体から一斉に体当たりされ、地面に投げ出された。

何本骨が折れているだろうか。もう動けない。

体当たりした魔猪達が甚振る様にゆっくり近づいて来た。

絶望の顔を浮かべるキウティ。恐怖から涙が止まらず、失禁までしている。

「っひ、う、うあ、嫌だっ死にたくない!父様、っ母様!」


内の一体がキウティの頭に牙を立てようと大きく口を開いた……

が、突然魔猪の動きが止まる。


「―――キウティ兄様。どうしました?そんなに焦って。」


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