呼吸
土曜日、とくに予定がなかったので、ぼくは本屋さんへ向かった。
買いたかった本を無事に購入して、さて帰ろうと思ったが、思わず隠れてしまった。
だって…だって…
桜が…
桜があの爆モテ先輩と一緒に並んで歩いていたから。
…
どうして…
どうして桜は、昨日…あんなウソをついたのだろう?
田口さんちに行くなんて…ウソを…
てか、やっぱりぼくは偽カレに認定されたのだろう。
しかし…なぜ?
あの先輩は、田口さんと付き合っているんじゃ?
もしかして…
二股⁉︎
爆モテ男子は、二股しているんじゃ⁉︎
てか…
もしかして桜は、二股されているのを知っている?
承知して交際してるとか⁉︎
だから、わざと田口さんの名前を出したのか⁉︎
これは、嘘告の前に軽くヒント与えましたよ?ってことか⁉︎
心臓がバクバクとしている。
これは、心臓が喜んでいるわけじゃない。
驚いてバクバク大騒ぎしているんだ。
ぼくも心臓もびっくりだ。
——
休み明け、桜はいつも通りだった。
なんなら、なぜか桜たちと田口さんが一緒にベランダにでて、手を広げて深呼吸をしているっぽかった。
休み時間が終わり、席につく田口さん。
えっと…
「さっき、ベランダで深呼吸してたの?」
後ろから山野さんが質問していた。
「うん、そうだよ。あ、ところで二人は、深呼吸してる?」
…
「「え…?」」
ぼくと山野さんは、驚いた。
だって、呼吸しなきゃ普通生きていられないでしょうにってね。
「そりゃ…ね?」
ぼくがこたえると、山野さんもうなずいた。
すると田口さんが、
「普通の呼吸じゃないよ?大きく呼吸すること」
と、得意げな顔を向けてきた。
「あぁ、ぼく聞いたことある」
「でしょ?深く呼吸すると、脳までもがリラックスするの」
「へえ、わたし呼吸なんて今まで一度も気にしたことなかったなぁ」
「でしょ?あたりまえのことって、意外とみおとしがちなんだよね」
「ほんとだわー。勉強になるなぁ。田口さんは、ぼくよりもすごく美に詳しくなっているよね。すごいなぁ。」
「ほんとだよね、田口さんが女子から注目されるのがよくわかる」
「へへ」
田口さんが照れ笑いをした。
そんな田口さんを、ニマニマして佐藤くんがみていた。
佐藤くん…
ぼくは、そんな佐藤くんをみて、ちょっとだけ胸が痛くなった。
だって…
もしかしたら田口さんには、彼氏がいるかもしれないのだから。
…
恋というものは、思い通りになかなかならないもんなんだな。
…
そもそも、田口さんと先輩…桜と先輩だって、よくわからない関係だし。
田口さんに、なんとなく聞ければなぁ…
軽いノリで、あの先輩と付き合ってるの?桜もあの先輩と付き合ってるみたいだよね?みたいにさ、サラッとさ…
…
無理に決まってる。
そんなの…
無理じゃん。
学校という名の出会いの場。
これは、大人になってもみんなの心に残る。
心の思い出のアルバムは、みんなそれぞれ違う。
ぼくは、みんなのアルバムにヤバいやつとして残りたくないな。
でも、どう残そうとその人の勝手だ。
ぼくのアルバムのほとんどを占領している桜は…
ふと、桜をみると友達と楽しそうに笑っていた。
とりあえず、今はなんだかよくわからないけど、それはそれでいいよね。
ぼくは、そっと心のアルバムを心にしまった。
データ保存中——
…
「どうしたの?ゆうたん?」
⁉︎
「えっ⁉︎あぁ。ううん、とくには…」
「そう?」
「うん…」
…
「え、てか田口さんってゆうたんって呼んでるんだ?」
「うん、そうだよ!ゆうたんにも許可もらってるから大丈夫。ねーっ」
…
「あー…まぁ。」
「ふーん。てか、田口さんって彼氏いるの?」
⁉︎
な、なんて質問をっ‼︎
田口さんは、チラッと桜の方をみた。
ぼくたちと、桜の席は、まあまあ近い。
…
今のって…桜に聞かれた…?
だって桜…
こっちみてるよ?
田口さんは、なんてこたえる気?
…
「それよりさぁ」
ぼくが話をかえようとすると田口さんが、
「それは、秘密〜。」
ってイタズラに笑った。
「そっかー」
と、山野さんは残念そうな顔をした。
桜は、前を向いた。
続く。




