第八話 いざ、グラヴィダ洞窟へ
グラヴィタ洞窟。
洞窟内はまるで星の瞬く夜空のように、キラキラと蒼く輝いている。
幻想的、という言葉が実に似合う。観光客が多く訪れそうなものだが……人の気配は一切ない。
勇者たちはこの洞窟を探索中。
「凄い! きれー! プラネタリウムみたい!」
わたしはというと、子供のような感想をぶちまけている。だって本当にそうだもん。転生前でもこういうの見た事無いし。
リントが微笑んで解説。
「これはね、磁力石っていうんだ。僕らが探してるマグネティック鉱石の下位互換さ。この世の重力の源となる物質で普通は採れないんだけど、このグラヴィダ洞窟では採掘可能だよ」
「へー」
そうなんだ。なかなか賢いんだね、変態勇者。
「本当に綺麗だよね。でも、コレのせいで……」
「身体が、重ったーい! ちょっと歩くだけでめちゃくちゃ疲れるんだけど! あとここジメジメしてるし!」
マルティーズちゃんが大声で文句を言う。洞窟内にこれでもかと反響した。
「洞窟だからジメジメしてるのは当然だが、確かにこれはしんどいな」
「そっか。鉱石の一つ一つが重力を帯びてるから、それが身体にのしかかるんだ……!」
ここに来てまだ数分しか経過していない。しかし、体力があるはずのリントとガーベルも息切れしている。辛そうだ。
わたしはというと、ずっと勇者の腰に装着されているために辛くなかった。ありがとうリント。
「流石は『不可侵領域B』だな。伊達じゃなかったってわけだ」
「不可侵領域って?」
「あぁ、そうか。転生してきたんだからそういう知識もないよな。不可侵領域っていうのは『英雄補完協会』が定めたAからEまでの命にかかわるダンジョンのことだな」
「なるほど」
うわ……なんか規模がでかそうな組織の名前が出てきたぞ。『英雄補完協会』? っていうんだ。ってことはそこがこの世界の冒険者をまとめているのかな?
「………………」
ん? 一瞬だけリントが悲しそうな顔をした気がするけど……気のせいか。
「ここはBだから……そうだな。原竜種を討伐できるようなヤツしか来んなよってこった」
「……えぇー!? 原竜種って、あの翼の生えたドラゴンのことでしょ!? ヤバいじゃん!」
ワイバーンと聞けば、ゲーム知識からすぐに分かる。絶対強いやつだ。
「大丈夫よ。アタシ達はすでに原竜種を討伐してるからね。フフン」
ドヤ顔のマルティーズちゃん。流石最強の黒魔導士っす。
「パーティー全員でかかってやっとだがな」
「そういうこと言わなくていいの!」
見栄っ張りのマルティーズちゃんもいいね。可愛い。
てか三人でも凄いだろ。普通は勝てないって。
「だから、戦力さえ分散させられなければ絶対に大丈夫だ」
と、ガーベル君がそう発言した瞬間。
『あ』
全員の声が一致した。
だって、目の前に二つの分かれ道が現れたから。フラグ回収ってやつだ。
「なるべくまとまって動きたいけど、時間かけちゃうと体力的にしんどいよね……うーん。じゃあガーベル、この先を視てくれないかな?」
「了解。浅いといいな。『固有技術・鷹ノ目」
銀髪の狩人の瞳が、琥珀色に染まる。
そして空洞の先をじっと見つめた。
「……チッ。射程距離を外れた。片道は三キロメートル以上だ」
「仕方ないか。二手に分かれよう。僕は左のルートに行くから、ガーベルとマルティーズは右をお願い」
「りょーかい! 任せなさい!」
よし、左ね。あんまり遠くないといいなぁ。
……ん? ちょっと待てよ。今、僕はって言った?
ねぇ、ちょっと。
「わたしの事、忘れないでよ!」
「……あっ、ごめんごめん! うわっ、暴れないで!」
まったく。これは後で説教が必要ですな。
そんなこんなで、わたしたちは二手に分かれて洞窟を探索することになったのだった。