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06:接点

【王都郊外 ウォーデン伯爵邸 伯爵執務室】

10月16日 19:30


「港地区の倉庫、ですか?」

「あそこのフォリス商会が所有する倉庫に『銃』がまとめて保管してあって、そこから少しずつ第二王子の所有する敷地に移しているらしい」


 夕食後、お父様に呼ばれた私とタカシは、そこでお父様のほうで掴んでる情報を教えてもらった。


 ジョージの企みを把握する上で、銃の供給元を調べるのは最重要課題だった。むしろジョージ本人よりもずっと優先度は上だ。戦争のバランスをひっくり返しかねないほどの代物だしね。放置はできない。


 私みたいな転生者や転移者がいて、その知識を元に造っているのか。それとも、タカシのチートみたいに、召喚でもしているのか。刻印のことを考えると、召喚のほうが可能性高いかな。

 ただ、そんなのがいたら、知識チートとかチートアイテムでやらかして、目立って噂になりそうなんだけどねえ。今のところ、銃以外ではそういう話は聞いてない。

 どうせチートするなら銃じゃなくて、日本の便利道具とかを出してくれたらいいのに。あるいは味噌だとか醤油とか。


 ふと、マリリン嬢の顔が思い浮かぶ。赤ネームのヒロイン。転生者かもしれないという疑いはあるけど、そうだったとしてもあんまりにも普通すぎて、こっちのヤバい案件に関わってるとも思えないんだけどねえ。気になるっちゃ気になるんだけど。


「その倉庫の前はどこから?」

「それはまだわからない。港が近いとなると、船で運んできた可能性もあるかな。ただ、海外から持ち込まれてたりすると、ちょっと困ったことになるね」


 もしそうだったら、ジョ( バ )ージ( カ )以下数人を粛清すれば済むような話じゃなくなってしまう。国外勢力の支援でクーデターを起こしたなんてのは、事と次第によっては開戦さえもありうる。相手は最初からそのつもりで準備してるかもしれないし、その上相手方には銃があることになる。ヤバいなんてもんじゃない。


「まあ、今のところは近隣諸国や海の向こうの国でも不穏な話は入ってきてないから、具体的なものが出てくるまでは置いておこう」

「関係ないことを祈りますわ」

「あと、件の倉庫には、仮面で顔を隠した正体不明の人物が度々訪れているらしくてね。どうも彼らにとってひどく重要な人物のようなんだが、今のところ素性はわかっていない。可能なら、その人物も探ってほしいかな」

「仮面の人物ですか。わかりました」



【王都港地区 海岸通り】

10月17日 16:10


 翌日。日が傾いて夕刻が近づいてきた頃、私たちは港地区へと向かった。いつもの伯爵家の馬車だと目立ってしょうがないんで、幌つきの荷馬車で来ている。

 港地区の端っこ、海岸沿いの通りに馬車を停めた。件の倉庫までは直線で300mほど。

 周辺の倉庫にはウォーデン家の者が入って監視してるけど、私らはそれとは別口だ。不用意に近づいて、感づかれるのもまずいし。


 幌で覆い隠された荷台の中で、私、タカシ、キャシーの三人は宙に浮いた〔ウィンドウ〕を覗き込んでいた。

 タカシの〔オプション〕にユーザーインターフェイス画面を公開して、他の人にも見えるようにする機能が追加されたんで、それでウィンドウを出してもらったのだ。20インチほどの半ば透けて見える四角形が宙に浮いてるというのは、なかなかにSFチックだ。


「はぁ~~……ドローンって、すごいっスね」


 素の口調が出てしまうくらいに、キャシーが唖然としながら言った。

 ウィンドウに表示されているのは、ドローンからの映像だった。

 このドローンはサイバーパンク系ゲームの装備品らしい。大きさは手の平に乗るくらいで、音も恐ろしく静かだ。ゲーム準拠なので、現実に存在しているドローンよりもさらに高性能になっている。

 赤外線映像を模したモノクロの画像は、上空からの俯瞰映像だ。街の様子がつぶさに見て取れ、人間やその他熱源は白色で表示される。ただ、本物の赤外線映像と違って、屋内にいる人のシルエットまで丸見えだった。さすがゲーム仕様というか、チート甚だしい。これも原理を気にしちゃいけないクチだろう。


「諜報や犯罪捜査とか、軍事作戦なんかでも、強烈な効果がありそうね」

「こんなん使われたら、ひとたまりもないっス。証拠能力がないのが残念やら、ほっとするやらッスけど」

「まあ、とてもじゃないけど表には出せないわね、こんなもの」

「うーん、ゲームによっては、ドローンすら使わずに敵の配置見えてるのもけっこうあるからなあ。俺はまだそういうゲーム呼び出せないけど」

「まあ、これだけできれば上出来すぎるでしょ。あ、ここ、これが例の倉庫ね」


 私は画面内の倉庫を指差した。塀で囲われた敷地の内側に二棟の倉庫がくっついて並んでる。


「南側の門のところに二人、倉庫の扉に一人、中にいるのが二人ね」

「んじゃ、予定通りもう一機飛ばすよ」

「うん、お願い」


 タカシがドローンを追加で呼び出すと、ウィンドウが二つになった。こちらは通常のカラー画像だ。

 幌の隙間から、ドローンを外へと出した。

 小さいので気づかれにくいし、気づかれても何なのか理解できる人はいないだろうけど、念のため、倉庫に接近するまでは高度100mほどで飛ばしてもらう。


「倉庫の西側から接近させて」

「らじゃ」


 画面の中で、しだいに倉庫が大きくなっていく。倉庫の西側の壁には窓が四ヶ所開いている。高価なガラス窓じゃなく、単に木枠とスリットを付けただけのもので、ドローンが入り込めるだけの十分な隙間がある。そのうちの一つから、倉庫内へ侵入した。

 内部には天井板がなく、梁と屋根裏がむき出しになっていた。その隅っこにドローンを止めて内部を映し出す。

 だだっ広い倉庫はたくさんの木箱が積まれていたが、中央の一角が空けられていた。

 そこには箱詰め作業している人が二人いて、足元には長い棒が何本も並べられている。


「お? あったあった」

「あれだね」


 棒のようなものはライフル銃だった。

 これまでは弾丸と薬莢だけで、本体を見れてなかったんだけど、ようやく物証をこの目で確認できた。

 作業員たちは細長い木箱に五丁ずつ丁寧に詰めては、傍らに積む作業をしていた。積まれてる箱は十五個ほどで、床にある分と合わせると、百丁ほどがあそこにあるのか。

 ズームしてみると、ディテールが見えてきた。


「ボルトアクションライフル……スプリングフィールドっぽいかな? えらく古風だけど」

「どういうもの?」

「単発式で、一発撃ったら手動でレバーをがっちゃんこと引いて、次の弾を装填するやつ」

「ばばばばって、連続では撃てないの?」

「あそこにあるのは無理だね。装弾数もたしか五発かそこらだったと思う」

「それなら、こちらにとってはいくらか有利かしら」

「まあ、気休め程度にね。一発でも当てられたら痛いし。でも、なぜあれを選んだかはちょっとわからない。スナイパーでもない限り、あえて単発式を選ぶとも思えないし」

「造りやすかったとか?」

「うーん、たぶんあれは二十世紀初頭に出てきたものだと思うんだけど、その当時でも機関銃はあったはずだしねえ。第二次世界大戦頃の軽機関銃とも、設計に差はあっても、工作技術でそこまで大きな差はないと思うんだけど」

「技術的には、あれよりもっとヤバいのを造れてもおかしくないわけね」

「たぶんね」


 そのとき、もう一方のウィンドウに目をやったキャシーが声を発した。


「お嬢様、倉庫に一人入っていきます」


 俯瞰画像のほうで、門を通って倉庫に入る人物が見えた。しばらくすると、倉庫内の画像にもその姿が入ってきた。

 その人物が来ると、作業していた人たちが手を止めて、挨拶をしていた。態度からして、その人物は彼らの中でも重要な地位にありそうだった。


「あれが仮面の人物かしら。ズームできない?」

「んー、これが限界」

「音声って拾えない?」

「残念ながら、そこまではサポートしてないや」


 そのローブの人物は頭もフードを被った上に、灰色ののっぺりした仮面もつけているようで、顔が見えなかった。ゆったりしたローブで体型も隠れており、性別もわからない。

 まさに怪しい人物としか表現しようがない。


「あ、アレを使ってみるか」


 そう言って、タカシはウィンドウ上のボタンをいくつか操作した。すると、画面内の人間たちの頭上に、彼らの名前が表示された。

 作業員たちにはそれぞれ〔カール〕〔ピーター〕と赤文字で名前が出たんだけど、しかし肝心の正体不明の人物については、灰色の文字で〔UNKNOWN(不明)〕と表示されるだけだった。


「なにこれ。情報がないってこと?」

「いや、顔が認識できないとダメなんじゃないかな。元のゲームシステムがたしかそんな設定だったと思う」

「残念」


 正体不明者はあぐらをかいて床に座ると、両手を前に差し出して、手の平を上に向けた。


「あれは何してるのかしら」

「んー、なんかの儀式? ……あっ」


 捧げた手の上に光が生じた。光はじりじりと横に伸びていって、1mほどの長さとなる。

 三十秒ほどして光は消え、不明者の手にはライフルが握られていた。

 正体不明者はライフルを検分すると、そっと床においた。それをピーターが拾い上げて、ほかの梱包前のライフルが置かれてるところへ持っていった。


「……ああやって造ってたんスか」

「あー……なんというか、そーいうチートみたいね……」

「はは……俺のとはまた違うけど、傍からみたら似たようなもんかねえ……」


 これまで謎だった銃の入手方法が、あっさりと判明してしまった。

 経路を探るのにもっと手こずるかと思ってたんで、拍子抜けというか、思いっきり脱力してしまった。

 無から練成しているのか、それとも地球から転送しているのかは判別つかない。しかし、よほど特殊なギフトにしても、チートの領域なのは確かだ。


 正体不明者は休憩を挟みながら、七~十分に一丁くらいのペースでライフルを生み出し続けていた。集中力がいるのか、それともMPかなにかがあるのか、連続しては造れないようだ。


「ん、今度は小さいのが出てきたわね」

自動拳銃(オートマティック)なのは確かだけど、ちょっとこの解像度だと種類まではなんとも」


 件の人物はライフルのほか、拳銃も出していた。ライフルより威力は低いけれど、連続して引き金を引くだけでバンバン撃てるそうで、あれだけでも充分な脅威になるらしい。


 拳銃だとライフルよりも短い時間で召喚(?)させられるようだ。大きさや銃の種類によって、何かしらのコストが異なるということかもしれない。

 仮にそうだったとしたら、コスト次第でもっと強力なのを出せても不思議はないのか。


 しかし、生産技術を確立したわけじゃなく、あくまで人のチートスキルに依存してるというのは朗報だ。あんなチートを持ってる人がそうそういるとも思えないし。

 あの人物さえ押さえることができれば、銃の供給は止まり、当面は銃の脅威が無秩序に広がることもなくなるだろう。すでに世に出ちゃった分はどうにもならないけど。

 また、船で運び込んでるわけじゃないので、国外からの干渉という線は薄くなったかな。いや、あの人物の素性がわからないと断定はできないか。


「お嬢様、あの人物を拘束しますか?」

「んー、現状では明白な不法行為とは言えないしねえ。チートで銃を産み出してる、っていうのも立証困難だし」


 拘束するにも、大義名分がないというのがネックになる。後で問題になったときに、正当性を主張できないのはまずい。うちの捜査権限てのも限定的なものだし、銃そのものを取り締まる法的根拠がなく、チートで未知の武器作ってました、なんて言って説得できるとも思えない。現場を見せれば一目瞭然だろうけど、タカシのチートを明かすわけにもいかないし。


「私ども特殊メイド部隊にお任せくだされば、何の痕跡も残さず行方不明にできますが」

「却下よ。素性のわからない相手に、闇雲に手を出すわけにはいかないわ。それに、今回はターゲットが普通じゃない。まず間違いなく銃を持ってるだろうから、ナメてかかったら痛い目を見るわよ」


 キャシーがおっかない提案をしてくる。

 まあ、キャシーはタカシの銃を撃ったことがあるから、銃がどういうものかは理解してるだろう。戦闘能力も尋常じゃない。彼女なら弾道を見切って回避し、ぶっとんだ体術スキルで相手を畳んでしまう、くらいのことをやってのけたとしても私は驚かない。呆れるだろうけど。

 でも、切羽詰ってて他に手がないならともかく、連中の動きからして、今はまだそこまでの状況じゃない。無理に危ない橋を渡る必要はないだろう。


「こちらには強力なチートがあるんだから、それでまずは尾行して素性を探るところからにするわ」

「仰せのままに」





 結局、召喚されたのは単発式ライフル七丁、自動拳銃三丁、弾丸多数といったところ。それ以外の武器、たとえば機関銃や大砲、爆弾だとかいったものはないようだった。

 今日の分はそこで終了らしく、正体不明者は作業をやめて立ち上がった。こうして見ると、意外と小柄かも。

 作業員二人と少し会話して、ペコリとお辞儀すると、外へ向かって歩き出した。


「追って」

「らじゃ」


 すでに辺りは暗くなっており、高度を下げても見つかる恐れはなさそうなので、ドローンは高度20mくらいで追いかけていった。


「ドローンの活動時間とかだいじょぶ?」

「バッテリーのほうは8時間くらいだからまだ余裕。通信範囲が半径15Kmほどだけど、まあ王都郊外くらいまでならカバーできるかな」

「お嬢様、このまま進むと貧民街に入ります」

「タカシ、込み入った場所でも追える?」

「俯瞰のほうでも見れてるしね。そいや、ターゲットのマーカー機能があったような」


 タカシが操作すると、件の人物の姿が明るい線で縁取られて表示された。これだけ強調されてれば、人ごみに紛れても見失うことはないだろう。


「なんというか、反則技極まれりって感じね」

「本職の立場ないっス」

「はは……」


 たぶん、普通に尾行したら、貧民街はかなりの難所になる。尾行者は紛れやすくなるけど、それは対象も同じだ。さらに視界をさえぎる物も多く、見失いやすい。スリや強盗など、尾行者にちょっかいかけて妨害してくる輩もいる。加えて、夜だ。

 が、しかし、私らは上空からの俯瞰で、屋根も透視できるうえ、強調表示で見失う恐れもない。まさにチート万歳。

 ついでに、対象から適度に距離をとりつつ追跡している人物が二人いるのも見えた。名前表示を見るに、うちの庭師のようだ。


 対象は尾行を警戒してるのか、雑踏に紛れたり、ふいに立ち止まってじっとしたり、裏路地を不可解なルートで抜けたりと、様々な行動をとっていた。そうするうちに、尾行者は対象を見失ってしまったらしく、引き返していった。

 どうやら対象のほうが上手のようだ。これは地上と連携をとる方法を考えておかないとダメかしら。

 そして、対象は貧民街の廃屋の中で立ち止まると、なにやらゴソゴソやっていた。


「ローブを脱いでるのでしょうか?」

「タカシ! ドローンを前方に回りこませて!」

「あいさー!」


 その人物が仮面をはずし、平民の一般的な服装になって廃屋から出てきたところをドローンのカメラが捉えた。ズームアップでその顔が大写しにされる。


「げっ……」


 ワンテンポ遅れて顔判別が行われ、カメラ内の映像でも〔UNKNOWN〕の表示が切り替わって、名前が表示された。赤ネームだ。

 しかし、私は名前の表示を見るまでもなく、顔を見た時点でそれが誰なのかわかってしまった。


「マリリン……」


 そこにいたのは、私の同級生であり転生者の疑いもある、乙女ゲーム『ファントム・ガーデン』のヒロイン、マリリン嬢だった。


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