討伐実習編その19
“メイリン、ごめんなさい。おそらく従魔契約を結んでいるためにそれを切られることを無意識に忌避して混乱しているのでしょう。わたしとメイリンの関係は契約上の主従関係が変わりますが、実際には大きく変わることはないと思います”
レーリーがわたしを宥めようとするが、自分で感情をコントロールできない。
「じゃあ、わたしとレーリーはどういう関係なの?」
“それは従魔と主人では……”
“それって、きちんと友達になりたい、ということじゃないんですか?”
それまでわたしたちを囲みこむように丸まって寝ていたはずのナナコが突然割り込んできた。
“友達、ですか”
“うん、メイリンはレーリーと主従関係じゃなくて、友達になりたいということでしょ。だからレーリーが主従関係に拘るのが嫌だったんじゃないの”
……そうかもしれない。
よく考えると、わたしには親友と言えるような人はいない。
サシャ様には親切にしてもらっており、友人のように接していただいてはいるけど、やはり身分差を意識してしまうので本当の意味での友人とはいえないだろう。
そして子供のころからサシャ様の学友として勉強していたわたしは、村の子供たちの中でも浮いていたので、故郷の村にも友人と言えるような人はいなかった。
そう考えるとレーリーとは主従関係にあるとはいえ、実際のところ普段は互いにあまりそれを意識せずに接している。
「そう、わたしはレーリーと友達になりたいのだと思う」
“……わたしは元は人間でしたが、今は魔獣です。そんなわたしと友達ですか”
「うん、ダメかな」
“わたしもあまり友達といえる人はいませんでした。なので改めて友達になってと言われてもどうしたらよいかよくわからないところもあります。
それでもよろしければわたしもメイリンと主従関係の前に友達になりたいと思います“
“じゃあ、わたしも友達だね! 3人で友達になろう!”
ナナコがまた入ってきた。
わたしもレーリーも人間関係は不器用なようだから、ナナコがいたくらいが丁度いいのかもしれない。
「ナナコは友達というか、妹みたいな感じなんだけど」
“なんだとー! わたしはこれでも15歳だよ!”
「じゃあ、わたしのほうがやっぱり年上だ。わたしは今16歳だから」
“では、わたしが一番年上なので姉ですか”
”ガーン、でも負けない。それなら妹キャラを極めて見せます!“
「あれ、友達のはずがいつの間にか三姉妹になっている」
“まあ、姉妹のように仲の良い友達ということでよいのではないでしょうか。
それで話は戻りますが、やはりわたしとメイリンの間の従魔契約は正したほうがよいと思います。
友達であることと、現在の従魔契約が不自然な状態であることは別問題ですから”
「うん、ただその件については先生方も調べてくれているけど、いつ可能になるかわからないから、気長に待つしかないと思う」
“そうですね。それまでは今まで通りになりますが、もっとわたしとの連携についても訓練しましょうか”
「うん、そのほうがいいと思う」
“あと、ナナコはどの程度のことができますか”
“え、わたし? こちらに来てからうろうろして不貞寝していただけだから、何ができるかはよくわからないなあ”
「それじゃあ、他の魔獣と戦ったりは?」
“それが、レーリーと会うまでは全然生き物と会わなかったんだ”
“おそらく、ナナコ自身の強さを他の動物や魔獣が察知して、逃げてしまったのでしょう。結果、わたしたちはナナコから逃げる大量の魔獣と戦うことになったわけです。
それで、元の世界ではなにか動物を狩ったり、戦った経験はありますか“
“まったくないですね。日本はそれなりに平和だったし、食べ物もお店で売っているから、戦いなんてゲームぐらいしかしたことないし、動物を狩らなくてもお店でお肉や魚が買えたんで”
驚いた。そんな夢のような世界もあるだ。
“こっちは戦争とかあるんですか?”
「一応、ここ100年ほどは時々小さな反乱がある程度で大きな戦争はないかな。
ただ魔獣がでるし、あちこちにダンジョンもあるから、戦闘技術は必要になると思う。
特にナナコは見るからに強い魔獣だから、そっち方面での依頼が今後増える可能性もあるかも」
“はー、わたし自身、自分が強いのかよくわかっていないんですが、本当にそんなチートな強さを持っているんですかね”
「チート? 何がズルなの?」
“つまり何の苦労もせずに他人より強い力や能力を得るようなことですよ。ね、ズルいでしょ”
“そういわれると確かにズルく聞こえますが、大丈夫です。どんな能力も使いこなせなければ意味がありませんから。
ということで、ナナコも一緒に特訓に加わっていただきます”
“え”っ?“
“元々はメイリンが少しでも身を守れるようにと始めたのですが、せっかくですので3人での連携を含めた訓練としましょう”
「もう決定事項なのね。いちおうこの三人の中ではレーリーが一番年上で戦いの経験も豊富だから、逆らわないほうがいいわよ」
“なんと、体育会系の部活は避けてきたのに、異世界に来て体育会系に強制加入となってしまいました。今からクーリングオフはできませんか”
「クー……なに?」
“いえ、いいです。言ってみただけですから”
なにやらナナコが落ち込んでいる。構ってあげるとかえって面倒そうなのでスルーしよう。




