討伐実習編その17
メイリン視点
ちょっとやってしまったかもしれない。
よく考えれば、このサイズの魔獣が現れれば大騒動になるのは明らかなのだ。
だけど、普通に連れて行くよりも、乗っていったほうが手懐けた感が出るから問題なかったとしておこう。
15人以上の相手から一斉に敵意を向けられた時は、死ぬかと思った。
魔力切れで眠り続けているレーリーがちょっと恨めしい……。
まあ、わたしがナナコを従魔にしたことを説明したら納得してくれた。
若干、不審に思っている人もいるみたいだけど。
それよりも、ナナコが妙に興奮しているのがちょっと怖い。
いや、暴れるとかじゃないんだけど、どうもわたしたちがいろいろな人種だったことに興奮しているらしい。
レーリーはまったく気にしていなかったから、異世界人はそういうものかとも思ったけど、どうやら違うらしい。
で、仕方がないので紹介することを伝えた。
“おおう、メイリンさんはクール素直さんかと思ったらツンデレさんでしたか。今時珍しいですよ。ツンデレは”
なんだか悪口を言われている気もするが、意味不明な発言は無視することにした。
「サシャ様、先ほどは勝手に飛び出してしまい申し訳ありませんでした」
「本当に心配したんですのよ。どうしてあんなことをしたんですの?」
う、単純にレーリーを追いかけただけなんだけど、なんて説明しよう。
「レーリーがこのホワイトタイガーを探知したらしく、飛び出して行ったので、連れ戻すために思わず追いかけてしまいました。
心配をかけてすみません」
さらにサシャ様はわたしに何か言いたそうだったが、そのまえにエリナ様が口をはさんだ。
「それよりも、そちらのホワイトタイガーを従魔にしたということですが、どういうことですか」
「はい、レーリーがこのホワイトタイガーと対峙していたのですが、どうやらわたしと波長があったようで、目の前で従魔契約を受け入れてくれたのです」
実際のところそういうことはほぼあり得ないのだが、今回のケースはそうとしか説明しようがない。
学園長やカイル先生には事実を伝えることになると思うが、レーリーの正体を知らない人に真実を伝えるわけにもいかないのだ。
「そうなんですか……。本当に大丈夫なの? ランク差が大きいと従魔契約をはねのけることがあるといいますが」
「はい。契約して分かりましたが、このホワイトタイガーは温厚な性格です。こちらからよほど挑発しない限りは問題はありません
それに、ある程度は人を区別して覚えられるようです。
名前を持っていてナナコといいます。
ナナコ、こちらはわたしのチームの皆さんです。
そちらからシーベル・エリギナ殿下。エリギナ帝国の第四皇子です。
アルドア・ステイン様、ステイン伯爵家の三男。
サシャ・マイナル様、マイナル伯爵家の次女。
エリナ・ジャナハン様、ジャナハン男爵家の長女。
それにゲイツ君です」
“順番に、エルフ、獣人、獣人、エルフ、ドワーフということでよいですか”
わたしの後ろで座っているナナコが確認してきたのでそうだと答える。
“よろしくお願いします”
ナナコは元気よくそう言ったつもりのようだが、どう見ても吠えているようにしか聞こえません。
皆さん、いきなり吠えられて怯えています。
「すみません。今のは皆さんに挨拶しただけです。
ほらナナコ、皆が怯えるから突然吠えては駄目」
“ごめん、ちょっと調子に乗った”
わたしが窘めるとナナコはそういって頭を下げた。
「……メイリン、あなたすごいですわね」
「え?」
「いえ、その、いくら従魔にしたとはいえ、ホワイトタイガーを前にして全然怯えた様子を見せませんし、そのようにしかりつけることもできるのですもの」
サシャ様の先ほどの疑問は、ナナコの一吠えで吹っ飛んでしまったようだが、今度は別の誤解が生じている。
確かにナナコは見た目は強いかもしれないが、言っていることが分かると怖いという思いよりも呆れのほうが強くなるのだ。
“王子様もいるんですね。玉の輿狙いですか?”
『殿下にはすでにエリナ様というお相手がいます』
“エリナ様って、男爵令嬢ですよね? 王子様とは身分的に釣り合わないのでは? はっ、もしかしてヒロインですか? サシャ様が悪役令嬢でざまぁされるんですか?”
『なに訳のわからないことを言っているの。まだどうなるかはわからないけど、結婚することになればおそらく殿下が臣下に降って、ジャナハン男爵家の婿に入ることになるわよ』
“なんだつまんない。目の前でテンプレを観察できるかと思ったのに”
『なにを期待していたのかよくわからないけど、あまり変な行動はしないでね』
そんな話をしていると、エリナ様が前に出てきた。
「ねえ、メイリンさん、こちらのナナコさんですか? ホワイトタイガーの毛並みは素晴らしいですわね。きちんと手入れをして差し上げないといけないわよ。
わたしがちょうどいいブラシを持っているので、少しブラッシングしてもよろしいかしら」
「ブラッシングですか?」
“ブラッシング! そういえば女性の身だしなみをここしばらくまったく気にしていませんでした! ぜひブラッシングしてほしいです”
ナナコが凄い食いついてきた!
「やはり主以外に触られるのは嫌かしら?」
「いえ、おそらく大丈夫です。ナナコ、エリナ様がブラッシングしてくれるって」
“いやっふー! じゃあ、ちょうど頭のあたりから背中にかけてをしてもらいたいんだけど”
そういってナナコが伏せの体勢をとった。
それでも結構な高さがあるのに、エリナ様は熱心にナナコをブラッシングされて、ブラシについた毛もなぜかすべて自前の袋にしまい込んでいた。
そういえばレーリーの毛皮にも最初は興味を持っていたみたいだし、エリナ様もモフモフが好きなのかな?




