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指名依頼編その20

ヘイハチロウ視点


 レーリー殿の手の内はおおむね分かった。

 一見逃げ回っているだけに見えるが、その間もこちらを観察しているのがよくわかる。

 おそらく単純な力勝負であれば拙者が上、技量も含めれば互角、魔力量はレーリー殿が上、魔力操作は拙者が上、経験ではレーリー殿が上であろう。


 しかし自分より強いかもしれないという相手と真剣勝負できるのはぞくぞくする。

 雨の中、火矢しか射てこないのも火魔法の適正しかないということであろうが、そう思わせる策だったとしても不思議ではない。

 とはいえ火魔法以外の適性があればそれで力押しされれば拙者の魔力が持たん。レーリー殿はそれに気づいているのかどうか。あるいは戦い方にこだわりでもあるのか。


 事実、逃げながらあちらこちらに発動前の魔力溜りを仕掛けて、こちらを罠に誘おうとしておる。魔力探知に長けていなければこの罠にあっけなく掛ったであろう。


 ただ気になるのが、どうもレーリー殿はこれだけ戦いに長けていながら魔法の操作に甘さが見える。欺瞞工作かもしれんが、何か事情があって魔法を使う機会に恵まれなかったのかもしれんな。

 天候的には拙者が有利ではあるが、魔力量でごり押しされればどうなるかわからん。


 まずは仕掛けられた魔力溜りをすべて潰させてもらう。

 拙者は素早く練り上げた水矢で設置された魔力溜りを全て打ち抜いた。




メイリン視点


 レーリーとヘイハチロウという白フクロウの戦いは追いかけっこのような様相で、枝から枝へとジグザグに逃げていくレーリーをヘイハチロウが空から追いかけ、時折互いに魔法を打ち合う、という感じで推移していたが、突然ヘイハチロウが複数のウォーターアローを周囲に放った。


「あれは何をしたんだ?」


「レーリーが恐らく罠を仕掛けるために設置していた魔力溜りを、白フクロウはあの一瞬で全てかき消した。あれは一筋縄ではいかんぞ」


 シーベル様と『鼠の牙』の後衛であるアクテクスさんがそんな会話をしている。


「レーリーは大丈夫なのかしら」


 サシャ様がわたしに尋ねてきた。


「……わたしもどうなるかわかりません。レーリーが強いのは間違いないと思いますが、相手も同じかそれ以上に強いように見えます。

 ……普段のレーリーならそういう時は負けない立ち回りをすると思います」


「なにか今回は違うとでも?」


「わかりません。わかりませんが、なにか違う意図をもって動いているようにも思えます」


 わからないことがもどかしい。

 レーリーは確かに個人としても強いけどむしろ怖いのはその指揮能力だということがドロテアさんとの一件ではっきりとわかった。

 そして指揮能力が高いということは、状況を一段高い視点で俯瞰できるということでもある。

 わたしは未だその高さの視点を持つことはできていない。


「未熟だ……」


 思わずそう言葉がこぼれた。




レーリー視点


 さて、オガワ様の力量は大体把握できたといえるでしょうか。


“さすがに真剣勝負をいどんでくるだけのことはありますね。魔力感知も制御も素晴らしい精度でした”


 わたしが話しかけるが先ほどまでのように答えが返ってくることはありません。


“さぞ厳しい鍛錬をされたことなのでしょう。天候が良ければいっそ火矢でごり押ししたいところですが、残念ながらこの雨の中では魔力が足りません”


 やはり反応はありません。おそらく私の声が聞こえない程集中されているのでしょう。

 どちらにしろ次で決着をつけます。


 わたしは引き続きオガワ様に話しかけつつ準備を進めていきます。


 移動しながら時に攻撃をよけ、時に反撃しながらなので少し時間がかかりましたが仕込みを終えました。


 今度は隠蔽処理をしっかりした魔力溜りを据えています。


 わたしは逃げながらその仕込みへとオガワ様を誘導し、そして会話に続けて防壁の詠唱を唱えました。

 オガワ様はどう反応されるでしょうか?




ヘイハチロウ視点


 それに気づいたのは本当にぎりぎりであった。


 レーリー殿が相変わらず何かを話しかけていることは分かっていたが惑わされないように無視をしていたため、彼女が防壁の詠唱をしだしたことに気付くのが遅れたのだ。


 それは拙者が飛ぶ方向にちょうど箱の形で展開された。

 もしも発動がもう半拍子遅ければ確実にとらわれていたであろう。


 しかし実際にはぎりぎり避けられる瞬間の発動であった。

 なんとか身をひねって躱すことに成功はしたが体勢が崩れる。


 そこをめがけてレーリー殿がさらに火壁を出してきた。

 ただし拙者が罠を躱したのを見て出したのか威力が低い。


 拙者は素早く身に水壁を纏い、強引に火壁を突破してレーリー殿へ突撃した。




ナナコ視点


 レーリー先輩とオガワヘイハチロウという新人と模擬戦を始めましたが、追いかけっこをしているということ以外、わたしにはよくわからないまま進み、気づいたらオガワ氏がレーリー先輩を押さえつけて勝利していました。


“ねえ、ムラバヤシ、今何が起きたかわかった?”


“たぶん最後はレーリーさんが障壁を出してオガワさんを閉じ込めようとしたけど、間一髪避けられて突っ込んできたのでファイアウォールで防御、しかしオガワさんはそれをウォーターウォールで強引に突破してレーリーさんを捕まえた、ということだと思うけど”


“……あんたよくそんなことまでわかるわね?”


 ムラバヤシのくせに生意気な。


“あー、マチダはきっと、レーリーさんとの訓練の時も相手をしっかり見てないだろ。動きの速い相手を見続けていれば、ある程度は相手の動きを目で追えるようになるし、魔力感知能力を鍛えていればそっちでも追えるはずだよ”


 う、確かにレーリーからも何度か注意されたっけ。ていうか、なんでムラバヤシはそんなに順応できてるの?


“俺はなんだかんだ言って最初にいた森の中でいろいろな魔獣と戦ったから。

 それよりもあのオガワっていうおっさん? かなり強かったな!“


 そう、それ! レーリーが負けるのを初めてみた!


“状況的にはレーリーさんの方が最初から不利だったから一概にレーリーさんよりオガワのおっさんが強いとは断言できないけど、少なくともかなりの実力者であることは間違いないな。

 彼が訓練に加われば、今よりもさらに強くなれるかな?“


 げ、訓練が厳しくなるのは勘弁!




メイリン視点


 一瞬、息が止まった。


 レーリーが負けたことに対してではない。あの瞬間、レーリーがオガワさんに殺されたと思ったのだ。

 オガワさんに抑え込まれただけのようだけど、最後はレーリー側も防御していないように見えた。


「レーリー、大丈夫!? ケガしてない?」


 一呼吸おいて気を取り直すと、わたしはレーリーの元へ向かった。


“メイリン、大丈夫です。真剣勝負とはいいましたがオガワ様もこれが試合だとわかっていますから”


 その言葉を証明するように、オガワさんはレーリーを抑えていた足を外し、彼女から少し離れた枝へ移動した。

 枝から降りてきて私の肩に飛び乗ってきたレーリー自身は、確かに目立ったケガもないようだ。




ヘイハチロウ視点


 個人的には微妙に納得のいかない終わり方でもあったが、全体としては満足できる戦いではあった。


 レーリー殿は主だという相手……だが実際には従属させている娘の元へ行き、なにやら話をしている。


“オガワ様が今の戦いで満足されたのか聞いていますが、いかがですか”


“久しぶりに互角以上に戦える相手と戦えた。おおむね満足だ。だが最後はどうして防御を捨てた”


“認識の違いでしょう。最後の火の壁を突破された時点で私の負けでした”


 即答か。まあよい。


“まだ手はあっただろうに。だがその直前までは本気で勝負を受けてくれたことには感謝する”


“ではわたしたちに同行していただけるでしょうか”


“武士に二言はない”


 おぬしらについていけば、いつでも試合を楽しめるのだからな。

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