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終わり、そして


 ジョナサンの体が吹っ飛ばされる。それを、リンドウはただみていることしかできない。

 領主が彼らをあざ笑う。


「どうした? これで終わりか? 私の支配から逃れたかったのだろう」


 ジョナサンは「領主(おや)を倒さなけりゃ本当の自由は手に入らない」と言った。だが、やはり領主を倒すのは無理だったのだとリンドウは悲観する。


 領主がリンドウに近付く。殺される、と覚悟したが、告げられたのは意外な言葉だった。


「醜いものは要らない。でも、美しいものは好きだよ」


 どういうことだ、とリンドウは真意をはかりかねる。

 リンドウは領主を見上げる。……彼は、すぐ隣のリンドウではなく、ジョナサンを見ていた。


眷属(むすこ)よ、お前の忠誠心を見せて見ろ」

 どくん、と心臓が跳ね上がる。嫌な予感が胸をよぎる。殺せと言っている(わかりたくない)


 血まみれのジョナサン。

 ジョナサンは表情を歪めながら「殺してくれ」とつぶやいた。


 †††


「…………、…………っ!」


 ーーだれかが、さけんでいる。


 もうろうとする意識の中薄目を開けたリンドウは、自分が誰かに連れられていることに気付いた。その人物はリンドウの両腕を首に回して、引きずるように歩を進めている。

 小さな体。大人の男を持ち上げるには至らない腕力。だが、彼女はーーアルは決して諦めようとはしていなかった。



リンドウさんっ(・・・・・・・)!」


 自分(ボク)の名だ、とリンドウは思う。

 炎の中、煙の中で呼び続けていたのだろうか。命知らずなのかーーそれほどまでに必死だったのか。


 何度も()せながら名前を呼ぶ彼女の体をリンドウは握りしめる。


「リンドウさんっ! 気がついたんだね!」

 息苦しくも嬉しそうな顔を見せるアル。


「あと少しで外だよ。……さあ!」


 扉を超えて外に出る。でこぼこの石畳の上で、二人は崩れるように倒れこんだ。



「倒した、んですね。リンドウさん」

 確かめるように口を開くアル。彼女は、領主を倒しておしまいなのだと思っている。……まだ怪物(・・)は残っているのに。


「領主はね」

 リンドウが答える。含ませるような言い方に、アルは不思議そうな顔をしながら上体を起こした。



「どういうことですか?」


 対してリンドウは、ごろりと横になったまま言葉を続ける。

 

「私は、……(ボク)は吸血鬼の眷属。霧の街の吸血領主、リンド=ブルームの分け身」

 首だけを動かして自分の体を見れば、焼け焦げた皮膚は既に再生しつつあった。領主の劣化品とはいえ、十分にバケモノと言える範疇だろう。


 拒絶されると思った。軽蔑されても仕方がないと思った。ーーそれなのに。


「ああ。ーーだから、リンドウなんだね」


 彼女は微笑む。血縁(つながり)を気にするそぶりなど欠けらも見せず。

 むしろ、「もう治りかけているけれど傷薬使いますか? 道具屋でもらった試供品なんだけど」とすら(のたま)った。



「……なんで、平気なの」


 (ボク)怪物(バケモノ)なのに。

 他人をーーきみを騙していたのに。



 するとリンドウの心を見透かしたようにアルが答える。

「リンドウさんはボクを助けてくれたよ」



 それは、彼女が領主にさらわれた時のことだろうかと考える。

「あれは……領主を倒せる時が来たから……」


 もう領主と決別するつもりだったから。最後の被害者(エサ)が死のうが生きようが関係ないと思ったから。


「ひとりくらい、生きてほしい(みのがしてもいい)と思ったんだ」


 振り絞るように内心を吐露するリンドウ。

 その様子を見て、アルはゆっくりと立ち上がった。そして。


「これで、助けられたのは二回目ですね」


 静かにそう告げる。

 二回目。なら、一回目はいつかとリンドウは疑問がわいた。



「どれのこと? 花蜜を買ったのはお酒の材料にしたかったからだし、料理と宿を提供したのは監視のためだし、ダガーを研いだのは武器を預かる口実よ。あ、ちゃんと研ぎ直してから返すわね」


 領主を倒したダガーナイフを取り出し、そしてまた仕舞い直す。領主の血痕や床にたたきつけたときの刃こぼれが有る状態で返すのはさすがにはばかられた。

 そして。思わず口調が女性のものになっていることにも気付く。長年演じ続けた「役」だ、この姿も立派にリンドウの一部と言えるだろう。



「そうじゃなくて、……そう考えると、助けられたどころかどんどん退路を断たれていたんですね」

 

 ダガーを指差して、アルはくすりと笑う。


ダガー(それ)、ボクに選択肢(みらい)をくれた人のものだったんだ。……リンドウ(ドゥ)さん、だよね」


 じっと見つめる目。その先にはリンドウの顔。

 思わず自身の髪に触れるリンドウ。焦げた髪はぼろぼろと崩れて、成る程あの頃(もと)の長さに戻っていた。

 降参だ、とリンドウは両手を上げる。


「うん、。そうだよ。……あの時の女の子が、男の子みたいになってビックリしたけどね」


「それを言うなら、リンドウさんなんてビックリする余地もないくらい変わったじゃないですか。

それに、この姿は」

 憧れだったから、とアルは頬を染めた。それに気恥ずかしさを覚えて、リンドウも俯く。




「あの、リンドウさん。もしダガーを研ぎ終わったら……今度こそ使い方を教えてほしいんだ」


「え? ああ、いいよ。そのぐらい」


 リンドウは、何故今更そんなことを、と考える。


 その様子を見て、真意が伝わっていないと感じたのだろう。「それで、」と、アルは真剣な面持ちで先を続ける。


「ボクは冒険者になったよ。だから……あなたと一緒に冒険がしたいです」


 そう言ってアルは右手を差し出しながら微笑む。リンドウはその笑顔を眩しそうに見つめながら、「こちらこそ」とその手を取った。



 †††


 そして数年後。


「ギムレットさん、買い取りお願いします」


「おう。……ふむ、立派なもん持ち込むようになったじゃないか」

 数々の戦利品を見て感慨深そうに語るギムレット。アルは隣にいる人物の方を向きながら「リンドウさんのおかげです」と語る。


「リンドウも……女装姿も美人だったが、(いま)の姿のほうが似合っているぜ」


「ありがとう。ほら、アルちゃんいると華が有るでしょう」

 ぎゅうっ、とアルを抱きしめて「いいでしょーかわいいでしょー、ボクが最初に見つけたんだよー」などとノロケる。


「わっ、リンドウさん!?」 


 アルがじたばたと暴れるが、体をしっかりと抑えられていて逃げられない。

 その様子を見ながら、ギムレットが一言。


「デレデレじゃねえか」

 人間変わるもんだな、としみじみ呟く。

「ほどほどにしとけよ。お前がそいつにご執心なのはわかったからさ」


「ギムレットさん!? 助けてよー!」


「諦めろ」


 救援依頼は一蹴し、代金を数え始めるギムレット。「ギム、なるべく時間かけてね。その間は論理的に抱きしめられるから」


「急いでー!」


 二人の夫婦漫才(コント)を横目に、ギムレットは回想する。

 かつて、ジョナサンとリンドウが冒険者だった頃もこんなかんじだったろうか、と。



 今日も、かつての霧の街は晴れ渡っている。

 これにて完結です。

 実はこれ、元々別に考えていた話で正史に続かないifストーリーを短編として流用したものです。無事完走できてよかった……。


 だんだん勢いだけで突っ走った感があるので、そのうち加筆修正する予定です。

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