STORY26-END 『そうだな。でも、俺達は一緒だ』
深夜が職員室を出て教室に戻るとまた机が移動しておりスペースができており、そこに全員が並んでいた。
入口で立ち止まっている深夜に気づいた勇一が声をかけた。
「遅い!ほら、お前もさっさと並べ」
「…今度は何すんの」
「記念写真だ。お前は前に座れ」
「俺後ろのほうが…」
「まぁまぁまぁ」
「遠慮すんなって」
深夜が後ろに並ぼうとすると翔と達志が深夜の手を掴んだ。
そして、強引に前のほうに座らされた。
座らされた深夜がため息をついて隣を見ると柚子葉が座っていた。
「あれ?珍しいな、柚子が前に来るって。こういうのお前も苦手だろ?」
「…深夜と一緒」
「あ?」
「私も真希と圭に強引にここに座らされたの」
「何考えてんだか」
「ほら!そこ何をいちゃついてんだ!」
「いちゃついてなんてねぇよ。何で前に座らされたのかっていう話をしてただけ」
「そりゃ、山上は俺らの代表だし?」
「山上と山下は二人揃ってワンセットだろ」
「…なんだよ、それ」
「まぁまぁ、ほら前向けよ」
深夜がクラスメイトと話すのを止めて前を向くとカメラを手にしている大竹が笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、撮るぞ。ハイ、チーズ」
大竹が言うと生徒達は様々なポーズをとり始めた。
深夜は何もせずに座っていたが、隣から柚子葉が深夜に飛び込んできた。
驚きながら深夜が柚子葉を抱きしめたとき、カメラのシャッターを切る音が聞こえた。
「オッケー」
「「「ありがとうございます!」」」
「いえいえ。あ、植田先生。それじゃ、これカメラお返ししますね」
「助かりました」
そういってカメラを勇一に渡し大竹は教室の外に出た。
深夜が柚子葉を抱きしめたまま横を向くと真希が柚子葉の隣から意地悪な笑みを浮かべて深夜を見ていた。
「井上…。お前か、柚子を押したの」
「え〜、何のこと〜。柚子葉が自分から飛び込んだんじゃない?」
「お前なぁ…」
「それにしてもあんたいつまで柚子葉を抱きしめてるの?周りみたほうがいいんじゃない?」
「あ?…あ、お前ら!」
深夜が真希の言われたとおり周りを見ると生徒達が携帯を片手に二人を写真に収めていた。
「お前ら、見世物じゃねぇぞ!…ったく。柚子、大丈夫か?」
「う、うん。恥ずかしい…」
「…俺もだ。てめぇら、まさかとは思うけどこれも仕組んでたのか?」
深夜が柚子葉を離して周りを睨むと生徒達はさっさと逃げ出し机を元に戻し始めた。
ため息を一つついて深夜は柚子葉に手を差し出した。
柚子葉も深夜の手を取って立ち上がると二人で自分の席に戻った。
全員座ったのを確認して勇一は教室内を見渡した。
「さて、もうそろそろ山上で遊ぶのをやめようか」
「遊ぶなっつぅの。生徒で遊ぶ教師がどこにいんだよ」
「もう時間だな…。濱田、さっきもしたけどもう一回しようか?」
「はい。…起立!礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
「こっちこそ、ありがとう。皆の担任になれて良かったよ」
勇一はそういって教室を出て行った。
後ろから保護者も教室を出て行く。
残ったクラスメイトに濱田が声をかける。
「なぁ、皆でこれからどっか行かないか?」
「いいねぇ!どこ行く?カラオケ?」
「この人数だしなぁ。全員で一斉に遊べるって言ったら…ボーリング?」
「いいじゃん!ボーリング行こうぜ!」
「それじゃあ、30分後に校門に集合な。それまでは親のところに行ったりするだろうし」
そういうと生徒達は教室を出て行った。
カバンを持って外に出ようとする深夜に翔が話しかけた。
「深夜も行くだろ?ボーリング」
「あぁ。その前に親父と話してくる」
「そういえばおじさんとおばさん戻ってきてたんだ?」
「何か今朝戻ってきたらしい。んじゃ、後でな」
「おぉ」
深夜は翔に手を振って教室を出た。
校内を歩いていると中庭で恭子と話している浩史と敬子の姿が見えた。
深夜が窓から見ていると柚子葉が近づいてきた。
「ねぇ、深夜。お母さん見なかった?」
「あぁ、中庭にいる。俺の親と話してるから一緒に行くか?」
「うん」
深夜の誘いに柚子葉は頷いた。
そして、二人で中庭に行くと浩史と敬子、それに真美が笑顔で待っていた。
「おぉ、やっと来たか」
「何?待ってたの?」
「あぁ、下から二人が歩いているのが見えたからな」
「ふぅ〜ん、そういや親父とお袋は今日家に帰るの?」
「またとんぼ帰りだ。今日の夕方に向こうに帰らないと」
「大変ですね。やっぱり忙しいんですか?」
「そういうわけでもないんですけど。何かあったときは向こうにいないと行動ができなくて。…深夜、お前成長したな。今日のお前を見て見違えたな」
恭子と話していた浩史は深夜に話しかけた。
敬子も浩史の隣で頷いた。
「…私もそれは思ったわ。私達がアメリカに行かないといけなくなったときあなたは翔君以外友達いなかったでしょ?でも、今日のあなたは友達に囲まれてとても楽しそうだった。笑顔で、冗談言ったり、からかわれたりしている深夜を見てとても嬉しかった。正月のときにも見たけど学校生活の中の深夜を見て安心したわ」
「…皆がいい奴だから。だから、俺も頑張れた。あ、そういえば同棲の件、柚子も了承してくれた」
「お、そうか。柚子葉ちゃん、こんな奴だけど深夜のことよろしくね?」
「は、はい!私のほうこそ深夜に迷惑をかけるかもしれないけど頑張ります!」
「頑張らなくていいよ」
「え?」
「頑張らなくていい。深夜も柚子葉ちゃんに迷惑をかける、柚子葉ちゃんも深夜に迷惑をかける。それは当然のことなんだよ。それを二人で乗り越えていくこと、それが一番大事なんだ。深夜、お前もだ。一緒に暮らすなら柚子葉ちゃんをしっかりと守ってやれ」
「当然。その覚悟があるから俺は柚子と一緒に暮らしていきたいんだ」
「よし!なら、俺は何も言わない。深夜達ももう帰れるんだろ?」
「あ、俺達これからクラスの奴らと遊びに行くことになってるから」
「あら、そうなの?なら、またいつかね」
「あぁ。じゃあ、柚子。そろそろ校門のほうに行こうか」
「うん。お母さん、行ってくるね」
「気をつけてね。深夜君、柚子葉のことよろしくね」
「ええ。それじゃあ、親父とお袋も体には気をつけろよ」
深夜と柚子葉は三人に別れを告げ校門に向かった。
二人は昇降口で靴に履き替え校庭に出た。
校庭に出たところで深夜と柚子葉は学校を振り返った。
「…本当に卒業したんだね」
「あぁ。…本当にここに来て良かった」
「皆ともしばらくの間会えないね」
「そうだな。でも、俺達は一緒だ」
「うん」
「お〜い!早く来い!」
深夜と柚子葉が話をしてると校門のほうから大きい声が聞こえた。
二人がそちらのほうを向くとクラス全員がすでに揃っていた。
そして、翔が手を振って二人を呼ぶ。
深夜と柚子葉は顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「…行くか?」
「うん!」
深夜と柚子葉は手を繋ぎクラスメイトが待つ校門のほうへ駆け出した。
駆け出した後も二人の手はしっかりと、そして固く繋がれていた。
二人が駆け出した上には雲一つない青空がどこまでも拡がっていた。