第九話 悪魔の妹
空中に浮遊している間は短かった、地下一階から地下二階に落ちただけのようだ。
今落ちてきた…今まで立っていた床はたった今閉まられた。
上の光が無くなり、一瞬で闇に包まれる。
「大ちゃん!どこに居るの?」
「チルノちゃん!今私が触っているのは誰なの?!」
左右両方から触れた感覚が腕を伝わる。
「あなた達はだあれ?」
チルノでも大妖精でもない声がどこからか聞こえてくる。
それと同時に壁にあったと思われる燭台に火が灯り、周囲の状況があらわになる。
右にチルノ、左に大妖精がいて二人とも俺の身体を触っていた。
二人とも目を丸くして俺の目を見てから、赤くなって離れた。
…俺の身体、そんなに触るの嫌だったのかな…?
「…なにベタベタしてるの?」
奥から少女の声がした。
「君は誰だ?名前は?」
「私から話しかけたのよ、あなたの名前を先に言うべきだと思うわ」
「あー…俺は亮、下谷亮だ」
「私の名前はフランドール・スカーレット、レミリア・スカーレットの妹よ、フランと呼んで欲しいわ」
黄色の髪をサイドテールにまとめ、ナイトキャップのような物を被っている。
服は真っ赤な半袖と、同じように真っ赤なスカートを履いている。
一番目を引くのは、彼女の背中だ。
一対の枝に七色の宝石のような物がくっついている。
彼女はチルノや大妖精のような妖精じゃない、最も強大な力を持つ何かだ、そう俺の本能が叫ぶ。
恐らく、そのレミリアという者が俺たちを呼んだのだろう、でも、なぜここにいるんだ?
「最近退屈なの、お姉様は会いに来ないし、部屋から出られない、おまけにうるさい奴らが来ちゃって、イライラするわ」
うるさい奴らって俺たちのことだろうか?
「せっかく来たんだから、私と一緒に遊びましょう?」
「いいぞ、何をするんだ?……ッ!!」
そこまで言って気づいた。
フランドールの後ろに沢山の白骨化した死体が転がっているのを。
「私と遊んだ人は皆壊れちゃったわ、あなたは大丈夫よね?」
背中に嫌な汗が流れる。
ここからは慎重に言葉を選ばなければ、最悪彼女の後ろに覗いている骨のようになる。
「相当問題児みたいだな、外のことを知らないのか?」
「当然よ、もう495年も外に出てないの」
「そうか、さぞかし退屈だったろう、もっと君のことを知りたい」
「私は吸血鬼よ、流水が苦手なせいでチャンスと思っても雨が降ってちゃ外に出られない、それも全部お姉様のせい」
「姉は君のことを思って閉じ込めているんだろう、話せばわかるはずだ」
それを言ったとたん、彼女の表情に変化が現れる。
「お姉様がそんなこと思ってるわけないじゃない!きっと私の能力が危険ってだけで閉じ込めたのよ!お姉様が最後に来た時に私に話しかけたって何だと思う?『あなたはまだ壊れたままなのね』よ!私は壊れてなんかない!」
地響きがするほど声を張り上げたと思うと、彼女の後ろの空間に赤い魔法陣のような物が現れる。
危険を察知し、ハンドガンをホルスターから引き抜き、銃口を彼女に向ける。
「撃ちたく無い、まだ話せばわかる!撃たせるな!」
引き金からは指を外しているので、反射で撃ってしまうことはないが、最悪真っ先に俺が撃たれて赤いシミになるだろう。
彼女の背後にある魔法陣から赤い光弾が出てくる。
「さあ、踊りましょう?どちらかが倒れるまで!」
来る!
グゥウウ……
……?
突然辺りに響いた腹の音で、地下二階にいた全ての生き物は動きを止めた。
「今の誰だ?言っておくが俺じゃない」
「あたいも違う!」
「私も違います!」
チルノ、大妖精が順番に否定する。
「私だって違う『グルグル……』……」
いつの間にかフランの背後にあった魔法陣は消えている、当の本人は顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている。
「……ご飯にしようか」
見えない空を眺めてこう言った。
先ず、この地下室の扉を調べる、
扉は俺たちの後ろにあった、
鋼鉄製で非常に硬く、重い。
扉の表面には何やら赤い魔法陣が描かれている。
「その魔法陣は私が扉を壊すのを防ぐの、だから私はここでひとりぼっち」
さっきより幾分落ち着いた様で、俺たちの話にも耳を傾け、少しではあるが話してくれる。
「少なくとも換気が出来る様にならないと飯を作れないな……フラン?」
「なに?」
「この部屋に窓はあるか?」
すると、部屋の壁と天井の境目を指してこう言った。
「換気用の窓が八つ、その代わり穴の途中に水溜りがあるの」
「それならいい、よし、作るぞ」
カバンから火おこし用の炭やマッチ、飯ごう、小型鍋、フライパン、水、フリーズドライされたカレーと野菜を出す。
元々は登山が好きな友達から古い物を譲り受けた物だ。
だが、ここに燃える物が無い。
炭は燃える物だが、性質上長く弱い火力になる。
その為、バーベキューなどによく使われるが、今回はいらない。
元々、こんな室内で炊事を行うことを想定していなかった為、携帯ガスコンロなんて持って来ていない。
諦めて炭をカバンに戻す。
その瞬間、空気が止まった。
すぐに元に戻ったが、なぜか目の前に薪と柴、焚きつけと呼ばれる火付け用の粉がある、
原理はわからないがまあ、いい、
ありがたく使わせてもらおう。
焚きつけに火をつけ、柴、薪の順番に火を移す。
マッチで火を使うのはいつからだったか?中学の時に仏壇に置いてあったマッチを軽くこすった時以来か。
火が安定して薪を燃やし出した所で、扉をチルノと大妖精の力を借りて開ける。
フランにも手伝って欲しかったが、触れないのなら仕方ない。
「よし、せーので押すぞ、せーの!」
鉄骨製なだけあって、数ミリしか空かなかった。
厚さ10cm……核シェルターのつもりなのだろうか……。
鍋を火にかけて、水を沸かす。
沸騰した水をフリーズドライカレーと野菜にかける。
しばらくすれば元に戻る。
野菜をフライパンに入れて水気を飛ばす。
同時に飯ごうに米と水を入れ米を炊く。