第十話 光し腕
ご飯の炊ける良い匂いがして来た。
飯ごうを開けてみると、白いご飯が姿を現す。
チルノと大妖精はご飯を見て美味しそうと歓声を上げる、しかし。
「何それ?スパイスの香りがするけど」
フランが白いご飯を指差して聞いてきた。
「日本の家庭料理の一つ、カレーライスだ、元々インドのカレーが日本に入ってきた物だな」
「色が微妙……美味しくなさそう……」
明らかに名前が横文字のフランはカレーという物をみたことが無いようだ。
地下に495年間閉じ込められて世間のことを知らないのでは無理もない。
「まあ、そんなこと言わずに、食べて見な、食べて無理だったら残せばいい」
すると、しばらく迷った末、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「わかったわ!いいわよ食べればいいんでしょ!お姉様と食べ物は残さないって決めたから残さず食べるわよ!」
俺の手からスプーンを奪い取り、カレーのルーとご飯をスプーンに乗せ、しばらく躊躇った後、大きな口を開けて食べた。
最初は目を瞑り厳しい顔で食べていたが、一口食べると表情が変わり、それから次々とスプーンですくって口へ運んで……
気づけば誰よりも早く、フランの皿に盛り付けていたカレーがなくなっていた。
「何これ!すっごく美味しい!おかわりある?!」
フランがスプーンにしゃぶりつきながら皿を出す。
「カレーはもう無いが、ご飯ならまだある」
「それ頂戴!まだ食べ足りないわ!」
皿をとってご飯をよそると、彼女は皿に付いていたカレーのルーをご飯でぬぐい、そのまま食べる。
気がつけば、事前に炊いておいたご飯三合は、ほとんどフランが食べてしまった。
「食後の紅茶はいかがかね」
なぜかティーバッグが鞄の中に入っていた、せっかくだから使ってしまおう。
「亮、一つ相談が……」
フランが顔を赤くして尋ねた。
「少しでいいから、血を飲ませて……?」
上目遣いでこちらを見てくる。
やばい、何がやばいかというと……
上目遣いで見られたことが無いのだ、今までの女性は普通かこちらを見下す様な目で見てきたので慣れていたが、こればかりはまるで知らない。
とりあえずOKだ、後一本しか無いけど。
「いいけど、どうするの?少ししか無いけど……」
その瞬間、ありえない速度で俺の所まで近づくと。
「それじゃ、いただきます!」
首元に突然噛みつき血を吸い出した。
《警告、一度に大量の出血を確認、失血に注意》
ARが出血を感知し警告音と共に失血に注意を促す文が表示される。
フランの顔が近くて、シャンプーの匂いが彼女の頭から香って、更に血を抜かれていく脱力感でもう何が何だかわからない……。
それ以前に、彼女は吸血鬼だ、血を吸われたら俺も吸血鬼に成るのでは?
いや、無いか、血があるから。
俺の血は傷を治す効果だけでなく、病気を治しやすくする効果もある、
つまり、吸血鬼になることが【病気】であれば、血を注射することで治すことだってできるはずだ、
やったこと無いから、推測になるが。
「ごちそうさま!美味しかったわ」
ようやく満足したのか、フランは首筋から離れて、満面の笑みでお礼をいった。
傷は既に塞がっている。
その瞬間、左腕、正しく言うと左腕の紋章が光だした。
「な、何が起きてるの?!」
一番近かったフランが飛び退いて、次に近い大妖精が手に持っていた紅茶が入った金属製のコップを落としそうになった。
すぐにチルノがコップからこぼれた紅茶を受け取る氷の器を作り、こぼれた紅茶を地面に付く前に受け止めた。
それより、左腕の様子がおかしい、袖を捲って確認する。
腕の紋章……タトゥーに近いが、
その円の一つから煙が出ている、火が出ているのか?もみ消そうと右手で煙が出ている箇所を払い落とそうとしたが、全く効果が出ない。
煙が晴れると、一番肩に近い肘辺りの円に紋章が刻まれている。
枝の様な一つの羽に七つの宝石の様なものがくっついている。
フランの羽のようだ。
「どうしたの?何かまずいことでも起きたの?……この模様、私の羽みたい!もしかして……」
フランが腕の紋章に驚いた後、顎に手を当てて考えている。
「亮、左腕を前に突き出して、左手を開いて、そのまま勢い良く握ってみて?」
フランの言う通りに左腕をを前に突き出し、握る。
すると、突然目の前に壁が現れた、
いや、違う、壁の前まで移動した。
「あれ?私が想像してたのと違う……」
フランが俺の方を見て唸る。
「フラン、お前は何を考えていたんだ?」
「私の能力がそのまま亮に移ったと思ったの、私の能力は【ありとあらゆる物を破壊する程度の能力】よ、手のひらを握るだけでどんな物でも壊れるの」
「それは人間でもか?」
部屋の真ん中に歩いて戻りながらフランに尋ねた。
「そう、なんでも、その扉だけは壊せないけど」
「程度ってレベルじゃ無い気がするけどな」
そこを突っ込むと、フランは私にもわからないわ、と言って肩をすくめた。
ここで、首に引っ掛けていたチョーカーの陰陽玉が青く光っているのに気づいた。
チョーカーを取り外して確認する。
「何それ、飾り?」
フランがチョーカーに気づいて興味を示し出したが、光っていることに気づいていない。
「フラン、こいつから光が出てるのが見えないのか?」
チョーカーを右手で持って左右に振る。
「光ってるの?普通の玉みたいに見えるけど」
どうやら他の者には光が見えない様だ、ちょうどいい、授業中光って邪魔にならないからな。
少し練習してみよう。
取り外していたチョーカーを戻して何度か練習してみる為に、左手を握って開いてを繰り返す。
すると、使用した直後に光が強くなり、移動した後は最初よりも暗くなる。
暗くなるに連れて移動できる距離も短くなっていく。
どうやらこの能力を使う為には何らかの力が必要らしい、その力の残量を示すのがチョーカーの陰陽玉のようだ。
「いったところ、【距離を破壊する程度の能力】、かな?」
おそらく、俺の様な人間では馬力が足りずに破壊できるのが限られるようだ。
その限られた破壊可能なものが距離。
例えば今立っている場所をA地点、移動する場所をB地点とする。
AからBは距離という空間に阻まれていてお互いが隣合うことができない。
距離という空間を超えるには二つの方法がある、一つは普通に歩いて空間を渡る方法、これは能力無しで歩くだけだ。
もう一つは距離という空間を【破壊】して距離を【無かった事】にする。
【距離が無い】ということはすなわち、移動したい地点に飛ぶことなる。
何度か確かめる為に使うと、次第とわかってくることがある。
光が薄いと移動できる距離が短くなる。光が消えている時は完全に移動できなくなる、能力を使用するにはどうやら何らかのエネルギーが必要で、そのエネルギーの残量を示すのが光ということらしい、確信は持てないが。




