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エピローグ

 ここからは、後日談となる。ゴシップ新聞記者としては、このことを記事として書きたいと言う欲求はある。

 しかし、たとえ記事として書いたところで世に出回ることはないだろう。

 闇から闇へ。

 ただ、それでも。たとえ世に出ないとしても、記事にならないとしても書かずにはいられない。

 そのため、私はこれを書くことにした。

 あの後、トリニティ教会は連邦陸軍によって制圧され、俺たち一行は拘束されることとなった。

 数日間の拘束ののち、俺たちは連邦警察が持ち出した取引を飲むことによって解放された。

 取引の内容は、今回の事件について一切口外しないこと。そして、事件の真相について一切詮索しないこと。

 ゆえに、今回の事件の裏についてなどは結局謎に包まれたままとなっている。

 ただ、事件は収束した。主犯と思われる司祭姿の男は死亡し、マランツァーノファアミリーもほぼ全員が死亡していたらしい。

 連続変死事件はすでに過去の話題となりつつあり、世間は次々に起こる新しい事件に話題が移っている。

 それでも、あの事件にかかわった私たちは忘れることはないだろう。あの恐怖を、あの狂気を。


 行きかう人々をぼんやりと眺めながら。俺はマンハッタンのメインストリートにある喫茶店のパラソルの下でコーヒーを飲んでいた。

 手元には吸いかけのタバコと、来る途中に購入した新聞紙。

 待ち合わせの時間より少し早く着いてしまったので、ひとまずはコーヒーとタバコと新聞で時間を潰している。

 ふと、後ろの椅子が引かれ誰かが座った。

 瞬間、体中から冷たい汗が噴き出る。振り向きそうになる衝動を、理性で必死に抑え込む。それは見なくても分かる、とても恐ろしく、とても不吉な気配。

「はじめましてウィリアム君、ウィル君と呼んでも良いだろうか?」

 背中越しに声をかけられたが、息がつまって返事をすることさえできない。

「安心したまえ、警戒しなくても大丈夫だとも。すでに幕は下りて、物語は終わりを迎えている。司祭の祈りは届かず、観客はすでに席を立った」

 不吉な男は、こちらの返事を聞くでもなく話を進める。その一言一言が、言いようもなくこちらを不安な気持ちにさせるが、その言葉からは耳を離せない。

「おまえは、クレメンザ、なのか?」

 絞り出すように、疑問を投げかける。喉が酷くかわくが、手元にあるコーヒーを飲もうという気にすらならない。

「さすがウィル君、実に聡明な質問だ。たしかに、私はクレメンザだ。もっとも、それも名前の一つにしか過ぎないがな」

「今回の件は、お前が黒幕なのか?」

「それはナンセンスな質問だよ、ウィル君。私は何もしていない。すべては君たちが勝手にやっていたことだとも。ただ君は見事に最後まで舞台に立ち続けた。それゆえに、私からささやかなプレゼントだ」

 男はそう言うと、近くにいたウェイトレスにコーヒーを一つ注文する。

「今回の事件は、ある男の欲望と妄執が引き起こしたものだ。それは、かつて人が食べ損ねた林檎を食べるというものだったかな。そこで、男は血の代価を払い永遠の命を手に入れようとしたわけだよ。塵は塵へ、灰は灰へ。そして、命は命へと帰るわけだ。もっとも、たかが人間風情にそんなことが出来るわけもないがね。だが、彼は血の代価を払えば永遠が手に入ると信じ、己の身体をゼンマイ仕掛けにし生きながらえながらその瞬間を待ちわびた」

 運ばれてきたコーヒーを手に取り、すする音が聞こえる。

「そして男は特殊な数式と血の代価を用いて神を呼ぼうとした。もっとも、彼が呼びだそうとしていたのは神は神でも邪神だったがね。それもとびっきりのやつだ。君たちが教会で見た巨大な階差機関はそのための道具だったというわけさ。だが、残念ながら今回の事件については大英帝国の女王直轄秘密警察に漏れていたようでね、男と階差機関は大英帝国が持って行ってしまったよ。なにに使うつもりかは知らないが、まったく人間というやつは度し難い」

「あの、巨大な化物は、一体なんだったんだ?」

「忌まわしき狩人、存在するはずの無い、しかし確かに存在する化物の一つさ。君たちは知らないだろうし、知る必要のない存在だと言っておこう」

「なぜ、俺にそれを教える? 」

「最初に言ったように、これはプレゼントさ。最後まで舞台に立ち続けた君に、敬意を表して。さて、それではそろそろ行くとするかな。なかなか愉快な見世物だったよ」

 椅子の動く音がして、背後の気配が立ちあがったのが分かる。

「お前は一体何なんだ、何が目的なんだ」

 絞り出すように出した声に、男が立ち去ろうとした足をとめた。

「私がいったい何者で、何が目的なのか、か。名前は先ほど君が言ったクレメンザでかまわないとも。目的はそうだなぁ、暇つぶしとでも言っておこうか。何もかも、生も死も怒りも喜びも悲しみも何もかもが狂気と混沌までの暇つぶしにすぎない。それでは、さらばだ人間。せいぜい足掻きたまえよ」

 背中越しに不吉な気配が消えて、俺はそこでようやく重たい息を吐くことが出来た。


「ごめんなさいダーリン、少し遅くなってしまって」

 喫茶店で待つこと20分、アリスが少し息を切らせるようにしながら僕の向かい側の椅子を引いた。

「いやいや、こっちが時間よりも早く着いただけだから気にしなくても良いよ。コーヒーでも飲んで、少しゆっくりするかい?」

「ありがとう。でも、今日は色々と行きたいお店があるから大丈夫。そのかわり、夜はおしゃれなところに連れて行って欲しいわ?」

 肩をすくめて、店員にチェックを頼む。コーヒー代を支払って、ゆっくりと席を立つ。

「それじゃぁ、行こうかアンリエッタ」

「そうね、それじゃぁ行きましょう」

 腕を差し出し、アリスをエスコートする。気持ちゆっくりと歩き出し、町の雑踏にまぎれる。

「今日はありがとう。でも、どういう風の吹きまわしなの?」

「んー、一仕事終えたしね。今回はアンリエッタにもお世話になったし」

 アリスは少しだけ拗ねたような顔をして、こちらを見上げている。

「どうしたの?」

「お世話をした覚えがないのに、感謝をされると言うのはあまりいい気分ではないものね」

「あぁー、そんなものかね?」

「そういうものよ。でもありがとう、その気持ちはとてもうれしいわ。なら、今日はお言葉に甘えて色々とエスコートをお願いするわね」

「仰せのままに」

 気持ちゆっくりと歩き、町の雑踏に流されるようにアリスとマンハッタンの町を歩く。

「アンリエッタ、まずはどこから行こうか」

「そうね、そのまえにまずはアリスと、そう呼んでちょうだい」

 俺はちらりとありうの貌を窺おうとしたが、アリスはそっぽを向いてしまっている。

「それじゃぁ、行こうか。アリス」

 今日もこの街は様々な人を受け入れて、混沌を作り出している。

 今もどこかで新たな事件が起こり、狂気と混沌が渦巻いているのだろう。


稚拙な練習策をここまで読んでいただき、まことにありがとうございました。

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