↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世話焼き令嬢は拾った獣人に全てを奪われる  作者: 柊原 ゆず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/22

第八話 拒絶と甘美な拷問


「……アメリアお嬢様」


 夜も更けた頃。

 アメリアの寝室の扉が静かに開き、ひどく落ち込んだ様子のルカが姿を現した。彼はいつもよりずっと肩を落とし、美しい青い瞳には暗い影が落ちている。今日は、アメリアが苦労してセッティングした、ルカにとって初めての『お見合い』の日だった。相手は子爵令嬢で、ルカの美しい容姿に興味を持っていたはずだったのだが。


「ルカ?どうしたの、そんなに暗い顔をして……。今日のお見合い、うまくいかなかったの?」

「……はい」


 ルカはベッドの端に座るアメリアの足元に崩れ落ちるように跪き、彼女の膝に顔を埋めた。


「お断り、されました。……相手のお嬢様は僕に好意的だったのですが、ご両親から、身分が釣り合わないと」

「えっ……」


 アメリアの胸が、ズキリと痛んだ。


「僕みたいな、どこの馬の骨とも知れない身元不明の獣人だなんて。由緒正しい貴族の血筋には相応しくないと、そう言われました」


 ルカの声は微かに震え、深く傷ついているように聞こえた。その言葉は、アメリアの胸に強烈な『罪悪感』を突き刺した。ルカはこんなにも美しく、優秀で、立派に育ったというのに。彼の価値が不当に低く見られ、世間から冷たい扱いを受けているのだ。


「ルカ……ごめんなさい……っ!私が無理にお見合いなんて勧めたせいで、あなたに嫌な思いをさせてしまったわ」

「……お嬢様が謝ることじゃありません。事実ですから」


 アメリアは涙ぐみながら、跪くルカの頭を抱き寄せ、その美しい銀糸の髪を撫でた。


「あの人たちは見る目がなかっただけよ。ルカは世界で一番素敵で、強くて、優しい自慢の弟よ!ルカにはいつか、絶対に素敵な人が現れるわ。私が見つけてくるから、だから……あきらめないでね」


 アメリアが励ますように力強くそう言うと、ルカは彼女の膝に顔を埋めたまま、僅かに肩を揺らした。

 ……そんな人はどこにもいない。僕の番は、アメリアお嬢様以外ありえないのに。

 お見合いが破談になったのは、もちろんルカが裏で手を回したからだ。向こうから『身分の違い』を理由に断らせるように仕向けたのは、他ならぬルカ自身だった。すべては、お見合いという面倒な行事を終わらせ、アメリアの同情を買い、彼女の温もりを独占するため。


「……アメリアお嬢様」

「なあに、ルカ?」

「僕はもう、暫くお見合いはお休みさせていただきたいです。……これ以上、僕のせいでご迷惑をかけるのも嫌ですから」


 しおらしく、傷ついた青年を演じてやんわりと次のお見合いを断るルカ。アメリアはすっかり同情し、「ええ、もちろんよ。無理しなくていいわ。私が悪かったの」と深く頷いた。すると、ルカはゆっくりと顔を上げ、潤んだ大きな青い瞳でアメリアを上目遣いに見つめた。


「……アメリアお嬢様。僕のこと、慰めてくれますか?」

「え……?」

「お嬢様に、温めてほしいです」


 捨てられた仔犬のような、庇護欲をそそる甘い声。傷ついた彼を突き放すことなど、アメリアにできるはずがなかった。彼女は自らルカの手を引き、ベッドの中へと彼を誘い込んだ。


「ええ、いいわよ、ルカ。私の温もりで安心できるなら……いっぱい、くっついていいからね」

「ありがとうございます、お嬢様……。お嬢様の匂い、すごく落ち着きます」


 ベッドに入るなり、ルカはアメリアの胸元に顔を埋め、その細い腰に腕を回してきつく抱きしめた。アメリアは『傷ついた彼を慰めている』つもりで、無防備に自身の身体を預けている。すっかり『雄』に成長したルカの大きく熱い掌が薄いネグリジェ越しに腰の曲線を撫で上げ、鼻先が豊かな胸の谷間にすりすりと押し付けられても、アメリアはそれを『甘え』だと信じて疑わない。


「んっ……、ルカ、すこし、くすぐったいわ……っ」

「ごめんなさい、アメリアお嬢様。でも、お嬢様のここ……すごく柔らかくて、温かいから。触れていると、嫌なことを全部忘れられそうなのです」


 ルカの長い指が腰を這い、胸の膨らみを下から掬い上げるように優しく触れる。慰めのためのスキンシップのはずが、ルカの巧みな愛撫によって、アメリアの身体は次第に熱を帯び、甘い吐息をこぼし始めてしまう。


「あっ……ルカ……っ」

「アメリアお嬢様……大好きです。僕には、お嬢様さえいてくれたらそれでいい」


 優しい言葉に絆され、アメリアはもはや余裕を保つことも忘れ、ルカの背中に腕を回して自らもっと深く彼の熱を感じようと身を擦り寄せた。アメリアからは見えない胸元で、ルカは昏い独占欲に満ちた笑みを深めるのだった。






「っ!だめ……っ!」


 ハッと我に返ったアメリアが、弾かれたように身をよじり、両手で自らの秘所をきつく隠して抵抗した。


「……お嬢様?」

「だめよ……っ!ここは……ここは、旦那様に触れていただくところよ……っ!」


 涙目で首を横に振りながら、アメリアは必死にそう叫んだ。彼女の頭の中には、まだ『いつか素敵な男性と結婚して、幸せな家庭を築く』という、令嬢としてのささやかな夢が残っていたのだ。顔も知らない、いもしない『未来の旦那様』を今だに信じ、その幻のために最後の貞操を守ろうとしている。

 その言葉を聞いた瞬間。ルカの美しい顔から、一切の表情が抜け落ちた。

 ……旦那様?

 ギリッ、と。アメリアからは見えない位置で、ルカは奥歯が砕けそうなほどの力で噛み締めた。

 僕以外の男に、ここを触らせるつもりなのか。僕ではない人間の雄を、自分の『旦那様』として迎え入れるつもりだとでも言うのか。

 どす黒い嫉妬と殺意が、ルカの腹の底でマグマのように沸き立った。今すぐ彼女の細い手首をシーツに押し付け、無理やり脚を開かせ、僕のものを最奥まで叩き込んでやりたい。貴女の旦那様は僕だと、その身体に一生消えない番の印を刻み込んで、二度と他の雄の影すら追えないようにぐちゃぐちゃに壊してしまいたい。

 ――しかし。

 ……耐えろ。今はまだ、その時じゃない。

 ルカは濁りきった青い瞳を伏せ、自らの内に暴れる狂犬の首輪を、必死の思いで引き絞った。

 今ここで無理やり奪えば、彼女は僕を恐れ、拒絶するだろう。それでは駄目なのだ。彼女の口から「未来の旦那様なんていらない。ルカだけが欲しい」と泣いて乞わせなければ、完全な支配とは言えない。

 ルカがふと視線を上げると、両手で秘所を隠しているアメリアの身体は快感の余韻と、彼に触れられなくなった物足りなさで、ガクガクと小刻みに震えていた。言葉では『旦那様のために』と拒絶しながらも、彼女の身体がルカの愛撫を強烈に欲しているのは誰の目にも明らかだった。

 ……そうだ。アメリアお嬢様の身体は、もう僕なしじゃいられないくらい僕の熱に溺れかけている。陥落するのは、もうすぐそこだ。

 ルカは奥歯の噛み締めを解き、再び捨てられた仔犬のような、ひどく傷ついた表情を作った。


「……ごめんなさい、お嬢様。僕、お嬢様が大好きで、温かくて……つい、おかしくなってしまったみたいです」

「ルカ……」

「嫌な思いをさせて、ごめんなさい。……僕みたいな身分違いの弟が、お嬢様の大事な場所に触れようなんて……許されないことですよね」


 ルカが身を引き、寂しそうに肩をすくめると、アメリアの顔にたちまち「しまった」という後悔と罪悪感が浮かんだ。お見合いで傷ついた彼を慰めていたはずなのに、自分が拒絶したせいで、また彼を傷つけてしまったのだと錯覚したのだ。


「ち、違うの!あなたが嫌なわけじゃないのよ!ただ、こういうことは……っ」

「分かっています。……今日はもう、これだけで我慢しますから」


 ルカはアメリアの手にそっと自分の手を重ねると、秘所を隠す彼女の指の隙間に、チュッと敬虔なキスを落とした。それだけの刺激で、アメリアの身体がビクンッと大きく跳ねる。


「……っ!」

「お休みなさい、僕の優しいお嬢様。……お嬢様の『旦那様』になる人は、きっと世界で一番幸せな方ですね」


 そう言って優しく微笑み、ルカはアメリアの胸元に再び顔を埋めた。

 そして、目を閉じたルカはすうすう、と規則正しい寝息を立て始める。

 ……しかし。ルカが目を閉じたのは、ほんの数秒のことだった。アメリアからは見えない位置――彼女の豊満な胸の谷間に顔を埋めたまま、ルカは氷のように透き通った青い瞳を静かに見開いた。その瞳には眠気など微塵もなく、獲物が苦しむ様を心待ちにする捕食者の、暗く粘着質な愉悦の光が爛々と輝いていた。


「……っ、……はぁ……っ」


 静寂に包まれた寝室に、アメリアの荒い吐息だけが響く。焦らされた身体の疼きを持て余したまま、アメリアはルカの広い背中に腕を回し、小さく息を乱し続けていた。いつもなら。ここで彼女が拒絶めいた態度をとっても、ルカは『寂しい』と甘えながら、結局は彼女の身体の隅々まで熱い掌で撫で回し、溶かすような快感を与えてくれていた。しかし今夜は、ルカの腕はアメリアの腰に回されたまま、ピタリと動かない。

 自分が『身分の違い』を突きつけ、彼を深く傷つけてしまったからだ。そう思い込んでいるアメリアは、身を切られるような罪悪感に苛まれていた。……だが、それ以上に彼女を苦しめていたのは、残酷なまでに放置された『身体の渇き』だった。


「……んっ……」


 アメリアの下腹部には、行き場を失った熱がドクドクと重く脈打っている。ルカが何もしないせいで、自分の身体がどれだけ熱く、湿り気を帯びているかが嫌でも分かってしまう。

 モゾリ。

 たまらず、アメリアはシーツの下で身をよじり、濡れた太ももをギュッと擦り合わせた。その微かな衣擦れの音と、甘く熱を帯びた吐息。ルカの獣の耳は、それらを一つ残らず、正確に拾い上げていた。

 ……ああ、アメリアお嬢様が必死に耐えている。甘美でいい音だ。ずっと聴いていたくなる……。

 ルカは胸に顔を押し付けたまま、三日月のように口の端を歪めた。獣の鋭い嗅覚が、アメリアの秘部から漂う甘く熟れた匂いをたっぷりと吸い込む。

 僕以外の男を『旦那様』などと呼んだ罰ですよ。自分がどれだけ僕の熱に依存しきっているか、その身でたっぷりと味わうといい。

 ルカは意図的に、ただの『熱を放つ抱き枕』に徹した。アメリアの胸の谷間に鼻先を擦り付け、わざと彼女の素肌に自身の高い体温を密着させる。しかし、決して撫でない。決して吸い付かない。「ほら、僕の体温ですよ。欲しいのでしょう?」と見せつけるように、ただただ熱だけを与え続ける。


「る、か……っ」


 すぐ傍にある極上の熱源。それに触れているのに、一番欲しい『快楽』を与えられない生殺し状態に、アメリアの理性は限界を迎えつつあった。

 苦しい。お腹の奥が熱くて、空っぽで、どうにかなってしまいそう。ルカに「ごめんなさい、私がいけなかったわ」と謝って、自分から脚を開けば、きっと彼はまた優しく慰めてくれる。でも、それはダメだ。私はお姉ちゃんで、ルカは弟で。それに、この場所は『未来の旦那様』のために守らなくてはならないのだから……っ!

 必死に貞操観念を保とうとするアメリアだったが、ルカに徹底的に調教され尽くした身体は、本能のままに彼の熱を求めて暴走し始めていた。無意識のうちに、アメリアの膝がルカの逞しい太ももに擦り付けられる。少しでも摩擦による快感を得ようと、彼女の腰が小刻みに跳ねる。


「……はぁっ、はぁっ……っ、だめ、こんなの……っ」


 アメリアが涙声で喘ぐ。ルカは彼女の腰が自分の太ももに擦り付けられる感覚を味わいながら、暗い愉悦で背筋をゾクゾクと震わせた。

 ……ほら、どうしましたか?貴女の『旦那様』とやらに、その熱を鎮めてもらえばいいじゃないですか。旦那様のために守るはずの身体が、僕の体温を感じただけでこんなに淫らに泣いている。

 ――なんて滑稽で、哀れで、最高に愛おしいのだろう。


「るかぁ……っ、おねがい、おきて……っ!」


 ついに耐えきれなくなったアメリアが、泣きそうな声でルカの背中をギュッと抱きしめた。『触ってほしい』という懇願。しかしルカは、冷酷なまでにその懇願を無視した。


「……んぅ……おじょうさま……すき……」


 寝言を装った甘い声を出しながら、アメリアの胸にさらに深く顔を埋めるだけ。ルカが起きる気配がないと悟った瞬間、アメリアの口から絶望の入り混じった甘い嗚咽が漏れた。


「あ……ひぐっ……!」


 アメリアは自分の指でシーツをきつく握りしめたが、行き場のない熱はどうしようもなく下腹部に溜まっていくのだった。






 朝の光が差し込むまで、アメリアは熱を持て余し、眠ることが出来なかった。ルカの『お仕置き』は、彼女が己の身体のどうしようもない真実――『ルカなしでは生きていけない』という絶望的な事実を、その身に嫌というほど刻み込むには十分すぎるほど、残酷で甘美な拷問だった。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。