第23冊 君はマンホールに落ちた事はあるか?
この質問に「ある」と答えられる人がいたら、是非とも握手したい。
そう、私はあるのだ。
あれは中学生の頃、まだ気温が上がりきらない4月末。
私は中学生になって水泳部に入部した。そしたらなんと5月から泳ぎ始めるから、早速プール掃除があるぞと言われた。
「そうか中学生はやっぱりスゴイな」
なんて感心していたのだが、いざプール掃除が始まると、最初のうちはマジメにやっていたものの、段々と皆飽きてきて遊び始める。
この「遊び」とは、ふんだんにある水を使って誰それ構わず水をぶっかける事を指す。これが夏なら大層気持ち良いのだが、如何せん気温は20℃前後で水温もさして変わらない。水着は着ているものの、着ている服ごと濡らされるので、肌にピタピタ冷たいのが触って寒いのなんの。
単にサボってくれる方が後輩たちにとってはありがたいのだが、タチの悪いセンパイ方はここぞとばかり後輩を追いかけまわす。バケツに水を汲んでぶっかけに来たり、ホースを持って消防士の如く狙い撃ちしたり、はたまた自ら水をかぶって抱きついて来たり。本当にメイワクなことこの上ない。
そして私の場合、なんとも運が悪い事に筋骨隆々かつ豊かな体毛の男のセンパイ(いやこのセンパイもたかが中3なのでそんなわけないとも思うのだが、記憶に残っているのがそんなイメージなので仕方ない)に目をつけられた。それが当時のS部長である。(責めてて快感を得る方の「S」ではない)これが麗しき女性センパイならウェルカムだったのだが。
ところが運が悪い事に、このセンパイは自ら水をかぶり、私に抱きつこうと追いかけまわし始めたではないか。流石にそれはカンベン願いたかったので逃げ回った。………のだが、これがなかなか諦めてくれない。
窮地に立たされた私はプールサイドによじ登り逃走を試みたのだが、かのセンパイはゾンビかはたまた上陸する半魚人の如き様相でプールサイドから這い上がってきた。
ヤバい!
このままでは……!
そこはかとなく貞操の危機すら覚えた私は後退った。
1歩
2歩
3歩。
不意に重力がなくなる。
見れば足下にはポッカリ空いた穴。
「マジか!」と思うと同時に目に入るタラップ。
コレにアゴ打ったら痛そう!
そう思った私は瞬間的肘を広げ、下まで落ちるの阻止!
だけどその瞬間、脇を痛烈に擦り剥いてしまい、自力でよじ登った後は保健室まで担架で運ばれ、病院送りとなった。
その後しばらく私はこの中学校で「伝説」となったらしいが、今聞いても思い出してもちっとも嬉しくない。
ちなみにこの前年は違うセンパイが、鬼ごっこの「オニ」をしていて落ちて、追っかけれていた方が「消えた!?」と思ったらマンホールからゴソゴソ出てきたらしい。この話はプール掃除前に注意喚起の為に新入生に話されたようだが、如何せんこの説明会の時に私は猛烈な胃腸炎に襲われて学校を欠席していた。
このセンパイがなぜか軽傷だったという事実が納得いかん。前を向いてて落ちる方がよっぽど伝説に相応しいと思うのだが、どうだろうか。




