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「お待たせして申し訳ありません」
先日の『アクオスがじつはレイだった』という話以来、久しぶりに会うアクオスにヘーゼルは正直、少し緊張していた。
(あれほど会いたくてたまらなかった小さなレイが、目の前にいる「メレドーラの至宝」と称されるアクオス様だったなんて……。まだ私の中で、消化しきれていないわね……)
心の中で、あの小さくて可愛らしいレイがもう会うことが出来ず、目の前の男性……しかも成人した姿で立つアクオスに、ヘーゼルの心はどうしても慣れなかった。
「……いいえ、カルビン様とお話ししておりましたので、あっという間でした」
「……そうですか……。それで、今日は何かあったのですか?」
「ええと……いくつかお願いとご報告が……」
「お願い、ですか?」
「はい、実は特殊な場所でしか育たない植物がありまして……それを竜舎の近くで育てさせていただけないかと考えております」
「竜舎の近くで……?どんな植物です?」
「じつは、『生き物の気配』を糧にする薬草でして……ザイール王国では痛み止めとして利用されているのですが、どうやら解毒効果や魔物を弱らせる効果もあるようなのです」
「弱らせる……?」
「……まだ検証結果が少ないので、はっきりとは言えないのですが、あの異形種の魔物も含め、この植物から抽出したものに魔物の弱体化が見られたそうです」
「……ふむ。大変興味深いですね」
「はい。ただ、この種は育つ条件が難しいので、感情の豊かな竜であれば、育つ可能性があるのではないかと……」
「そうですか……しかし、聞いたこともない薬草を竜の近くで育てるのは、正直『はい』と簡単に答えられることではありません」
「ええ、まあ……そうですよね……」
「ヘーゼル嬢は、この植物を育てたことがあるのですか?」
「え……ええ……まあ……以前は魔物の檻の近くで……」
内緒で、あの調査部に囚われていた魔物の近くで勝手に育てていたことは言いづらく、言葉を濁してしまう。
「……竜の近くで育てようという発案は、誰が?」
ヘーゼルはアクオスの真剣な視線に心臓がバクバクと跳ねる。
(まずいわ……アクオス様は教授と仲が良くなかったんだわ……)
「あ、それは…………」
両手の平をぎゅっと握り、言い出しにくそうにするヘーゼル。
「……なるほど、ベール・ケベックですか……」
アクオスは、ふっとため息を漏らす。
「先ほども言いましたが、得体の知れない植物を竜に近づけるのは良しとしません。ですので、そのお話はお断りいたします……」
「そう……ですよね……」
ヘーゼルは、アクオスの答えが正しいと理解しつつも、残念な気持ちが自然と顔に出てしまう。
「…………ただ……代わりと言っては何ですが……何体か魔物を生け捕りにしてきます。調査部にはまだ檻が空いていると思いますので……それでいかがでしょうか……?」
ヘーゼルは、ばっと、顔を上げる
「よろしいのですか?!」
「……魔物の弱体化などと聞いてしまえば、協力するしかありません」
「ありがとうございます!」
「まあ……仕方ないでしょう……それで、他にお話しがあるのですよね?」
「……はい、昨日殿下にお会いいたしまして……」
「殿下に?」
「はい、その、師匠のところにいらっしゃいまして……」
「……」
「そこで、アクオス様と花祭りに行く話になりまして……」
師匠と仲が良いとは言えないアクオスには切り出しずらい話題で言い淀むヘーゼル。
「……続けてください」
「……それで、王太子殿下が『花祭りの会場で殿下を見かけたら、すぐにその場を立ち去ってほしい』とアクオス様に伝言を頼まれました……」
アクオスの眉がぴくりと動く。
「……立ち去ってほしいと?」
「はい。王太子殿下は、お祭りにお忍びで参加するつもりだそうです。お相手の女性が人慣れしていないそうで、お二人で静かにお過ごしになりたいそうです」
「……殿下がそう仰っていたのですか?」
「はい。それを聞いた……師匠が……アクオス様にこのことを伝えろと……」
ヘーゼルは、早くアクオスとベールが仲良くなってくれないかな?と、この話しづらさを少し呪った。
「ベール・ケベックが、そう言えと?」
「は、はい……」
アクオスは、しばらく黙り込み、机を指でトントンと叩いて考えていた。
しばらくそうしていたが、なにか答えが出たのかヘーゼルに視線を合わせにこりと笑う。
「なるほど。殿下がそう言うのでしたら、そうしましょう」
そのアクオスの笑顔にほっとして、自然とヘーゼルも笑顔になる。
「花祭り楽しみですね!」
ヘーゼルは、お祭りにどんな植物が見られるのかとワクワクしている。
アクオスはそのヘーゼルの笑顔を見て、祭りに参加する楽しみを感じつつザイル殿下の周りの不穏な空気を感じ取った。
「そうですね。私も楽しみです」
アクオスは、ふわりと微笑む。
その微笑みに、ヘーゼルの心臓が高鳴る。
「あの……花祭りに着ていくものを、メレドーラ家の皆様がご用意くださって……」
「そうなのですか?」
「はい。とても素敵なものばかりで……」
ヘーゼルは色々思い出したのか、ほんのり頬を染めて嬉しそうだ。
「そうか……私が思いつけばよかったな……。母もシャナも、きっとヘーゼル嬢に似合いのものを用意したのでしょうね……楽しみですね」
アクオスもにこりと笑う。
「はい!」
その後たわいもない話をして、ヘーゼルとは別れた。




