穿ち
「本当に丈夫で綺麗な結界・・・・・」
密室での糸と炎の激しい衝突は、既に終わっていた。
魔王妃の寝室は全て燃やし尽くされた。残るは天井・床・壁に埋め込まれていた、白い平面の結界のみ。
灰すらも残っていないというのに、結界には焼け跡一つ付いてはいない。
「それでも、アナタが本気出せば破れたんじゃなぁい?」
嫉妬の悪魔レグラが白い壁を撫でながら、足元に向かって話しかける。
その目線の先、白い床に灰色のミノムシのような何かが転がっていた。
「・・・・・」
「この狭さで炎使ってアタシを倒せないとか、火力を加減でもした?」
「・・・・・」
「あらごめんなさぁい、そのままじゃ話せないわねぇ」
右手の人差し指と中指を交差させて、そのまま何かを払うように手を振った。同時に、床に転がっていたものの一部が割れて、長い髪の毛が垂れ下がる。
「なんだか辛そうね、両腕がなくなっただけで。でも不思議ねぇ? 今のアナタ、とっても人間みたいよぉ?」
「・・・・・『操糸』で私の情報を読んだんでしょ、挑発する意味あるのかしら」
「もっと強い所を見せて、アタシを嫉妬させて欲しいのよ。それがアタシの力の源だから」
「本っ当性格悪いわね」
嫌悪感に顔を歪ませながら悪態を吐くメリュジーヌの声を、レグラは心底気持ち良さげに聞いていた。
うっとりとした表情で天を仰ぎ、上気する頬を両手で押さえながら息を荒げていく。
「ああ、どうしようかしらぁ。あまり時間をかけると、面倒なアナタの旦那サマが来ちゃうわねぇ。
それまでにこの結界を壊すなら、アナタを殺さなきゃいけないけどぉ・・・・・心の強いモノがアタシの尻に敷かれる光景って、最っ高なのよねぇ。終わってほしくないわぁ。
そうよ、そう! 強く気高く美しく聡明で、それでいて思いやりと暖かさをを兼ね備えたアナタ!! 勇者であり魔王の妻でもあるアナタが、眩しくて眩しくてしょうがないわぁ!!!
でも、その心に反してアナタのカラダは、とって」