36話 黒闇の骸術師
こちらに走り寄る骸の紅剣士は大した脅威にならないだろうってのが俺の認識だった。
だって魔視系統の魔眼を持ってないなら魔領法で薙ぎ払ったら終わりだ。
確かに俺がメインで使う魔領法は破魔や斬魔の能力と相性が頗る悪い。
ただ、いくら破魔の能力があるからと言って見えない物に対処出来る訳じゃないからな。
取り敢えず魔領法を練り上げた四本の腕を走り寄る剣士へと伸ばした。
そのまま足元を薙いで転倒させたところを上から押し潰せばそれで終わりだ。
そう、判断した。
だが、俺が伸ばした魔領法の腕は剣士共にあっさりと飛び越えられる、一体に至っては手に持った剣に破魔を纏わせ霧散させられた。
見えてないんじゃないのかよ!
そう思ってると嘲笑う声が体内から聞こえてくる。
『ケッケッケ。
骨人共はな他のアンデットと違って眼がねぇだろ。
どうやって辺りを把握してると思う?』
……知らないけど、今その問いをするって事は察するに魔力関係か。
『正解だ。
あいつらは見えてる訳じゃねぇが周囲の魔力の流れを感じ取る。
だから近くの生物を見つけることもできるし、なまじ奇襲も効かないのさ。
もっとも死肉人になって眼を得るとそっちに感覚が引き摺られて失う程度の物らしいけどな。』
良し悪しだな。
ま、となれば話は早い。
『どうするんだ?』
俺の思考が読めるなら聞くまでもないだろ。
以前にエヴァーンと模擬戦した時と一緒だよ。
避けられるなら避けれない面の攻撃を放てばいい。
単純な話だ。
取り敢えず魔領法の腕を一旦避けられたことでかなり剣士との距離がかなり短くなった。
もう数瞬もすれば刃が俺に届く距離にまで接敵されるだろう。
距離を取らせるために無数の腕を合わせて作った極太の腕で薙ぎ払う。
大きな魔力の塊が来ることは分かったんだろう、即座に骨の剣士は剣を前身で構えて衝撃から身体を守る様に防御行動をとった。
が、関係ないね。
倒すまではいかなくとも吹き飛ばすことはできる。
そのまま勢いよく薙がれた腕で四体とも吹き飛んで元の位置まで戻すことに成功する。
む、一体の剣士は吹き飛ばされながらもこっちの魔領法の腕を斬りつけてきやがった。
あいつはさっきの魔領法の腕を避けた時にも斬りつけて霧散させてきた奴だな。
どうにも一匹だけ強さに偏りがあるらしい。
ま、誤差程度だな。
『っ!おい!術師の方だ!』
え?
ヴァゴスのやや焦った声に慌てて中央の黒闇の骸術師へと眼をやる。
瞬間、骸術師の杖に術光が収束すると同時に、トンと軽い音をたてて杖の先端が地面を叩いた。
くっ!
杖から何が飛来しても良い様に身構える。
が、数瞬経っても杖は微動だにせず何も発射されない。
不発かと思って気を落としかけた瞬間、ヴァゴスが叫ぶ。
『馬鹿野郎!上だ!横に跳べ!』
ヴァゴスの声に反射的に右に跳ぶ。
同時に頭上でカッと何かが光り左の腹に衝撃と鈍痛が走った。
直後に爆音と共に左側の視界が白く染まり吹き飛ばされる。
ぐっ!
何だってんだよ!
吹き飛ばされた先で着地しようとして失敗し、地面に叩きつけられた。
体勢を立て直す為に体を起こそうとしたが、不自然に身体がグラっと傾く。
何か違和感を感じて左脇腹に目を向けると、左側の脇腹の半分以上がごっそり消滅していた。
消失した断面は黒く焦げ炭化し今も若干の煙が立ち上っている。
俺がさっき迄居た地面もすり鉢状に地面が消失し真っ黒に焦げ付いて煙が立ち上っている。
『……汎用雷撃系統魔術の貫通特化上級術式≪万象貫く雷槍≫に似てるな。
細部は違うんだろうが人間がまともに食らうと全身が一瞬で蒸発して跡形も残らねぇ。
本来ならあんな短時間で発動可能な威力の術式じゃねぇ筈だが…成程、杖の効果か。』
笑える威力だ。
……いや、笑えないけど。
海賊の船長の術式ですら俺の魔領法を破る程度で、二発浴びてやっとヴァゴスの外装が剥がれる程だったんだぞ。
それが一撃で魔領法もヴァゴスの外装も俺の肉体すらも跡形もなく蒸発させやがった。
その上で地面にまで影響を与えているかと思うと空恐ろしいほどの威力だ。
正確には貫通力か。
『ま、≪爆球≫は炎熱系統魔術で言えば中級程度だからな。
爆発系統で言っちまえば精々が下級止まりだ。
それと比べりゃさっきのは上級も上級、単体特化ってだけで威力だけ見れば戦術級の威力の術式だからな。
本来なら地面すら穿っている筈だが、迷宮の特性で保護されてあの程度で済んでるんだろうぜ。』
そんな威力の術式をあんな短時間で使えるのはおかしいだろ。
しかも刻印発動じゃなくて詠唱発動で。
戦闘が始まって10秒程度しかたってないってのに。
黒闇の骸術師を見ると発射した魔術の結果には興味を持たずに、ただ俺がまだ動いているのだけをを確認し、再度詠唱を開始した。
チラッと自分の脇腹に眼をやると既に傷は完治し、ヴァゴスが身体を再度覆っていく最中だった。
っと、とっくに体勢を立て直した骨の剣士共も既にこっちに走って向かってくる。
悠長に考えてる暇はなさそうだな。
『さっきも言ったが杖の効果だろ。
後は本人の能力欄にある≪魔導の力≫ってのも関係あるかもな。
残念ながら鑑定では詳細は見れねぇ。
今、重要なのは凡そ十秒近くのスパンで上級術式が飛来するって事実だけだ。』
魔領法の巨腕を振り上げて剣士を対処しようとしつつヴァゴスの話に耳を傾ける。
あの威力じゃ魔領法をぶつけて相殺ってのは土台無理な話だな。
面倒だけど適宜避けるしか出来なさそうだ。
『ああ、ただ本来であればあの術式は射出形式の筈だ。
横向きに発射して多量に巻き込んだ方が対軍では強いからな。
でも、さっきの攻撃ではお前の頭上から真下へ発射された。
つまり発動場所の任意選択が可能って事だな。
恐らく術式を弄ってるんだろ。
その分消費はデカくなるがどこの方向から襲って来るか分からねぇってのは厄介だぜ。』
指の太さが人間の胴体くらいある腕を魔領法で作成し、拳の形にすると一番近くまで来ていた骸の紅剣士へ叩きつける。
剣で咄嗟に対処しようとしたみたいだが憐れ、僅かに対処したところで物量に負けて一瞬で拉げて潰れた。
取り敢えず他の剣士は多少後回しでいいな。
近くまで来てるが無視してもいい。
破魔の効果で魔領法は破られて体に剣が刺さるだろうが、言ってしまえばそれだけだ。
あのサイズの剣程度ならヴァゴスの外装で止める事が出来る。
術師の方がそろそろ二発目が詠唱されそうだし、そっちを先に止めたい。
本当なら順当に前衛から倒していった方がいいんだろうが、先に脅威になりうる方から倒してしまいたい。
身体に魔纏法を使用し、ダッと一気に加速して詠唱中の黒闇の骸術師へと駆け寄る。
どうせこっちは魔領法を叩きつけたところで簡単な術式で相殺されるだけだしな。
本来なら詠唱時間の関係で魔術で魔領法を相殺なんて速度の都合上難しいだろうが、上級の術式であんなに早く発動できるんだ。
牽制用の下級や中級の術式くらいポンポン使えるだろう。
なら、さっさと近付いて肉体で攻撃した方が有効だ。
俺が一気に加速したところで慌てた様に骸の紅剣士も骸術師を守る立ち位置に戻ろうとする。
だが遅いな。
魔纏法で簡易的に肉体強化してる俺には一歩追いつかない。
もう少しで黒闇の骸術師に届く。
近付いたことで詠唱の邪魔をしようと、こちらも牽制用に魔領法の腕を伸ばして叩きつける。
が、骸術師の杖の一振りで魔領法の根元に極小の耐魔結界を出されて腕自体があっさりと霧散した。
やっぱそうはあっさりいかねぇよな。
だが、耐魔結界とは言え別の術式を使用させた。
これで上級の術式の詠唱は止まっただろ。
そう、思った。
そして、もう一歩で骸術師に届くって距離まで来た。
瞬間、骸術師は先程と同じように骨の手に持った杖を地面にトンと叩き付ける、と同時に術光が杖へと収束する。
本来動く筈のない頭蓋骨の顔がニヤリと笑った幻覚が見えた気がした。
同時に背中に怖気が走る。
ぐっ!
詠唱中の術式を中止して耐魔結界を張った訳じゃないのか!?
そして今度は目の前、俺と骸術師の間に先端が俺の方を向いた雷槍が顕現する。
っ!後ろに避けるのは論外だ。
雷と速度比べなんて勝てる訳がない。
かと言って横に避ければ、避けた瞬間に反対側へと距離を取られるてしまうだろう。
そんな事を考えている間に雷槍が発射され、一瞬で俺に到達する。
だから、俺はそのまま軽く身を捩るだけでまっすぐ進んだ。
今度は右半身全体に衝撃と鈍痛。
だがそのまま向きを変えずに進んだ事で口で骸術師を咥える事に成功した。
そのまま何も考えずに口に力を入れるとバキッっという音共に何かが折れる感触。
その勢いのまま地面にドサッと着地した。
……着地と言うか叩き付けられたってのが正しいけどな。
感覚的に今度は右半身が肩から後ろ足にかけて全損だ。
ま、感覚的に修復しつつあるがなんか普段の回復より遅い。
『無茶すんじゃねぇよ。
心臓が半分吹き飛んだぞ。
並の下級吸血鬼なら今頃消滅して灰になってる所だ。
心臓だけじゃなく脳まで吹き飛んでたらお前の不死性を司る両方の能力が消滅してどうなってたか分かんねぇだろうが。
≪四尾なる命≫の効果はまだ厳密にゃ分かってねぇんだからよ。』
ううん、咄嗟だったんだよ。
『はぁ…、その咄嗟で死んだら世話ねぇよ。
回復が遅いのは心臓が欠けたせいで吸血鬼としての再生能力が発揮されてないからだろ。
今は竜としての再生能力と脳髄再生の能力だけで再生してる状態だからな。
それでもまぁ、下級吸血鬼としちゃ十分早いが。
さて、まだ気を抜くなよ、剣士が三体残ってるぜ。
……いや、その内の一体はお前の真後ろに居てさっきの術師の魔術で消し飛んだみたいだな。
訂正する、残り二体だ。』
まだ右半身の足が再生してないからヴァゴスが臨時で頭から生やした眼球で背後を見る。
ほんとだ2体来てるね。
魔領法で巨腕を生成してそのまま振り下ろした。
グシャリ。
術師が消えた今となっては剣士だけなんて物量で押し切ったら終わるんだけどね。
腕の下で拉げて潰れた骸の紅剣士の亡骸を見ていると時期にサラサラと身体が崩れて灰になった。
口の中の黒闇の骸術師も滅んで、口の中に灰溜まりができる。
気持ち悪い。
ペッペッ。
そんなこんなしてる間に心臓の修復が終わったのか、更に加速度的に右半身が再生した。
再生が終わった箇所からヴァゴスが順々に身体を再度覆っていく。
ふぅ。
何とかなったな。
『ギリギリだ。馬鹿め。』
ぬう。
いつもお読みいただきありがとうございます。




