28話 インジェノス帝国の噂
今週全然更新できずすみません…。
「………。」
アカツキの言葉に対してヴァゴスが無言を返す。
無視してる…と言うよりどう返答すればいいか考えてる感じだな。
話ねぇ……。
俺と違ってヴァゴスは結構弁がたつからどう思うかは知らないが、少なくとも俺は話をしようって漠然と言われても困る。
しかも初対面の良く分からない相手とは特に。
「ねーねー、何か話そうよー。
お話ししようよー。
おねーちゃんは暫く戻ってこないだろうし、料理もまだ来ないんだからいいでしょー。」
「話って何を話すってんだ?」
面倒くさそうにヴァゴスが口を開いた。
ややイラッとしてるな。
「んー……。」
ヴァゴスの質問に対してアカツキは天井を見上げる。
別段話す話題がある訳じゃないのか。
そう思って見ていたら「じゃあ」と何かを思いついたようにアカツキがこちらへ向き直る。
「なんでインジェノス帝国について知りたいの?」
「……そこに行く予定があるからだ。
近いうちにな。
だから変な事が無かったか調べておきたいだけだ。
ただでさえあの国は俺様みたいな人外の見た目には不寛容だからな。
前もって不安要素があるなら取り除いておきたい。」
大人しく話を返した方が静かになると思ったのかヴァゴスが少し考えてから言葉を返す。
ま、インジェノスに行くってのはさっきの店でも言った話だし隠す意味もないか。
アカツキはヴァゴスの返事に更に質問を重ねてくる。
「ふーん。
なんで急いでインジェノスに向かうの?」
「ちょいと野暮用があんだよ……って、別に急いじゃいねぇ。」
「えー、でも最初に声をかけた時に少しならいいって言ったじゃない。
少しじゃないと駄目な理由って急いでるからじゃないの?」
ぬ、そう言えばそう返したな。
「別にそう言う訳じゃねぇよ……。
何でそんなこと聞くんだ?」
「え?気になったから聞いただけだよー。
それにインジェノス帝国に急いでるなら近道教えてあげようかと思って。
どうやってインジェノス迄行くつもりだったの?」
気になったから聞いただけ、か。
まぁそこら辺の動機なんて正直何とでもいえるよな。
それよりも近道だって?
そんなのあるのか?
…あるならヴァゴスが先に提案してくれてそうなものだけど。
「……船だ。」
「えー、船だと結構遅いと思うんだけど。
デバスター大陸からだと2週間以上かかっちゃうでしょ?
どの位急いでるのかは知らないけど、遅くない?」
「何を基準に見て遅いか早いか言ってるのかは判断しかねるけどな。
少なくとも空間魔術を使うとかじゃねぇ限りは可能な手段の中じゃ最短だと思うが?
ま、大陸を超えるほどの魔術なんざ俺様は知らねぇが。」
「ちょっと惜しいよ!
空間魔術じゃないけど似たようなものがあるよ。
知らないの?」
似たようなもの?
大陸を超えるほどの空間魔術の代替になるものがあるとでも?
……ヴァゴス知ってるの?
『いや、知らねぇ。
この小娘が何を言おうとしてるのか良く分からねぇよ。
ま、さっきのイザヨイと違ってこっちから渡して困る情報は渡すつもりはねぇ。
勝手に情報を吐いてくれるならそれに越したことはねぇな。
もっとも船以外に手段は無いと思うんだが…。』
ヴァゴスも隠してたというより知らないだけみたいだな。
何でも知ってるイメージがあったから少し意外だ。
ヴァゴスは念話で俺にそう返事をするとアカツキに意識を戻してそちらにも返事をする。
「知らねぇな。」
「あれ…あんまり知られてないのかな……。
私とおねーちゃんは基本的にそれであっちこっち移動することが多いんだけど。」
そっかそっか、とアカツキは自分一人で納得するように腕を組んで首を縦に振っている。
「……で?」
一人で納得してるアカツキにヴァゴスが問いかける。
「ん?」
それに対してアカツキは不思議そうに首を傾げた。
「その移動手段ってのは何なんだ?
教えてくれるんじゃねぇのか?」
「えっとね…。」
ヴァゴスがそう尋ね、それに対してアカツキが口を開こうとしたところでガラッと個室の扉が開き、俺の目線とアカツキの目線が自然とそちらを向いた。
扉からはさっき出て行ったイザヨイが再び入ってくる。
「ごめんなさい。
待たせたわね。
インジェノスの情報が分かったわよ。
……って何かお話し中だった?」
先程と同じ場所に腰を下ろしつつ場の空気を察したのかイザヨイがそう言った。
「……いや、別段急ぎじゃねぇよ。
そっちの話を先に聞かせてくれ。」
イザヨイの言葉にヴァゴスがそう返す。
取り敢えずインジェノスの情報が分かったならそれを聞きたいかな。
にしても、さっきは分からないって言ってたのに随分と早かったな。
本当は知ってたんじゃないかって思うくらいだ。
ヴァゴスの言葉にイザヨイが頷き、それじゃあ…と話し始めた。
「えーっと、何から話せばいいかしらね。
ここ1年インジェノスであったある程度大きな話は5つあったわ。
時系列順に話をするわね。」
5つもあったのか。
…いや1年で5つってのは少ないのかね。
『なんとも。
どの程度の情報精査がされてるかだな。
街の噂程度を集めたらそれこそいくらでも出てくる。
情報ってのは出所が大事なんだ。
いくら火の無い所に煙は、っつっても何かしらの原因となるものはある。』
ヴァゴスが念話でそう俺に呟いた後、現実の口も動かした。
「その5つって言うのは何を基準に選んだ情報だ?」
「んー、まずまず確証度の高い事実ベースの話、商人で話題に上る程度のある程度の確証のある話かしら。
あまりにも的外れだったり荒唐無稽なものは当然として、裏付けが少ない情報は抜いてるけど…全部聞きたい?
その場合だと結構な数になるわ。」
「いや、確認しただけだ。
その5つでいい。
話の腰を折って悪かったな、続けてくれ。」
じゃあまず1つ目、と指を立ててイザヨイが説明を続けた。
「1つ目は現帝王のエムラペラ・ラステイル・ファン・インジェノスが病気だって言う話ね。
去年の終わりごろから帝王家から何度か治癒魔術に長けた人員の募集が帝都の各ギルドになされたそうよ。
もっとも先日の式典にも出席してたみたいだから仮に病気だったとしても重病と言う訳では無さそうね。
2つ目は帝国から見て北の国パーノ・メーシスとの国交が悪化してるという話。
きっかけは今年の初めに帝国北の村が襲われたことが発端みたいよ。
それを元に帝国がパーノメーシスにいちゃもんを付けてるって噂ね。
3つ目は帝都で帝城襲撃事件が発生したって話。
公式には発表されてないけど1か月程前に真夜中の帝城の敷地内で複数回爆発音や光が放たれたらしいわよ。
下手人が捕まったのかは不明。
商人の間ではパーノメーシスの暗殺者や竜が侵入したんじゃないかって噂ね。
暗殺者にしては派手過ぎると思うけど……。
4つ目は万病に効く竜の幼体の話。
どんな病気も治してしまう貴重な素材を持った竜が帝国周辺に居るって噂。
これも商人の間で広がって結構な話題になってるわ。
帝王家が探してるって話ね。
最後の5つ目は騎士団総団長のザミエール・バクドーサーが怪我をしたんじゃないかって話。
普段は重要な式典には必ず王の横で護衛をするはずのザミエールの姿がつい先日に行われた帝国生誕記念式典で見られなかったそうよ。
だから怪我をして養生中じゃないかって噂。
……集まった話は全部でこんなものかしら。
満足してもらえた?」
成程な。
えーっと、1つ目が帝王が病気かも、2つ目が隣国との国交悪化、3つ目が帝城襲撃事件、4つ目が病気に効果のある竜、5つ目が総団長の怪我、か。
うーん、関係ありそうなのは3つ目と5つ目位か?
『概ねはそうだろうな。
追加で言うなら4つ目だ。
下の階で聞いた商人の話と一致するだろう?』
ああ、幼竜を探してるって言う。
それが4番目の話と一緒って事?
下の商人の話だと病気に効く云々は出てこなかったけど。
『そこは1つ目の話からどっかの誰かが邪推したんじゃないか?』
えーっと、1つ目って言うと王が病気とかって言う?
どう関係あるんだ?
『王が病気らしい状態で、理由は不明だが帝都周辺に居る竜を探せってなったらその竜が病気に効くかもしれないって思ったんじゃねぇのかね。
もし、それを最初に思い付いた奴の声がデカけりゃ広まるのも速い。
1階の奴が接触した商人は最初の竜を探してるってだけのシンプルな情報だけを聞いたんだろうぜ。
インジェノスを出る寸前に告知があったって言ってたろ?
4つ目の話はそれから暫くして1つ目の話と混ざって尾ひれがついた状態だろうな。
実際、お前に病気を治す力なんてないし。』
あー、成程な。
そんな雑な……。
俺と帝国の王が病気な事なんて全く関係ないじゃん。
『ま、時期の問題だろうよ。
基本的に帝国からは直に商業組合に告知が来ることは少ないんだろう。
少ない依頼内容から邪推する輩も出てくるさ。
と言う訳で1,2,4の話はあまり関係ないな。
問題は3,5つ目の話だな。
…っと。』
「ああ、十分だ。
ちょっと待ってくれ。」
まだ回答を返してなかったイザヨイに慌ててヴァゴスが口を開いて返事をする。
二人で考え込んでる間は傍から見れば一匹のトカゲが無表情で虚空を見つめてるだけだからな。
無視してるって思われる可能性が高い。
「ええ、相談もあるだろうしいいわよ。
そちらと違って私達は別段何処かへ急ぐ用事がある訳じゃないしね。」
その言葉に軽く頭を下げて、二人での念話に戻る。
『さて、問題の3,5つ目の話だな。
まず3つ目は十中八九お前とエヴァーンが逃げ出す時の騒動だろう。
実際は襲撃じゃなくて帝城内の騒ぎだが、まぁ城の外から見りゃ区別なんてつかねぇ。
噂話の竜は情報が漏れたというより帝国が竜を探してるって情報と組み合わせて推理した奴が言い出したんだろう。
なんせお前は謎の方法で空間転移したんだからな。
騒動の後に逃げられるところを見られた訳じゃねぇ。』
まぁ、そうだろうね。
俺も突然だった位だから。
多分何が起こったかを詳しく知ってるのは帝城でその場にいた奴だけじゃないかな。
…いや、実際に俺を遠くへ飛ばすメリットは帝国の連中にはない。
となると帝国に奴らも何が起こったかすべてを把握してる奴はいなさそうだ。
『ま、帝国の奴が把握してるかどうかはそこまで重要じゃねぇ。
どうせ帝都に行った時に重役を数人食えば分かる事だ。
んじゃ5つ目だ。
これもお前とエヴァーンが逃げる時の戦いでの事だろう。
エヴァーンはザミエールと戦ってたんだろ?』
ああ、俺も魔領法の腕で手伝いだけしたけどな。
エヴァーンを契約で縛る紙を破いたとこまでは確かだ。
その後は何でかエレガンティアに飛ばされたけどな。
『じゃあ、その時の戦いでエヴァーンがザミエールに怪我を負わせたか、殺したか。
恐らくは怪我だろうけどな。』
成程ね。
死んでたら一番いいけどな。
『死んでたら一番の障害がなくなったって事でエヴァーンは逃げてるだろうけどな。
ま、恐らく生きてる。』
なんで?
『死んだら民に告知がある筈だからだ。
怪我なら暫く隠せば元通り。
だけど死亡はそうはいかない、いくら待っても死んだまま。
……まぁ、一部の例外を除いて。
他にはパーノ・メーシスとの戦争を見据えて戦力ダウンを他国に知られたくないから隠蔽してる可能性もあるけどな。
ただ、その場合は戦争中にそのことが漏れた時に自軍の士気が落ちる。
恐らく怪我をしてるだけだろう。』
となると…。
『ああ、ここまで情報を集めても結局エヴァーンがどうなってるかまでは分からないって事だな。
行ってみるしかない。』
そうなるよなぁ。
いつもお読みいただきありがとうございます。




