22話 グロリアの味見屋敷
今回は短めです。
酒場は思っているより距離があり到着する頃には日が沈んでいた。
まぁ、沈んでも街灯があるから存外明るかったけど。
インジェノスだと外壁の外程真っ暗って訳じゃ無いけどそこそこ暗かったな。
灯りは疎らだった。
帝城と貴族街はそうでもなかったんだけど。
さて、目の前にある酒場はもはや酒場と言うより屋敷に近い。
極彩色市場の店主曰く金持ちが手放して安くで販売された建物を複数の酒場が共同で買い取って経営する経緯になったらしい。
客は建物の中にある気に入った店に行くんだとか。
まぁ、確かに客からすればこの場所に来れば色んな種類の酒と食事が楽しめるって事か。
店からすれば他の店の序に入ってもらえるかもしれないしね。
便利だな。
因みに建物の名前は『グロリアの味見屋敷』である。
やっぱ屋敷じゃねぇか。
入口はどんな種族でも苦無くは入れる様に結構大きめに作られている。
んじゃずっと門の前で待ってる訳にもいかないし行くとするか。
『食料区画の店主も言ってたがこの屋敷にの中には高めの店もあるって言ってたからな。
注意しろよ。』
分かってるって。
屋敷は三階建てになっていて上に行けば行くほど高級志向の店になる傾向があるらしい。
カードを取り出してオドを籠める。
≪19240ルガロ≫
これが今の俺の残金だ。
最初の魔道具を売ってた店は店主が内心焦ってたから何も買わずに情報だけを引き出すことに成功した。
けど、他の店はどこもそこそこ客が出入りしてたから何も買わずに情報だけ、って訳にはいかなかったみたいだ。
因みに買った物はネックレス上の魔道具、指輪状の魔道具、綺麗な石、食料数点だ。
魔道具と石は一旦体内に仕舞って、食料は既にヴァゴスが取り込んで解析を終えた。
食料は一個20ルガロからで高くても100ルガロしない位だから良かったんだけど、魔道具が一個7000ルガロとかした。
高いよなぁ。
しかも、それでもヴァゴスが値切った上での価格なんだぜ。
効果はそれぞれ、
ネックレス上の魔道具:オドを貯める事が出来る。
指輪上の魔道具:オドを込めるとうっすら光る。
以上。
一つ目のネックレス、オドを貯めるって言っても僅かだ。
俺からすれば感知できないような…それこそ魔術の練習で出した火球を出すのより少ないオドしか貯められない。
はっきり言ってゴミ。
二つ目の指輪、光る方も夜目が効くからこれも別に要らない。
ゴミ。
両方要らないけど仕方なく買った。
だってその二つがそれぞれその店で一番安かったし…。
魔道具って高いんだな。
まぁ、そんな訳で残金は19240ルガロ。
なので慎重に使わないと直ぐに無くなるだろう。
取り敢えず屋敷に進む奴らの流れに沿って俺も屋敷の中に入る。
まず豪奢な扉を開けた先は大きな吹き抜けになっていた。
上を見上げると三階分の高さの天井からキラキラと光が降り注いでいる。
入ってすぐに目の前に階段、そして左右の廊下には通路が続いてる。
その通路の壁に各店舗の入り口があるみたいだな。
……ってもな思ってるより種類が多いぞ。
一階だけで10店舗以上ないか?これ。
『えーと、全部で41店舗だってよ。
そこの壁に案内図が書いてあるな。』
そんなにあんのかよ。
どうやって回る?
『んー、商人が多いであろう店舗を聞くか?』
それがいいか……。
正直な所、極彩色市場では「おすすめの酒場」としか聞いてない。
だから取り敢えずいろんな店があるここを勧められたんだろう。
けど、主目的は情報収集だから相手と話せないと意味が無い訳で…。
これじゃ実質店が集まってる場所を教えて貰っただけな気がする。
いや、まぁ各店舗は距離って意味で言うとめっちゃ近いからいいけどさ。
ま、店の店主にはそこまで詳細に条件を言ってなかったからな。
「おい、そこの。」
おお、いつの間にか喉の支配権がまた取られてる。
別にいいけど。
ヴァゴスが取り敢えず入り口付近に居た獣人族に声をかける。
見た感じ虎の獣人だな。
「ん?俺か?
どうしたんだ?」
急に話しかけたけど別段怪しまれることなく返事をしえてくれた。
まぁ、場所が場所だし結構知らない奴から声を掛けられるって事もあるのかもな。
「ちょっと知りたいことがあってな。
商人と話したいんだがこの屋敷の中で商人が集まりそうな店ってどこか分かるか?」
さっきまで極彩色市場の商人に聞いてたのとは違い単刀直入に用件を伝えるのか。
……ま、雑談の域だし別に何かをこいつから買う訳じゃ無いからいいのか。
知らなけりゃ別の奴に聞けばいいし。
「うーん。
どんな商人を求めてるかによるかな。
商人とは言っても質によって行く店が変わるからなぁ。」
「外から来た奴が望ましいな。
ハイガンで仕事してる奴じゃなくて他の大陸から来た奴だ。」
「ああ、じゃあハイガンの郷土料理が食える店に居る事が多いな。
外から来た奴らはこの国でしか食えないものを求めてることが多い。」
成程ね。
確かに始めて来た場所なら初めて食べれるものが食いたいって思うわな。
俺はどこ行っても血液程度にしか欲求が沸かないから盲点だった。
「その郷土料理の店は何処に有る?
ああ、複数あるなら出来るだけ安い店で頼む。」
「ふむ、安い店か…。
ファンディの郷土料理は幾つかあるが、ある程度安い店となると…。
あ、ナグケルの休憩所って店がいいかもな。
そこの右手の通路を真っ直ぐ進んで五軒目前後にあるはずだ。
ま、ドアの前に店名が出てるから確かめて入るといい。」
「ナグケルの休憩所だな。
助かった。」
「いいって事よ。」
ヴァゴスの礼に虎の獣人族はヒラヒラと此方に手を振って応えた。
じゃ、その店か。
『ああ、そこに行くか。
なに、目ぼしい商人が居なさそうなら他の店をまた探せばいい。』
そういや商人の居そうな店を探すことに尽力してたが、店に入ってどの商人が知ってるか探すんだ?
『あん?適当に店主に知らないか聞きゃいいだろ。
インジェノス出身の商人が来てないか?ってな。
ま、もしくはインジェノスで何か噂をしないか?でもいい。
飯を頼んだら最低限応えてくれるだろうぜ。
都合よく酒場に居なけりゃ次の店に行きゃあいいだけだ。』
普通に素直に聞くんだな。
『別に騙したりする訳じゃねぇんだしな。
幸いルガロもここで使い切って問題ねぇ。
この国を出たら他の国じゃ使えんからな。』
一応他国の通貨に換金して持っててもいいと思うけど。
『いやいや、そもそも他国じゃ金を使える状況にならねぇだろ。
お前の外見じゃ他の国に行ったら魔獣扱いだぜ。
あくまでこの国が特殊なだけって事を忘れんなよ。』
そういやそうだった。
この一日普通に接して貰えるから忘れてたぜ。
『ったく…。
っと、お、ここか?』
ヴァゴスの声に目線を上げるとドアの上に『ナグケルの休憩所』と書かれた質素な看板が上がっていた。
ドアノブが無く押すだけで開くみたいだな。
『この国は色んな種族がいるからな。
この国の店は大概こんな感じで押すだけで開くって場所が多いぜ。
お前みたいな外見の奴はドアノブを引いて押すだけでも苦労するだろ。
魔領法が使えりゃ話は別だけど。
ま、使えなくても魔術でどうにでもなるだろうが。』
そのまま鼻先でドアを押し開けて中へと入った。
いつもお読みいただきありがとうございます。




