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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第四章 帝国を目指して
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17話 入国手続き

そのまま魔術の練習をしていると空が明るくなって夜が明けてきた。

同時にリリルカも起きて甲板へと上がってくる。


「おはよう。

 ……毎朝早いわよね。

 いつも私より遅く寝て私より早く起きてるなんて。」


まぁ、実際寝てないからな。

早いもクソもないだろう。


「そういう種族だ。

 種族による差だから仕方ないだろ。

 それより…。」


一応のところは種族差って事にしておく。

睡眠時間が短い種族はいても寝ない種族は珍しいからな。

ここで下手に睡眠が必要ないって言ってアンデットと結び付けられても困る。

種族差としか言わず、寝たとは言って無いから嘘はついてない。


話を逸らしてハイガンの港を顎で指す。

甲板に上がってくる階段の向き的に丁度リリルカは港に背を向けてるからな。

ハイガンに到着した事にまだ気が付いてないみたいだ。

ん?と一瞬首を傾げたが無言で後ろを見続けると釣られて振り返ってくれた。


「…着いたのね。」


「ああ、夜が明けたら案内人が来るとの事だ。」


「案内人?」


「昨日の晩に港から連絡があってな。

 明け方にこっちに港までの水先案内人?を寄こすってよ。」


「明け方…じゃあそろそろかしらね。」


「ああ、だと思う。」


リリルカはふーんと言いつつも此方を向かずに興味深そうにハイガンの街並みを眺めている。

珍しいのか?


『まぁ、前にも言ったが聖女となれば国の顔だからな。

 何かしら重要な式典とかでもなければレリージオ法国からは出ねぇよ。

 そりゃ外国が珍しいだろうぜ。』


成程ね。

ま、俺も最初に人間の町に行った時は物珍しかったな。

捕まって連れていかれた訳だから楽しくは無かったけど。


「……来たみたいよ。」


そうやってヴァゴスと話しているとハイガンの町を見ていたリリルカが声を上げた。

お、来たか。

リリルカの居る船縁に近付いて見てみると空を飛んでこちらに向かう人影が見えた。

んー、昨日来た竜人族ドラコニトではなさそうだな。

何て名前だっけ?

まぁ、いいや。

それより空飛ぶ術式も早く覚えたいなぁ。


『あれは結構複雑な術式だからな。

 ま、いつかできるようになる。』


だといいね。


人影はどんどん大きくなると船の近くで止まった。

そのまま船の甲板と同じ高さに降りてくると手に持った棒を振っている。

えーっと、あれを目標に進めばいいのかな?


『状況的にそうじゃねぇかな。』


んじゃまぁそう言う事で。

魔領法で錨を上げて帆を広げる。

舵を調整すると徐々に船の先端がハイガンの方へと向いていく。

そのまま微調整を繰り返してハイガンの方向へと船を進めた。


『帆を張るのはある程度にしておけよ。

 速度を出しすぎて桟橋を破壊しても弁償金を払えねぇからな。

 インジェノスに向かうのがその分遅くなっちまうぞ。』


分かってるよ。

この二十日間で俺もそこそこ船の扱いには慣れたんだから。

船は速過ぎる事もなく進んでいく。

そのまま先を飛ぶ案内人の指示する桟橋へと入港することに成功した。

よし、別段何処にもぶつけなかったぞ。


空を飛んでる案内人は掌を下に向けた両手を数回縦に振った後飛んで行った。

えーっと?


『ここで待てって感じじゃねぇか?

 ま、待ってりゃ人が来るだろ。』


了解。

入港時に事情を聴くって言ってたからな。

それじゃ待ってよう。

その場に錨を下ろして帆を畳む。

その場から動かなくても全ての作業が完了するから楽だね。


船の前の方に移動して近くからハイガンの街並みを改めて見渡す。

おー、色んな奴がいるな。

人間族ヒュマスっぽい奴もいれば明らかに魔人族グロリアって見た目のやつもいる。

服から覗く顔が完全に骸骨のやつもいるな。

日光に当たっても平気にしてるからアンデットじゃないと思うけど。


『ありゃ骨人族オースだ。

 魔人族グロリアの中でも変わった種族だな。

 繁殖じゃなくて分体を作ることで数を増やす珍しいタイプだ。

 骨だがアンデットとは違ってれっきとした生物だぜ。』


ふーん。

色んな種族がいるんだな。

まぁそりゃそうか。

魔人族グロリア自体がその他の種族の集合体だもんな。

お、昨日来た奴と同じ種族の竜人族ドラコニトも居るな。


ふと横を見るとリリルカも物珍しそうに眺めていた。

俺と同じくあまり外を見てこなかっただろうから俺と同じ様な反応だ。


『それもあるが、あちこち旅してる奴も初めてファンディに来た時は大体同じ様な反応をしてたぜ。

 やっぱ世界中回っても一番種族の種類が多いのはこの国だろうからな。

 見た目のインパクトがデカいのさ。

 それに文化の差ってやつを感じる。

 特にアンデット嫌いのレリージオの連中なんかは普通に町中に吸血種ヴァンパイアが歩いてるのを見ると信じられないだろうぜ。

 ま、その場合に手を出しちまったら先に手を出した方が悪いんだけどな。』


それを聞いてチラッとリリルカに眼をやると骨人族オースを物珍しそうに見ているだけだ。

一度レリージオの話になった時に聞いたがレリージオの中にも派閥があって不死者に関しては擁護派と絶滅派が居るらしいとは聞いた。

勿論生きた人間に害をなした奴はどちらの派閥も討伐対象にするらしいが人間と共生してる様な奴に対しては意見が分かれるらしい。

今は絶滅派の方が力が強いらしくアンデットはレリージオでは生きてはいけないとか。

まぁ、擁護派が主流になったところで法律次第では殺される国に居たいとは俺は思わないけどね。

因みにリリルカがどっちの派閥なのかは聞きそびれたが話し方的に擁護派っぽかった。

だからと言って俺の正体を言うつもりはないけど。


まぁ、伝えても驚きこそすれ俺に対して態度は変わらないかもしれない。

仮にも命の恩人だし?

でもリリルカがレリージオに帰って今回の一件を報告したら間違いなく俺の話は出るだろう。

その際に必ず俺の正体についても言及が入るはずだ。

そして看破を持っている以上、リリルカはその報告に嘘を付くことができない。

でも知らないなら別だ。

だからそもそも言わないに越したことはない。

ま、こうやって俺が日中普通に過ごしてるのを見て、そもそも俺がアンデットかもなんて全く疑っては無いみたいだけどな。

実際に血とかは吸ってないし。

後はトカゲの格好をしてることも大きいのかもな。

リリルカの話を聞いていると吸血種ヴァンパイアは全員人型って先入観があるみたいだし。


そうやってリリルカと外を見てると下の桟橋で此方の船に向かって歩いてくる人影が見えた。

お?

船縁から首だけ出してみてみると昨晩船に来た竜人族ドラコニトと知らない奴だ。

竜人族ドラコニトは……そうだ、確か名前はシュバインだったか?

取り敢えず魔領法で船へと昇る為の板を桟橋と船の間に置く。

そのまま板の前で待っていると板の軋む音が聞こえ、そのまま甲板に上ってきた二人が姿を見せた。


もう一人の奴はパッと見た感じ人間族ヒュマスっぽいけどな。

因みに胸が膨らんでるから雌だな。


人間族ヒュマスっぽいが耳が尖ってるだろ?

 ありゃ精人族スピリタムだ。

 その中でもエルフ種だな。』


ふーん。

ああ、そういや食った船長もハーフでスピリタム・エルフって記述があったか。

その元の種族なんだな。

昨日はシュバインが来たのが急で、やりそびれたので鑑定しておこうか。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

名前:シュバイン・オーデル

種族:グロリア・ドラコニト

能力:

『鋭敏感覚』

『断罪』

加護:

『直感なるタイセスタの鋭加護』

『怪力なるグアカリブの滅加護』

『正義なるノーテットの裁加護』

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


ふむ?

続いてエルフの方は?


▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

名前:アクサナ・マルシェフ

種族:スピリタム・エルフ

能力:

『鑑定』

『精霊の声』

加護:

『神秘なるエンディガーの魔加護』

『眼識なるトープルの鑑加護』

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


うーん、なんか少なくない?

何と言うか能力も加護も。


『いや、普通はこんなもんだ。

 特に鑑定なんて持ってりゃ仕事に困らねぇからな。

 他の加護を進んで取ろうとしなくてもいい。

 基本的に迷宮に籠もったりする狩人とかに比べたら一般人の能力や加護なんぞこんなもんだ。

 そもそもな話、加護も能力も持ってない奴もいる位だからな。

 まぁ、一個も持ってない奴はそれはそれでレアだが。』


ふーん…。

なんか多い奴をよく見る気がするから意外だな。


『そりゃお前が今まで関わった奴らが特殊過ぎただけだ。

 能力や加護なんぞ普通は二個程度だ。

 それよりも能力や加護より鑑定じゃ測れないオド量や魔術の技量、戦闘経験の方がよっぽど大事だぞ。

 ……まぁ変わった強い力を持つ加護や能力もあるから一概に言い切れないがな。

 現に目の前に居る竜人族ドラコニトは純粋な実力で言うならこの船の前船長より強いぜ。』


まじか。

見かけ…と言うか鑑定は強さの当てにならんな。


『そうだな。

 戦闘や相手の強さって意味では実戦経験で磨くのが一番間違いが無い。』


ヴァゴスと脳内で話をしているとシュバインが口を開いた。


「明け方まで待たせてすまなかった。

 港の決まりでな。

 昨晩伝えた様に入国手続きと事情聴取を行いたい。

 甲板上で構わないだろうか?」


「あア、構わなイ。」


目の前で突然交わされるファンスター語のやり取りにリリルカが眼を見開く。

ああ、そうかヒュマス共通語だと思ってたのか。


「助かる。

 まず先に入国手続きを済ませておく。

 昨晩に入港目的を聞いたら補給が主で立ち寄っただけと聞いた。

 相違ないのであれば仮入国にしようと思うが構わないか?」


仮入国?

頭の中でヴァゴスに聞くが知らないみたいだった。


「済まなイ。

 仮入国ガ何か分からなイのだが。」


「む、それは失礼した。

 ファンディ魔王国では外からくる者に対しては仮入国と本入国の二つの手段に分けられている。

 仮入国の場合は入国時に入国料が発生するが国内での税は発生しない。

 ただし購入売却に一部制限がかけられる。

 更に入国から一か月以内と滞在期限が定められている。

 本入国の場合は入国時に入国料は発生しないが、国内での取引に関して税が発生する。

 購入売却に制限は無く国内滞在の期間は制限されない。

 今回は補給と観光との話だった故に仮入国で良いかと確認した。」


うーん。

いいのかな?

まぁ、一か月も居ないと思うけどな。


「ああ。仮入国デ構わなイ。」


「了解した。

 では後で仮入国証を発行する。

 オド登録で生体認証をしているから渡されたらオドを流し込んで認証してくれ。

 オドの操作ができない場合は魔道具を使用するが必要か?」


「イヤ、必要ない。」


「了解した。

 では仮入国証に名前を記載する。

 名前をフルネームで頼む。」


「グ…『ちょっと待て。』


名乗ろうとしたらヴァゴスが割って入ってきた。

どうした?


『奥の女、鑑定を持ってるだろ。

 今お前を鑑定して見えるのは俺様の情報だ。

 グリムルって名乗ったら偽名を使うって不自然に思われるぜ。

 ここは俺様の名前を名乗っておきな。』


……ああ、成程な。

分かった。


「ヴァゴスだ。

 姓は無い。

 只のヴァゴスだ。」


俺がそう答えるとシュバインがチラッと後ろのエルフを見る。

エルフが軽く頷いて手元の板に何かを書き込み始めた。


ふむ?

と言うかリリルカにはグリムルって名乗ったけど嘘を付いたってばれたんじゃないか?


『いや、看破は常に発動してる訳じゃ無い。

 看破を持ってる奴が目の前の発言に関して嘘かどうか判断するために自分の意思で発動する必要がある。

 増してや今の現状、あの女は目の前の会話が何語か分かって無い状態だ。

 発動してるとは考えにくいね。

 発動してたとしてもお前が嘘を付いたことは分かっても何に関する事でで嘘を付いたかまでは分かってない。

 なんせ話の内容が分からないんだからな。』


成程ね。

思ってるより便利じゃないんだな。


『そんな超便利な加護も能力もねぇもんだよ。

 大体少し不便なことが多いのさ。』


ヴァゴスとそんな話しているとシュバインがエルフから受け取った小さい板を此方に渡してくる。


「ではこれを。

 これにオドを流し込んでもらえれば仮入国証の発行は完了だ。

 後は港の入国管理局で入国料の支払いを頼む。」


む、そういや金が無いんだが。


『船の物を適当に売ればいいだろ。

 別にたかが入国料だ。

 しかも仮入国のな。

 そこまで高額じゃねぇよ。

 あんまし高ぇと人が来ねぇからな。』


ああ、それもそうか。


それに俺達は船さえ残ってりゃプリマイブ大陸まではいけるもんな。


頷いてシュバインから仮入国証を受け取ってオドを流す。

特に仮入国証に変化はないが……。

これでいいのかね?


俺の疑問を他所にシュバインはリリルカに向き直る。


「さて、では次はそちらの方…。

 彼女が昨晩言ってた聖女かな?」


「あア、ファンスター語が分からないみたいだ。」


「ふむ。

 普段は何語を?」


「普段はヒュマス共通語デ会話してル。」


「では手間をかけて悪いが通訳を頼んでも?」


あー、そうなるか。

まぁ、別にいい。


「ああ、構わなイ。」


俺はさっき聞いた説明をヒュマス共通語でリリルカに伝えた。

通訳って案外面倒くさいな。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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