16話 ハイガン港
昨日は更新できずにすみませんでした。
遠くの水平線に見えた灯りを目指して船を進める。
見てから近くに着くまでそう時間はかからずに夜中の内にファンディ魔王国のハイガン港に到着した。
正確にはハイガン港の近くに、だけど。
ヴァゴスに言われるまま船を操作して港の近くまで行き船を停止させる。
まだ港には入れない。
まだ辺りは真っ暗だ。
夜だから普通は当然なんだろうけど。
ハイガン港から町全体を見渡して最初の印象としてはかなり明るいって点だ。
船がかなり暗いってのも相俟ってかなり明るく感じる。
因みに船はリリルカが寝たら必要ないから消してるだけだけど。
俺もヴァゴスも夜目が効くからな。
街の明るさは何と比較してって言われると、まぁ、インジェノス帝国の帝都位しか夜の街並みってピンとこないんだけどさ。
エレガンティア魔術都市ははっきりと街並みを見る余裕もなく街の中を走り抜けたからよく分からないんだよね。
別段よく見たかったって訳じゃ無いし。
……いや、ちょっとは見たかったかな。
『ま、ファンディは資源が潤沢だからな。
エレガンティアには総合的な技術で劣るが資源自体がかなり充実してる。
土地柄的な意味合いでも住んでる住民的な意味合いでもな。
因みにエレガンティアは技術的な側面も相まってここと同等位の明るさだと思うぞ。』
ああ、エレガンティアも同じくらい明るいのか…。
ん?
土地の資源ってのは分かるが住民の資源ってどういうことだ?
『あー、まぁ簡単に言えば住民一人一人の質が高いってこった。
ほぼ全員が魔人族で魔力を潤沢に持っている。
そして魔人族用に造られた普通の人間族が使い続けるのは難しいような魔道具があちこちで売られてるのさ。
そんな魔力を使い続けられる奴らが多いって事だ。
人間族なら灯りの魔道具や灯りの術式を長時間にわたって維持出来るのはそれなりに訓練を積んだ奴だけだ。
だが魔人族からすると技術が拙くともオドを潤沢に使う事で子供でも同じ事が出来る。
そんな訳で魔力に物を言わせた施設や道具が多いのさ。
それを使える質の高さって意味合いで住民の資源って表現しただけだ。』
成程ね。
そりゃ魔人族以外の種族が住みづらい訳だ。
街中でなにをするにしても魔力を使いそうだもんな。
『そうだな。
それこそお前はその点気にしなくていいがな。
そこら辺の魔人族と比較してもお前の方が圧倒的にオドが多い。
尽きることは無ぇだろうさ……。
ま、一応俺様が器に閉じ込められる300年前の時点で魔人族以外にも住み易い街づくりをしようって話が出てたと思うけどな。
もしその話が今に至るまで進んでいたなら今は多少は種族差関係なく住み易くなってるはずだ。
まぁ、良くも悪くも魔人族は適当な奴が多い。
あんま期待はしてねぇけどな。』
何にせよ俺がここで過ごす分には不便じゃないだろ。
なら正直どっちでもいいよ。
そういや陸に上がったらリリルカはどうするんだ?
『あー、ファンディ魔王国のお偉いさんに知らせるのがいいんじゃねぇか。
レリージオ法国と仲がいい訳でもねぇが別段悪いって悪い訳でもねぇ。
と言うかファンディは他国に興味がねぇ。
侵攻されない限り中立国だ。
ちゃんと申し出たら悪いようにはされねぇだろ。
一番いいのは国際狩人機構経由で知らせてもらう事なんだがな。
あそこはさっきも話した長距離用の幻想遺物を持ってる。
だから連絡用に何処かの支部に伝言を伝える事が出来るのさ。
レリージオのアルゴスにゃデカいイーホの支部があっただろうからな。
そこに連絡すりゃ一発で国の上層にも話が行って迎えが飛んでくるだろうよ。』
ああ、じゃあそっちの方がいいんじゃないの?
不確か、って言うと悪いけどレリージオ法国とあまり仲がいい訳でもない国に託すよりかは。
『別に仲が悪い訳じゃねぇんだぞ?
他国に興味がねぇから聖女にも興味が無いだろうなってだけだ。
それに俺が一番いいのは、って言ったのは理由がある。
ファンディじゃイーホを経由して連絡を取る手段は使えねぇ。』
なんで?
『あのな、反射的に俺様に聞くな。
知らない事はどうしようもねぇが考えたら分かることまで答えを他に求めるな。
ちっとは考えろよ。
……イーホの支部同士は連絡が可能でアルゴスには支部がある。
それなのに連絡が取れない理由ってなんだ?』
え?うーん。
……ああ、ひょっとしてファンディ魔王国のハイガンにはイーホ支部が無いのか?
『ああ、ひょっとしなくてもその通りだ。
考えりゃ分かんだろ。
ファンディは国民性的に全員がそこそこ強い。
少なくともそこいらの魔獣に負けない程度にはな。
当然それなりに強い魔獣もいるがそういう強い魔獣は個体数が少ない。
数が少ないって事は魔王国の兵士で十分対処が可能って事だ。
ま、そうなって誰も狩人を雇う意味がなくなった結果、当たり前だが狩人がこの国に来たって仕事がねぇのさ。
そりゃそうだろ。
自分で出来る事を金を払ってまで他人に依頼する奴はいねぇ。
そんな理由から結構昔にイーホ…イーホになる前の狩人組合って呼ばれてた組織だった時代にファンディ魔王国の有るデバスター大陸からは組織丸々撤退したのさ。』
あー、成程。
確かに仕事が無いとそこに居る意味ないよな。
『他の国なら連絡要員として金を払ってでも国に留めておいたかもしれねぇが、そこは如何せん他国に興味のない魔王国。
別に居なくなって他の国と連携が取れなくなっても気にしないってスタンスだった。
実際撤退してからかなり経つが別段困った事は無いみたいだしな。
まぁ結果としてイーホは撤退したまま戻って来る事もない。
だからそっち経由での連絡は厳しいのさ。』
じゃあヴァゴスの言う通り国に直接伝えて貰うしかないのか。
国に伝えるってどうやるのか知らないけど。
『あー、魔王城の近くに役所があるはずだ。
そこで手続きしてもらえる…俺様の記憶ではな。
なんにせよそこまで聖女を送っちまえば仕事は終わりだ。』
了解。
ま、なんにせよ行ってみないと分からないって事だな。
『ん?』
唐突にヴァゴスが声を上げた。
なんか外に意識が行ってるみたいだけど…。
釣られて外を見ると何もない……いや、何かが浮いてる。
浮いてると戦った船長を思い出して嫌な気分になるな。
仕方ないけど。
うーん?
人型…だけど人間族じゃ無いな。
それにしちゃ大きすぎる。
胴が鈍色に光っている。
あれは金属の色だな。
しかもよく見れば背後に翼が見える。
『ありゃ竜人族だな。
序に言うなら着てるのはファンディの衛兵の鎧だ。』
じゃあ怪しい奴って訳じゃ無いか。
と言うか現状はむしろこっちが怪しまれてるのか?
とか考えてると目が合ってそのままスッとこっちに向かって降りてくる。
それを見てるとちょっとだけほっとするな。
いや、この前は上空から急に爆撃されたからね。
そのまま浮いていた竜人族は甲板にまで下りてきた。
丁度俺の目の前だ。
腰に差した剣が月の光に反射していて綺麗だな。
暫く見つめ合ったが先に向こうが口を開いた。
「私はハイガン港警備部隊のシュバインと言う。
旗を掲げていない国籍不明の不審船があるとの報告を受けてここに来た。
既に周囲を包囲している。
そちらの目的を明らかにしていただきたい。
無視、攻撃の意思を確認した場合は即攻撃態勢に入る。
返答は如何に?」
簡潔だな。
分かりやすくていいけど。
それにリリルカと話してたヒュマス共通語じゃねぇ。
竜人の口から聞こえたのはファンスター語だ。
『ああ、成程な。
旗を掲げてねぇから不審に思われたのか。
海賊旗を下げてからは下げっぱなしで別段何も掲げてなかったからな。』
相手の言葉を聞いてヴァゴスが納得したように声を上げた。
旗はそのままの方がよかったのかな?
『いや、海賊旗の場合は問答無用で攻撃される可能性もあった。
その点旗が無い方がまだ安全だ。』
んで返事はどうする?
『疚しい事がある訳じゃねぇし普通に返事すればいい。
良かったな声出す練習しておいて。』
もし俺が声出せなかったらヴァゴスが出しただけの話だろ。
まぁ、出せるようになってて良かったけどさ。
別にもったいぶる理由もないから素直に返事を返す。
「ソチラの港に入コウしたい。」
む。
俺も相手に合わせてファンスター語で声を出そうとしたけど、ちょっと声が変になった。
『あー、ヒュマス共通語とファンスター語は発音が違うからな。
喉の使い方のコツがちょっと違うんだろうよ。
まぁ、違う言語を声として出せてるだけ十分だ。
通じるだろうしそこまで気にすんな。』
仕方ないか。
今までヒュマス共通語の発声練習しかしてなかったしな。
「入港の目的は?」
俺の解答に顔をピクリとも動かさずに返事を返してくる。
少しだけ心配だったがファンスター語でも通じてて何より。
ええっと、入港の目的ね……。
どちらかと言えば入港したい事自体が目的なんだけど。
『まぁ、入港して何をしたいか答えろって事だろ。
この場合なら物資の補給と観光でいいんじゃねぇのか?
取り敢えず怪しくないって事が伝わればいい。
プリマイブ大陸を目指すのに寄ったとかまで素直に言う必要はねぇよ。
上陸したときに聞かれた答えてもいいけどな。
それに物の序だ。
今の内にこの船とあの人間の事も伝えちまいな。』
ああ、そうだな。
「入港ノ目的は物資の補給ト観光だ。」
取り敢えず質問に対して俺が素直に応答してるからか目の前の竜人族…名前はシュバインだったか?の対応も心なしか和らいで見える。
そんな様子を観察しながらヴァゴスの作った喉を動かす。
「この船はウィネバ近辺で海賊行為をしてた賊から奪ッタ。
だから旗が海賊旗しかなイ。
奪った船の中にレリージオ法国の聖女が居た。
そノ聖女の保護ヲふァンディ魔王国に依頼したい。」
うむ。長文も話せるようになったもんだ。
急なファンスター語だったからところどころおかしいが十分許容範囲だろう。
俺のこの言にシュバインが眉を顰めた。
あれだな。
顔は竜種と近いから俺からすれば人間より表情が分かりやすい。
「レリージオの聖女…か…。
事情は分かった。
詳しい話は後ほど夜が明けてから入港時に聞こう。
一先ず夜が明けるまではここで待機願いたい。
明け方に水先案内人を送る。
その案内に沿って指定された桟橋に入港願う。」
ハキハキと喋るなぁ。
同じ竜の口のはずなんだけどね。
『まぁ前も言ったような気がするが声を出してるのは口じゃなくて喉だからな。
その点で言うなら純粋な竜と魔人族である竜人族ではやっぱり喉の作りが違うのさ。』
まぁ、前も聞いたと思うけどさ。
でも口から音が出てるんだから、なんとなく不公平だと思うのは俺だけだろうか。
シュバインは俺が口を開かないのを確認して、その無言を了承と受け取ったのか「では失礼」と行って再び夜空に飛んで行った。
報告にでも行くのかね。
『だろうな。
夜の警戒勤務とは言え警戒に態々来たんだ。
ご苦労なこった。』
だね。
さてシュバインって衛兵の話だと案内人が来るのは夜明けらしい。
空の月は大分傾いてはいるけど今暫くは沈みそうにないな。
もう少しの時間は待機になりそうだ。
魔術の練習でもしておくか。
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