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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第四章 帝国を目指して
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15話 帆船での日々

海賊から奪った船の樽から聖女を拾って早十日近くが経過した。

あれからヴァゴスの言った通り昼は会話練習、夜は魔術と眼の訓練と休みない日が続いてる。

どうせ疲れないからいいだろってヴァゴスは言ってたが、肉体的には全く疲れないとは言っても精神的には疲れるんだからな?


『そこら辺は生前の意識を受け継いだ欠点だな。

 俺様が今まで見てきたアンデット共は基本的に精神的な弱さ(ストレス)とは無縁そうだったぜ。

 ああ、でも人と暮らそうとしてる奴は大なり小なり人間に性格が引き摺られてた奴も居たような気もするが…。

 結局のところはそれぞれの性質によるのかね。

 ま、疲れたら疲れたで適度に休めよ。

 ただインジェノスに到着すりゃ十中八九戦いになるだろうよ。

 その時になって後悔しないようにしろ。』


分かってるさ。

現状はエヴァーンがどうなってるのか不明だ。

一応何かに使えるかもしれないと転移時に一緒に飛ばされた遠写しの魔結晶も持って着てはいるものの転移して以来ずっと無反応である。

因みに普段は飲み込んで胃で保管している。

偶に取り出して反応がないか確認してるけど反応が無い。

ここにエヴァーンが映れば何事もなく合流できただろうけど。


最初の時に俺は遠写しの魔結晶が映らないのはエヴァーンが捕まったからかと思っていた。

でもヴァゴスが言うには恐らく距離限界じゃないかとの事だ。


『まぁ、距離限界で映ってないだろってだけで捕まってないって決まった訳じゃないけどな。』


分かってるさ。

だから確認の意味も込めてインジェノス帝国に向かってるんだろう。


因みにヴァゴスは遠写しの魔結晶自体は知らないみたいだが似たような術式や魔道具ならいくらか知ってるとの事だった。

その殆どが大陸間を無視して通信できる程の有効距離は無いらしい。

今のところ距離に関係なく通信可能な道具は判明してるだけで二つだけだそうだ。

当たり前だけどその両方が幻想遺物アーティファクト

まぁ、魔道具で距離制限が無けりゃとっくに生産してあちこちで使われてるだろうよ。

その距離制限のない通信道具は二つとも国際狩人機構イーホが所持してるとか。

神々の試練所で出土したみたいだな。

必要に応じて国家間でやり取りをする時にはイーホから有償で貸し出されるらしい。

最もその知識自体300年前の物だから今はどうなってんのか分からねぇとの事だったが。


早く船長とかの知識を全吸収して現代の常識を手に入れてくれよ。

まぁ、あの船長だけから取った知識じゃ常識も偏りそうだけどな。


『そういう意味じゃインジェノスで人間を食いまくってもいいかもな。

 今のお前と俺様じゃ寒村の村一個を壊滅させる程度は容易にできそうだしよ。

 ま、災獣認定されない程度にしねぇといけねぇが。』


俺はそんな危ない橋は渡りたくないからな。

確かに人間に好い感情は抱いてないのは事実だ。

ただ俺は少なくとも無辜の人間を襲うつもりはないぞ。

俺が殺すと決めているのは俺に対して害を成した奴だけだ。

あー、まぁ、むしゃくしゃしてたらその時はその時かもしれないけど。

別に何が何でもって固めた意思じゃ無い。


『別に人間なんざ放っておけば増えるっつーの。

 それに俺様が殺さなくても戦争でどうせ勝手に減るさ。

 それなら俺に食われた方が記憶は永遠に残るぜ?

 そっちの方が当人からしても有意義ってもんだろ。』


いや、当人からしたらどちらにせよ死ぬなら変わらないって言うと思うぞ。

まぁ、言いたいことは分かるけどさ。

それでも今のところ自分から積極的に危害を加える気にはなれない。

…何かしらで危害を加える事が必要になったら別かもしれないけどさ。


『ま、俺様も別に人間を食わないと死ぬって訳じゃねぇしな。

 どうせ嫌でも何かと敵対する時は来る。

 その時は気兼ねなく食わせて貰うぜ。

 ああ、その時は血はきっちりお前にやるから安心しろ。』


別に血が飲めない事を心配してる訳じゃ無いけどね。

血で思い出したが今のところはヴァゴスから供給される精製血液で吸血種としての渇きは抑えられている。

相変わらず味は薄いけどね。

それでも欲が出ないのは助かる。

それに道中で偶に生きた動物から血は摂取出来てたしな。

身体にも特に変化は無い。

恐らくこのままヴァゴスから供給される精製血液だけで生きていくことは可能なんだろう。

無暗に動物を狩りまくったり人間を襲いまくったりしなくて済むのは助かるね。

まぁ、やっぱり味的な面だと生きた動物から血を吸いたくなる時はあるけどさ。

……本音を言うならリリルカからは結構美味しそうな血の匂いがする。

ヴァゴスが旨そうって言うのもわかる気がするな。

いや、襲わないけどさ。


因みに今話題のリリルカはご飯を食べている。

船倉に居た羊を一匹屠殺して、飯にした。

血は有難く全部貰って、頭部とかの人間が食わない場所はヴァゴスが食った。

リリルカからすれば俺が食ったように見えてるんだろうけどな。


んで人間が食う部分はリリルカが自分で切り分けて火の創造魔術で炙って食べている。

串に刺した肉に豪快に齧り付いている。


『思ってるよりも逞しいな、あの聖女。』


そうか?

普通だと思うが。


『普通の人間は…いや、普通の上流階級の人間ってのはな、外に放りだされたら生きていけないもんだ。

 だがあの女は見た感じそうでもなさそうだからよ。』


生きていけないって……普段どうして生活してるんだよ。


『そりゃ、身の回りの世話を他人がするのさ。

 権力ある奴の特権ってやつだな。』


放りだされたらどうするんだか。


『なに、野垂れ死ぬだけさ。

 ま、そもそもそういう状況にならないようにそういう奴らは立ち回る。

 それも一種の生き方…処世術ってやつだ。

 覚えておけよ。

 人間は群れる生き物だ。

 群れると中にはそういう奴が出てくるのさ。』


自然の世界は実力が物を言うからな。

理解しがたいね。


『ああ、魔界出身の俺様も理解しがたい。

 ま、そういうもんだと思っておけ。

 別に理解して共感しろって訳じゃねぇよ…。

 とまぁ、人間の上流階級の話は置いておいてあの女だ。

 多分聖女になる前は身分が低かったんだろうな。

 そういう奴の方が色んな経験が多い分逞しい。』


成程ね。

個人的には一人で何もできない奴よりリリルカみたいな奴の方が好感が持てるな。

ヴァゴスとそうやって脳内で会話している間にリリルカも食べ終わったみたいだ。


骨を海に捨てると水の創造魔術で手を洗って此方に近づいてくる。


「おまたせ?」


「ああ、それより魔術の続きを教えてくれ。」


「分かったわよ。

 えっと、どこまで話したかしら?」


「理魔術行使についてのオドの練り方と術式発動時のイメージの方法についてまでだ。」


「ああ、そうだったわね。

 じゃあ次は詠唱発動のポイントについてやりましょうか。」


割とあれからずっとリリルカの魔術講義を受けている。

最初の頃の説明と違って存外分かりやすい。


ちょいちょい分からない単語が出てくるが、聞くと答えてくれる。

若しくは聞く前にヴァゴスが補完してくれる。

そのおかげが成功率は低いものの理魔術の発動を行う事が出来た。

……まぁ十回に一回発動すればいい方だけど。


『それでも十分早い。

 魔領法の経験がなけりゃ数十倍の時間はかかってたさ。

 普通は一番苦労するオドの操作がお前の場合はかなりスムーズだからな。

 もっとも普通は一番簡単なオドの分離に一番手間がかかる身体の仕様だが。』


この調子で魔術も使えるようになったらいいんだけど。

可能なら実践レベルで。


『ケッケッケ。

 一番簡単な耐魔結界の成功が一割にも届いてない奴が何を言ってんだか。

 簡単な火球を飛ばす破壊術式でももう少し先だろうな。

 なんとかファンディに着くまでに一回でも発動するといいがな。』


ああ、手数を早く増やしたい。

今の俺の戦闘能力は相変わらず魔領法と魔纏法に頼ったままだからな。

前にエヴァーンと戦った時みたいに同程度の相手とまた負けかねない。


増してやエヴァーンが捕らえられているって考えるとインジェノスにはエヴァーンより強い奴がいるって事だからな。


『まぁ、あくまで目標はエヴァーンの捜索だろ?

 必ず戦う必要はないがな。

 せめて逃げれる時間を稼げる程度に強くなってりゃいい。

 この短期間で勝てるようになれって思うほど夢は見てねぇよ。』


可能なら勝ちたいけどね。


『ハッ。

 現実を見ろよ。』


ぐう。

まぁ、知ってるよ。

言ってみただけ。

いつかだよ、いつか勝てるようになってやる。


最初の予定通り夜にリリルカが寝ると喉と眼の練習だ。

と言っても喉は会話を続ける中で大分スムーズに話せるようになった。

正直ヴァゴスからはもう意識して練習する必要はないって言われた位だ。

リリルカからも大分聞き取りやすいって褒められたしな。

実際俺が話しても聞き返される回数がかなり少なくなった。


眼は……まぁ、少しは慣れた。

少なくとも背後用の眼球を出して周囲をぐるりと一望できる視界には多少は慣れた。

ただ、やっぱり自分が動いてる最中に眼も別方向へ動くと身体がそっちの方向に釣られてしまう。

ヴァゴス曰く多少はマシになったらしいが俺としては全く実感が無い。


俺としては今のところは常に周囲を警戒して戦えるから一旦これでもいいんじゃないかって思うけどね。

ただ、ヴァゴスとしては視界の平面としての周囲だけでなく上方向も下方向も全てを常に見て常に警戒できて、かつ普段通りに動けてようやく及第点だとさ。

先は長そうだ。


……いや、十日で慣れた事を考えるとそこまで長くはないか?

練習時間さえ取れれば…って所か。

ファンディに着くまでに終わるかね?

少なくともヴァゴスの言う及第点までは難しそうだ。


そしてそこから更に十日間、代り映えのしない光景と訓練が続いた。

別段長いとも感じなかったからそれなりに有意義な時間だったと思う。

特に魔術は新しい知識を身に着けれたから悪くなかった。

やっぱり竜天獄で学んでた時とは違うね。

自分の意思で実践できると全然やる気も根気も違ってくるってもんだ。





そして、ウィネバで船を奪ってリリルカを樽から出した日から大体二十日目位の夜。

ずっと何も見えてなかった水平線の奥に魔導の光が見えてきた。

遠いが目を凝らすと街が見える。

ジッと見ているとヴァゴスが声をかけてきた。


『見えて来たな。

 あれがファンディ魔王国の首都ハイガンだ。』


さて、魔人族グロリアの国か。

ある意味普通に何処かの国に入るのは始めてだ。

今更ながら少し緊張するな。


まぁ、夜の内に入港は出来ないらしいから近づけたとしても朝になるまで待機だけどな。

因みに真夜中だからリリルカは今はぐっすり寝てる。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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