12話 竜の発声練習
昨日は平日じゃないけど投稿しました。
もし読まれていない方は一話前からどうぞ。
聖女…確か鑑定だとリリルカって名前だったかな?
まぁ、その聖女をハンモックに横たわらせて、俺はその下で腹ばいになって床に横になる。
一応船の上だから何処にも逃げる場所は無いけど念の為だ。
もしかしたら竜と一緒の船に居るより海に飛び込んだ方がましだ!って言う過激思考かもしれないし。
いや、今の俺は竜と言うかそこら辺のトカゲ型の魔獣か。
何にせよ俺を見ただけで気絶した位だからな。
海に逃げるのもありえない話じゃない。
別に脅した訳もないのに。
『ふむ。
大体大枠は理解した。』
と俺が一人で考えているとヴァゴスがそう呟いた。
ん?急に何の話だ?
『いや、さっき話してただろうが。
記憶を漁れって言ったのはお前だぞ。
まぁ、言われる前に漁り始めてたけどな。
聖女が攫われた事の経緯だよ。
船長の脳の記憶のサルベージが終わったのさ。』
なんだ、もう少し時間がかかるかと思った。
案外早かったな。
『知識と記憶じゃ記憶の方が辿りやすいからな。
特に時期が大体分かる記憶は直ぐに辿れる。
今回はここ最近って若干曖昧な条件で順番に記憶をたどる手間があったから、ちと時間がかかったけどな。
ま、この位なら誤差程度だ。』
成程?
俺は他の生物の知識も記憶も漁れないから言われてもよく分からん。
と言うかそもそも記憶を辿る事をできる奴の方が少ないだろ。
まぁ、それはともかくとして肝心の記憶の中身はどうだった?
『ああ、聖女の身柄自体はこの船の持ち主…正確には前持ち主の船員が確保した訳じゃねぇな。
ま、あの船長がいくら優秀だとしてもあくまでただの海賊のならず者だ。
国が守る要人を海賊一個がどうこう出来る程じゃねぇな。
どうやら、あの船長は聖女をアルゴスの港…レリージオ法国の宗主都市のアルゴスな…で袋に詰められた状態で直接受け取ったみたてぇだ。
依頼は相手の方からで急な飛び込みだったみたいだな。
依頼内容は至ってシンプルで袋の中の人間の身柄を奴隷として売り飛ばせって内容だ。
条件としてはスゼライアン大陸以外の別大陸で。
依頼金に加えて売り飛ばした金は好きにして良いとも言わてる。
この前船長は金払いがよかったからって喜んで引き受けたみたいだぜ。
馬鹿だよなぁ。金払いが良いにはそれなりの理由が有るってのによ。
ああ、因みに昨晩の船が置いてあった賊の非合法の取引所あるだろ?
お前が船を奪取したあの場所。
あそこの陸で丁度売り捌く値段交渉をしてたみたいだな。
ま、その交渉の最中で俺様達が船を襲ったのを感知して戻って来たみたいだが。』
丁度交渉で船を降りてたのか。
あの船長にとっちゃタイミングが悪かったんだな。
乗ってたところで俺とヴァゴスに対処できたとはあんまり思えないけど。
まぁ、なんだ。
ヴァゴスの話を要約すると、この海賊達は聖女を攫ったと言うより、攫った聖女を売り捌く依頼を受けたって事か。
『ああ、厳密にはこの船の船員達はあの女がレリージオの聖女だって知らなかった。
まぁ、恰好的に何処か良い所の令嬢かとは思ったらしいがな。
と言うのも聖女は普段パーティードレスなんて格好はしない、ってのも大きかっただろうぜ。
聖女だと知ってたら海賊もこんな危ない橋を渡らなかっただろうよ。
適当な下級貴族の娘程度が攫われたとして、あまり大事にはならないが聖女関係とあれば法国が黙ってない。
聖女となれば普段はある程度無視されてる海賊にも軍の追手がかかるだろうからな。
いや、貴族の娘でもその貴族が私兵隊を全力で差し向けては来るだろうがな。
でも国に追われるよりかは何とかなる。』
じゃあその聖女を攫った陸の奴に海賊達は騙されていい様に使われてたのか。
『そうなるね。
ま、体のいい尻尾切ってところか。
もし海賊達が捕まったところで既に聖女は別大陸で売られてる。
陸の奴らも顔を隠して取引して、面は割れてねぇ。
海賊が捕まって俺様みたいに頭を覗かれても問題はねぇ訳だ。』
頭を直接覗ける奴なんざそうそう居ないと思うけどな。
『直接頭を覗かないにしても薬漬けにして自白させるとか絵を描かせるとか手はいくらでもある。
でも顔を知らないと聞きようが無いからな。
ま、それでも顔以外からでも情報は抜き出せるがな。
俺様が記憶を覗いただけでも体格や性別、喋り方で何処出身か大まかに分かる。
陸で海賊に聖女を売った奴は大柄の男で訛り的にレリージオ法国の出身だ。
俺様なら会えば一発で分かるぜ。』
案外特徴を伝えるだけでもそこそこだが絞られそうだな。
どうなると陸の連中は何が目的でそんな危ない橋を渡ったんだ?
単純にリリルカって聖女への怨恨か?
ただ、怨恨とか復讐って言うなら自分で殺したりしたいって思う筈だけど。
『ま、十中八九この船に乗ってた海賊に受け渡した奴も依頼を受けただけのただの仲介人で今回の聖女攫いを企てた奴が直接取引した訳じゃねぇだろうがな。
案外陸のやつも布に入った人を運べって言われただけかもしれねぇぜ?
それに怨恨だとしても自分で殺したいとは限らねぇよ。
そこらへんは復讐する奴の性格による。
死ぬより酷い目にあえ、って思う奴もいるさ。』
一度死んだ身としては死ぬより嫌な事なんて死ぬ以外に無いと思うけどな。
……それこそ死んだ経験のある不死者の意見か。
怨恨じゃないなら……聖女を攫う事自体が目的かな?
それが何の為か分らないけど。
『お前のその意見が正しいと仮定した場合に考えられるものとすれば、聖女を攫う事というより聖女が攫われた現状が目的だった可能性だな。
攫った聖女を使って何かするって可能性もあるが、依頼内容が適当に別大陸で売り捌けって言うならこの線は無いしな。』
攫われた現状が目的?
『聖女が居なくなったって事実が目的って言いかえてもいい。
それで得をするのは聖女のいる教皇庁と敵対してる組織だ。
ま、その組織が何処の誰なのかまでは俺様も流石に分からねぇがな。
現段階じゃ情報不足だ。
国家転覆でも狙う非合法組織なのか、単に国の中で教皇庁と仲の悪い組織なのか……。
何にせよそこまで詳しい事は俺様には関係ねぇな。』
いっその事レリージオ法国で国家転覆でも起こしてくれたらアンデットに対する迫害も少しは減るかな?
『根本的にアンデットが人に害をなす事が多い以上は、例え上がすげ替えってもレリージオ法国全体の方針としてはあまり変わらない気がするがな。
今よりかは話し合いの余地は生まれるかもしれねぇが。
ま、何にせよ事の経緯なんざ関係ねぇ。
取り敢えず俺様とお前に重要なのは聖女を無事にデバスターに送り届けて、聖女本人と教皇庁に恩を売る事だ。』
まぁ、それもそうだな。
別段レリージオの問題に首を突っ込む気もない。
巻き込まれたいとも思わないしな。
『それでも気になるなら聖女が目を覚ましたら聞くこったな。
案外聞いたら答えが聞けるかもしれないぜ。
部外者に教えてくれるか微妙だが…今の特殊な状況なら教えてくれるかもな。
幸い看破を持ってる奴は余程の事が無いと嘘を付かない。
言えない事は素直に言えないって言ってくれるから誤魔化される事もない。』
ああ、まぁ会話する練習がてら聞いてみるさ。
『さて、そうと決まれば喉を動かす練習をしろ。
そしてその序に眼にもさっさと慣れろ。』
喉は新しい物事だから言ってしまえば動かす事に慣れるだけでいいけど、眼は普段見慣れている視界に釣られて気持ち悪くなるから難しさが違うと思うぞ。
恐らく分かってて言ってるんだろうけどさ。
何にせよ喉は動かせるようになって損は無い。
先に練習しても気分の悪くならない喉からにするよ。
因みに眼は普段から出すと混乱するから遮断されてるが、喉は別段困る事が無いから付けっぱなしだ。
だからいつでも練習しようと思えば練習できるんだけどな。
取り敢えずハンモックが視界に移る場所に移って発声練習を行う。
「ヴァヴァヴァヴァー。」
うん、全然出ない。
こんにちは、って言ってるつもりなんだけどな。
変な動物の鳴き声みたいになってる。
唸り声からは脱却できたけど…。
『もうちょっと母音を意識しろ。
音節で強弱付けて話すところを考えてから声を出してみろ。』
いや、声の出し方…と言うか音をどうすればどう聞こえるかはなんとなく分かるんだよ。
どっちかって言うとこの外付けの喉の筋肉をどう動かせばその音が鳴るのかってのが分からないから困ってる。
『ああ成程な。
……となると自分で方法を試行錯誤して調べるより経験を植え付けたほうが早そうか。』
ん?
つまりはまた情報の受け渡しって事か?
『まぁな、知識とか技術は直接脳に送れば一部に齟齬が出た時面倒だが、喉とかの筋肉の動かし方程度なら情報が洩れて齟齬が発生しても実践でどうとでもなる。
取り敢えず脳に人間の身体を動かす経験を送ってやる。
首から上の経験だけだけどな。』
そう言うと同時に脳にグンと圧がかかる。
同時に情報がぬるっと侵入して僅かに痛み。
多少は慣れたけどやっぱり気持ち悪いな。
……送られた情報を読み込んで理解しようと努めてみるがなんかピンとこない。
まぁ、他の生物の器官を使うための経験の記憶だからな。
経験にある筋肉が俺にはなかったり、実際に俺が持ってる器官が記憶になかったりする。
……顔の筋肉なんてヒュマスと竜構造が全然違うからまったく経験の記憶は当てにならんな。
さて、取り敢えず要らない情報は切り捨てて喉の動かし方の経験っと……。
どれかな?
……お、あったあった。
多分これだな。
それを元に喉を動かしてみる。
試しに「こんにちは。お前の名前を教えてくれ。」って言ってみよう。
よし、行くぞ。
「ゴベベジヴァア。ヴォヴァヴェボダバヴェヴォゴジヴェデグデェ。」
お、相変わらず鳴き声っぽいけど少しだけ言葉っぽく出来てるな。
何て言ってるか相手に伝わるかどうかは置いておくとしても。
『お、大分近づいたな。
上手い上手い。
ま、何て言いたいか分かって無いと聞き取れないと思うけどな。
後は練習して慣れろ。』
難しいな。
一旦長文はやめて「こんにちは」だけ練習するか。
「ゴンンヴェジヴァ。」
うーん。
「ゴンジジブヴァ。」
違う。
「ゴンジジジャ。」
遠くなったな。
『一語ごと発声してみろ。』
一語ずつね。
「ゴ、ン、ジ、ジュ、ヴァ。」
『どうも濁るな。
喉が少し形が変なのか?
ちょっと待て。
変形させる。』
そういうと同時に喉でヴァゴスがごそごそと動く。
暫くもぞもぞと細胞が蠢いていたが直に動かなくなった。
『喉がちとデカかった。
少し小さくしてみたぞ。
何か言ってみろ。』
「こ、ン、ギ、ジ、ガ。」
お、ちょっと声が変わった。
渡された人間の経験と照らし合わせると、このほうが話しやすいな。
もう一回。
「こ、ン、ディ、ティ、ア。」
濁点が減って来たな。
「こ、ン、ディ、チ、ワ。」
お、大分近くないか?
『近くなったな。
続けて言ってみろよ。』
おっけー。
「こンジチわ。」
お、大分それっぽいぞ。
まだまだぎこちないが声として聞こえるな。
「こんジちワ。」
『よし、「に」だけ練習しろ。
ほら「に」って言ってみろ。』
「ディッ。」
『に。』
「ジィッ!」
『にだって言ってんだろ。』
いや、出来たら苦労しねぇよ!
頑張って言おうとしてんだぞ。
「ディ…。ギッ…。ニ゛ッ…。」
お、最後の近いな。
もうちょっとスッと空気を通す感じで…。
「ニ゛ッ…。ニィィ!ニッ!ニ。」
『よし、言えたな?
続けて言ってみろ。』
「こンニッちヴァ。」
『また最後が濁ったぞ。』
「こンニっチワッ。」
お、大分近くないか?
「こンにっちワ。」
もう一声。
「こンにちワ。」
『よし、今はそれでいいだろ。』
「コンにちは。」
うん、まぁこれでいいか。
最初の事を思うと大分スッと出るようになったな。
「コンにちは。オヴァえのナヴァえをおじえろ。」
うん、さっきよりましだ。
まだ濁るが。
『後は練習だろ。』
「コンニチは。オマエのダバエをおしえっろ。」
『ま、まだまだぎこちないがそれで意思疎通を取ろうとしてる事は通じるだろうさ。
後は実践でどうにかしろ。
それよか集中しすぎだぞ。
見てみろ。』
ヴァゴスにそう言われる。
ん?何を?と思い、顔を上げて辺りを見渡すとハンモックから身を乗り出した人間と目が合った。
「「あ。」」
発声練習中だったけど図らずしも人間と声が被った。
なんか悔しい。
いつもお読みいただきありがとうございます。




