8話 ヴァゴスの魔術講座
後半は説明回です。
苦手な方は飛ばしてもらっても問題ありません。
上空でパクリと頭を食われて、ガクリと男の身体が弛緩する。
同時に落下が始まったので急いで魔領法の腕を伸ばしてキャッチした。
そのまま死体を身体の近くにまで持ってくると、俺の身体から出てきたヴァゴスが男の身体に刺さってたヴァゴスと融合して俺の身体に戻っていく。
数十秒後には男の死体は跡形もなく消えて、服と剣だけが甲板に転がった。
今回の作戦はヴァゴスが変形した剣を相手に渡せばほぼ作戦は成功したも同然だった。
道中でヴァゴスが食った魔獣の骨を変形させて持ち手と刃状の部位を再現。
簡易の剣を作った。
その剣を魔領法で持って上空の男と戦わせた訳だ。
まぁ、戦ったのは俺の魔領法の腕だけど。
そして、男はあっさりと俺の腕から剣を奪った。
後は剣に化けたヴァゴスが変形してどうにでも料理できる。
『魔視眼を持ってたから魔術的な罠には注意してたみてぇだが、流石に剣が物理的に変形するところまでは意識がいってなかったみてぇだな。
俺様の変形は魔術的な物じゃなくて生物的な能力だしな。』
普通はそこまで意識しないと思うけどね。
にしても男と剣で戦って最初からわざと負けるつもりだったとはいえ、真面目に戦ったのにあっさり負けたな。
ちょっと悔しい。
剣なんて振ったことないけど関節の自由さとかから言えば俺の方が圧倒的に有利だと思ったんたけどな。
男の剣もエヴァーンが使ってたみたいな魔剣って感じはしなかったし。
『物理的な可動域で言えば、そりゃお前が有利だろうよ。
だが、剣技って面で言えばお前は素人同然だろ。
今まで武器で戦うって経験が無かったんだからな。
その点あの男は二十年近く剣を振って来たんだ。
負けて当然だぜ。』
むう、刃の付いた棒を振るだけって思ってたけどそんなに期間で実力が変わるのかな?
魔術とかは知識による差とかがあるのは分かるけど、武器とかそんな変らないと思うけどなぁ。
『それは同じ土俵で戦ったことのない奴の意見だな。
お前もいつか万化術式とかで人間の身体になって剣を振って見りゃわかる。
訳も分からず負けるらしいぜ?
ま、俺様も知識だけで実際に剣を振った経験があるわけじゃねぇけどな。』
そんなもんか。
『序に言うならその男の持ってた剣は魔剣だぞ。
別に魔剣の全てがエヴァーンの持ってた剣みたいに禍々しい見た目じゃねぇ。
むしろ、普通の剣と魔剣は見た目は変らねぇ物が多い。
あのレフソクレイムって剣が特殊なんだよ。』
ふーん。
魔剣ってエヴァーンの剣しか見た事無いから全部あんな感じだと思ってた。
じゃあ案外自分で思ってるより魔剣を見てるのかもな。
ん、そう言えば魔剣を鑑定で見たら何か変わるのか?
そう思って甲板に転がる剣に向かって鑑定を行う。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
名前:リンクル
材質:
『神々鋼』
『夜輝金』
効果:
『切断強化』
『錆付かず』
『砥要らず』
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
こんな感じで見えるのか。
成程ね。
戦闘でも鑑定があるのとないのとじゃ手に入る情報が全然違うな。
『ああ、だから人間でも戦闘職で鑑定持ってる奴は重宝される。
戦う相手が人間であれ魔獣であれ何をして来るかが分かってるのと分からず警戒しつつ戦うのでは消耗具合がかなり違うからな。
因みにその剣は人造魔剣だ。
付いてる効果が全部永続術式付与によるものだしな。』
人造魔剣?
『元々魔剣は幻想遺物の中でも剣に与えられた通称だった。
少なくとも俺様が妖魔だったころは。
だが、人間の魔術と錬金に対する造形が高まって人工的に魔道具として魔剣が作れるようになったみたいだな。
それが人造魔剣。
言わば魔剣の魔道具バージョンってところか。
さっきの男の知識を食った感じじゃ、今の時代だと魔道具だろうと幻想遺物だろうと特殊な効果のある剣は全部魔剣って言うらしいぜ。
ま、俺様も食った知識から今知ったところだが。』
ああ、だから人造ね。
ふーん。
今も昔も知らない俺からすればそうなんだって位の感想だが。
まぁ、時代が変われば呼び方も変わるか。
『そーだな。
さて、先に出港準備を終わらせようぜ。
さっきの男が呼んだ小舟が陸の方からこっちに来てやがる。
男の記憶的にこの船であれ以上強い奴は居ねぇが、別に待つこともねぇ。
さっさと船を動かすぞ。
帆船とオールの小舟じゃ速度は比較にならねぇからな。』
ああ、分かったよ。
今乗ってる帆船の知識を手に入れたヴァゴスの指示でテキパキと出港準備が整った。
因みにさっきヴァゴスに食われた男はこの船の船長だったみたい。
良かったな。死んでも船と航海できるし本望だろ。
チラッと海岸の方を見るとようやく船まであと半分って距離までしか小舟は来てない。
そのまま出港準備が整った船はゆっくりと帆に風を受けて動き出した。
もうこれで追いつく事は無いだろ。
帆船が動き出したのを見て小舟の連中が騒いでるみたいだがもう手遅れだ。
残念だったな。
『取り敢えず海賊旗が掲げられてっから降ろしておくぞ。
付けたままだと港に入る時に問答無用で攻撃されるからな。』
ああ、そんなのがあるのか。
旗で判別してるんだな。
そうやって色々と作業を終えて、後はたまに舵を操作するだけでよくなった。
因みにもう陸は見えない。
『さて、後は俺様の指示で舵を操作すりゃいい。
ここからだと大体二十日もあればデバスター大陸に着くだろ。』
二十日かー。
暇だな。
『そうでもないだろ。
俺様はともかくお前はやる事が結構あると思うけどな。』
え?そんなにある?
『ああ、まずは俺様の作った眼の視界に慣れる事。
次に作った喉で言葉を発声できるようになること。
せめて聞き取れる言葉を自分で発せれるようにならねぇとデバスターに着いた時にもどかしい思いをするぜ。
そして、最期に魔術を覚える事だな。
呪いの祝福持ちとは言え体内から俺様も手伝ってやる。
昔よりは習得が早くなるだろ。
ましてや今のお前は十全に魔領法を習得した身だ。
オドの扱い自体はかなり長けている。』
えー、結構あるんだなぁ。
昔から使いたかった魔術は練習するのはそりゃ楽しみだからいいとして、眼と喉の練習は嫌だなぁ。
……いや、喉はまだいいけど眼は酔うんだよね。
気持ち悪くなるから遠慮したいんだが。
『甘えんな。
消滅する時にあの時練習して置けばって思うよりはマシな筈だぜ。
ま、とは言っても今日のところは魔術にしておくか。
せめてお前が乗り気な奴をやった方が良いだろ。
眼と喉は後日きっちりやってもらうからな。』
やだなぁ。
まぁ、必要ってのはなんとなくわかるけど。
取り敢えず今日は魔術みたいだし、眼と喉はその時考えるとしよう。
『さて、まずお前は魔術についてどの位知ってる?
お前自身が説明できる内容でいい。』
んー、オドを使って何かしらの現象を起こす術の事でしょ?
『随分ざっくりとした説明だな。
まぁ、それで間違っちゃいねぇ。
まず大体の魔術には操作、発現、変質の三要素がある。
操作はオドを練り使いたい魔術の量に整える。
発現は使用するオドを魔術に合わせた形に変化させる。
変質はオドの質を変更する。
この三つを組み合わせて大体の魔術は完成する。
因みにこの三つを組み合わせた特定の形の法則を術式と呼ぶ。
要はだれでもその通りに操作すればその魔術が発動可能な式の事だな。
ここまではいいか?』
ええっと、なんとなく?
俺が魔術を使う時にそんな三要素なんて考えなかったけど。
『んー、まぁ体系にのっとって厳密に分ければ、って話だからな。
人間の学校で体系を習うならともかく、普通に魔術を使おうとすればこんな細かい分類訳あんまり意味無い。
オドを切り分けてイメージを持って顕現ってのがオーソドックスな形だ。
お前の記憶をたどって言うならば、お前が練習として使ってた水球の術式。
あれはまず操作で必要なオドを練る、次に水を出す形にオドを発現する。
メジャーなのは球状にオドを形作って何か循環させる感じだな。
最後に変質で水の属性にオドを変更させれば発動する。
ただ、先天性魔臓肥大病を持ってるお前は操作でうまい具合に必要なオドを取れずに大体過剰な量をとる。
そしてそれを一気に発現させようとして制御しきれずに魔力暴発を起こしてるのさ。
つまり細かいオドの制御ができるようになれば問題はない。
魔術を始めて教わる時に言われるのは『体の中の少しのオドを切り分けて』って言われたんだろ?
お前みたいな呪いの祝福の奴の場合は体感できる『少しのオド』でも多すぎるんだよ。
本当に極々僅かの一滴のオドを絞り出すようにしないとダメなんだ。
ところが呪いの祝福持ち以外の奴からすればそんな自分の持つオドの一滴程度の極少量は術式を使う最低条件を満たす量じゃねぇからそんなアドバイスはしてくれねぇ。
要は持ってるオド量が極端に違うが故の齟齬だ。
そして一度でも失敗して魔力暴発を起こすとそれがトラウマになって二度と魔術を使おうとしなくなる。
だからそれに関する研究も増えないのさ。
ま、そもそも呪いの祝福持ち自体がかなり数が少ないけどな。』
成程?
つまり術式の発動に必要なオドが多すぎたと。
でもそれだけならそんなに苦労しない気がするけどな。
『普通は苦労するんだよ。
体内のオドが大量にある状態で少しだけのオドを切り分けて使うってのは思いの外難しい。
今のお前が簡単だって思えるのは魔領法を十全に使いこなせるようになったからだ。
お前が生きていたころに同じことをやれって言われたら多分できなかったぜ。
ま、と言う訳で早速実践だ。
ここ二年全く魔術に触れて無かったろ。
魔領法で培ったオドの操作の腕前を見せてみろ。
本当に僅か一滴をだけど絞るイメージでオドを操作すれば簡単だぜ。
その程度なら俺様が体内から手伝うまでも無い筈だ。』
ええ、急に実践か。
でも一滴だけのオドって少なすぎないか?
そんな量じゃ魔領法どころか魔纏法でも使えないと思うんだけど。
『それでいいんだよ。
お前からすれば信じられないほど少量かもしれねぇが練習用の水球程度の魔術を使うにはそれで十分だ。
と言うか魔領法や魔纏法が馬鹿ほどオドを使うだけだ。
消費はしないが発動に必要な量が多すぎる。
あんなのはオドを無理矢理固めて物理的に影響を及ぼす力技だからな。
ごちゃごちゃ言わずに良いから騙されたと思ってやってみろ。』
うーん。
一滴のオドを抽出する……。
一瞬手間取ったがあんまり苦労しなくても取り出す事が出来た。
少ないなぁ。
出来たけどこれでいいのかな。
んで、それを元に水球をイメージしてオドの形を変形して外に放出。
……おお!爆発しない!
いつもはこの段階で暴発してたもんな。
えーっと、んで水に変質させるようにして術式が完成……したのか?
恐る恐る術式を発動させると、聞き覚えのある爆発音の代わりに無音で目の前にフワッと水球が出現した。
………ああ。
やっとだ。
やっと魔術が使えたぞ!
産まれて苦節二十年、死んで二年。
生きていた頃は魔術自体は諦めてたから使えるようになる日が来るとは思って無かった。
死んでからも使える様になるかもしれないって思ってたけど、実感がなかった。
気が抜けたからか魔術で発生した水球はペチャっと甲板に落ちて弾けた。
『ま、魔領法をあれだけ使いこなしてりゃ、こんな簡単な術式は成功して当たり前だ。
問題はもっと複雑な術式を根気よく練習できるかだな。
さっきの男の知識を食って飛行術式を手に入れたが、これを詠唱発動で使えるようになったら一人前の魔術師って言ってやろう。』
ん?詠唱発動?
『あー、またそれは追々教えてやる。
にしても一発で成功するとは思ってなかったぞ。
流石にあそこまで魔領法を使いこなしているだけはある。』
お、珍しく褒めてくれるんだな。
『珍しく褒めるほど地味に難しい作業なんだよ。
人間が羽ペンで小さい石に文字を書くのはそこまで大変じゃないが、
同じことを巨人がやろうとしたら至難の業だろ?
術式の初期段階においてオドが多すぎるってのはそういうハンデだ。
お前が思ってる以上に大変な事なんだぜ?
ま、それで言うなら今のお前は一文字書けただけ。
普通に実践で使いこなせる術式にしようと思えばせめて文章になる程度はあっさりと書けないとな。』
まぁ、全く進展のなかった竜天獄の時と比較すると進歩があっただけやる気が出てくるってもんだ。
頑張るぜ。
あー、実感がなかったけど魔術が使えたんだよな?
後になってからジワジワと嬉しさが込み上げてくる。
産まれて二十年経って漸く魔術のスタートラインに立つ事が出来た。
いつもお読みいただき有難うございます。




