16話 質疑応答
少し短いです。
身体に住ませるってどうするんだ?
って言う疑問より先に「吸血欲求を何とかできる」って誘い文句が際立って素直に頭に入ってきた事に驚いた。
俺は思いの外、吸血欲求を厄介に思ってるのかもしれないな。
生前の時の渇きとは少し違って、少しなら我慢できるが時間が経つにつれて強烈な飢餓感が襲ってくるから厄介と言えば確かに厄介だ。
極限までこの欲求が来るとどうなるのか分からない。
気になるが自分の身体で試そうとは思わないね。
下位吸血鬼が人里に潜んでも堪えきれずに襲う理由が少しは分かるよ。
俺だって今は吸う対象が居ないからまだ我慢出来てはいるが、これで目の前に吸血対象の生物が居たら堪えられているか怪しいところだ。
まぁ、吸血欲求はともかく想像の遥か斜め上からもたらされた提案に対してしばし思考停止してしまい固まる。
目の前のコイツは混乱している俺を嘲笑うかのように、ニヤニヤと口だけで雄弁に感情を表現していた。
さて、共生関係って言ったな。
流石に身体に他人を住ませるのはなぁ……。
気持ちが悪いとか以前にピンとこないってのが素直な感想だ。
まだ、自分の家に住ませるって言うなら納得がいくんだが、身体の中に住ませるって全然ピンと来ない。
そもそも住むもんじゃねぇし。
なんにせよもう少し詳しく話を聞く必要がある。
他人からの提案に素直に鵜呑みにするのは論外だ。
少なくともこいつにはメリットがあるんだろうが、俺に本当にメリットがあるのか今のところ不明だしな。
それっぽいものは提示されたけど。
改めて魔領法の管に血液を流して文章化し、目の前の奴に提示する。
『数点聞きたいことがある。』
「お?何点でもいいぜ。
最終的に納得して貰えるんならよ。
俺様は散々待ったんだ。
ここから出れるって言うなら今更会話して、お前の納得を待つ時間を気にする程じゃぁねぇしな。
で、何が聞きたいんだ?」
ニヤッと口の口角を挙げて気分よさそうにそう返してくる。
口しかないのによくそこまで感情表現できるもんだな。
逆に言うならこの二年で口だけでも人間の感情が読み取れる程度には、人間の表情に詳しくはなったというべきなのかもしれない。
さて、何点でもいいんだな。
そう言うならその言葉に甘えるとしよう。
じゃあ、まず共生について……。
いや、そもそもそれより先に俺との相性とか何とか言ってたな。
そっちを先に聞くべきか。
『じゃあまず最初に言ってた言葉について。
俺の身体と相性がいいってどういう意味だ?』
「ああ、その事か。その事ね。
どうって聞かれても、文字通りの意味合いなんだが……。
あー、そうだな。
お前、置かれてた生物錬金術の論文は読んだって言ってたけど、俺たちの器がどうやって作られるかは知ってるか?」
器って言うと人造スライムの作り方って事だよな。
それなら論文に書いてあった核と触媒に関する話だろう。
細かい魔術式とかは理解してないがこの際は割愛していいだろう。
取り敢えずざっくりとした内容だが、ある程度理解してると言ってもいいので頷く。
「なら話が早い。
俺様の器の要素の内、触媒に使われた物がお前と相性がいい。」
ふむ。
となると、まぁ何が触媒に使われたのかが気になるところだな…。
序に核は何なのかが気になるところだ。
何点でも聞いていいって事だったから遠慮せずに続けて聞くことにする。
『お前の器の核と触媒には何が使われた?』
そう続けて書くと、急ぐなとばかりに触手を球体の左右に出すと、腕に見立てて肩をすくめるような動作をする。
器用だな。
「そうがっつかなくても、ここまで話したんだから最後まで教えてやるよ。
詳しくはさっきお前が血ペンで書こうとしてた紙に書いてあるんだが……。
まぁ、話した方が早いな。
端的に言えば研究者は俺を入れるための器の核に『ショゴス細胞』、触媒に『神祖吸血鬼の血液』をそれぞれ用いた。
因みに両方とも既に今となっては手に入らない素材らしぜ。』
そう言いつつ身体の一部を変異させて、右側に黒い虹色の細胞、左側に真っ赤な球体を見せてくる。
そして、その二つを真ん中に寄せて中央でぶつけると溶けて交じり、目の前のコイツと同じような見た目になった。
ぶつかり合った身体の一部は暫く漂っていたかと思うと、再度本体の球体へと吸収されていく。
「俺様の体表の玉蟲色はショゴス細胞由来だな。
そしてお前と相性がいいって言った理由の触媒が吸血鬼由来なのさ。
だから吸血鬼……竜だから吸血竜か?と相性がいい。
というより、なまじ吸血鬼のしかも神祖の素材なんて使ってるから、そこらの人間や適当な魔獣に寄生したら物の数分でおっ死んじまう。
強すぎる力はそれを制する入れ物に入れないと毒なのさ。
木の器に溶岩を注ぐ様なもんだぜ。先に入れ物が壊れる。」
……成程得心がいった。
吸血鬼の血液…それも神祖の。
相性がいいってのも納得だ。
神祖吸血鬼なんて九血王達しかいないから誰なのか気になるけど。
前にエヴァーンに聞いたことを思い出す。
人間が吸血鬼の血液を摂取したら吸血鬼になるのか?ってね。
吸血鬼は他の人間や生物の血を吸う事でその存在を自身と同列の者に変異させることができる。
じゃあ、血を飲ませたらどうなるのかと疑問に思って。
帰ってきた答えは「苦しんで死ぬ」との事だった。
少量なら問題ないが、一定量以上の吸血鬼の血液を生物が摂取すると猛毒を摂取するのと変わらないらしい。
吸血鬼のアンデットとしての性質がそもそも生きた者を蝕む性質を保持してるのが原因だそうだ。
そりゃ触媒に吸血鬼の血液が使われてたら生きた者は入れ物にふさわしくないわな。
どう考えても生物から見て少量とは言い難い体のサイズだし。
にしても、妖魔を降ろすのに強い器が必要になって、その器自体が今度は他の生物に共生しないと生きていけない、ってのは中々嫌な連鎖してるな。
と言うか、相性が俺と良い悪い以前の根本的な話だが何で共生しないと生きていけないんだ?
確か空気中だと行動が制限されるからって言ってたけど、根本的にそっちがどうにかなるなら俺と共生って話も無しになると思うんだが。
本来ならこっちを先に聞くべきだったな。
『そもそも何で空気中で行動が制限されるんだ?』
「さっきも言ったが触媒に血液が使われたからだろうな。
そのせいか、空気に長い間触れると身体が表面から渇いて動かなくなる。」
ああ、成程。
それはとんだ弊害だな。
ある意味で触媒としては最高級なのかもしれない神祖吸血鬼の血を触媒にしたは良いけど、その血液としての負の面の特性まで身体に得てしまったわけだ。
成程納得した、と独りで頷いていると培養器から声がかかる。
む、いや、まだコイツの経緯を聞いただけだ。
俺のメリットに関することを聞いてない。
『まだだ。
俺へのメリットを聞いてない。
俺の吸血欲求を何とかできるって話。
凡そでいいから何でお前が俺の身体に住めば解決できるのか言ってくれ。』
「ああ、その話か。
そっちは正直やってみないと分からないが……。
まぁ、理論だけで満足するなら言ってやろう。
核となったショゴス細胞の特性を使う。
この細胞の特性としてどんな細胞にも生物であれば色んな物への再現が効く。
つまり、竜の血液を生成する器官を作ってやればお前に供給できる、って訳だ。
本当にそれで欲求が薄れるのかはやってみないと分からん、ってのがやってみないと分からないって言った点だな。
因みにショゴス細胞自体はお前のオドを貰えればそれを糧に増殖できる。
逆にショゴス細胞をオドに変換することも可能だ。
それぞれ変換ロスはあるけどな。」
それは……確かにいけそうか?
吸血鬼は人間の血を吸う。
じゃあ吸血竜となった俺は竜の血を吸うのか?って疑問に思ってた。
まぁ、何分人間以外が吸血鬼化した例って聞かないからエヴァーンも不明な点だったらしい。
ただ、単純に考えるならそうなるんだろう。
じゃあ、俺の吸血欲求を満たすために俺は竜を狩り続けないとだめなのか、と考えてた。
それが解消されるのなら確かに魅力的だ。
確かにその利点が貰える可能性があるなら…って思う。
でもなぁ…。
最初に俺に知性があるのかどうか疑ってた頃に言ってた台詞を俺は覚えてるぞ。
「乗っ取る」って言ってた。
つまり、こいつは生物を乗っ取る手段を持ってる訳だ。
培養器の中で使えて、俺の身体の中で使えない訳がないだろうから、住まわせたが最後、乗っ取られるって可能性もあるんだよな。
『お前が最初に俺と話した時に言ったことを覚えてるぞ。
乗っ取るって言ってただろ。
お前を俺の身体に住まわせて俺の身体を乗っ取らないって保証は?』
暫く考えたけど、俺だけじゃ結論は出なかった。
それならコイツに聞くのが早いと思って最終的に聞くことにする。
今のところ、コイツを住まわせる住まわせないは俺が決めることだ。
優位な状態なんだから解答を聞いてから決めたって遅くは無いだろう。
矛盾があるようならその時に考えればいい。
「ああ、その事気にしてんのか。
その点なら大丈夫だ。
知性が低い奴なら乗っ取ることができるが、人間並みに知性がある奴は乗っ取れねぇよ。
最初っからいる奴と脳で所有権をかけた戦いになるからな。
お前の体内なんだ。
お前の方が断然有利。
態々そんな負ける可能性が高い戦いを挑もうとは思わないね。
俺様は勝機の濃い賭けしかしない質なんだよ。
ま、その言葉も信用できないっていうなら仕方ないけどな。
……不安だって言うならディスプレイの名の元に宣誓したって良いぜ?
その場合はお前にも俺を不当に捨てないと誓って欲しいがな。」
ディスプレイって言うと真理と救済と在を司る物神か。
確か真理のディスプレイの名の元に誓いを立てれば、それは実際に神の名の元に拘束力を持った宣言になるんだったか。
正確には拘束力と言っても守らせるわけじゃなくて、破った際の罰則が重いってだけだが、場合によっちゃ死ぬ事以上の罰則って考えたら十分な拘束力だと言えるだろう。
因みに罰則は特に両者間で定めない限りは破った人物の最も叶えたい望みがが叶わなくなるって代物だ。
中々えげつないよな。
それで言うならコイツは俺を乗っ取ったところで魔界に帰れなくなる訳だ。
ま、コイツの本当の願いが魔界に帰ることなのかは置いておいて、俺に本当のことを言ってなかったとしてもその願いが叶わなくなるのは確実。
そもそも破る前提で真理のディスプレイの誓いを立てる奴なんていないだろ。
むぅ……そこまで言うのであれば信用してもいいか?
確かにディスプレイの宣誓で互いに誓えば安全は安全だろう。
そうする場合は誓う文言を少し考えないといけないだろうが。
誓って安全性はあるとはいえ、あんまり安易に他者をそうやって信じるのはあんまり良くないんだろうとは思う。
ただ、そう思う反面、俺がここで断ればコイツはまた独りでずっとこの培養液の中を漂うのか、と考えたら助けてやりたいとも思ってしまう。
自分と少し似た境遇なのもそう思う一助になっているんだろうな。
腹は立つが根本的に相容れない性格って訳じゃない。
それにやっぱり吸血欲求を気にしなくてよくなるのが嬉しい。
自分の意思で我慢できなくなりそうな欲求ってのは、感じていて存外怖いもんだ。
……まぁ、試してみないとわからないそうだけど。
そうやって考えていると、コンコンと培養器の透明な壁をコイツ…そういや名前聞いてないな…が叩く。
「ヘイ。聞いて納得して頷いて考えてるところ悪いんだが、
それで?
他に何か聞くことがあるか?
それとも、俺様を受け入れてくれんのか?」
さて……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
やっとクトゥルフ要素が出て来た。
本作品はクトゥルフ神話を知らなくても楽しめるように書きます。
あくまで知ってると「ああ」ってなる追加で楽しめる要素程度。
明日は仕事の関係で投稿できないと思います。
投稿してたら頑張ったんだなって応援してください。




