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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第二章 死肉竜の目覚め
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5話 第十階層の教訓

遅くなって申し訳ありません。

あれから何度か第五階層と第六階層を行ったり来たりを繰り返した。

そして、第七階層にも行けるようになって、更に続けて第八階層、第九階層もそのまま無傷で行けるようになった。

今はいよいよ第九階層から下に降りる階段の途中だ。

さて、次はどんな場所かな。

因みに第六階層、第七階層と順々に降りて行ったけど、場所の変化としては上の階層で昼だった場所が夜になっただけだった。

太陽が有るか無いかと、生息する魔獣が少し強かったくらいでそれ以外に差は無かったな。

もっとも、十数回は傷を負って第五階層に撤退させられる羽目になってたんだけど。


下る階段も九回目となると慣れたもので、何も気にすることなく階段を降りる。

いや、一応何か急に動く物が無いかとかは警戒してるけどね。

そして、階段を降り切った先には……洞窟か。

空が見えないのは初めてだな。

そして、降りた階段の先に大きな扉がある。

俺の降りてきた階段、そして扉。

心なしか第五階層と同じ感じだな。

先に有るのが下に向かう階段か扉かってだけで。

階段と扉の間にある地面も第五階層と同じくらいの広さだ。


少し悩んだけど、別段傷を負っているわけでもないので扉の方へと歩を進める。

さて、扉……。

人間が場所を行き来する時に一時的に遮断したい場所や、立ち入りを制限したい時に使用する板を束ねて可動式にしたもの。

問題は、どんな物かは分かってても俺がそれを開いたりした事は無いから開けれるかどうかなんだよな。

近づいて適当に弄ってみようか。


ゴゴゴゴゴゴゴ。


そんな風な考えは杞憂に終わった。

俺が扉に近づくと、扉が勝手に奥に向かって開きだした。

少し待つと完全に扉が開き、真っ暗な空間が口を開く。

そして、中で手前から順々に松明に明りが灯っていく。

……入ればいいのかな?

幸い、俺が通るのに苦労しない位十分に大きな扉だしな。

人間からするとだいぶ大きい扉だろう。

中に入りきると、入った時と同じように音を立てて扉が閉まった。

近づけば開くだろうって考えて、もう一回扉に近づくけど今度は開かない。

……閉じ込められた?

うーん。考えても仕方ないか。

先はまだある訳だし。

そう考えて、松明の灯って行く奥の方へと進む事にした。


少し歩いた先には大きく開けた空間になっていて、丁度俺がその空間に足を踏み入れる反対側にもこっちと同じように通路が見える。

直感的にあっちが出口かなって思った。

さて、問題はその出口と入口の間にある、今俺が居る開けたこの空間の中央にある。

俺と同じくらい大きい狼が此方を睨んでいた。


……どう考えても戦わざるおえないよな。

おそらくだが、勝たないと奥の扉も開かないだろう。

それに、入り口の扉も開かない気がする、

こうやって出くわした以上態々確認に行く余裕もないだろうけど。

今まで見たことが無い大きさの狼だ。

色は灰色で普通だけど、全体的に感じる圧がさっきまでの階層にいたやつと全然違う。

……身体が大きいからそう感じるだけかもしれないけど。

実際に相手のオドを測るとか俺はできないし。

ただ、チリチリと鱗を通り抜けて身体を刺激するような感じがする。


取りあえずは、考えても仕方ないし先手必勝。

魔術は習ってても戦い方なんて教わってないし、実際に生物と殺し合いをしたのもこの場所に来てからだ。

もっとも、人間の本を読んで思ったけど、竜は人間ほど戦い方ってものを考えてないように思うけど。前足で叩き潰すか、魔術のごり押しでどうとでもなるからな。


後ろ足に力を入れて跳びかかり、前足を振りおろす。

奇襲になるから当たるだろうと思った前足は、ギリギリのところで避けらた。

チッ。思ってたより速い。

図体がデカいやつは大体足が遅いもんだけど。

視界外に行かれるのはまずいから、そのまま着地と同時に狼の方を向く。


振り向くころには既に狼が顎を開いて、噛み付こうとする口内が見えた。

回避は間に合わなさそうだから、自分から前足を狼の口内に突っ込む。

突っ込んだ時に牙で擦ったのと、その後噛み付かれたビリッとした鋭い痛みが前足に走る。

ただ、耐えれない程じゃない。


口の奥に腕が突っ込んであるから簡単には外せないだろ?

噛み付かれた前足を振り上げて力任せに地面に叩きつける。

ズシンと腕に手ごたえと痛み。


「ギャン!!」


モロに足と腹を地面にたたきつけられて狼が悲鳴を上げる。

振り上げられた時点で慌てて顎を外そうとしたみたいだが、やっぱり牙がしっかり刺さってたのか間に合わなかったみたいだな。

追撃しようと反対の前足を叩きつけようとしたが、流石に牙が外れたからか慌てて距離をとって、壁際へと逃げた。

そのまま、壁際から低く唸って此方を睨んでいる。

残念。このまま止めと行けるかと思ったけど。

そこまで甘くはないか。


ただ、叩きつける時の抵抗から察するにそこまで力自体は強くないみたいだな。

代わりに俺より少し敏捷だな。

一度、手痛いダメージを食らったからか、距離を取って俺を中心に円を描くみたいにこっちを警戒している。

今の間にチラリと噛まれた腕を見ると、血は出ていなくて穴が開いてるだけ。


昨日今日で戦闘した感じだと治るのに数時間はかかるだろう。

ただ、致命的なほどの傷じゃない。

傷ついた腕を軽く動かすが僅かに痛みを感じるだけだ。

きっと生身で生きてた頃だとかなりの痛みで行動が制限されたんだろうな。

幸いと言っちゃなんだが痛みの制限はアンデットになったメリットだな。


俺の怪我に対して相手の狼は軽く後ろ足を引き摺っている。

さっきの叩きつけの時に、勢いを殺すのに失敗して痛めたみたいだな。

速さが厄介だったから、機動力が殺がれているのは大変助かる。

力押しで行けたら勝てるだろう。


もう一度こちらから攻める。

最初と同じように跳びかかって、前足で叩き潰す!

が、最初と同様に避けられる。

ただ、今回は俺も避けるのが眼で追えたぞ。

左側へとサッと避けたのが眼の端に映った。

そのまま、着地と同時に前足を軸にして後ろ足と尻尾を左側へと薙ぎ払う。

怪我をした前足を軸足にしたからか、一瞬鈍い痛みが前足に走るが無視だ。

避けたばっかりで警戒しきれなかったのか、尻尾に重い物が当たる感触。命中!

力任せに薙ぎ払って、すぐ近くの壁に叩きつけた。


「ギャイン!!!」


悲痛な鳴き声と共にグシャリと何かが潰れる感覚。

そのまま、尾を曲げて回転させた勢いのまま身体を一回転させ、身体の正面に狼が来るように調整する。

狼は何とか立っているものの、口端から血がだらだら出てふらついている。

よく見ると腹が凹んでいるな。尻尾はあそこに当たったのか?


「グルッ!!」


っ!

狼が睨むのをやめて急に跳びかかる。

慌てて前足を振り下ろす。

ガチンッ、と顔の横で牙が咬み合わさる音。

俺の前足は首元に当たって、そのままの勢いで地面へ叩き付けた。

攻撃のカウンターになった形で今度は避けきれなかったみたいだな。

グシャッっと何かを潰す感覚を前足の下で味わう。

直撃だ。

今度は悲鳴もなかった。

地面に無理矢理叩きつけられた身体は一瞬だけ、ビクンと跳ねたがそのまま動かなくなった。

前足を上げると不自然に折れ曲がった首。

口内からはだらりと垂れた舌が顔を出していた。


ふぅ。

何とか倒せたか。

狼がピクリとも動かない事を確認して、全身の力を抜いた。

あー、怖かった。

最後の最後で急に襲い掛かってくるとは思わなかった。

自分より小さいやつならそこまで危機感は無いけど、同じくらいでかいやつが相手だとかなりの命の危機を感じる。

いや、命はもう無いんだけどさ。

……と言うか今の俺って死んだら……死ぬと言うか壊れたら?頭とかが取れたりしたらどうなるんだろうな。

今度こそそれで死ぬのか、それとも同じように治るのか……。

とても怖くて試す気にはならないが、気になるところではある。

そこまで死精霊魔術に詳しいわけじゃないから分からないな。

また、あの地下室に戻って本が読めたらそれっぽい文章を探してみるか。


前足に結構深めの傷を負ってるから当然第五階層送りになるんだろう。

そう思って狼の死骸に背を向けて、部屋の中央に視線を戻すとさっきまでは無かった物が置いてあり一瞬固まる。

木で加工された箱か?

なんか金属とかで少し補強されてるけど。

んー、間違いなくさっきまでは無かったよな?

つか、狼が丁度最初にいた場所だよな。

近づいてもいいのかね?


少し迷ったけど近づくことにした。

箱の方へ警戒しつつ歩いていく。

もう少しで箱に前足が届く、と言う距離になった時点で独りでに箱が動き始めた。

慌てて警戒するが、そのまま箱の上部が動いて……開いて、か。

開いていく。

直ぐに反対側にまで箱が開ききる。

既に中を覗く事のが出来る距離だったから、そのまま箱の中身を覗き込むが、何か入っているのかと言う俺の意志に反して空っぽだった。

ただ、覗き込んだ瞬間に箱の中から暖かい風が俺の方へと吹き込んで全身を包むこむ。

何かの罠かと思って身構えたが、すぐに包み込んだ空気は霧散して消え去った。

そのまま、しばらくの間辺りを警戒するけど何も起こらない。


と言うか、ふと視線を下げると既にさっきまであった箱は消えていた。

……なんだったんだ?

気になってふと振り返ると狼の死骸はそのまま横たわっている。

うーん。考えても仕方ないか。

少なくともそんな悪い気はしなかった。

直ぐに何か悪影響があるって訳じゃなさそうだし。

それに箱から風が吹いただけだからな。


命令による強制力で身体が勝手に第五階層へと戻っていく。

特にそれに逆らうつもりも無かったから、途中出てくる敵を蹴散らしつつ一直線に元来た道を辿って行った。

同時に、今更ながら自分と同じような大きさの相手と戦って、命を獲り合ったことの実感が改めて沸いてブルリと震えた。


恐怖。

顔の横で相手の牙が咬み合う音。

怖かった。

失敗すると自分の命が消える局面。

分かりやすい死の形。


今回、初めて自分と戦いになる敵と戦って、恐怖を感じて思うところがでてきた。

相手の狼が俺より大柄だったら速度で負けてた上に力でも負けてたかもしれない。

まぁ、現状負けたらどうなるのかわからないけど、負けないに越した事は無いよな。

負けた時点で主導権は俺の元から離れていくんだから。

俺が負けて殺されてこうやって人間のいいように使われてるみたいに。

人間につかまった時は殺されるなんて想像して無くて、殺される時は急すぎてそれに対する実感が無かった。

でも、今回は違う。


今の俺はまだ力が足りない。

元の場所で暮らしていた時にも感じていたことだけど。

本当はあの場所では力が足りないのは家族が魔術を使えて俺は使えないから、って思ってた。

勿論それもあると思うけど根本的なところが違う。

そもそもの話として多分俺たち竜種は生存する上で敵となりうる相手が居ないのだ。

それ故に圧倒的に危機感というモノが足りない。

生存本能と言ってもいい。

当然、それはそれで普通は本当に竜と言う種族には敵が居ないからいいんだろう。

環境的に敵が居ないのもそうだし、竜天獄の外でさえも生存しうる上で敵対する事の可能な生物は少ない。

だから危機感が無いのは仕方の無い事だし、普通に一般的な竜種として生きていく上でそれは問題とならない。

でも俺の場合は違うだろ。

魔術が使えない、かといって何か別の手段を磨いた訳でもない。

挙句に守ってもらえる場所にいるならまだしも外に勝手に出て、捕まって殺された。


それは……それは駄目だろう。


それで危機感が無いのは駄目だ。

俺の家族に、親に、兄弟に危機感が無いのはいい。

でも家族と同様に危機感が俺にもないのは駄目だろう。

俺と家族は同等じゃないからな。


だから、もっと何か別の戦う手段を考えないといけない。

おそらく人間は、あのシドとかいう死精霊魔魔術師は今後も俺をここへと潜らせるんだろう。

今は何が目的か分からないが、俺の力を見るためなら一緒に同行して具合を見るはずだ。

それをしないという事は別の目的があるんだろう。

なんにせよ、ここで戦わされるにしても、別の場所で戦わされる。


……なんでそう思うかって?

人間が俺に対して、見出した価値について考えたからだよ。


人間からすると俺は金に換えられるものだとばかり考えていた。

でもそれは違う。

俺は『俺自身が金と代替可能なもの』と言う事にばかり目が行って、殺されるまで『金に換えられた俺自身がどうなるか』何て事を全く考えてなかった。

本当はそっちを先に考えるべきなのに。

きっと心のどこかで人間なんてどうとでもなる、って思っていたんだろう。

俺を金に換える事が目的なのは、俺を有用に使えない人間がとる手段なんだ。

人間は本当は金が大事なんじゃなくて、その金で買う価値が大事なんだ。

だから俺を使える人間が金の代わりに俺と言うものに求めた価値は『闘い』だろう。


だから俺は強くならないとそう遠くない未来にまた死ぬ。

今度は意識が残るなんてことはなく、本当に死ぬ。

そうならない為に強くならないといけない。

今回の狼との戦いで、生にしがみ付く為の危機感を得た。

生と言うのはおかしい話かもしれないけど。


でも、まだ、まだ俺は死にたくない。

もう死にたくない。

死ぬのは痛い。

死ぬのは嫌だ。

死ぬのは怖い。

一回殺されて、死を経験した俺が俺が言うんだから間違いない。

二度と死んでたまるか。


殺されて、戦って、殺して俺が得た教訓だ。

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