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死した竜の物語  作者: 獅子貫 達磨
第二章 死肉竜の目覚め
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4話 次の階層へ

第三階層、第四階層と順々に特に特筆することなく進んでいった。

因みに第三階層は主に沼、第四階層は主に荒地だった。

それぞれ、蛇とかオオトカゲが追加で出てくることはあったが、特に苦労する事は無かったな。

蛇には一回存在に気が付かなくて噛まれたけど。

因みに流石に噛まれたら存在には気が付いて直ぐに引き剥がした。

牙があったので毒があるタイプだから警戒したけど、別に体に毒が回ってしんどくなる事は無かった。

そりゃ、まぁ、身体の機構が止まってるって事は死んでるんだから毒は効かなくて当たり前か。

酸とかの物理的なダメージ類は効くんだろうけど。


そして想定はしてたけど第三階層も第四階層も上と同じく降りた先は盛り上がった塚で、明らかに俺が降りてくる距離より低い高さの物だった。

しかも、太陽はサンサンと輝いてると来たもんだ。


もう、考えても仕方ないな。

空間が歪んでるんだろう……。

空間魔術はかなり高度な術式だって聞いたんだけどな。

母さんも使えないって言ってた。

……と言うかそんな術式を常に保っているこの空間自体が異常だな。

魔術は発動は簡単でも、発動したものを保ち続けるのは結構労力が大変って聞いてたんだけど。

いや、俺からしたら発動も簡単じゃないんだけどさ。


ただ、今のところは考えても仕方ないし、そういうもんだって割り切って行動するしかないな。

さて、今は気を取り直して、第四階層で見つけた下の階層への階段を下に降りている途中。

いよいよ、怪我したら待機しろ、って言われていた第五階層だな。

今までと何か違うのか少し楽しみだ。

……いや、なんか今までどれも一緒だったからあんまり期待しすぎても逆にショックだから期待半分って感じだけどさ。


いつも通り降り切る先の出口が見えてくる。

お?今回はいつもと違って明るくないな。

ふむ?


階段を降り切った先には今までより狭い場所だ。

……いや、狭いって言っても広さを感じたのはここが初めてだな。

今までの階層は取りあえず下に行く階段を見つけたらすぐ降りてたから、自分のいる場所がどのくらい広いのか?境目があるのか?なんて調べてないからな。


それでも、今降り着いたこの階層。第五階層は一言で言うなら谷間だった。

谷間の下。

切り立った崖に挟まれた場所。

そして何よりうれしいのが谷間から見える空が夜空だったこと。

太陽からやっと逃れられた。


辺りを見渡すと、すぐ後ろに今降りてきた階段。

そして目の前には更に下に降りていく階段。

前と後ろにそれぞれ階段があるだけの場所だ。

……今までの階層の事を思うとやけに狭い。

測る気が起きないほど広い場所、から俺が十匹くらい寝転がるのがやっとの場所、か。

でも、よくよく考えたらこんだけ狭くて目の届く範囲にしか行動できないって事は、目の届く範囲に敵も居ないって事だな。


……ああ、成程。

だから傷ついたらここで休めって命令だったのか。

きっと、あの人間……シドもこの場所を知ってたんだろうな。

夜空を見上げていると少し落ち着いた気持ちになった。

取り敢えず、傷ついたらここまで戻ってきたら安全なんだろうな。

……そういや、動物は階段降りては来ないのかね。

多分、ここで安静にって言われたって事はそういう事は無いんだろうけど

まぁ、怪我をしてない現状は先に進むかね。

先に行くのに飽きたらここで魔術の練習でもしようかな。

今の身体だとどうなるのかちょっと気になるし。


そのまま、正面の階段を降りることにした。

特に今までの階段と変わった点は無く、第六階層の入り口が見えてくる。

少し期待していたが、第五階層の入口同様に第六階層の入り口も暗かった。

第六階層に足を踏み入れて、空を見上げる。

うん、夜空だ。

やったぜ。


辺りは第一階層と同様にただっぴろい草原で、遠くに森が見える。

でも、夜ってだけでかなり過ごしやすいな。

生息する奴らは第一階層と変わりないのかね?

見渡すと第一階層で見かけたのとよく似た狼を見つけた。

ただ、暗いからよく見えないけど体毛が違うように見える。

第一階層では白っぽい灰色だったけど、第六階層の奴の毛皮は真っ白だな。

それに少し大きくないか?

……戦えばわかる事か。


今まで通り狼に近づいていくと、向こうも気が付いたのかこちらに襲いかかってくる。

ビタンと前足を振り下ろしたが、そのままスルリと後ろに避けられた。

おや?一階層の狼と比べるとやや素早いか?

避けた先で尻尾をフルスイングすると良い手応え。

吹き飛んで行った先でもう一回前足を振り下ろして、息の根を止める。


ふむ、下の階層に行くと少し生息している奴らが強くなるのか?

強くなったと言っても、一手間増えた程度だけど。

熊とか他の奴とも戦ってみないと何とも言えないな。

別段今まで通り目的地がある訳でもないので適当に進むとしよう。

取り敢えず、遠くに見えた森の方へと進むことにした。


ガサッと風以外の音がした。

む?

森に近づいたところで、周りを囲まれている事に気が付く。

見渡すと、さっきの狼が身体を低くして音をたてないように、俺の周りをぐるっと囲っていた。

……大体八匹くらいか。


正直なところ、狼自体は確か群れる生き物だったなって知ってたから、不自然な感じはしないな。

弱い個を集めて強い個との差を埋めるのは自然の常套手段だろう。

むしろ、さっきまでの狼はなんで一匹で向かってきたのか、と言うほうが謎だ。

なんて考えていたら、距離をもうギリギリまで詰めていたのか、狼が一斉に飛びかかってきた。


身体の大きさ的に避けるのはきついので、正面の奴には牙で、前の奴には前足で、後方は尻尾の薙ぎ払いでそれぞれ対処する。

まず、力を貯めた尻尾の薙ぎ払いでギャンって悲鳴と共に後方にいた四匹くらいの奴が吹き飛んでいく。

口で加えた狼がもがいてるを感じ取る。一匹だけしか捕まらんかったか。

まぁ、俺は口そんなに大きくないしな。

そのままあごに力を入れてゴギンと噛み砕くと、一瞬痙攣してそのままダラリと大人しくなった。

右前足でも一匹踏み潰すことに成功。

残るは左前方にいた二匹。


それぞれ跳びかかって来て、一匹は左前足に、もう一匹は脇腹に噛み付かれた。

少しだけ鋭い痛みが走る。

辺りを警戒して他に隠れてる狼が居ない事を確認して、思いっきり左前足を上下に振る。

咬合力が遠心力に負けて狼が飛んでいった。

残念、そのまま噛み付いてたら地面に叩きつけてやったのに。

次に、左側に身体を倒し横向きになる。

そのまま、半分寝転がる事で脇腹の狼も俺の自重で潰される結果になった。


ふぅ。

無傷ってのは無理だったな。

でも、まぁ、あまり気にするほどじゃないか。

今回はギリギリとはいえ、事前に気が付いたからよかったけど急襲だったら多分もっと手傷を負ってただろうな。

まだ、あんまり戦い慣れてないし格下とはいえ警戒しないと。


気を取り直して先に進もうとしたところで、身体が勝手に向きを変える。

は?

そして、そのまま強制的に元来た道を戻りだした。

急になんだよ。

……って、あー、そうか。

怪我をしたから命令的に第五階層に戻らないといけないのか。

うわ、面倒くさいなぁ。

少しだけ戦うのが楽しかったのに。


抵抗しても意味ないので、そのまま命令のままに第五階層まで戻って地面に寝転んだ。

むぅ、正直この程度の噛み傷はもう痛くないんだけど。

と言うか、やっぱり生前と比べるとやや痛みが希薄になってる気がするな。

左前脚を見ると、僅かずつだが傷が塞がっていた。

ただ、生きていた頃みたいに傷が癒着して治る、って感じじゃなくてなんか傷がひとりでに塞がっていくっていうなんか不自然さを感じる塞がり具合だった。

見てると微妙に気持ち悪い。


見てるのもなんか嫌だったから、傷から視線を外して目を瞑る。

まぁ、あれだ、死んで初めての魔術の練習だ。

丁度時間もあるしな。

体の中のオドに集中。

……相も変わらず身体の中でオドが濁流の様にうねってる。

いつもはここでオドを一か所に集めて、その後のイメージで魔術を顕現させるんだけど……。

今回は普段と少し趣向を変える。

集めるのではなく、身体の表面に沿ってオドの流れを導く。

オドを体に巡回させて、淀みなく流す。

これをやってみようかと思う。


なんでかこんな事って言うと、地下に置いてあった本の中の『魔術の歴史~過去の技術~』ってやつに書いてあった方法で気になる記述があったから。

その本の中にあった魔纏法って技術の練習方法だ。

この魔纏法ってやつは全身に万遍なくオドを流すことで、力を増して、身体を頑丈に、五感を鋭く、オドの流れを制御し、とまぁ色々な効果がある。


そんな便利な技術がなんで過去の技術って言われてるのかって言うと、単純に効果が多い代わりに、それぞれの効果内容が微妙だったから。

今では身体能力の強化や五感の強化もそれ用の術式が存在する。

母さんはあんまり、基礎能力上昇系の魔術は使わなかったけど、人間の歴史書を見る感じ人間は結構使っていたみたいだな。

まぁ、そこらへんはそもそも生物としての強さの問題か。

竜はそもそも身体が強いから、術式に頼る必要がない。


まぁ、そんな訳で魔纏法は習得しても旨みが少なく、それぞれを強化する術式を使った方が効果が高い。

せいぜいメリットとしては術式ではない技術だから、なんらかで術式自体が使えない時にでも使えるだろうって位。

ああ、後は術式と違ってオドを直接消費する訳じゃ無くて体内を循環させるからオドの燃費がめちゃくちゃいい。

それでも、

効果が微妙すぎるせいでやっぱり使えなくなったらしいけど。


ただ、俺からすると……術式の使えない俺からすると、オドの流れだけを集中するだけで効果の出る技術はひょっとするとこの暴発体質、あー、先天性魔臓肥大病だっけか、でも使用できるかもしれない。

それだけで、過去の産物だろうが使おうとするだけの価値はあるかと思う。

まぁ、元から身体能力で何とかしようって思ってたしね。

その身体能力の上昇に少しでも効果があるのなら試して損はないだろう。


そんな訳で魔纏法の練習だ。

身体の中心でゴウゴウと唸るオドを少しずつ全身に広げようとする。

ある程度広げたら、少しだけ流れが緩やかになる。

そのタイミングで身体の表面を通すみたいに、グルグルと回そうとする。

……うーん、抵抗を感じる。

詰まってる所に無理に力を入れている感じだ。

なんとか通そうとすると、僅かだが表面、鱗のすぐ下をオドが駆け抜ける感覚があった。


通った拍子に驚いて集中をといた途端に、身体の中心へと戻って行った。

一瞬だったが感覚はなんとなくわかった……。

でも、これを全身か。

感覚的に一瞬だけ一部分にだけ流すのなら行けそうだけどなぁ。

本では、魔纏法の達人は全身の表面に沿うように数瞬の間に何週もさせるんだとか。

どれだけ練習が居るんだろうな。


ただ、魔術の練習と違って、拙くとも成功の片鱗が見えたってだけで嬉しかった。

これですら成功しなかったから悲しかったからな。

取りあえず、傷が治るまではこの練習を続けてみようかな。


それから、傷が修復されて再度第六階層へと進んだ。

ただ、第七階層への入り口を見つける前に傷を負って、またこの第五階層に逆戻り。

仕方がないので傷を治す間に魔纏法の練習を続ける。

そんな繰り返しになった。


ここ、ずっと夜なのは嬉しいんだけど、ずっと夜だからこそ日付が分からない。

体感、不思議な門からここに入って、数日経ったようには思うけど。

魔纏法は数瞬の間だけなら前足内ではオドを循環させられるようになった。

かなりゆっくりだし、実際に戦闘中は使えてないけど。

集中力使うから戦闘中にそっちに意識を割く余裕が無かった。

だから、効果の実感は今のところないなぁ。


いつまでこれを繰り返せばいいのやら。

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