舞台裏
ピーピー、ピーピー。
薄暗い部屋の中に機械的な電子音が響き渡る。
同時に壁一面にずらりと並んだモニターの内一枚が点灯した。
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エラー発生
第1セクター内
NGG計画被検体No.195531に不可逆的エラーが発生しました
管理者は即座にエラー修正か検体の削除を行ってください
発生したエラーによる全体への影響度………0.04%
重要度:中と認定します
即座に管理者に連絡をお願いします
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数分の間、部屋にエラー音が響き渡った頃に部屋のドアがガチャっと開く。
ドアの中から白衣を着た1人の女性が部屋の中に足を踏み入れる。
「ゴホッ。ずいぶんと埃っぽいわね。
十年以上使ってなかったから当たり前なんだろうけど……。
それで、エラーってなんなんのよ。」
慣れた手つきで手元のキーボードを叩き、ログの開示を要求する。
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ErrorLog
[G1504,Ken(7),24_19:24:36]NGG計画被検体No.195531の生命反応消失
[G1504,Ken(7),24_19:24:40]当該プログラム規定に寄り実験痕跡の消去を開始
[G1504,Ken(7),24_19:24:48]消去失敗
[G1504,Ken(7),24_19:24:52]リトライ
[G1504,Ken(7),24_19:25:00]消去失敗
[G1504,Ken(7),24_19:25:04]原因探査プログラムを実行します
[G1504,Ken(7),24_19:25:15]GBNo.05-01093を特定
[G1504,Ken(7),24_19:25:17]GBNo.05-01093の修正権限はありません
[G1504,Ken(7),24_19:25:19]管理者に修正を要請
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「GBNo.05-01093……?
5番目って事は……。
あー!もう!面倒くさいわね
ここで全体のデータベースにアクセスできたらいいのに。
何で個々での管理にしてるのかしら。全く。」
女性は胸元に無造作に手をつっこみ、黒い端末を取り出す。
慣れた手つきで操作し、電話をかけた。
プルルル、プルルル……。
ガチャッ。
「あん?お前から通信って珍しいな。
緊急事態か?」
「緊急事態と言えば緊急事態だけど、別段そこまで取り急ぎじゃないわ。
ただ、特にやってることが無いなら直ぐに来て欲しいわね。」
「めんどくせぇな。概要は?」
「NGG計画覚えてる?
あれの被検体のエラー。
エラーの原因があんたなのよ。」
「面倒くせ……まぁ把握した。すぐ行く。」
ブツッっと電話が切れると同時に女性のすぐ横の空間に揺らぎが生まれる。
揺らぎは直ぐに大きくなり2mを超えたあたりで揺らぎの中から全身黒いローブを着た浅黒い男が現れる。
「遅い。」
「あん?秒で来ただろうが。」
「まぁいいわ。
早速だけどGBNo.05-01093って何の加護?
こっちではあんたのデータベースに参照できないから特定できないのよ。」
「加護?あー、1000番台か。
ずいぶんとマイナーな加護だな。
ちょっと待てよ、今データベース見てっから。」
男は手元に揺らぎを作るとその中に手を突っ込む。
抜き取られた手には女性が持っていたのと同じ黒い端末が握られていた。
男はポチポチと端末をいじる。
「あー、1039番?」
「1093番。耳腐ってるの?」
「うるせぇ。
1093番は【復活なるレフソ=ウェルの癒加護】だな。」
「効果は?」
「効果は死亡寸前に魂を肉体に縛り付け身体を修復し続ける……。
まぁ、いわば死んだ後も暫く意識を持ったまま動けるっていう使い勝手の悪い奴だな。
精々、自分が死んだ後も相打ちにもっていく程度の加護か。
ま、別に馬鹿力が出るわけじゃなくて延命だけだから死ぬときはただ死ぬ時と変わらんけどな。
んで。これがどうエラーなんだ。」
「死亡がトリガーの因果操作の加護って事?
名前は治癒力効果上昇みたいな感じなのにややこしいわね。
それに、また面倒な物を。」
「別にいいだろ。この加護自体は神々の試練所の攻略報酬じゃねぇから、持ってるやつは生まれつきの奴だけだ。世界中で個体数で100も居ないだろ。
それに、名前は今更だろ。そもそも加護は俺たちの権能をベースに作ってるだろうが。
俺ので言えば今回のは『復活』がメインだ。
むしろ癒のほうがサブだと言いたいんだがな。
んで、それがどうエラーなんだ?」
「えっと………ああ、分かったわ。
NGG計画のプログラムの条件が死亡時に魂魄から痕跡の消去
が入ってるんだけど、その死亡時の条件にあんたの加護が入ってなかったからエラーになったのよ。
入れておかないと……。」
「ちょい待て。
それにしてもおかしくないか?
あくまで俺の加護は延命だぞ。
きっちり死んだらプログラムは実行されるだろ?」
「………ああ、この検体生き返ったのね。」
「そりゃまた珍しい。
蘇生魔法か?それとも反魂?」
「いえ、そんな魂魄に直接的にかかわる魔法は今の地上の奴には使えないわよ。
ただの死霊魔法ね。」
「あ?その表現はおかしくねぇか?
死霊魔法って事は精霊魔法だろ?
身体は同じでももう魂魄は別物だからエラーに引っかからないんじゃないのか?」
「分かってるわよ。
だから今調べてるんでしょ。
……分かったわよ。全く、面倒くさいわね。
あんたの加護の効果中に死霊魔法が実行されて体内の魂魄と死の精霊が混じったのよ。」
「はぁーん、珍しいな。
つまり生前の自我を持ったアンデットか。
属性的には精霊に近くなるのかね。」
「おそらくね……。
ま、これなら放っておいて問題ないでしょう。
エラーを消しておくわよ。」
「おう、任せた。
そういや、NGG計画ってまだ動いてんのか?
ここもだいぶ使われてない印象だけどよ。
と言うか最後の報告いつだったよ。」
「一応まだ続いてるわね。
ただ、こっちの世界の住民にはあまり期待できないから
最近はオリジナルの方から見所のありそうなやつを連れてきてるわね。
対応はメルロイに任してるから私も詳しくは知らないけど。
最後の結果報告は確か十数年前よ。」
「そうか。意外と最近だな。
ま、興味が出たら聞くとすっか。
んじゃぁな。また何かあったら自分で何とかしろ。」
「ええ、またね。
安心してちゃんと呼びつけるから。」
男は、死神は鼻で笑った後、来た時と同じように、次元の狭間へと消えていく。
残った白衣の女性もキーボードでエラーを修正し、エラー音が止まったのを確認し部屋から出て行こうとした。
出て行こうとした寸前に何かを思い出したかのように部屋を振り返る。
「………。
No.195531……。
……何かひっかかるのよね。
何か忘れてるのかしら。」
記憶を掘り出そうとしながら、ドアを閉める。
十年ぶりに開かれた部屋数分の来客でまた、埃に閉ざされる。
電源が付いたままのモニターに新しくログが刻まれる。
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NGG計画被検体No.195531のエラーを修正実行完了
エラー修正完了
プログラム再実行
被検体No.195531のstateを収集……
収集成功
条件から外れるためGBNo.05-01093は削除されます
条件に該当するためGBNo.05-00021が追加されます
条件に該当するためGBNo.05-00732が追加されます
条件に該当するためGBNo.06-00444が追加されます
GNo.2の管理者実行によりGBNo.02-00109が追加されます
実行完了
保存完了
適応開始
……
適応完了
エラーフェイズを終了します
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ブツリと画面が暗くなり、部屋には静寂だけが残った。
▼△▼△▼△▼
暗い部屋で白い女が嗤う。
髪も肌も服も全てが白く無垢で白無垢な。笑う。嗤う。哂う。
「ふふふふ。レフさんもギアちゃんも忘れっぽいんですから。
自分たちの実験位きっちり把握しておかないと駄目ですよ~。」
困ったものですねー、と大仰に両手を肩まで上げて首を振る。
「折角なので私からもプレゼント♪をあげましょうー。
そうしましょう。
嬉しいでしょう。
私は普段は自分から誰かに何かをあげたり……まぁ、してますけど。
まぁまぁ、それは置いといて喜んでくださいねー。
役立ててくださいねー。
楽しませてくださいね。」
ふふふふと楽しそうに白い女は笑った。冒涜的に嗤った。
『人間』視点ではないのでセーフ




