それぞれの道
チョコレートを使った菓子は戦略がよかったのか、あっという間に受け入れられた。まずは平民区域からとクッキーをメインに売ればすぐに噂が広まった。市松模様やストライプ、渦巻きなど見た目が可愛らしく、安価であったことも受け入れられる要因だったようだ。
チョコレートはバークス商会から契約ごと引き受けた形なのでかなりの金額であったが、使う量が少量なので利益にもならないが損失にもならなかった。
濃厚なチョコレートを作ろうとしたら確かに利益を見込めなくなるが、クッキーに混ぜる程度であるならさほど量もいらない。濃すぎるチョコレートを受け入れる土壌は出来ていないからできる小技だ。
レインにしたら捨ててもいいと考えていたことであったので、損失にならないことで満足らしい。
クッキーが定着した後、パイやパウンドケーキを売り出した。パウンドケーキはやはり見た目が茶色いので、手に取りやすい様に白いクリームを挟んでの販売だ。
試行錯誤していろいろなチョコレート菓子を売った。
平民区域で受け入れられれば、次第に貴族の間でも噂が広まる。貴族向けにはもう少し高級な感じのチョコレートボンボンや一口大のチョコレートなども作った。もちろんマーリカにはそれほどの菓子を作る技術はないのでヨハンに試作品を作ってもらい、問題ないようなら商会が持っている調理師にお願いして味や見た目の研究を重ねてもらった。
魔晶石を使った宝飾品についても順調で、最近は国外へ売り出そうとしている。意外なことにジョンは数か国語、不自由なく使いこなせるのだ。
色々な国を見たいと、ジョンとノルンが進んで国外へと出かけていった。
カークは財務関係で商会に缶詰め状態であるが、本人が望んだだけあって楽しそうだ。
それぞれがやりがいを見つけながら、外を向いていた。レインが婚約破棄をしてから1年半が過ぎていた。
そんな中、マーリカとレインはようやく結婚式を迎える。
この国の結婚式は教会式の結婚式が主流だ。もちろん日本で作られた乙女ゲームに近い世界だから当然と言えば当然だ。
招待客は少ない。近しい友人たちだけを呼んでの式となった。レインに至っては家族も呼ばなかった。お忍びで王妃とレインの母であるエリーがいるのだが、皆気が付かないふりをしていた。
バージンロードを二人で歩きながらヘールズ男爵は娘を優しい目で見下ろした。
「幸せになれそうかい?」
「もちろんよ」
笑顔を向ければ、ヘールズ男爵は嬉しそうに目を細めた。祭壇の前でヘールズ男爵からレインにマーリカが引き渡された。レインは満面の笑みを浮かべてマーリカの手を握る。
「愛しているよ」
「私も愛しているわ」
にこりと笑って答えればレインはそっと唇にキスをした。
乙女ゲームのような神さまの箱庭でマーリカはその後も幸せに暮らした。
子供も生まれ、男爵家は賑やかになる。レインの側仕えだった3人も実力でそれぞれ商会のポストに就き、結婚し、子供を持って充実した生活を送った。
レインとは仲が悪かったアデルはあの後領地に籠らず、国外に出た。その出先の国で電撃結婚をし、今では他国の伯爵夫人だ。たった一度、マーリカと真剣に話した繋がりで、他国へのチョコレート菓子の販売はアデルの伝手で広がった。
「わたしが先に目を付けたのよ。わたしの所に持ってくるのは当然でしょう?」
そんな感じで偉そうに言われたが、アデルらしくて笑ってしまった。レインはアデルとの付き合いを苦々しく思っているようだが、商売を始めて人とのつながりの重要性に気が付いたのか、アデルと衝突することはなかった。大人になったのだと温かい気持ちになったものだ。
バークス侯爵家の方はテリーがモニカとの結婚を侯爵家に入る条件にしたものだから、しばらくは揉めたようだ。結局はバークス侯爵が折れた形となったと風の噂で聞いた。
年月が経ち、子供たちも独り立ちをした。賑やかだった男爵家も今ではレインと二人きりだ。
穏やかに過ぎていく時間はあとどれぐらい残っているのかは、わからない。いつ終わりが来ても心残りはないだろうなとマーリカは思っていた。
「ねえ、レイン。わたし、幸せだわ」
「そうかい? それはよかった。私も幸せだよ」
マーリカは自分の半生を振り返って目を細めた。
神様の贖罪で与えられたマーリカが幸せになるための世界。
確かに幸せだ。
本当に神様に感謝だ。
Fin.
最後までお付き合い、ありがとうございます。
乙女ゲームっぽい世界への転生ということで、前世知識を活用した形にしてみました。
非常に困難で、もう終わりが見えないと思ったこともしばしば。
内政系もやはり難しく、これほど手が止まってしまった作品もなかったなぁと思います。
初めは悪役令嬢役のアデルを中心としたお話でしたが、よく考えてみたら悪役令嬢の性格の悪さを前面に持ってくると、婚約破棄されても仕方がないかなと方向転換。
政略結婚と言えども、婿入りするレインの身分を保証するだけのものであれば、本人が身分を捨てる意思表示をすればそれも認められるのではと思っています。悪役令嬢ものだと、不幸な境遇をひっくり返すことが主流になっていますが、神さまの造った箱庭というご都合主義を許せる環境を持ってきて転生者をヒロインのみにしてみればこんな話もありだろうと。
期待していた話とは違っていたかもしれませんが、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
最後に、誤字脱字の報告をしてくださった方、ありがとうございます。とても助かりました。




