第12話:焼き魚を食べてみる
命を懸けて、森の全焼を防いだスペランカー・タクヤ。
彼の功績は未来永劫、全人類は元より宇宙人類からも讃えられるであろう。
ビバ・タクヤ。ベントラ・タクヤ。
などと俺が地獄の門前で騒いでいたら、女神像がビカビカと光って威嚇してきた。
うん、怒ってますねぇ。
『火元を作ったのは貴方ですよ、タクヤ。死んで詫びなさい』
「もう死んでます……ってご挨拶はともかく」
『キャンプファイヤーが火事の元なのは、誰もが知っておくべき基礎知識です』
流石にこれは恥ずかしい事故だった。猛省である。
鎮火させるまでは良かったが、その後も普通にやけどをしてしまっている。
「炎は偉大ですよ、女神様」
『知っています。次が与えられる事を感謝しなさい』
その言い方はつまり、今回も復活させて貰えるって事だな。
愛想を尽かされて、いよいよ本当に地獄行きかと思った。
『行きなさい、タクヤよ。消火して環境の現状復帰するまでが焚き火ですよ』
***
生き返って、女神の化身である白狼のリアと合流する。
掘っ建て小屋から少し離れた場所にかまどを作り、そこへ焚き火を移した。
「最初からこうしておけば良かったな」
「仕方ありませんよ。サバイバルの何もかもが、初めての経験なんですから」
仕方ない、で森林火災を起こしては許されない。
俺はこれまで以上に、サバイバルガイドを熟読する事を決めた。
「とは言っても、この本は天使文字だから読めないんだよな」
「まぁまぁ。まずは空腹を満たして、落ち着いてから考えましょう」
「それは……うん、そうだな。自虐的になっても、状況は好転しないし」
俺は焚き火の前に腰を下ろして、少しのんびりする事にした。
夕暮れが近いのか、太陽からの照りつけは収まっている。
それどころか、森林のひんやりとした空気すら感じた。
「夕飯に釣った魚、ちゃんと灰から取り出しておきましたよ」
「うん、ありがとう。リアは気が利くなぁ」
「そうですか? こちらこそ、ありがとうございます」
はて、お礼を言われるような事をだったかな。
リアは時々、妙に素直過ぎる所のある気がする。
「今度こそ、サバイバルの醍醐味である焼き魚を食ってやろう」
「えっと、魚は串打ちしてありますし、焚き火の消火用の砂利も用意完了です」
「うむ。では行くぜ行くぜ行くぜっ。ファイアー!」
ザシュッと魚の串を焚き火の前に突き立てた。
蛇を象るように荒ぶる炎が、魚を締め上げんと燃え盛る。
「調理、完了!」
「後は焼きあがるのを待つばかりですね」
リアがお座りの姿勢で、俺の横に侍った。
待ち遠しいのか、しきりに白狼の首を左右に振って焚き火を見つめている。
ここまで期待してくれていると、否が応でも焼き魚を食べさせてあげたい。
「まぁ問題は、焼き加減がさっぱりわからない事だな」
火に近過ぎたらあっという間に焦げてしまうし、遠ければ熱が通らない。
その丁度良い距離に置く、と簡単に言っても肝心の距離が分からない。
「こう、塩少々とかコショウ適量とか、なんでしっかり数値を出さないんだ」
「つまり、焚き火から400ミリ離れた地面に350ミリの高さで固定する、とか」
「そこまで厳密な数値は求めていない」
まぁ焚き火の強さにも拠るだろうし、やっぱり「適度な距離」になるんだろうな。
「とか言ってる内に、なんか真っ黒になって来たぞ……」
「ああ、もっと離さないと焦げてしまいます。どうしますか、タクヤさん」
串を動かそうとした瞬間、脳裏に閃く未来予知。
魚の焦げる範囲に俺が入るという事は、それすなわち焼死の危険大。
「くそ。俺は魚の焼き加減は分からないのに、自分の焼き加減は理解してしまう!」
「えっと、焚き火から2メートル離れた距離で焼死の危険、と」
「はい、そこ。サバイバルガイドに注釈を書かなくていい」
誰の役に立つ情報なんだ、それは。
「リア、悪いけど俺は死なない。耐え切ってみせるっ」
俺は顔をパシンと叩いて気合を入れると、素早く焚き火に近付く。
吹き出す汗、悲鳴を上げる皮膚、沸騰していく血液。
「あああ、熱いっ。だが、この魚は、もっと熱かったんだ!」
「タクヤさん! タクヤさんっ!」
「これは死んだ魚の分っ。これも死んだ魚の分っ! そして、死にそうな俺の分だ!」
俺は見事にやり遂げた。
「ふぅふぅ……これくらいの距離でよかろう」
「まさに命と命のぶつかり合いでしたっ」
まぁ既にして魚は死んでいるし、身動き一つしていないんだがな。
なんで串を動かすだけでこうなるのか。俺ってほんと、スペランカー体質だな。
「さて、後は実際に焼けるかどうかだな」
数分待ってみて、状況を理解した。
「うむ。今度は全く焼けないな」
「ほんの少ししか動かしていないんですけどね」
「駄目だっ。これじゃあ埒が明かない」
かといって、目の前に焚き火があるのに生食ってのも考えものだ。
ここは焼き魚にしたい。そう決めた以上、いよいよもって焼きたいっ。
「そうだっ。ちょっと大きめの平たい石があったよな」
さっき火事になりかけた焚き火を消火する際、石や砂利を投げ込んだ。
それを教訓とし、多種多様な石を予め集めておいたのだ。
「ありますけど、どうするんですか?」
「うん。これをだな、かまどの上を覆うように固定して……できたっ」
焚き火で熱された平たい石が、いわゆるホットプレートとなっている。
ここに魚を置けば、間違いなく熱が通ってくれるはずだ。
「石の上に小枝を並べて、こうして網代わりにすれば完成だ」
「あっ、直に置いたら、身が石に貼りついちゃいますもんね」
で、だ。
「また動かすのか、あの魚の串を……戻るのか、あの灼熱の地獄に」
「あの、私がやりましょうか?」
おずおずと言い出してくれるが、リアに任せてばかりもどうだろう。
これは俺の無人島生活である。本来は俺一人が全てを担うべきなのだ。
「うぉおおおお! やってやるぜぇぇっ!」
「タクヤさんっ、頑張ってぇ」
応援してくれるリアの黄色い声を背中に浴びて、俺は地獄に飛び込んだ。
熱い熱い熱いっ! 汗がプレートに落ちて一瞬で沸騰し、水蒸気となって消える。
ここまで戦い抜いたんだっ。俺は、必ずこの魚を焼いて食ってやるっ。
「もう空腹とか料理とかどうでもいいっ。意地と意地のぶつかり合いだっ!」
「タクヤさん、その魚は死んでいるから意地も何も無いですっ」
「俺にとっては、死んだ魚も命を狙ってくる暗殺者同然っ!」
焼け過ぎないよう、魚の両面を程良くひっくり返す。
俺が凄まじい勢いで死に近付くのと同時に、魚も美味しそうに焼けているっ。
「こうなったら俺が死ぬか、魚が焼けるかだ……できたぁぁぁっ」
汗を流し過ぎて、病人のように痩せこけた俺が串を上空に掲げる。
手応えアリ。上手に焼けたぞ、オラァ!
「では、いただきまーーーすっ」
感無量っ! 全身の汗と血と肉が報われる瞬間だ。
熱くて脳がはち切れそうで前後不覚の俺は、勢い良く魚にむさぼりつく。
「はぅっ!?」
ちーん。
死因:勢い良く魚の串を頬張って、串の先を頬に刺してしまった。
来世に続く!
読んでくださり、ありがとうございましたっ。
次回の更新は、明日の昼11時を予定しています。




