表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

第12話:焼き魚を食べてみる

 命を懸けて、森の全焼を防いだスペランカー・タクヤ。

 彼の功績は未来永劫、全人類は元より宇宙人類からも讃えられるであろう。

 ビバ・タクヤ。ベントラ・タクヤ。


 などと俺が地獄の門前で騒いでいたら、女神像がビカビカと光って威嚇してきた。

 うん、怒ってますねぇ。


『火元を作ったのは貴方ですよ、タクヤ。死んで詫びなさい』

「もう死んでます……ってご挨拶はともかく」

『キャンプファイヤーが火事の元なのは、誰もが知っておくべき基礎知識です』


 流石にこれは恥ずかしい事故だった。猛省である。

 鎮火させるまでは良かったが、その後も普通にやけどをしてしまっている。


「炎は偉大ですよ、女神様」

『知っています。次が与えられる事を感謝しなさい』


 その言い方はつまり、今回も復活させて貰えるって事だな。

 愛想を尽かされて、いよいよ本当に地獄行きかと思った。


『行きなさい、タクヤよ。消火して環境の現状復帰するまでが焚き火ですよ』


***


 生き返って、女神の化身である白狼のリアと合流する。

 掘っ建て小屋から少し離れた場所にかまどを作り、そこへ焚き火を移した。


「最初からこうしておけば良かったな」

「仕方ありませんよ。サバイバルの何もかもが、初めての経験なんですから」


 仕方ない、で森林火災を起こしては許されない。

 俺はこれまで以上に、サバイバルガイドを熟読する事を決めた。


「とは言っても、この本は天使文字だから読めないんだよな」

「まぁまぁ。まずは空腹を満たして、落ち着いてから考えましょう」

「それは……うん、そうだな。自虐的になっても、状況は好転しないし」


 俺は焚き火の前に腰を下ろして、少しのんびりする事にした。

 夕暮れが近いのか、太陽からの照りつけは収まっている。

 それどころか、森林のひんやりとした空気すら感じた。


「夕飯に釣った魚、ちゃんと灰から取り出しておきましたよ」

「うん、ありがとう。リアは気が利くなぁ」

「そうですか? こちらこそ、ありがとうございます」


 はて、お礼を言われるような事をだったかな。

 リアは時々、妙に素直過ぎる所のある気がする。


「今度こそ、サバイバルの醍醐味である焼き魚を食ってやろう」

「えっと、魚は串打ちしてありますし、焚き火の消火用の砂利も用意完了です」

「うむ。では行くぜ行くぜ行くぜっ。ファイアー!」


 ザシュッと魚の串を焚き火の前に突き立てた。

 蛇を象るように荒ぶる炎が、魚を締め上げんと燃え盛る。


「調理、完了!」

「後は焼きあがるのを待つばかりですね」


 リアがお座りの姿勢で、俺の横に侍った。

 待ち遠しいのか、しきりに白狼の首を左右に振って焚き火を見つめている。

 ここまで期待してくれていると、否が応でも焼き魚を食べさせてあげたい。


「まぁ問題は、焼き加減がさっぱりわからない事だな」


 火に近過ぎたらあっという間に焦げてしまうし、遠ければ熱が通らない。

 その丁度良い距離に置く、と簡単に言っても肝心の距離が分からない。


「こう、塩少々とかコショウ適量とか、なんでしっかり数値を出さないんだ」

「つまり、焚き火から400ミリ離れた地面に350ミリの高さで固定する、とか」

「そこまで厳密な数値は求めていない」


 まぁ焚き火の強さにも拠るだろうし、やっぱり「適度な距離」になるんだろうな。


「とか言ってる内に、なんか真っ黒になって来たぞ……」

「ああ、もっと離さないと焦げてしまいます。どうしますか、タクヤさん」


 串を動かそうとした瞬間、脳裏に閃く未来予知。

 魚の焦げる範囲に俺が入るという事は、それすなわち焼死の危険大。


「くそ。俺は魚の焼き加減は分からないのに、自分の焼き加減は理解してしまう!」

「えっと、焚き火から2メートル離れた距離で焼死の危険、と」

「はい、そこ。サバイバルガイドに注釈を書かなくていい」


 誰の役に立つ情報なんだ、それは。


「リア、悪いけど俺は死なない。耐え切ってみせるっ」


 俺は顔をパシンと叩いて気合を入れると、素早く焚き火に近付く。

 吹き出す汗、悲鳴を上げる皮膚、沸騰していく血液。


「あああ、熱いっ。だが、この魚は、もっと熱かったんだ!」

「タクヤさん! タクヤさんっ!」

「これは死んだ魚の分っ。これも死んだ魚の分っ! そして、死にそうな俺の分だ!」


 俺は見事にやり遂げた。


「ふぅふぅ……これくらいの距離でよかろう」

「まさに命と命のぶつかり合いでしたっ」


 まぁ既にして魚は死んでいるし、身動き一つしていないんだがな。

 なんで串を動かすだけでこうなるのか。俺ってほんと、スペランカー体質だな。


「さて、後は実際に焼けるかどうかだな」


 数分待ってみて、状況を理解した。


「うむ。今度は全く焼けないな」

「ほんの少ししか動かしていないんですけどね」

「駄目だっ。これじゃあ埒が明かない」


 かといって、目の前に焚き火があるのに生食ってのも考えものだ。

 ここは焼き魚にしたい。そう決めた以上、いよいよもって焼きたいっ。


「そうだっ。ちょっと大きめの平たい石があったよな」


 さっき火事になりかけた焚き火を消火する際、石や砂利を投げ込んだ。

 それを教訓とし、多種多様な石を予め集めておいたのだ。


「ありますけど、どうするんですか?」

「うん。これをだな、かまどの上を覆うように固定して……できたっ」


 焚き火で熱された平たい石が、いわゆるホットプレートとなっている。

 ここに魚を置けば、間違いなく熱が通ってくれるはずだ。


「石の上に小枝を並べて、こうして網代わりにすれば完成だ」

「あっ、直に置いたら、身が石に貼りついちゃいますもんね」


 で、だ。


「また動かすのか、あの魚の串を……戻るのか、あの灼熱の地獄に」

「あの、私がやりましょうか?」


 おずおずと言い出してくれるが、リアに任せてばかりもどうだろう。

 これは俺の無人島生活である。本来は俺一人が全てを担うべきなのだ。


「うぉおおおお! やってやるぜぇぇっ!」

「タクヤさんっ、頑張ってぇ」


 応援してくれるリアの黄色い声を背中に浴びて、俺は地獄に飛び込んだ。

 熱い熱い熱いっ! 汗がプレートに落ちて一瞬で沸騰し、水蒸気となって消える。

 ここまで戦い抜いたんだっ。俺は、必ずこの魚を焼いて食ってやるっ。


「もう空腹とか料理とかどうでもいいっ。意地と意地のぶつかり合いだっ!」

「タクヤさん、その魚は死んでいるから意地も何も無いですっ」

「俺にとっては、死んだ魚も命を狙ってくる暗殺者同然っ!」


 焼け過ぎないよう、魚の両面を程良くひっくり返す。

 俺が凄まじい勢いで死に近付くのと同時に、魚も美味しそうに焼けているっ。


「こうなったら俺が死ぬか、魚が焼けるかだ……できたぁぁぁっ」


 汗を流し過ぎて、病人のように痩せこけた俺が串を上空に掲げる。

 手応えアリ。上手に焼けたぞ、オラァ!


「では、いただきまーーーすっ」


 感無量っ! 全身の汗と血と肉が報われる瞬間だ。

 熱くて脳がはち切れそうで前後不覚の俺は、勢い良く魚にむさぼりつく。


「はぅっ!?」


 ちーん。

死因:勢い良く魚の串を頬張って、串の先を頬に刺してしまった。


来世に続く!


読んでくださり、ありがとうございましたっ。

次回の更新は、明日の昼11時を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ