第13話:掘っ立て小屋で一泊する
地獄へ通じる黄泉平坂。
悠然と歩く俺の威容には、地獄の閻魔も道を譲る貫禄が生まれつつある。
「ふっ。このまま地獄の国盗りってのも悪くないな」
『貴方に道を譲るのは、触れたら死にそうだからって事に他なりません』
まるで俺が紙細工か何かみたいに言うなぁ。
スペランカー体質者の愛女神様レムは、非常に冷たい言葉で俺を責める。
『身の程を知らずに国盗りなんて。アリの巣だって奪えませんよ、貴方は』
「アリって結構凶暴なんですよ? ライオンとかにも群れで攻撃しちゃうし」
『貴方は一匹のアリに負けるでしょうが』
うん、まぁそうなんだけどね。
愛女神レム様の像が輝いて、放たれた光が俺を包んでいく。
『では行きなさい、スペランカー・タクヤよ。まずは無人島を己がモノにするのです』
***
黄泉の国から目覚めると、俺はシダで作った掘っ建て小屋の中に居た。
はて、死んだ時は外だったと思ったんだが。
「あ、起きましたか。今すぐ、そちらにお食事を持って行きますからね」
女神様の化身である、リアの声が小屋の外から聞こえる。
入り口をくぐって、白い狼がパタパタと入ってきた。
鋭い牙の生えた顎には、串打ちされた焼き魚を咥えている。
「んっ、どうして俺が小屋に居るんだ?」
「えっと、急に雨が降ってきたものですから、小屋に運ばせてもらいました」
そういえば、小屋の外からザーザーと雨の降る音がしている。
言われるまで気付かないって事はつまり、小屋の雨仕舞いは完璧なんだな。
「そっか。うん、わざわざ運んでくれてありがとうな、リア」
「いえいえ。本当はもっとお助けしたいんですけど」
「無人島生活は俺のミッションだからな。充分に助かってるよ」
リアが照れたように鼻をく~っと鳴らし、小屋の隅で丸くなった。
さて、せっかく運んでくれた焼き魚。今度は落ち着いて食べてしまおう。
「もぐもぐ……おっ、これは……」
見事に生焼けだな。
表面はいい感じに焼けているけど、中心に近付くと生っぽい弾力が歯に返ってくる。
「とほほ。あんなに苦労したのに失敗か。カッコ悪いなぁ」
「そんな事は無いですよ。タクヤさん」
リアが毛並みを繕いながら、俺に優しい言葉を掛ける。
「上手くいかないまま放置せず、できるだけ成功するよう努力する」
「必死にやっているだけさ」
「それです。諦めずに挑戦する姿こそ、タクヤさんの魅力ですよ」
まぁ俺が止まる時ってのは、だいたい死ぬ時だからなぁ。
死ぬまでは全速力で走ってる感、否めない。
「なんか線路から脱輪した暴走列車みたいだな、俺」
言いながら、俺は生焼けの魚の串をどうしたモノか思案する。
とても食べられるシロモノじゃないからなぁ。
「あ、じゃあ私が食べますよ」
「でも、生焼けだぞ?」
「お忘れですか? 私は女神レム様の化身。白狼以外にも変身は可能です」
地獄で見た女神様の光が、白狼のリアを中心に広がっていく。
その光が静まった後に、白狼の姿は無かった。
「にゃにゃーん。なんちゃって」
代わりに白いシャム猫が、顔の横で手招きしながら俺を見つめていた。
こ、これがリアなのか?
「猫の姿なら、どんなお魚も美味しく食べられますっ」
スラっとした白い毛並みをまとい、得意げに細い胸を反らす。
か、可愛い……肉球とか触ったら叱られるかな。
「では、いただきますね。はむはむはむっ」
俺の手から魚の串をパシッと奪って、美味しそうに齧りつく。
おおっと、猫の狩猟本能が抑えきれないのか。
「もぐもぐっ。美味しいですよ、タクヤさんっ」
「食べるのは良いけど、それ俺の食べ残しだよ?」
「大丈夫ですよ。猫は古来より、人の残り物を食べてきたんですから」
「俺が口にした奴だけど、いいの?」
リアはにゃあにゃあと鳴きながら、なにやら床を転げまわり出した。
あ、間接キスで恥ずかしい事に気づいたか。
「にゃああああ」
「さて、雨も降ってるし、今日はもう寝るか」
「にゃああああ」
「おやすみー」
照れて転げまわるのに忙しそうなリアを横目に、俺もゴロリと寝転んだ。
無人島生活の初日は、こうして多大な瀕死を迎えつつも、無事に終わるのだった。
うつらうつら……。
ぴちょーん。
「うぅ……」
寝苦しい。
疲れていた俺は、横になってすぐ夢と現実の曖昧な状態へと移った。
なのだが、さっきからやたらと額がムズムズする。
「うーん、うーん」
起きて額を払いのけたいが、疲労が溜まり過ぎて……動けないっ。
まるで金縛りのようだ。
「にゃあ~、にゃあ~」
隣からリアの「いかにも猫でございっ」という寝息が聞こえる。
徐々に覚醒していく意識が、俺の身に起きている現象を把握させた。
「俺の額に……雨漏りの水滴が落ちているのか」
ぴちょんぴちょんと、確実に一定のリズムで落ちる水滴。
うううっ、ストレス・フルー!
「駄目だ、早くなんとかしないと……でも疲れて動けない……でも鬱陶しいっ」
今日は色んな事があった。疲れてヘトヘトなんだ。もう動けないんだ。
ぴっちょーん、ぴっちょーん、ぴっちょーん。
もう眠って休みたいんだ。泥のように眠りたいんだ。
ぴちょんぴちょん、ぴっちょーーん。
「あああああっ! もう死んだ方がマシじゃあー!」
ちーん。
死因:額に水滴が落ち続けた事によるストレスで倒れる。
来世に続く!
読んでくださり、ありがとうございましたっ。
次回の更新は、月曜日の昼頃を予定しています。




