第33話 異変
「あらら、これはもうだめね。シル、予備の剣は持ってないの?」
折れた剣を見て、ライアがシルファに尋ねた。
「……はい、街に戻ったら新しい剣を買うしかないですね」
シルファは、折れた剣を見つめていた。
そして少し寂しそうに微笑みながら、指先でそっと剣を撫でた。
そんなに大切な剣だったんだ……。
だったら、なおさら直してあげたい。
「ねぇ、シルファ。その剣って大事なものだったの?」
「いえ。ただ、小さい頃からずっと使っていた剣なので、少し残念だと思っただけです」
長い間、使い続けてきた思い入れのある剣だったのか。
こんな悲しそうな顔しているシルファを放ってはおけない。
私はシルファの手を取った。
「ちょっと、こっちに来て」
神具創造は、まだみんなの前で使いたくない。
私は地面に落ちていた剣先を拾い、シルファと一緒に岩陰へ移動した。
「えっ、どうしたんですかキアラ?」
「この剣、大事なんでしょ? できるか分からないけど、直せるか試してみていいかな?」
「えっ? 直せるんですか?」
「もしかしたら無理かもしれないけど、やるだけやってみたいんだ」
「……はい。お願いしてもいいですか?」
その言葉に、私は静かに頷いた。
私たちは並んで地面に座り、折れた剣を目の前に置く。
そして剣に視線を落とし、その刀身をじっと観察する。
イメージするのは、元通りになった剣。
そして、以前よりも頑丈で、鋭い切れ味を持つ刀身。
シルファが大切にしてきた剣を、もう一度使えるようにしたい。
そんな思いを込めて、私は口を開いた。
「元通りの形で硬い物でも切り裂ける、頑丈な剣――《神具創造》」
剣が淡い光に包まれる。
「……えっ?」
指先から、不思議な感覚が流れ込んでくる。
折れた刀身が、あるべき姿へと戻っていくイメージが頭の中に浮かんだ。
まるで、剣そのものが私に語りかけているみたいだ。
私はその感覚に導かれるように、意識を集中させた。
光は折れた刀身をなぞるように広がり、断面同士を引き寄せていく。
やがて継ぎ目が消え、刀身が一本の剣へと戻っていく。
その時――。
胸の奥から、何かがすっと抜けていくような感覚がした。
けれど、何が起きたのか考える間もなく、剣がひときわ強い金色の光を放った。
「うわっ!」
光が収まると、ぽっきりと折れていた剣が、何事もなかったかのように元の姿を取り戻していた。
「おお、成功した!」
思わず声が弾んだ。
これで、シルファもまたこの剣を使える。
そう思い、剣に手を伸ばしたその時。
あれ? なんだか少し体が重い。
まるで、急に全身から力が抜けたような感覚。
私は思わず、自分の手を見つめた。
大したことはないけれど、いつもより疲れた気がする。
今までこんなことなかったのに、なんでだろ?
そんな疑問を抱きながら、私は修復した剣をシルファに差し出した。
「ええっ、これ本当に直ったんですか?」
シルファは信じられないといった様子で、剣を見つめた。
たしかに、本当に治ったのか確認しなきゃね。
「ちょっと待ってね――《鑑定》」
【名称】ブロードソード(改)
【ランク】中級
【耐久度】C
「……えっ? (改)ってなんだ?」
それに耐久度?
今まで見たことない表記だけど、これってどんな意味があるんだ?
「ねぇ、シルファ? 剣って耐久度とかあるの?」
「あっ、はい。この剣は初級装備なので、確か耐久度Dのはずです」
「へっ? そうなの……なんか耐久度がCになってるんだけど……初級?」
私は思わず、鑑定結果を二度見した。
いや、どう見ても中級って書いてあるぞ?
……もしかして、神具創造には装備の品質を上げる力もあるのかな。
そういえばさっきおかしな感覚があったな。
あれはなんだったんだろう?
「二人とも、何してるの?」
「「えっ?」」
突然の声に驚いて振り向くと、ミネッサが岩陰から顔をのぞかせていた。
「うわっ! ミネッサさん何してるんですか?」
「二人が何してるのか、ちょっと気になって」
ま、まずい!
思わず神具創造を使って、剣を直しちゃった。
錬成で修復したことにすれば、誤魔化せるかな?
でも、品質まで上がったことはどう説明すればいいんだろう……?
と、とにかく、何とか誤魔化さないと!
私はシルファにこっそり耳打ちした。
「ごめん、耐久度とかが上がってることは内緒にしてもらっていいかな?」
「あっ、はい。いいですよ」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろし、ミネッサに向き合う。
「えっと、錬成でシルファの剣を直してたんですよ。あはははー」
冷や汗をダラダラと流しながら、そんな言い訳をしてみた。
見た目は元の剣と変わってないし、大丈夫だよな?
すると、ミネッサは私の顔をジッと見た。
そして。
「錬成……すごいね」
ミネッサは感心したように、岩陰から出てきて剣を眺めた。
よっしゃ、何とか誤魔化せた!
「じゃあ剣も直ったしみんなの所へ戻ろうか」
「そうですね、キアラ。ありがとうございます」
シルファは剣を抱きしめるように持ち、屈託のない笑顔を浮かべた。
うん、この顔が見られただけで、直してあげてよかったと思えた。
「ふふっ、喜んでもらえて私もうれし――」
立ち上がった瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
「えっ……?」
急に足元から力が抜け、膝が崩れそうになる。
まずい……立っていられない。
あ、倒れる――!
「「危ない」」
咄嗟にシルファとミネッサが左右から私を支えてくれた。
「キアラ、大丈夫?」
シルファは私の腕を支えながら、不安そうに顔をのぞき込んだ。
「えっ、ああ。大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけだから」
心配をかけたくなくて、私は笑顔を作った。
まだ少し足元がおぼつかないけど、なんとか歩けるだろう。
二人がそっと手を放す。
私は恐る恐る、一歩踏み出した。
うん、もう大丈夫だ。
……でも、今の立ちくらみはなんだったんだろう?
もしかして、剣を直したことと何か関係があるのかな……?
首を傾げながらみんなの所へ戻ると、ライアが振り返った。
「あら、なにしてたの?」
「ふふっ、キアラが錬成で剣を直してくれたんですよ」
シルファが嬉しそうにみんなに剣を見せた。
「ええっ、あれを直せたの?」
ライアが元通りになった剣を見て目を丸くしていた。
「ほう、錬成師は修理もできるって聞いたけど、レベル1でここまで綺麗に直せるなんて、たいしたもんだな」
ディオナも剣を見て感心していた。
おお、錬成師も修理できるんだ!
よし、どうやら誰も疑ってないみたいだ。
やっぱり錬成師を選んでよかった。
ほっとしていたら、少し離れてミネッサが私をジッと見ていることに気づいた。
目が合うと、ミネッサは何も言わず、ただ意味ありげに微笑んだ。
……あれ?
まさか、神具創造を使ってるところ、見られてないよね?




