第13話 初めてのお買い物
ギルドから出ると、外はすっかり暗くなっていた。
しかし街中には街灯が並び、夜だというのに通りは明るかった。
どういう仕組みなのかは分からないけど、あれも魔法なんだろうか。
そんなことを考えながら辺りを見回すと、立ち並ぶ屋台にたくさんの人が集まっていた。串焼きの屋台からは、ジュウジュウと肉の焼ける音と香ばしい匂いが漂ってくる。
串焼きを片手に歩く子供連れの若い夫婦の姿も目に入った。
そしてテーブル席では、冒険者風の男たちが楽しそうに酒を酌み交わしている。
まさに異世界といった雰囲気だった。
屋台が並ぶエリアを抜けると商店などがいくつか見えた。
その中に、ドレスやワンピースが並ぶ店を見つけた。
吸い寄せられるように近づき店内を覗き込む。
「うわぁ、可愛い服がいっぱい」
「キアラはこういうのが好きなの?」
服に見惚れていると、ライアが後ろに立っていた。
「あっ、はい。好きというか……憧れですかね」
「憧れ?」
「こんな可愛い服、一度着てみたかったんですよ!」
「ふふっ、そうよね。女の子ならみんな憧れるわよね。ちょっと入ってみる?」
「はい!」
気付けば身を乗り出していた。
前世では入りたくても入れなかったお店だ。
少しくらい興奮してしまってもしょうがないだろう。
ウキウキしながら店内に入り、服を見て回る。
「ねぇ、これなんかキアラに似合いそうじゃない?」
すると、ライアが一着のドレスに目を付けた。
「えっ?」
視線を向けると、それはフリルがたくさんついた紫色のドレスだった。
「可愛いんですね……でも」
なんだかアリシアが着ていたドレスみたいだなこれ。
そんなことを考えながら、何気なく値札を見る。
「へっ、二万ナール?」
今日もらった報酬がほとんど消えちゃうよ。
この後、ごはん代と宿代も必要だし。
明日からの生活だってあるんだから、これはさすがに無理だな。
「これは、ちょっと高いですね」
「うわ、そうね。ちょっと駆け出し冒険者には手が出ないわね、これは」
ライアも値段を見て納得していた。
「キアラ、こっちのワンピースも可愛い」
すると、今度はミネッサが声を掛けてきた。
それは上下が一体になったワンピースだった。
白いブラウスを重ね着したようなデザインで、腰回りは黒。
濃い青のスカートが落ち着いた雰囲気を出している。
派手さはないけど、なかなかいい感じだ。
特に首元のひもリボンがとても可愛い。
「うん、悪くないですね」
いくらだろうかと値札を見ると。
「五千ナール!」
買えなくはないけど、所持金の五分の一はちょっと悩むな。
「いいじゃないこれ、試着させてもらったら?」
「うん、きっと似合う。さぁ、お着替え」
「ええっ、ちょっ……まだ買うかどうかわからないですよ?」
「「いいから」」
二人に背中を押され、そのまま試着室に押し込まれた。
中には大きな鏡があり、その前に立つ。
「あっ……」
そこには、森で見た水面よりもはっきりと自分の姿が映し出されていた。
サラサラの銀髪に、ぱっちりとした紅い瞳。
何気なく、そっと口元に触れる。
「おお。俺、可愛い……」
思わず声に出してしまった。
いや、今は見惚れてる場合じゃないな。
せっかくなんだから着替えないと。
「ん? これどうやって着るんだ?」
着方がわからないのでとりあえず頭からかぶる。
「あれ?」
もがいていると腕が変なとこから出た。
「違う違う、こうじゃない」
心を落ち着けてもう一度やり直す。
「よし、着れた! ……あれ、これ前後逆じゃん」
一度腕を引っ込めて、首だけ出した状態で服をくるっと回す。
「ふぅ、なんとか着れたよ」
そして、改めて鏡に映る姿を見ると。
「うわぁ、これ凄くいいじゃん」
特にスカートが膝下まであるので、自分で作ったものより安心感がある。
これならもうパンチラの心配をしなくて済む。
いや、元からあんまり気にしてなかったけど。
「キアラー、大丈夫?」
「あっ、今開けます」
ライアの声が聞こえて慌ててカーテンを開ける。
「えっと、どうでしょうか?」
ちょっと恥ずかしいのでスカートを軽く押さえながら尋ねる。
「あら、よく似合ってるじゃない」
「うん、超可愛い。マジ天使」
二人とも目を輝かせていた。
「えっ、そうですか? そんなに褒められると照れちゃいますよ。えへへ」
やっぱり可愛いと言われるのは嬉しい。
しかし、この服どうしよう。
似合うと言ってもらえるのは嬉しいけど、五千ナールだもんな。
「それでどうする、買っちゃう?」
「うーん、そうですねぇ」
正直に言うとかなり欲しい。
でも今の所持金を考えると気軽に買える値段じゃないしなぁ……。
俺は脱いだ自作ワンピースをチラッと見る。
でも、ずっとこれを着てるわけにもいかないよな。
今は着替えもない。
今日はお金も稼げたわけだし、少しくらい贅沢してもいいだろう。
それに、やっぱり俺は可愛さが最優先だ。
「よし、買っちゃいます!」
「「おおー!」」
なぜかライアとミネッサが拍手をしながら盛り上がっていた。
すると、その声を聞いていたのか、近くにいた店員のお姉さんが微笑みながら近づいてきた。
「ありがとうございます、とてもよくお似合いですよ」
「すみません、これ着て行ってもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。では、元のお洋服は袋に入れておきますね」
「あっ、お願いします」
俺は思わずその場でくるりと回った。
「ふふっ、本当に気に入ったみたいね」
「えへへ、すみません。ちょっとテンション上がっちゃいました」
そうしてお金を払い、店を後にした。
新しいワンピースの裾をつまんで、歩きながら軽く飛び跳ねていた
「ふふふ……そんなに嬉しいの?」
「キアラ、可愛い」
「はっ、しまった。無意識にスキップしてしまった」
思った以上に浮かれていたようだ。
でも、この世界で初めて自分で選んで買った服だ。
絶対、大事にしよう。




