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18 - リンゴ泥棒注意

 次の日の朝。


 加奈はアダムを引き連れて店の修繕に向かった。業者に連絡したが最速でも見てもらえるのが来週になるらしく、とりあえずの応急処置を施しておくらしい。

 アダムを連れてきてしまった私も責任は感じている。後で手見上げでも持って手伝いに行こう。


 ぐっすり眠った私が目を覚ました時には時計の針は十三時を回っていた。母が用意してくれた昼食を取ろうとダイニングに顔を出す。


 ダイニングには誰もいない。テーブルの上に用意された昼食にはラップが被せられている。

 私はテレビの電源を入れて、用意されていた生姜焼きをレンジに放り込んだ。その間にご飯を茶碗に盛り付ける。


『続いてのニュースです』


 何気なくかけたテレビはお昼のワイドショーが放送されている。青森ではお馴染みのご当地アナウンサーが懐かしい。


「この人まだやってるんだ」


 ダイニングの所定の席につくと、温め直した生姜焼きの良い香りが部屋を包んだ。


『リンゴの泥棒が相次いでいます。ご注意ください』


 東京では考えられない内容が放送されている。事件の内容はさておき、青森ならではのニュースで、青森感を感じられて何だか嬉しい。

 リンゴ泥棒。農家の娘として決して許せない。丹精込めて育てたリンゴを盗むなんて信じられないことだ。


「物騒だな~」


 視線はテレビに向けたまま、生姜焼きを一口つまむ。

 生姜の香りと甘辛いタレが何とも言えない絶妙なハーモニー。白米を一口。純粋に美味い。

 久しぶりの母の味というのがさらに旨味を引き立てているように思える。


 地元では馴染みのキャスターたちが物議を醸しているのを横目に眺めながら、残りの昼食を綺麗に平らげた。


 食事をとり終えた後、食器を流し場に運ぼうと持ち上げた時、テーブルの上に置かれたスマホがけたたましく鳴った。


「ちょっと待ってくださいよ~」


 流し場に食器を置いて、軽く手を洗う。


 スマホのディスプレイに『加奈』と表示されていた。

 私は電話を取った。


「もしもし」

「もしもし、雫? 今、大丈夫?」

「うん。後でそっちいくけど……どうした?」

「あっ……うん。今ってさ……どこにいる?」


 何処か含みのある唐突な加奈の質問に私は首を捻った。受話器越しでは伝わらない。

 もしや引掛け問題的な何かがあるのだろうか。捻りの効いた回答も思いつかなかったので、私は正直に事実を伝えることにした。


「家だけど……」

「だよね⁉」


 加奈の食い気味なクエスチョンに、いよいよわからなくなってきた。


「ど、どうして……?」

「たった今さー! アダムさんとホームセンターに来ていたんだけど、そこで雫に瓜二つの人がいたんだよね!」

「え~他人の空似じゃないの? 大して似てないんでしょ?」


 自分に似ているという人がいたと告げられて、どこかむずかゆさを感じた。普段はどうとも思わないのに、なぜか今日はあまり良い気がしなかった。幼馴染で親友の加奈に言われたからだろうか。

 加奈は大袈裟に言うこともあるから、おそらく大して似ていないのだろうけれど。


「本当にそっくりだったんだって! それで、アダムさんが追いかけて行っちゃってさ!」

「わかった。すぐ行く。食堂近くのホームセンターだよね?」

「そうそう、ごめんね。お疲れのところ」

「大丈夫」

「それじゃあ、待ってまーす」


 電話が切れて、私は自室に戻った。

 適当な服をクローゼットから見繕う。


「あんまり可愛いのないな……」


 お気に入りの洋服は全部東京の部屋に持っていっているので、実家には昔着ていたものしか残っていなかった。

 その中でも小奇麗な服を選んで、私はすぐに着替えた。


「まあ、これでいっか」


 姿見で全身を眺める。

 シンプルな白のTシャツに細身のデニムパンツ。随分とラフなスタイルになったが、ホームセンターに行くだけなら十分だろう。


 私はスマホと財布だけ鞄に詰め込んで、すぐに家を飛び出した。



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