冬の国侵攻①
「この村が無条件降伏か」
砦にあった地図を活用してサキュバス達を使った偵察部隊を送り込み村や町の位置を割りだして1つずつ確実に潰して行った。
最北端に位置するこの国の名前は冬の国と呼ばれているらしい。
「魔王様よぉ。潰しちまえばいいだろう」
「潰すのは簡単だろう。1つの村を潰す労力すら惜しいんだ」
調べてみると小さな村が点々と広範囲に広がっていて魔王軍の戦力を割くにはリスクがある。
あくまで1万の軍だからこそ砦を落とせただけだ。
命乞いをする村、魔王軍襲来に全員逃げ出す村、抵抗する村など様々な反応を示すが魔王軍の恐ろしさを叩き込み徐々に侵略は進んでいっている。
「報告、敵軍を発見。魔法使いの様な集団でした。遠距離から焼くつもりかと」
「近くの部隊を」
「はっ」
次々に寄せられてくる情報を統括し迅速に対応させる。
空を飛ぶという事は地形関係なく一直線に情報を持ってこれるのも強みだ。
「次の相手だ」
村人から街の位置情報を聞き出して全軍を集結させる。
砦に比べて貧相な壁を持つ街だ。
バサッ
一番高い建物に白い旗が登った。
「降伏か」
「無抵抗な相手も容赦なく叩くのが魔王のやり方?」
「無益な戦いは避けるべきだな。使者を送れ」
使者が中へと入り門が開かれた。
「空部隊は上空で待機し、妙な動きがあれば」
「承知したで御座る」
「分かったわ」
人間達にも頭の回る奴はいる。規模として大きな街を無条件で開け渡すとは考えにくい。
緊張感が漂う中、街へと入る。
「静かだな」
「人の気配がしませんぜ」
「逃げたブモォ?」
スンッ
「これは・・・」
雨も降っていないのに地面が濡れて異臭が立ち込めていた。
「不味い! 全員街から出ろ!!」
気づいてフレアを抱えて空へと飛び立つ。
俺の声に反応した魔族達が散り散りに走り始めるが中央付近に居た者達が逃げ遅れる。
ボアワアアア
何処からか発火して数秒で町全体が炎に包まれた。
「街一つを犠牲にした焦土作戦か・・・」
ギャァアアッ
ガアアアッ
「これが、これが人間のやる事なの!」
同胞が焼かれ死ぬのをみてフレアは怒りに震えている。
「あぁ・・・これは俺の落ち度だ」
「魔王様は悪くないで御座る」
「私達がシッカリ偵察していれば・・・」
人間達が街を捨てて俺達を殺す罠を仕掛けてきたとは思っていなかった。
「被害は?」
「地上部隊の2割が死んだわぁ」
中央へ進んでいった魔族達が逃げ遅れた結果だった。
キラッ
視界に光を捕らえた。
ブシュッ
「魔王様!?」
頬に一筋の傷が出来て血を流す。
「心配するな、掠めただけだ」
光のやってきた方向を見ると・・・
「光の勇者、もう復活してきたか」
左腕の治療を終えて、以前と変わらない姿で佇んでいた。
ダッ
だが、直ぐに引き返していった。
「部隊を再編制して使える物を回収して進むぞ」
空城の計からの焦土作戦による殲滅を狙っていた・・・あの勇者は・・・。
更に南下して次々に村や町を攻略していく。
「少なくなったな」
1万もいた魔族達が半分程度まで数を減らしていった。
度重なる連戦によって負傷者が増えていったからだ。
途中で回復した者が合流する事もあったが人間達の抵抗は激しく、なりふり構っていない感じが見受けられた。
井戸に毒を流し込んで不用心に飲んで死んでいった者もいる。
「潮時なのかもな」
ここ連日連夜移動しては村や町を襲撃し同胞が倒れていくのを見て魔族側の士気も落ちていた。
「報告! 王城が見えました!」
ここまで来るのに2ヵ月程掛かり、王都へとたどり着いた。
ウォオオオオ!
「やはり待ち構えていたか」
草原が広がる中、俺達より数倍の兵が陣を敷き待ち構えていた。
圧倒的に数では不利と見える。
「魔王殿、ワシの出番じゃな」
竜王が空から降りてきた。
他のドラゴンよりも大きく、15mの巨体は他を凌駕する。
「喰らうが良い、武技:激竜破」
ドッ
人間達に向かって放たれた闇のブレス。
ヒィイインッ
ピキィンッ
人間達の前に光の膜が広がる。
ドバッ
ブレスが光の膜に衝突して上下左右に広まった。
「ワシの攻撃が防がれたじゃと?」
「光の結界だ・・・」
なんだ、生命反応が一瞬で減ったぞ?
奥の方に居た複数人の生命反応が消えかかっていた。
「命を削りだして結界を張ったのか」
「どうするのじゃ?」
フワッ
視界に白い何かが映り込んだ。
「最近寒いと思っていたが冬が来るのか」
「魔王様、次の指示を」
「撤退だ」
「なっ!? ここまで来て撤退だと!」
「ここまでの苦労を水に流すので御座るか」
「勿体ないモゥ」
「本格的に冬が来てしまったら撤退も出来ない可能性もある。全軍、魔王領へ戻るぞ」
ブォオオッ
角笛が吹かれて俺達は魔王領へと引き返す事にした。
・・・
「魔王軍が撤退していくぞ!」
「我らの勝利だ!」
数十人の命を犠牲にして魔王軍と一戦もせずに勝利に酔いしれる人間達。
この結果に国王は胸をなでおろした。
集めた兵士の殆どが農民からかき集めた烏合の衆が殆どを締めていた。
噂に聞いていた竜王が出て来た時は驚いたが黒いブレスを数十人の魔法結界で防ぎ被害を最小限に抑え込んだ。
「勇者さえ、復活すれば」
現在も治療中で勇者は前線に立てないでいた。
あの時、勇者の格好をさせて光の魔法使いを使って魔王に攻撃を放ったが避けられてしまった。
しかし、魔王軍の侵攻速度は下がった事によって人数の確保が間に合った。
雪が強く降り始める中、国王は次の準備に取り掛かろうとした。
春に魔王軍は再び攻めてくる。
それまでに何としてでも勇者の復活を急がねばならなかった。
「勇者を中央にだと?」
「皇帝陛下からの指示です」
数日後、中央に位置する巨大国家である帝国からの使者に国王の心が打ち砕かれる。
「魔王軍は雪で一旦引いたんだぞ! いつ襲撃されるか分からないのに勇者を引かせるという事か」
「皇帝陛下の指示です。中央での治療の方が早く完治するとの事です」
「おのれ! 帝国まで3ヵ月も掛かるのだぞ」
「直ぐに搬送の準備を致します」
左腕の接合が間に合った勇者を使者たちが搬送していく。
「勇者存命だから皆の士気があるというのに」
勇者が秘密裏に搬送されて不在だと知ったら兵の士気が落ちるのは目に見えていた。
・・・
「人間達が?」
今となっては国境となった砦に全面降伏してきた各地の村から深い雪を超えて身を寄せてきた。
「如何致しますか?」
魔王城で春に備えて会議を開いている最中に舞い込んできた。
どうやら全面降伏が裏切りと捉えられてしまったようで村を追われたという話らしい。
砦には常駐している魔族達が冬の間を生きられる程度の食料しか送り込めていない。
更に魔族の土地は大半が雪で覆われていて野生動物等を確保するのも困難だった。
少ない食料、やせ細った土地、食事もままならないのだ。
魔族が繁栄できないのは土地柄なのかと思う。
「砦に入れても食料は渡せない。避難したければ魔王城前まで来いと言え」
「ほ、本気かよ!?」
「人間達を魔王領へ招くで御座るか!?」
「反対よ! わざわざ生かしたのに」
「魔王様、何を考えているブモ?」
四天王から反対意見を貰う。
魔王領に自ら人間を招くなど今までになかった事らしい。
「アイツ等は国の人間が勝手に始めた戦争に巻き込まれた被害者だ。本来なら庇護されるべきだった筈のな。それに考えはある」
あの広い魔王城前の土地・・・決戦の舞台として非常に戦いやすい場所だ。その場所に罪もない人間達が住み暮らしている場所を勇者が焼き払うのだろうか。
人間達を防壁の代わりにするというその考えを話してみれば納得はしてくれた。




