不穏
編入して、半年が過ぎて環境にも慣れ始めてきた。
「アリシア!」
今日もアリシアに怒鳴り散らすバーン。
毎日1回は怒鳴っているが飽きないのか?
「お前は、弱い者をイジメているそうじゃないか!」
ん?
これまでのバーンから普段とは違う事を言い始めた。
「ルーイン嬢を転ばせたそうだな」
転ばせた?
アリシアの性格を知っている以上、そんな事は無いと思う。
ガルムやロッテも首を傾げている。
「バーン様、私には身に覚えが」
「黙れ! 本人から聞いたことだ」
片一方から聞いたことを鵜呑みにしているのかよ。
ガタッ
流石の理不尽な言葉に腰を上げようとするが、アリシアが目線で訴えかけてくる。
「本当に身に覚えがありません」
「まだ、言うか! 王太子たる私に嘘を言うとどうなるか分かっているのか?」
「では、何時頃の話でしょうか?」
ん?
普段のアリシアにしては強気だ。
「さっきだと聞いたぞ」
「何分くらい前の話ですか?」
「うっ、大体30分前だと」
適当に答えてないか?
「おいおい、30分前なら俺達は授業してただろ」
「どうやって転ばす事ができるのかしら」
流石にボロボロな証言にガルムとロッテが声を上げる。
「クスクス、それでしたらクラスメイト全員が証人になれますわ」
「うっ! 時間なんてどうでもいいだろう! 次、イジメをしていると知った時は私も本気にならざるを得ないからな」
そういって席へと戻っていくバーン。
「アレはないだろ」
「無いですわね」
「ですわね」
周囲からも笑われてバーンはプルプルと震えている。
当の本人はバーンのフォローに入っている・・・何を考えているんだか。
それから、ちょくちょくバーン経由でアリシアがルーイン嬢をイジメているという話を持ってくるようになった。
それだけでは無く、他のクラスメイト達がルーインを庇い始めた。
「これは」
日に日にルーインの味方が増えていく事に違和感を覚えた。
「アリア様。少しいいですか?」
「構いませんわ」
俺はシズカから図書館に呼ばれた。
「ルーイン様の事なんですけど」
「あの噂についてですの?」
「私はアリシア様がイジメをしている現場は見ていないので何とも言えませんが・・・この魔法をご存知ですか?」
図書館にある魔法全書のとあるページを開く。
「闇属性魔法・・魅了ですわね」
ピンポイントで当ててくるな。
「知っているのですか?」
「伝承程度ですが」
聖大陸では闇属性に適した人間はほんの一握りしか生まれてこない。
長い歴史で闇属性魔法の適用者は何かしらの悪事に向かう傾向があると言われている。
魅了も数百年前、別の国で傾国の姫と謡われた女性が使用者だった。
「それが何か?」
「私は一つのギフトを神様から貰っています。魔力視という魔眼です」
「それで?」
「この魔眼は相手の魔力を色で見分ける事ができます。火なら赤色、水なら青色、風なら緑色、土なら茶色、光なら白色、そして」
「闇なら黒色ですか?」
「はい。それでルーイン様の体が出ているのは」
「黒だと?」
「そうです。確かに白い魔力が出ている時もありますが・・・比較的に」
「闇魔法の使い手ですのね?」
「確証はありません。でも、最近のクラスメイト達の様子が急変したのはコレくらいしか思い浮かばなくて」
「私になぜそれを?」
「アリア様は自身の魔力色を知っていますか?」
「その魔眼を持っていませんもの」
「7色です。赤・青・緑・茶・白・黒・無」
無色も色とカウントするのか?
「全て交っていて綺麗に映るんです」
「それは、有難うございますわ」
「ただ、私はもう一人知っています」
「誰ですの?」
「第九魔王です。彼女の体からも7色の魔力が漏れていました」
「あら? 私を魔王と疑いで?」
「ち、違います。見た事あるというだけです。本題に戻ります」
慌ててシズカが外れそうになっていた話題を戻す。
「意識的なのか無意識なのか分かりませんが、おそらく魅了の魔法を使っているかと」
「闇の魔力を持つ私に相談したのはそういう事ですね」
「えぇ」
シズカは四属性の魔法を扱うメイジだ。
闇・光・無・時は専門外の為、俺に相談してきたのか。
「闇魔法については私も専門外ですの」
「そうなのですか?」
「はい。お力に添えず申し訳ございません」
闇属性こそメインなんだが、ここは謝っておこう。
「先生方に聞いても闇について知る人が少なくて・・・」
「そうですわね・・・闇というのは心の影響で発動する物もあるとか」
「心の影響でですか?」
「傲慢・怠惰・嫉妬・憎悪・強欲などですわね」
「有難うございます。すこし進んだ気がします。心の影響ですね」
シズカはスッとした顔になって図書室を出て行った。
その日を境にルーインが闇魔法を使っているという噂が流れ始めた。
「アリシア! よりにもよって闇魔法などと言いふらしているんだってな」
「私は存じ上げません」
「見ろ、ルーイン嬢が傷ついているんだぞ」
涙を流してアルマン達に慰められているルーインが居る。
「何度も言いますが私には心当たりはありません」
毅然と立ち振る舞うアリシア。
「ん?」
アリシアの中から魔力が漏れ出ている。
「アレは」
「アリア様、どうしました?」
「いえ」
俺の様子にロッテが話しかけてくる。
「アリア様、少し」
「構わなくてよ」
再びシズカに呼び出される。
「アリシア様に何かありました?」
「見えたのか?」
「はい・・・白い魔力が少し漏れていました」
「白・・・光属性ですわね」
「適性者なのは確かです」
魔力眼は便利だな。
「しかし、見当がつきませんわ?」
アリシアの中で何があったのかが分からない・・・。
なんだか人が変わったようになったとしか分からない。
「そういえば・・・」
シズカが泣いた日の数日後にアリシアが倒れて保健室に運ばれたという事があった。
何かがあったとしたらソコしかなかった。
その日についてクラスメイトに聞きまわったが、いつも通りバーンがアリシアに怒鳴っている途中で倒れただけとしたか情報が集まらなかった。
高熱を出して倒れ数日は休みを入れてた記憶がある。
俺も疲労による風邪だったと聞いて気にもしていなかった。
「彼女も転生者?」
「テンセイシャ?」
「いえ、こちらの話です。また気になったことがありましたら相談します」
「何時でも来てくださいまし。シズカ様の着眼点は私たちの価値観では測れない物ですから」
「はい」
この日を境にバーン達によるアリシアの非難が強くなっていく。
クラスメイトだけではなく同学年の生徒たちもルーインの味方になっていく。
クラス内部ではルーイン派とアリシア派、中立派という形で別れた。
アリシア派は俺、ガルム、ロッテ。中立派はシズカのみ。ルーイン派はその他のクラスメイト全員だ。
ちょくちょく、俺はシズカに呼び出されて情報交換をしていた。
「クラス全体がですの?」
「私の魔力眼でみると暗闇に覆われています。アリア様達周辺は見えるんですけれど」
いよいよ、クラス全体に影響を及ぼすほどの魔法を使っていると報告を受ける。
「シズカ様は無事の様ですわね?」
アリシアの近くに居ないシズカも影響を受けていそうだが。
「魔法耐性があるから、抵抗できています」
闇魔法に飲まれない耐性持ちか。
「アリア様の力で浄化とかできませんか?」
「闇と一緒で光も心の影響で発動する魔法ですの。正義・博愛・希望・信仰などですわ」
「難しいんですね」
「光や闇の魔法はとっても難しいんですの」
そう誤魔化して有耶無耶にする。




