認識
パチクリッ
ん?
俺は一体・・・ここは何処だ?
キョロキョロ
気がついたら俺は見知らぬ場所に居た。
周囲を見渡すも、木が生い茂っている場所しか分からない。
奥までずっと同じような木が乱立している。
グッ
「ん?」
立ち上がろうとして力が入らず下を見た。
「なんじゃこりゃ?」
ブヨっとしたお腹に小さく短い手足が生えている。
ペタペタッ
顔を触ってみると明らかに大人の顔ではない・・・
コツッ
「なんだコレ?」
耳の上付近から小さく固い物がついていた。
アクセサリーの様に付いているのかと思ったが皮膚から直に生えていた。
「俺は一体?」
しばし考える。
俺、赤ん坊じゃね?
そう結論を下した。
記憶が混濁していて意識がなくなる前の記憶が殆どない。
あるのは自身が大人の成人だった事ぐらいだ。
「どうなっているんだぁ?」
下半身には申し訳程度の布が巻かれている。
それ以外の肌が露出している。
赤ん坊を森だか林だかに置いて行った人物がいるだろう・・・ありえねぇ。
俺の中にある常識がこの状況を否定する。
「くっ」
ロクに食べていないのか、ハイハイもまともに出来ない体を動かして光の濃い所を目指してズリズリと這いずり回る。
スゥッ
体が地面と擦れて擦り傷を作りながらも俺はとうとう光の濃い場所へとやってきた。
「水だ」
木々が開けて、光が降り注ぐ空間へと出て来れた。
その場所は綺麗に澄んでいる泉だった。
大体直径10m前後の窪みに水が流れ込んできて溜まっている。
ゴクゴクゴクッ
喉が渇いていて気にせず顔を突っ込んで水を飲む。
プハッ
「旨い!」
人生の中で一番うまい水を飲んだ気がした。
水を飲んで力が出て来た気がする。
ピリッ
「いててっ」
今頃、擦り傷の痛みが復活した。
「これが俺?」
水面に映し出された俺は小さな赤子だった。
目鼻顔立ちは整っている、眉や短い髪の毛は銀というより薄い青。
喋るときに違和感があったが、小さな八重歯がチョコンと覗いていた。
何よりも耳の上付近から白い角が生えていた。目は・・・結膜は黒、瞳孔が紅、角膜が白だった。
「なんなんだよ、コレ」
俺の中にある常識が覆されてしまう容姿。
「人外・・・」
記憶に残る、人ならざる者に酷似していた。
ピリッ
「痛い!」
生えている角から鋭い痛みが走って、体重の掛ける場所がズレた。
グラッ
バシャァンッ
俺は泉に落ちてしまった。
水面に上がろうとするも慌ててやめる事となった。
外から鋭い牙の生えそろった口が突っ込まれたからだ。
長い舌が水をチャプチャプと口に運ぶ。
狼か?
水面が揺らいでハッキリとした姿は見えなかったが、俺より数倍も体格を持つ狼が3頭程くらい泉の周りをウロウロしている。
アォオオン!
3頭の狼は水を飲み終えると離れていった。
スゥ
ズキズキと痛みを発していた角は次第に痛みが引いていった。
プハッ
無呼吸状態の限界が来て、俺は泉から這い出た。
「赤ん坊のポテンシャルスゲェな」
2分くらい、水中にいても死にはしなかった。
「ここを中心に動くか?」
生きていくのに水は欠かせない、生後1年程の赤ん坊が生きていくのには過酷すぎる環境だ。
俺の保護者は何をしているのかすら分からない。ここに置き去りにしてしまった事に気づいて探しているならいい。
だが、ワザと捨てていったなら怒りが込み上げてくる。
「はぁ、何とか生きていかなければ」
ため息を突いて、俺は生き残る為に考えた。
今の体で出来るの事は限られている・・・。
赤ん坊の体では小動物すら脅威だろう・・・ましてや狼なんて絶望の対象だ。