エピローグ 彼はいつか辿り着く
『酷いよっ、蒼汰くん!』
夏も終わりだろうに、そろそろ涼しくなって欲しいもんだ。
照りつける太陽を手で覆い隠す。
すると、哀愁すら感じてしまうような塩の風が吹き、鼻を刺激した。
……涼しくはないな。
『幽霊になってから蒼汰君が冷たいよ~
ううっ、ハルちゃん』
『よしよし。蒼……こいつは元々こういう奴だったのよ』
俺から少し離れた所で、夏恋とハルは抱きしめ合っていた。
相変わらず仲がいいなと思っていると、ハルは体制を変えず首だけをこっちに向ける。
そして大きな目を鋭くし睨んできた。もう慣れたので怖くない。
「幽霊のパンツに価値はない」
まぁ、興奮した事実は存在するが。フリル付きのパンツは何度見てもいい物だ。
死んだ時にスカートを履いててくれてよかった。
まさか幽霊に触れられるようになるとはな。パンツもめくり放題だ。
「…………」
自分の心の醜さとは裏腹に、空に浮かぶ雲は白く、綺麗だ。
……ああいった存在にはもうどう足掻いてもなれないだろうな。
『価値はなくてもっ、恥ずかしいんだよ!
幽霊にだって心は……蒼汰君?』
「ん……ああ夏恋、悪い聞いてなかった」
どこか憂鬱な気持ちになっていたら、夏恋がいつの間にか側に来ていた。
どうして彼女まで幽霊として存在しているんだろう。今だにわからない。
そもそも香本さんも光宙もなぜ幽霊として存在しているんだろう。
他の幽霊は全く見たことがない。もう1ヶ月も経つのにわかった事の方が少ない。
ただ、最後のゲームで見た景色が強く関係しているのだけは間違いないはずだ。
考え事をしながら空をぽーっと見つめていると、
『もう……そういえば蒼汰君って空が好きなの?
よく見てるけど』
夏恋の言葉に思わず、太陽を見てしまう。
あの明るさも今じゃ懐かしい。
「好きっていうより、なにかな……
あいつを思い出せるから」
最終決戦で俺を庇った光宙は……うう……。
『コラコラコラ! なに俺が死んだみたいになってんだよ!
まだまだピンピンだぞ、幽霊だけど』
「おいおい、少しぐらい我慢しろよ」
記憶喪失ネタに代わる新たな鉄板なんだ。
バンバン使っていきたい。
『これで何度目だと思ってるんだよ!?
流石にもう我慢の限界ッ! 家に帰らせてもらいます!』
「おう、帰れ帰れ」
俺の肩の高さ辺りでプカプカ浮かんでいる光宙を手で払い除ける。
光宙はその動きに反応するかのように、体全体を沈ませ、こう言った。
『まっ、帰る所なんてないんですがね……』
「……自分で傷つきにいこうとするなよ。
俺も触れないようにしてるんだから」
『ネズミ、その話題はよしなさいよ。ネズミだけじゃなくて、私達共通のイタミなんだから……』
ハルの憂鬱そうな声が上の方から聞こえる。
どうして素直に横に移動せず、俺の頭上辺りを飛ぶのか。
まさかパンツを見られたいわけじゃないだろうに。
『お母さん、お父さん……秋、私の事を忘れちゃうなんて……寂しいよ』
幽霊3人仲良く集まって重い空気を醸し出していた。
俺だけが生き延びた世界……俺が元居た世界なんだろうか。
「…………」
あの車両で起きた凄惨な事件は報道も何もなかった。
……そもそも、俺を除くあの事件に関わった全ての人間の存在がなくなっていた。
より正確に表現するなら元々存在していない扱いだ。
光宙との思い出も他の誰かが代替をしていた。
その事実を知ったとき気色が悪くて仕方がなかった。というより吐いた。
幽霊3人組を見る。こいつらがいなければ今頃俺は本当に狂っていただろうな……。
「駅……か」
あの事件があったってのに俺も懲りないよな。早く免許を取ろう。
はぁ……ナンパは上手くいかなかったな……。
『スマホ買い直そうぜ! 蒼汰っ』
「勘弁してくれ……」
電車に乗るだけでも嫌なのに、トリガーになったスマホまで持ってられるか。
にしても混んでるな。
「はぁ……」
また乗り込んで来たよ。
こりゃ俺の隣も埋まっちまうな。
日常的な憂鬱さを感じていると、俺の目の前で女の子が物を落とした。
「どうぞ」
優しい、優しい俺は女の子が落とした物を拾ってあげた。
決して下心はない。
「あ、ありがとうございます」
物を渡すと同時に女の子の顔をチラリと見た。
どこかで見たような顔をしている……どこだ。記憶の底から探し出そうとして――――車内から光が消えた。
「おい、これって」
『……蒼汰、言いたくないんだけど今お前が持っているものを見ろ』
スマホ……スマホかぁ。ありかよこんなの。
そう思いはしたものの、この展開をどこかで俺は望んでいた気がする。
『だ、大丈夫だよ! 私達がついてるもん!』
『運がないというかなんというか……まっ私も手を貸すわ』
何もわからないままで終わったあの事件――現象。
今回の現象から、もう逃げることはできないだろう。ならば精々ノっていこう。そして解明して、今度こそ彼女のような存在も救って――――
頭を振り、3人に声を掛ける。
『手を貸してくれ。俺が生き残るためにな」
ふふふ、ここまで読んでしまいましたね。どうか叩いて下さい!
ついでにポイントと感想を寄越せぇ!
さて、ここまでお読み頂きありがとうございます。
これにて本作は完結となります。
いつか、私が本来書こうとしていた物を書き直せればと思います。
それでは重ねてお礼を申し上げます。
ありがとうございました!




