ローリスク vs.ハイリスク
「俺が死ぬ」
その言葉に真っ先に反応したのは夏恋さんだった。
「ど、どうしてそんなことを言うの!?
みんな生き残れるんだよ!」
夏恋さんは席を立ち、驚きと怒りを混ぜ合わせた声を上げた。
嬉しいよ、いい反応だ。
「……生き残れるとはいえ、体を犠牲にするのは嫌だろう」
「そりゃ嫌だわ――――」
「あなたは黙っていてください。
蒼汰さん、どうしてそんな事を言うんですか。
生き残れるんですよ……」
司さんの言葉を遮ったのは九条だった。
静かな口調だが大きな怒りが込められていた。正直に言って怖い。
だが、表情に出すわけにはいかない。
「…………」
俺は九条の碧い瞳をじっと見つめる。
互いに狂った者同士、わかってくれないだろうか。
「……理由を、話して下さい。まずはそれからです」
「九条さん!? だ、ダメだよ蒼汰くん。
私は腕や足や顔が変になっちゃうより、蒼汰くんが死んじゃう方が嫌っ!」
「――――そう考えのはお前だけなんじゃないか」
今まで静観していた六道が冷静にそう告げた。
夏恋さんはその言葉に大きな衝撃を受けたのか、目を大きく開き唇を震わせた。
そして、力なく椅子に座り込んだ。
「…………」
可哀想に。そう思える君はこの中で1番綺麗だよ。
誇ってくれ、俺は心の中で呟いた。
「そ、そうだ、そうだ! 俺は体の一部が機械なんて嫌だぞ。
まぁ……蒼汰が死んだら1人分の招待は貰えなくなるから、そこは残念だけどよ」
中々にエゴが強い人だな。
欲望に、忠実たれ……か。スマホの画面を見てもう一度確認をした後、口を開いた。
「はは……は、司さん。それは勘弁して下さい。
腕が失くなったりするよりはいいでしょ」
「そりゃあな、ゲームがまともに出来なくなっちまうもん。
俺の生き甲斐が失くなっちまう。そしたら生きてる意味ねえよ」
「言いますね、まぁそれじゃ少し聞いてくださいよ。俺が死のうと思った理由を。
話さないと納得してくれなさそうですしね」
夏恋さんと九条を見ながら言葉を出す。
車内が静まり返る中、俺は腹に空気を溜め込み言葉と共に吐き出した。
「疲れたんです、生きる事に。
もうどうでもいいんですよ。この先に対する未練がない。
司さんのように生き甲斐ってものはないですし」
淡々と言葉を紡ぐ。
それに当然の如く彼女は反応してきた。
「蒼汰くんは結論を出すのが早すぎます!
疲れたら休めばきっと元気になりますから。
元気になって色んな事をやれば――――」
「いないんだよ」
夏恋さんの言葉を断ち切る。
俺にはもう罪悪感なんてものはない。畳み掛けるのみだ。
「えっ?」
「いなくなっちまった。
掛け替えのない奴がいたんだ、俺にも。夏恋さんと同じようにね」
宙を見上げた後、彼女の眼を見た。
「ハルちゃん、ユミちゃん……」
「そう、その2人のようにね。
俺にも菊池光宙っていう掛け替えのない友達がいた」
俺は言葉に感情の色を付けながらゆっくりと語っていく。
「待って下さい! 大事な友達が……亡くなってしまって辛いのはわかります。
でもだからって、死のうとするのは良くないなんです!
そのお友達だって蒼汰くんが死んだりしたら絶対に悲しみます」
夏恋さんの真剣な言葉を全て聞き、自分が紡ぐべき言葉を見つけていく。
そして、語りかけていく。
「……見えるんだ、聞こえるんだ」
俺は瞳を閉じ、そう言った。
「どういう、ことですか……?」
「夏恋さんには見えないか。
俺にはね、見えるんだよ。死んだ友達の姿が」
今はもう見えないけどね、と目を開きながら言った。
「ちょっと前まで俺に語りかけていたよ。
死ぬのは怖くない。死んでくれ、お前がいないと寂しいってな」
「友達がそんなことを言う訳ありません……!
きっと蒼汰くんが見たのは悪いなにかです。だから――――」
容赦なんてものはない。酷い人間だ。
「寂しいんだ、俺も。あいつがいなくなっちまって。
ここまで生きようと頑張ったのも幽霊の姿とはいえ、俺の前にいてくれたからだ。
そんなあいつも、もういない」
「寂しいから、死んじゃうなんて……」
「なぁ、夏恋さんは友達が多いんじゃないか」
「えっ、とたぶん多いと思い、ます」
「だろうな。夏恋さんは明るくて、いい人だ。
だけど、俺は違う。友達も少なくて良い奴じゃない」
彼女が何かを言いかける前に、俺は手で制す。
そして自分の言葉を続ける。
「あいつとの関係はな、奇跡だったんだ。
だって中々人と仲良くなれない俺が、それはもう心底仲良くなれた人間なんだぞ。
馬が合うとか、阿吽の呼吸とかそんな言葉じゃあ足りない。
世界には自分と似た人間が3人もいるらしいが、光宙程に仲良くなれる奴は1人しかいない。断言できる。
あいつにだったら全てを打ち明けられた。あいつのためになら自分を犠牲にもできた。
そう言えてしまう程の関係なんだよ。まっ、押しが強い所は玉に瑕だけどな」
最後の方は笑みを浮かべなから言った。
そして最後の言葉を告げる。
「だから、死なせてくれないか? どうか頼む」
髪が地面につくのを厭わず、俺は頭を下げ続けた。
彼女の反応があるまで。ずっと。
「ひどいよ、かなしいよ……こんなのっ」
夏恋さんは、泣き崩れた。
電車の振動が伝わる車内に、彼女の泣き声が響き渡った。
そんな彼女を慰めようと隣に座っている九条は彼女の体をさすっている。
俺はその光景を横目で流し、他の人間にも同様の行為を行った。
「どうか、頼む。俺を死なせてくれ。
誰かの為じゃなく、俺の為に」
九条は俺の行為を無視し、司さんが一言だけ、わかったと言った。
彼もエゴが比較的強いだけでまともな良い人間みたいだ。
銀縁メガネをした六道は、
「ククククッ、ハッハハハハハ!!」
俺を見下ろし、悪役のような笑いをした。
とても似合っている。
「つい笑ってしまった、すまない。
ふふふ、ハッハハハハハ……ふぅ」
「…………」
「いいとも、君が死ぬことを容認しよう。
この六道 解が君の死を見届けてやろう」
俺はその言葉を聞き顔を上げ、感謝の言葉を告げた。
それに対して九条は馬鹿にしたような侮蔑したような表情を浮かべた後、自分こそが正義だと言わんばかりに口を開いた。
「ただ、君の話に訂正を加えなければいけいな部分がある。
それはだなぁ……」
ニヤリと笑った後、手を広げ満面の笑みで言った。
「君の見た幽霊とやらは幻だよ、幻覚だ! 間違いなくね!
ふっふふ、それに俺は知っているんだ。君の本当の姿を」
「本当の姿……?」
傍観していた司さんは不思議そうに尋ねた。
何を話すのか、俺には想像が付く。
「俺は丁度居合わせていたから知っている。
お前が狂っているやつだとな。見ず知らずの人間にお前はこう言った。
“見えるよな、あそこに浮かんでいる青白い光の球体。何だと思う?”
“もう一度! もう一度しっかりと見てくれ。あるはずなんだ!”
“ほらっ、目を大きく開けてしっかりと見ろ!” とな」
首を落とし、床に顔を向ける。肩はしなだれているだろう。
……俺の声真似が随分と上手だ。
「っで……で、どうなったんだ?」
「見えるはずがないだろう? 見ず知らずの人間は怒り狂っていたよ。狂人に付き合わされてね。
俺も鈴木が指差した部分を見た。青白い球体があるという部分をな。
だけど、何もなかった。しかも、これだけじゃあない」
「やめて、くれ……」
俺は力無く声を出す。
だが、彼は止めなかった。
「鈴木、お前は今の自分を受け入れて死ぬべきだ。
でなきゃあ、仲が良かったという友人にも愛想をつかされるぞ」
憐れむような声が頭上から降り注いでくる。
「話を続けよう。
ミュージックゲームをしていた時の話だ。
お前の友達の名前は菊池とか言ったな?」
「…………ああ」
「ふふふ、そうか。
ならお前は心の底から酷い奴だな!
助けを求めていた友を蹴り飛ばすのだから!」
「いや――――」
否定しようと思い、やめた。
「なんだ? 弁明があるのなら聞いておこう。言え」
「…………」
何も言わず首を振るう。
すると、失望を滲ませた声が聞こえてきた。
「面白味がないな。まぁ、いい。
新庄、お前はこの後の展開はどうなったと思う?」
「いや、どうもこうも蒼汰の……友達は死ぬんじゃないか」
戸惑いを感じる声で司さんはそう言った。
何に戸惑っているのだろうか。
俺という人間に対する印象はどう変化しているのだろうか。
夏恋さんは今だに泣いているままだ。
「ふむ、そうだな。結論は友人の死だ。
だがそこまでの過程があまりにも酷くてな――――」
彼は延々と語り続ける。
俺は膝に手を付きながらそれを黙って聞くのみだった。
足りない……まだ確実じゃない。
「鈴木、お前の全てを話してやった。
異論反論はあるか?」
なければ全てを認めた上で死ね。
その言葉に俺は、
「は……い、みとめます……認めますよ。
俺が見たのは幽霊じゃなく、幻覚です……。
自分は狂った人間、です」
「そうか、認めるか。
ならお前が蹴り飛ばした友人もきっと許してくれるさ」
顔を上げ、彼の表情を見る。
ある言葉がすぐに浮かぶ、満足という言葉だ。
「なぁ、これは余談だ。
九条も幽霊、いや幻覚が見えたりしないのか?」
「……私は見えません」
標的を変えるらしい。
満足した六道は次に九条に話掛けた。
九条は夏恋さんを慰める手を止め、返事をした。
九条と夏恋さん。
今の話を聞いて、俺をどう思った。
「そうか、ならお前はまだマシなんだな。
同じ狂った者同士、見えるかと思ったんだが」
「っ」
九条の情報まで知っているのか。
これは……。自分の下唇を噛む。
「そのポニーテールを解いて見れば昔の自分に戻れるんじゃないか」
「あなたは……!」
九条の琴線に触れたのだろう。
彼女の声から確かな怒りを感じた。
その返事を聞いてか、六道はいや、と言ったあと、
「すまなかった、要らないことを言ったな。許してくれ」
意外な事に謝罪をした。頭は下げていないが。
「……いえ」
その謝罪を聞いて九条は凛とした声で謝罪を受け入れた。
なぜ六道はいきなり追求を止めて、謝罪をしたのか、理由について考えていると、
「…………」
ボソッと彼は言った。
“生贄は1人で充分だったなと”
言葉を聞いて思った、六道はとても合理的な男だ。
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『五体不満足』
~ルール~
1.全員が生き残れるゲーム
2.ただし、以下3に記述されるどれかを1人1つ犠牲にすること
重複は不可とする。
3.頭(障害・変形)、右腕、左腕、右足、左足のいずれか
4.1人を生贄に捧げた場合、残りの4人は五体満足で帰れる。任意、抽選、どちらかを選択すること
5.互いの画面を見せあってはいけない。破られた場合には皆に等しき死を
6.欲望に忠実たれ
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「さて、最後のゲームといこうか。
市ノ瀬夏恋、納得はしたか?
……仮に納得をしていなくても認めてやれ。鈴木は死にたいんだ」
六道の言葉に何も反応せず、彼女は俺を、俺の目をじっと見てくる。
懇願するような目をしながら。俺はその視線から目を逸らす。
語ることはない。だが……満たされているかどうか。
「……とりあえず、先に進めよう。鈴木、スマホを取り出せ。
そして画面に表示されている生贄ボタンを押すんだ」
「ああ……」
俺は言われるがままにスマホを取り出す。
そして画面を押そうとする手を止められた。
「間違っても抽選ボタンを押すなよ」
「……もちろん」
無駄な忠告だな。
俺が仮に抽選ボタンを押した所で何の意味もないだろう。
全員の承諾があって初めて成立するものだ。
「ふぅ……」
生贄ボタンを押すと、【任意】 【抽選】 の文字が書かれた画面が出てきた。
俺は迷わず任意のボタンを押す。
すると、自らの画面を見ていた六道は明るい声で、
「よし、お前はきっと天国で友人に会えるさ。
皆承諾を押して――――」
と言い切る前にあいつ等の声が聞こえた。
『あーダルイ。あと少しでヤバかったね、ハルちゃん』
『ネズミが外に出てみようとか言うからでしょ……
何なのアレ、まだ頭がボーッとするわ』
間の悪い連中だ。
俺は小さくため息を吐いた――――
お読み頂きありがとうございます。
明日の完結を目指します。




