親友は言った、お前は生きろと
これは……Dのソクラテスだな。
A、B、C、のパネルに触れないよう慎重に右手を動かす。
そしてスマホの画面の一番下に表示されているDのパネルに触れる。合っているはずだ、自信がある。
「よしっ」
これで6問連続で正解だ、得意分野を間違えてたまるかよ。
「ふっ」
右側に表示されている自分の成績と、19人の成績を見比べると一目瞭然だ。
連続正解者は自分しかいない。逆に1問も合っていない奴は4、5人いる。
30問中まだ、たった6問とはいえ、正解数0と6じゃ大きく違う。
いいぞ、このままクリアしてやる。
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『START』 6/30
大問2 数学
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「ちっ」
そういえば6問毎に問題が変わるんだったな。
面倒な。正直に言えばこのまま解いていたかった。
が数学も得意だ。どうとでもなる。
俺は気持ちを切り替えて、次の問題に向かった――――
「マズイな」
手で頭を抑えながら、つい考えが言葉に出てしまった。
それなりに焦っているらしい。この状況ならそれも仕方がないだろう、
と自分に言い聞かせる。芳しくない、どんどんと状況が悪化している。
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大問4 芸能 16/30
第24問
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もう24問目なのに、正解数は16しかない。
順位で言うなら8位だ。下と差がある8位ならよかった。だが、現実は逆だ。
15位まで団子のような状態になっている。1問でも間違えるようなら、順位の1つや2つは下がるだろう。
どうしてこうなった……大問の2が終わるまでは、トップを走り続けていたのに。
「ふう」
問題の解答を考えながら、大問3からの流れについて頭を悩ませていた。
大問2までは勉強の知識が問われる問題だったから、余裕を持って答えられた。
けれど、大問3や4はスポーツやら芸能とかの問題に変わってしまったせいでめっきりわからなくなってしまった。
いや、スポーツはまだ良かった。最近の事柄に関しての問題ならニュースで見ていたから解くことができた。
「チッ、わからん」
適当な解答を押す、おそらく間違いだろう。
芸能についてはさっぱりだ。
アイドルがどうとか、有名人の結婚相手は誰々かなんてイチイチ覚えていられない。どうして他の奴らはわかるんだよ。
頭が更に痛くなるのを感じながら、夏恋さんの正解数をチラリと見る。
この分ならクリアしそうだ、あの美人キャラも同じ正解数だし、クリアするだろう。
って現実逃避をしていても始まらないか。視線をスマホへと戻す。
「クソッ、合ってろよ……」
画面上には大きなバツ印が描かれている。
案の上、24問目は不正解だった。不味いぞ、もう10位じゃないか。
1つ間違えただけでこれか、協力を求めるのも考えなくちゃな。
「この問題が終わってからだな」
大問が切り替わる間に少し時間がある、その間に……と考えている内に25問目が表示された。
見覚えのある名前だな。あいつが良く口にしていた芸能人の名前だ。
隣に顔を向けながら問いかけた。
「おい、光宙この問題わからないか」
「…………」
……馬鹿か俺は。
目を手で隠しながら、首を上に上げた。
あいつはもう死んでるじゃないか、何寝ぼけたことを言ってるんだか。
疲れてるな、俺も。
「…………」
憂鬱になった気持ちをため息に乗せて吐き出す。
適当に押した解答は当然の如く間違いだった。どうにも神様に愛されていない。
「はぁ」
もう一度ため息を吐く。
あいつがいればなと思いながら。
「ダメだ、こんなんじゃ」
頭を振り、無理矢理気持ちを切り替える。
次の大問が芸能みたいなジャンルだと間違いなく死ぬ。
今の内に手を打つべきだ。俺は立ち上がり周囲を見渡す。
「周りに誰もいないな」
正確に言うなら人らしきものはいる。だが、おそらく死体ばかりだろう。
暗闇の中でロングシートに座っているだけの存在。それが生者だとは思えない。
「どうする……」
そうはいっても遠くの人に声を掛ける時間はない。
下に散らばっている死体のせいでさっきよりも移動に時間がかかる。
近くに人がいてくれれば、蹴り飛ばすなり、協力を仰ぐなりできたんだが。
「仕方ない」
何もしないのもただ状況を悪化させるだけだ。
ほんの僅かな期待を込めて、俺は足を動かすことにした――――
「期待なんて儚いものだ」
腕を組みながら視線を赤い床に向けた。
これで2連続でハズレを引いたことになる。
首なしのはパッと見でわかるが、窒息死した奴はわかりにくい。
近くで見ればわかるが、遠目で見ると青白くなっていることになんて気付かない。
「次でラストだな」
スマホの画面を見ると、もうスタート画面が出てきそうだ。
次が生者だろうが、死者だろうがそこで終わりだな。
これ以上捜索に時間を使うと本末転倒な結果になる。
俺は一寸の期待を込めながら、胸の前で腕を組んでいる女と思われる人に声を掛けた。
「あの、生きてますか?」
「…………」
大きめの声を出したが反応はない、ハズレか。
元々こうなる確率の方が高かったんだ、仕方があるまい。
自分にそう言い聞かせる。諦めて元の席に戻ろうとした所で、小さなうめき声が聞こえた。
「……っ、くる…ぃ…」
「! 生きていたんですね」
声の方へ振り向いてみる。
死んでいたと思っていたが、生きていたのか。
何か言葉を発しているが、うまく聞き取れないな。
「…………ん?」
声を聞き取ろうと近付いてみたが、ある違和感に気づいた。
女の人は口を開いていないのだ、何かを呟いているのに。
ホラーかよって、そもそも音を発している場所がおかしい気がする。
女の股の方から声が聞こえてるような……そんな気がする。
「……まさかな」
唾を飲み込みながら、もう3歩、女へと近づく。
考えてみると今の状況は既にホラーだ。何が出てもおかしくない。
逃げたい気持ちを抑えながら、女性の顔に触れる。すると、
「死んでいる」
汗が吹き出てくるような車内で、この冷たさは異常だ。
いや、だけどほのかに温かいような……死んだばかりなのか。
どちらにしろ、どこから声が聞こえてきたんだ。
また幻聴か……? 勘弁してくれよ、と思っていたら、また声が聞こえてきた。
「ぉ……かあさん……くるしいよ……ぉ」
「……もしかして」
さっきよりもハッキリとした声が聞こえてきた。
死んだ女の近くから。だが、死んだ人間は喋れない。
つまりは……女の腕を慎重に一本ずつ胸の前から外していく。何故だかわからないが、抵抗が強い。結局はかなりの力を使って腕を胸の前からずらした。
「はぁ……はぁ、大丈夫か?」
女の腹から股にかけての間に3~5歳ぐらいの子供が出てきた。
小さなサイドテールは腕の力でよれてしまっている。
何より服にはおびただしい血がついていて、正直直視したくない。
小さな子がこんな目に合うなんて、俺にもまだ胸が痛む感覚が残っていたらしい。
「ぅ……ん、ぁりがとう、おにいちゃん…………」
「ぁあ、どういたしまして。女の子か、名前は?」
「……メ…………」
俺は視線を女の子から外しながら、問いかける。
1秒、2秒、3秒……と返事を待っても、声が聞こえてこない。
胸が痛む気持ちを感じながら、女の子へ顔を向ける。
「ぁ……ぁ……やっぱり、か」
死んでいた。
母親と思われる膝の下で、女の子は笑顔を浮かべて死んでいた。
「…………」
一応脈があるかを確認するため、女の子の腕に触れる。
ない。
念の為呼吸をしているか確かめるために、口元へ手を当てる。が、
「ダメだ」
頭を振りながら、言葉を吐き出した。
最初見た時には気付かなかったが、女の子からは今だに新しい血が出ている。
ゲームでの死に方じゃない。胴体を何か鋭いもので突いたんだ。
その何かは……足元に転がっているハサミだろう。
鈍い銀色が存在を主張していた。血をつけながら。
「殺したのは…………」
それ以上先を考えなかった。
意味がない、何の価値もない思考。
1つ意味があるとすれば自分もまだ人間だと思えることぐらいだ。
「…………」
狂った世界、汚く醜い存在達、誰も彼もが自分の利益しか考えられない状況。
だが――――女の子がそんな存在だとは思えなかった。
この世界とは不釣合いな、あどけない普通の少女のように思えた。
彼女と同じように。
いいことだ、きっとそれはいいことだ……なのに! 思う。
仮に女の子とその母親が助けを求めてきていたら、俺は手を貸していただろうかと。
普通なら、倫理観や同情心が働いて助けていただろう。
しかし、今の俺はきっと助けない。価値がないからだ、そんなものに。
この世界で、普通や優しさなんて価値はない。むしろ自分の足を引っ張る足枷にしかならない。
自分に利益をもたらす存在ならともかく――だ。
女の子と母親を抱え込んだところで、俺に何の価値も利益ももたらさない。排除すべき存在だ。
「俺はそう信じている」
母親の腕を元の位置に戻す。
これでちょっとやそっとの揺れで、女の子と母親は離れ離れにならないだろう。
一瞬沸いた胸の痛みはすぐに消え、自己満足が俺の胸を満たした。
だが、問題はもう27問目になっている。
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大問5 アニメ・サブカルチャー 16/30
第27問
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「ま、間抜けすぎる」
考えに浸っていたせいで、26問目は解答できなかった。
というか問題すら見ていない。当然間違いだ。
「はぁ……苦手なジャンルな上に解答形式まで変わるのかよ」
ロングシートに深く身を沈める。
今までは4者択一の問題だったから、ヤマカンでもいけた。
けれど、大問5から自分で解答を打ち込むタイプになってしまった。
「こんな所で死ぬのか……?」
そのせいで何となく知っていた27問目まで落とす羽目になった。
まぁ、今までヤマカンで答えた問題全て外してるが。
「……」
問題から目を背け、順位欄を見る。
順位は奇跡的にまだ13位。しかも1問合えば生存圏内に入れる。
と考えている内にもうか、もう制限時間なのか。
ヤケクソ気味に解答を書き込む。
「このゲームを主催したやつは今すぐ死ね。悶え苦しんだ上で死んでくれ。
俺の為にも」
勿論不正解だった。
あーあーもうどうにでもなれ。
なんなんだよ、散々苦しんで、幻覚まで見えてきて、その上で俺の何かが変わってしまったと思ったらこれかよ。馬鹿じゃねえの。
生きてきた意味とかそんなのどうでもいいとか思ってたけど、今は猛烈に欲しい。神がいるなら、俺を死なすな、逆恨みするぞ。
「わからん」
駄々をこねている内にもう28問目だ。
あいつと見たアニメの問題だが、全然覚えてない。そんなもんだ。
「はぁ」
人は死ぬ間際に本性が見えるらしいが、俺はこんな恥ずかしい奴だったみたいだ。
今だけは誰もいなくてよかったと心から思うよ。
目を閉じる。3問連続で正解しないと生き残れる可能性がないのに、もうわからないんだ。
どうしようもない、死のう。精々潔くな。
散々悩んで、自分本位に生きてやろうと思った気持ちは今だ揺るがずにある。
だがそもそも生きようという気力がどうにもない。
あの女の子の顔を見る限り、死ぬのも悪くなさそうだし。そう思うと体から力が抜けていく。
無音の世界が広がるはずだった。
しかし――――
『蒼汰! 主役ロボの名前はレイジンガーだろ!
忘れたのか!? 一緒に見ただろう、この薄情者!
早くしないと死ぬぞ! そんなのダメだ!!』
「…………はっ?」
『だから聞こえてないわよ。可哀想だけど……。
ってアレ?』
『蒼汰ァァアアアアアア! カムバァック! ヘイ!』
どこかで聞いた懐かしい声が、俺の意識を現実へと引き戻した。




