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ANNESSA  作者: もののふいつかみ
ANNESSA 6
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6-2

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 凄まじい雄叫びが辺りを轟かせた。

「ウ、グァアアアアアアア!!!」

 ビリビリと感じている肌が痛い。窓のガラス等には罅が割れ、砕けるものもあった。

 アネッサはその場を蹴ってまた夜空にまみれると、辺りを俯瞰した。虫音はもう止み、振動が地平線の果てまで届いているように思えた。

「あの様子・・・・・・。異常形態・・・・・・?“外”から何かしましたか」

 悪魔に戻った毅は禍々しい気を帯びてその眼光を煌かせている。獣らしさを残した以前の形態より幾分悪魔に近付いたような気がする。

 視線を向ける先にはアネッサ、星々に連なるペリドットの瞳が不思議に輝いていた。

「ガァア!」

 悪魔は眼光を一層光らせ辺りの雑多を錬成し始めた。今までの粗暴な魔法ではない、精巧な操作で刹那たる速度で巨大な槍を創りだすとアネッサ目掛けて放った。

「魔法精度の向上、・・・・・・いえ、それだけではないように思えます」

 月をも落す勢いの銀の槍をアネッサは掌で上から叩いた。槍は力のコントロールを失い、回転しながらアネッサを通り過ぎていった。

 急激に上達した魔法、そしてその容姿。外界から何かしらの接触があったのは確かと見える。

「グァア!」

 今度は傍の地面から土の龍を溢れさせ、雷に錬成してアネッサへ突進させる。

 凄まじい雷鳴を響かせ龍は大きく口を開けた。

「明らかに追加プログラムによる反応と見えます」

 涼やかに、自分に噛みつこうとする雷の龍に向けて吐息を吹きかけた。すると龍は何万もの黒蝶に弾けて変わり、夜の空やアネッサの目の前を通り過ぎていった。

 “外”の人間はこの研究を成功させるために今まで何万通りもの実験を繰り返してきた。今更諦めるわけがない、だがこんな横暴なやり方では奴らの望むものは手に入らないのはわかっているはずだった。ならばなぜ、悪魔は異常な反応を見せ続けているのか・・・・・・。

「――――――もし、・・・・・・」

 もし、という可能性の話。この研究の残酷さに嫌気がさした人間がいれば、この実験を終わらすために追加プログラムを加える理由にも納得ができる。

 そう考えた所で、アネッサは自分の中に違和感を覚えた。

「ふふっ、あーなるほどなるほど。これは嬉しい贈り物ですね」

 疑問を巡らせていたアネッサは、そっと心の中に置かれていたものに気付く。途端に嬉しくなり笑みを零しながら腿の銃を抜いた。

「この物語はまもなく終わりを告げます」

 終わりを告げる。物語はこの延々と引き延ばされていくこの実験に、漸くラストコールの舞台を整えたらしい。

「盛大にいきましょう!」

 天へとその銃口を向け、引き金を押しこんだ。軽い発砲音と共に夜へと放たれた弾は、ゆるゆると上がっていくと花火となって綺麗な八重咲きを見せた。花火は次々と咲き乱れ、大天を覆っていく。

 胸に響く爆破音が気持ちをさらに高揚させ擽った。

「毅!」

 いつもの黒のドレス姿になったアネッサは、未だ狂気を纏う悪魔に飛びつくように近づき、その腕を取ると空へと昇っていった。それはまるで美女と野獣の如く、ダンスでも踊るかのようにくるくると、花火の灯の下で舞った。

「あっははは!」

 楽しそうに笑うアネッサ。未だ悪魔の意識のままの毅は、そんなアネッサに向けて拳を上げた。

 しかし、突然悪魔の身体に罅が割れると、次にはガラスのように砕けた。悪魔の欠片は赤や黄色、青のマーブル模様となってキラキラと二人を包むと、アネッサが掴んでいた腕は人間のものに変わっていった。

「うわっ!」

 まるっきり人間の姿に戻った毅はいきなりの空に動転したが、直ぐに体勢を整えた。

「毅っ!」

 アネッサは腕を引っ張って毅を抱きしめた。幸福感に満ちたその顔には涙の伝った跡があった。毅も恐る恐るアネッサの背中に手を回す。

「アネッサ、これって・・・・・・?」

「毅の異常形態に反応した私の隠しコードが起動したんです」

 説明に対し理解を得ない毅は?マークを浮かべた。

「どうなるの?俺達、・・・・・・」

「この物語は終わりを告げました」

 御覧、とアネッサは抱擁を解き、既に昇り始めていた朝日を指差した。

 朝日に当たったものは悉くガラスの様に砕け、綺麗なマーブル模様となって天へと降る雨となった。その景色がこの箱庭の終わりを告げるものだと分かる。

 こんなに神々しい朝日があっただろうか、地から伸びる色彩は光を受けて輝き、アネッサや毅の身体をその光で染めた。絵画にすればきっと美しい一枚になるであろう眺めの中、アネッサは一言。

「お別れです」

 尚も嬉しそうに言った。毅は反応的にアネッサの横顔を見つめる。

 瞳が本当に宝石のようで、お別れという言葉に思わず嫌だと叫びそうになった。

「お別れって、・・・・・・どういうことだよ!」

「なにもかも、終わり。貴方は元の世界に帰るのです」

 微笑みながら毅の瞳を覗いた。明らかな不安を溜めたその色は、光が差し込んでいるせいかブラウンの虹彩が良く見えた。

「アネッサはどうなるんだよっ」

「私はただのプログラムです。貴方の生きていた世界へは一緒には行けません」

「なんだよそれ!」

 気持ちの焦りが毅を憤慨させる。この世界はもうすぐ消える。打開策を考える余裕もない。

「ここに生きた貴方は死に、私はプログラムとして仕事を終えるのです」

「そんなっ」

 この箱庭がどの程度広いのかはわからないが、逃げてみてはどうだろうか。あるいは一か八か魔法でどうにかならないだろうか。などと考えを巡らせはするが、目の前のアネッサが本当に嬉しそうに微笑んでいるのを見ていると、どうにも言葉が出ない。

「っ!」

 朝日が昇るにつれ、いよいよ辺りのマーブル模様は上昇気流となって毅の身体を勢いよく浮かし始めた。

 咄嗟にアネッサの腕を掴む。

 何故かアネッサだけは何とも無い様子で、ただ掴まれた腕でなんとかそこにいる毅を見上げていた。

「奇跡とは、起こるものなのですね。諦めかけた最後の最後にこうなる事を、私は本当に嬉しく思います」

「なに言ってんだよ!」

 両手で掴もうともう片方の手を伸ばすが、激しく自分を噴き上げる気流が邪魔で上手くいかない。指の隙間から色とりどりの雫が滑り抜けていく。

「貴方と出会えてよかった。今回はなんとなく、前より楽しく過ごせた気がします。こういう結果になったからでしょうか?」

「アネッサ!引っ張ってくれ!飛ばされちまう!」

 掴んだ手も限界が近かった。

「毅、ここでの貴方は死んでしまいますが、・・・・・・もし、もしこのアネッサを思い出すことができたら、いつか会いに来てくださいね」

「っ!アネッサーーーー!!!」

 マーブル模様が強く吹きあげた所で、毅は遠くの空へ飛んで行ってしまった。

「・・・・・・」

 名残惜しそうに毅を見送ると、ポーチからお気に入りの丸テーブルとイス、紅茶セットを出して朝日に消える箱庭を眺めた。

「本当に、ありがとう」

 一口飲み、いつもの澄まし顔な笑顔で満足げに言った。

 ただの人形である自分がこんなに幸福感に満ちることなど、想像もつかなかった。何万もの自分がこんな形で報われる事をアネッサはいつかどこかにいる神様に感謝した。


 朝日の眩しさは一層増し、辺りのマーブル模様と共にアネッサの姿は虚ろになっていった。


 暗転し、朝日も街もマーブル模様も何もなくなった箱庭は無機質なノイズ音を鳴らすだけになった。


 一寸の光も無くなり、箱庭は消滅した。

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