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薄暗い無機質な空間が広がっていた。モニターやデスク、情報処理機器の類が円状に立ち並び、およそ数十人の人物がモニターの前に座り淡々と何かを打ち込んでいる。
機器に囲まれるような形で中心にあるのはホログラムで映されたどこかの町並み、色んな場所が様々な角度で投影されている。その中の一つには『大神商店街』と書かれたアーチ状の看板が見える。
機器を操作する仰々しい白衣姿の男が口を開いた。
「エバーオールサンプル体の正常反応を確認、順調です」
「ジンの様子はどうだ?」
部屋全体を見渡せる高さにある劇場のバルコニー席の様な所に座っている老人が、しゃがれた声で返した。
「はい、こちらも問題なく予定通りゴウとの接触を完了しています」
「モニターに出せ」
男は合図を送り壁面のモニターを起動させ、操作した。画面には人型のモニタリングとその隣りには様々なチェック項目の欄がある。男がタッチボードのエンターキーに触れると、チェック項目は機械的に埋まっていった。
「ゴウと接触した後、同期システムに行動を移行しています。メンタル、フィジカル、ブースト共に異常は見られません」
全てのチェック項目が埋まり電子音が鳴ると、モニターにはクリアの文字が表示された。
「充填は?」
「現在五パーセントです」
男がまたぽんとボードを叩くと、別のウィンドウにバーが表示された。ウィンドウの項目にはNo.20521とナンバリングされていた。
「五パーか・・・・・・いつになるのか、先は長いな」
老人がため息混じりに言った。
「しかし、他のジンよりは好調なスタートです。前回No.20520のジンは二パーセントでゴウに潰されましたから」
ボードを操作して、あるイメージ画面を表示させた。そこには物体が横たわっていた。黒い服、黒い髪に黒のラウンドハット、そしてペリドットの美しい瞳はその視線を左右別々の明後日の方向に向けたまま固まっている。土汚れた頬が、火の海と化している周囲に照らされていた。
「そういえば、まだ報告書が上がってきていないが?」
「申し訳ございません、分析班が情報収集に手間取っている様子でして」
「ふん、所詮は出遅れた新参者だ。期待はせんよ」
「元々敵対組織の連中ですからね、我々の研究の成果が実ろうとしている今になって一噛みさせろと言わんばかりに分析班を買って出ましたから、全くふざけた奴らです」
「まぁ良いわ、過ぎたことをとやかく言っても仕様が無い、好きにやらせろ」
老人は億劫に腕を伸ばして隣りに鎮座していた蓄音器のスイッチを入れた。静々と回った円盤から針が振動して、音となってホーンから流れた。黄金のドレスの様なホーンはモニターの明りに鈍くその身を光らせている。オーケストラの物々しいクラシックが立ち込めるが、ドレスはまるで湿気に満ちているような曇った表情をしているように見えた。
老人はまた大きくため息をついた。
「私が生きている内に完成して欲しいものだな」
「きっと完成します。我々の研究は七代に渡り千年前から開始されてきました。今は最終段階に入っています。後は上手くエバーオール体を充填できれば」
「栄光の世界を築ける。そこで我々は我々の枷を外して自由に暮らしていける」
「その第一歩は既に歩まれているのです。エバーオール体があればこの星も人も我々神も救われます。つい先日もこの研究に対しての費用配当が上がる見込みが立ったばかりですし、周りの技術部署も熱が入っています」
「うむ、だが研究にはアクシデントは付きものだ。もし、今回のジンで結果が得られなかった場合全体のプランを一から見直さなければならない、振り出しに戻るのだ。油断はせず、スキャンを欠かすな」
「了解です」
男は再びデスクに向かって操作をすると、前のモニターにスキャン中を表す表示が浮かんだ。
老人は姿勢を崩し、頬杖をついて静かに蓄音器を視線を送った。
「千年前から、お前はこの実験を見守ってきている。どうじゃ、成功するか?」
蓄音器のドレスは未だ鈍い光を放ち表情は明るくなかったが、その様子をみて老人は安心した。
「俺には知ったこっちゃない、か。数々の実験を見ながらお前はいつもそう応えたんだろうな。わしの先代も先々代も・・・・・・向こうのお前はどうじゃ、楽しくやっておるかの。ジンとゴウ、二名の世話は大変だと思うが、よろしく頼むぞ」
老人は蓄音器の箱部分を撫でて、その場を後にした。




