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プロローグ

ガドネア歴 九七七年一一月   ミリア・サンディー


 私たちがディトリア・クレール大陸に渡ってから、早二年半が過ぎました。早いものです。

 デニアスのサーシャとウーニャは元気にしているのかな、なんて時々思いながら、私たちはいろんな国を転々と旅をしています。

 旅の途中、デリシア王国王都にある、古巣デリシア国立学園に立ち寄って、レア……、妹の卒業式に参加しました。この時ウーニャの現状をレアに伝えました。ウーニャの怪我については非常に残念がっていましたが、ガドネアで伴侶を見つけ、彼女の誕生日に入籍したことを伝えると、先を越されたと口にはしていたものの、素直に嬉しそうにしていました。

 兄……いえ、あの者のしでかしたことについては、結局レアには伝えることはできませんでした。

 デリシア王国にはあまり長居はしない方針で、旅を続けました。例えばその先、帝国との国境を超え、帝都にまで足を運んだり、エルディス共和国のドントンヴリーグにまで行ってみたり。

 本当にいろいろな場所を巡りました。

 さすがにデリシア王国との国境付近はピリピリしている感がありましたが、少しでも内陸側に移動すれば両国間の関係もどこ吹く風、という感じでした。

 そんな旅路ですが、マリアさんが最近体調を崩しており、少しだけ心配ではあります。いえ、これはもしかすると、もしかするかも知れません。


プロローグ


 ティルライト公国。

 曰く付きの王国デリシアの南東側に隣接する国家で、大陸の一部と南方の島々がその領土だ。赤道直下ということもあり、この辺りは年中暑い日が続く。

 比較的温暖な地方で生まれたファーネルは、割と平気な顔だ。

 ファーネル・テナイ。ガドネア歴九五七年八月生まれの二十歳。冒険者としては四年目のベテランだ。ロングソードに、革製のブレストアーマー、腰からぶら下げ下半身を守るアンダーアーマー、足の臑に装着するレッグアーマーは木製。以前は全金属製だったが、この旅の間に色々と装備を変えて、一番しっくりきたのがこの組み合わせだ。どれも、なんら装飾のされていない、至って地味な装備一式だ。金髪碧眼。彼の出身地であるガドネア大陸で最も多いのが、彼と同じ金髪碧眼だろう。そのため特徴たり得ない。

 先頭を歩く彼は、後ろを向いて諸手を挙げる。

「少し休憩にするか?」

「そうですね。言いつつファーネルが休憩したいだけでしょう?」

 静かに突っかかるのは、ミリア・サンディー。ガドネア歴九五七年二月八日生まれ。ファーネルより約半年ほど早生まれであり、自分が誕生日を迎えてファーネルの年上になると、やけにそれを誇示してファーネルを尻に敷こうとする。

 陽光を眩しく反射する、真っ白なローブ。その下には真っ黒なワンピースを着ている。一見して魔道士風でもある彼女は、その格好通り魔法を主として戦う。

 黒髪ストレートロングの後ろ髪で、前髪は軽くセンター分けとしている。目の色は茶色。当たりを眩しそうに、縦に長い瞳孔が揺れる。いわゆる龍眼であり、彼女がそうした種族であることを表している。彼女は、龍族。その中でもとりわけ総合力が高いとされている黒龍だ。普段は人と変わらぬ姿を取っているが、魔法を使用することで、この姿に翼と尻尾を付け足した部分龍化、全身をドラゴンのそれに変えてしまう完全龍化を行うこともできる。その時にたたき出せる筋力は桁違いだが、今は割愛。肌はそれなりに焼けてはいるが、基本は色白だ。髪の毛に隠れて普段は見えないが、彼女には小さな角がある。但し片方は彼女自身が根元から折り、現在はファーネルのネックレスに加工されている。これは龍族の主従契約をした証だ。本来の意味は形骸化しているが、現在の龍族では、女性龍族が愛する伴侶に贈るものとして定着している。いつものように、ファーネルに対して挑発的な面があるが、そうした契約を果たしている二人だ。恋人同士であり、ついでにいえばミリアの方が溺愛している具合だ。

 二人が並び、後ろを振り返る。

 遅れて歩いているのは、アーサー、そしてマリアだ。

 アーサー・スナー。ガドネア歴九五六年一一月一〇日生まれ。ギリッギリ二〇歳、明日二一歳。一応この四人パーティーの最年長でリーダーでもある。

 幅広で特殊な素材の短剣二本を主武装とし、革製のブレストアーマーで身を包む。ファーネルのものとは違い、背中側に装甲はなくがら空きである。アンダーアーマーとレッグアーマーは、軽さを重視した革製だ。

 身長は一三四フォーネル。彼ら人龍族としては平均よりも背が高い。

 髪色は明るい紫色で、目も同じ色合いだ。日差しの強い今は、猫のように瞳孔が縦に細長い。ミリアの龍眼に近いが、端が丸い。なお、暗いときは本当に猫の目のように、まん丸になる。彼らは、人龍族と呼ばれる種族で、龍族とはまた違った者たちだ。

 背中を大きく開けた鎧なのは、彼の戦闘スタイルによるものだ。背中に翼を呼び出し、機動力を高めたり飛行したりと、龍族よりも活用方法が広く、多用する。そんな剣技を修めているのだ。背中が開いていないと、彼は満足な戦いができなくなると言っても過言ではない。

 アーサーは汗を流しながら、悪い、と二人に声をかける。

 彼が暑さに弱いのは筋金入りだ。どれだけ長い間旅をしたからといって、体質的なところはなかなか改善しない。

 彼の生まれは、赤道を越えたその先、ガドネア大陸。その中でも最南端の島で、夏でも涼しく冬は流氷に閉ざされるような極寒の世界だ。対極に位置するこの場所でグロッキーになるのは、致し方ないことだろう。それでも昔のように熱中症で倒れなくなったのは、大きな成長だ。

 先行している二人にようやくという体で追いつくが、しかし、とアーサーは後ろを振り返る。一番遅れているマリアと、目が合った。

「どうした?」

「……なんか、ちょっと調子が悪いみたいで」

 マリア・ファルアスタシア。ガドネア歴九五八年七月一六日生まれ、一九歳。真っ白なマントに、ミリアとデザインが同じ真っ白なワンピースを身につける。固い防具は一切身につけない。背中にジャマダハルと呼ばれる武装を二本、鞘に収めてぶら下げており、それをマントで隠すスタイルだ。

 身長は四人の中でも突飛して低く、僅か一〇五フォーネルしかない。人龍族としても小柄な方で、見た目も幼顔故に子供に見られがちである。子供扱いを嫌がるくせに、何かあれば子供の振りをする、痛い一九歳。

 金髪碧眼サイドポニーテール。人龍型の龍眼。彼女は砂漠地方で生まれているため、本来四人の中で、暑いのに一番強い。また夜は逆に冷え込むことからも、寒さにも意外に強い。

 彼女には、特記すべきことがある。

 まず、二重人格であること。丁寧な口調で少し引っ込み思案の、本来の主性格『姉』、そしてとある事故で亡くなった双子の妹をそのまま生き写しにした、天真爛漫な『妹』という二つの性格が共存している。記憶も大半は共有しているほか、好み等といった精神面もほぼ共通である。

 そして、彼女らは『夢見』という異能を持っている。夢を通して未来を占うものだ。ただ、絶対的な未来を予言するようなものではなく、ある程度対策を取ることでその未来を避けられるというもの、そのはずだった。

 しかし、最近見る夢見は、対策すら織り込み済みの未来が多くなっていた。特に強い運命に導かれる未来は、簡単には抗えないことに、彼女は気付いている。見てしまった未来をどうしようかと、マリアは時々思い詰めている。

 なお、マリアの二つの性格は、どちらもアーサーのことが大好きである。もう二年以上も前に結婚の約束をしているが、その時期は特に決めてはいない。したいと思ったときにそうしよう、というそんな婚約だった。またどちらかの性格が偏らないようにと、毎日交代して表に出てきている。

 なお、四人の中では一番年少だが、一番強く一番元気だ。そんな彼女が、一番遅れての合流だった。

「本当に調子悪そうだな」

「そうですね。もうしばらく歩けば目的地です。そこで宿を取って、休憩にしましょう。……休憩といってもその休憩ではないですよ?」

 ミリアは、一々不穏な発言を挟む。それには三人とももう慣れたものだ。

「その休憩はファーネルと二人でしておけ」

 アーサーも、堂々とセクハラ発言をするし、マリアもただ頷く。引き合いに出されたファーネルが損をするというか得をするというか。まあ二人とも好き合っている恋人同士だ。むしろミリアの方が溺愛している関係なので、得なのだろうか。それはともかく。

 既にマリアの荷物もアーサーが背負い、マリアは手ぶら同然である。それでも何処かつらそうにしているので、さすがに心配だった。


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