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第8話 陶工の水辺族と、土鍋焼きうどん


 陶工のガドは、昼の鐘が鳴るまで、冷たい泥の中へ両手を入れていた。


 川辺から運んだ土を水で溶かし、小石と木の根を取り除く。そのまま大きな桶へ入れておくと、器に使える細かな土だけが底へ沈む。


 春になっても、川の水は冷たい。


 ガドの指には、濃い緑の小さな鱗が並んでいる。手の甲から腕、首の横まで続く鱗は、水に濡れている方がひび割れにくい。その代わり、冷たい水へ長く触れた後は、指の関節が曲がりにくくなった。


 水辺族が全員、冷えに弱いわけではない。


 海辺で魚を売るガドの従兄は、冬でも冷たい魚の酢漬けを好んで食べる。ガドの家族は川の上流にある温かな泉の近くで育ったためか、冷たい食事を続けると身体が重くなりやすかった。


 それでも陶工の仕事では、水を避けられない。


 ガドは桶から手を抜き、布で泥をぬぐった。指を握ってみる。人差し指と中指は曲がったが、薬指は途中で止まった。


 作業台の端にあった試し焼きの小皿を持ち上げる。薬指が底へ回らず、皿が傾いた。


「おっと……!」


 ガドは反対の手で受け止めた。割れなかった。だが、胸の奥では怒りが、窯の火のようにぼっと燃えた。


「冗談じゃない。土をこねた手で、その土の皿を落としたら笑い話にもならんぞ」


 誰も聞いていないのに、大きな声が出た。


「……昼だ。温かい物を食う。今日はもう、冷えたパンで我慢なんぞせん」


 独り言へ返事をする者はいない。


 川沿いの仕事場には、ガド一人だけだった。見習いは窯の薪を買いに行っている。


 棚には朝に残した麦の平たいパンと、冷めた豆の煮物がある。どちらも食べられるし、傷んでもいない。


 だが、午後は窯へ器を積む仕事が待っている。冷えた指のまま、乾かした器を持ち上げたくなかった。少し力を入れ損ねるだけで、数日かけて作った器の縁を割ってしまう。


 温かい昼を食べよう。


 ガドはそう決め、泥のついた仕事着を脱いだ。乾いた上着へ替え、腰へ細い縄を巻く。縄には、器の直径を測るための結び目がいくつもついている。


 町へ向かう道で、何を食べるかは決めていなかった。


 いつもの食堂では、木の器へ魚の汁を入れてくれる。出された直後は温かいが、食べ終わるころには冷めていた。


『冷める前に、さっさと食えばいい』


 一度そう言われて、ガドは今でも腹を立てている。食うのが遅いわけではない。陶工なら、縁の厚さも、底の広さも、持った重さも見る。それを楽しんでから食べて、何が悪い。


 細い通りを歩いていると、小さな看板が目に入った。


『ひだまり食堂』


 窓から、魚のだしとしょうゆの匂いが流れている。


 その奥に、煮た小麦のような香りがあった。


 ガドは扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 黒い髪の店主が、卓を拭いていた手を止めた。


「一人だ。温かい物はあるか」


「あります。どのくらい温かい物がいいですか」


 聞き返され、ガドは店主の顔を見た。


「どのくらい、とは」


「口へ入れられないほど熱い物がいいのか、食べ終わるまで冷めにくい物がいいのか、という意味です」



「食べ終わるまで冷めにくい物だ。舌を焼いて、『熱かったぞ』と自慢したいわけじゃない。俺は料理の味を見たいし、器も見たい。急いでかき込めと言われる昼は、もううんざりだ」


「分かりました」


 店主はうなずき、厨房に近い卓へ案内した。


 ガドは椅子へ座る前に、卓の表面を指で押した。器を置いても傾かない。脚もぐらつかない。


「丈夫な卓ですね」


「料理より先に、卓の感想をもらったのは初めてです」


「陶工だからな。器を置く場所も見る」


「では、器にも厳しそうですね」



「厳しいぞ。縁ががたつけば言う。底が反れば言う。持ちにくくても言う。ただし、良ければ良いと、もっと大きな声で言う。職人は、けなすだけだと思うなよ」


 ガドは、脅すつもりで言ったのではない。店主は少しだけ背筋を伸ばした。


「俺はユウトです。料理を決める前に、食べられない物を聞かせてください」


 ユウトは水と一枚の注文票を置いた。


「獣の肉、魚、卵、小麦は食べられますか」


「全部食べられる」


「乳は」


「食べられる。家や信仰の決まりで避けている物もない」


「苦手な味や食感はありますか」


「冷えた料理は避けたい。毒になるわけではないが、俺は身体が冷えると指が動きにくくなる」


 ガドは右手を握った。薬指だけが、まだ掌へ届かない。


「水辺族は、皆さん同じですか」


「同じではない。海辺育ちの従兄は冷たい魚が好きだ。俺と、上流の温かな泉の近くで育った家族は、冷たい物が続くと身体が重くなる」


「では、ガドさん本人の身体の傾向として書きます」


「名前を言ったか」


「言っていません」


 ユウトは筆を止めた。


「すみません。まだ名前を聞いていませんでした」


「ガドだ」


「ガドさんですね」


「名前を勝手に決めて書かなかったのは、いい」


 ユウトはほっとした顔で、注文票へ名前を書いた。


『ガド。冷たい料理が続くと指が動きにくくなる。食べ終わるまで温かい物を希望』


 ガドは紙を自分の方へ引き、読み直した。


「これなら伝わる」


「温かい鍋焼きうどんはどうでしょう」


「鍋を焼くのか」


「鍋そのものを食べる料理ではありません」


 ユウトは急いで付け足した。


「土で作った厚い鍋へ、太い小麦の麺と魚、野菜、卵を入れ、その鍋のまま火にかけます。できたら鍋ごと卓へ運ぶので、普通の器より冷めにくいです」


「鍋ごと出すのか」


 ガドの目が厨房へ向いた。



「待て。料理を入れた鍋を、そのまま客の卓へ出す? 火から下ろしたあとも、器の熱で食わせるのか。……その鍋を見せてくれ。今すぐだ」


 ユウトは棚の下から、一人分の小さな土鍋を出した。


 黒に近い茶色で、丸い胴に短い持ち手が二つついている。蓋も同じ土で作られていた。金属鍋より壁が厚く、持ち上げるとずしりと重い。


 ガドは奪うように手を伸ばしかけ、途中で止めた。まず底を見る。


「底は乾いているな」


「洗った後、逆さにして乾かしました」


「濡れたまま強い火へかけると、割れやすい。最初は弱い火で、鍋全体をゆっくり温めた方がいい」


「説明には、初めから強火にしないと書いてありました」


「誰が書いた」


「俺の故郷で、この鍋を作った人です」


 客から受け取ったこの国のお金を白い戸棚へ入れると、ユウトは故郷の食材と、料理に必要な道具を買える。この土鍋も、そこで買った物だった。


 ガドは持ち手へ指をかけ、鍋を少し持ち上げた。重さも左右でずれていない。


 奥歯を噛んだ。悔しい。知らない土地の陶工に、仕事で一歩先を越された気分だった。


「火に耐える土を使っているのか」


「はい。何度か使って、割れないことも確かめました」



「なら、料理を頼む。魚と野菜と卵も、全部入れてくれ。この鍋が本当に最後まで熱を抱えられるのか、俺が食って確かめる」


 ユウトが鍋を受け取ろうとすると、ガドはすぐには放さなかった。


「一つだけ」


「はい」


「この持ち手は小さい。厚い布を二枚用意した方がいい」


「卓へ運ぶのは俺です」


「食べ終わった客が、親切で下げようとするかもしれない」


 ユウトは土鍋とガドを交互に見た。


「ガドさんは、下げないでください」


「分かっている。俺は客だ」


「今、少し持ち上げましたよね」


「まだ料理が入っていなかった」


 ユウトは念のため、厚い布を二枚用意した。


 ユウトは乾いた土鍋へ魚のだしを入れ、弱い火でゆっくり温めた。小さな泡がつき始めたところでしょうゆ、塩、少しの砂糖を加える。


 具は町で買った白いかぶ、橙色の根菜、肉厚のきのこ、川の白身魚だ。火の通りにくい根菜は先に柔らかく煮てある。


 魚の表面が白くなったところへ、一度煮てある太いうどんをほぐして入れた。最後に卵を割る。白身は熱いつゆに触れた外側から固まり、黄身は丸いまま中央に残った。


 細く切ったねぎを散らし、蓋をする。


 ユウトは火を止めてから、木の板へ土鍋を乗せた。持ち手には厚い布を当てる。


 蓋の隙間から、湯気が途切れず上がっていた。


「お待たせしました。魚と野菜の鍋焼きうどんです」


 ユウトが木の板ごと卓へ置く。


「鍋も蓋も熱いので、直接触らないでください。蓋は俺が開けます」


 ガドはうなずき、両手を卓の下へ置いた。


 ユウトが厚い布で蓋を持ち上げる。


 白い湯気が一度に広がった。


 茶色いつゆの中に、太いうどん、白いかぶ、橙色の根菜、きのこ、白身魚が見える。中央では卵の白身がほとんど白く固まり、十分に熱の入った黄身だけが柔らかく丸い。


 つゆはまだ、鍋の縁で小さく揺れていた。



「……くそ。いい器だ」


 ガドが最初に言った。


「料理の感想は、まだ食べていないので仕方ないですね」


「縁の厚さがそろっている。蓋もよく合っている」


「冷める前に食べてもらえますか」


「冷めにくい料理を作ったのは、そちらだろう」


 ユウトは返す言葉を失った。


 ガドは木のさじでつゆをすくった。


 湯気を見て、すぐ口へ運ばず、三度息を吹く。さじの縁へ唇をつけ、少しだけ飲んだ。


 魚のだしとしょうゆの塩気が、舌の上へ広がった。かぶと根菜を煮た甘さも、つゆへ溶けている。


 熱い。


 しかし、舌を刺すだけの熱さではない。ゆっくり飲めば、喉から胸へ温かさが下りていく。



「うまいな、これ……! 魚の味がはっきりしている。しょうゆは香るが塩辛すぎないし、根菜の甘さまでつゆへ出ている。器を確かめるつもりだったのに、先にもう一口飲みたくなる」


 ユウトの肩から、少し力が抜けた。


「器だけで終わらなくてよかったです」



「器が悪ければ、料理も最後まで保たない。だが料理が悪ければ、器だけ温めても仕方がない。これは両方、ちゃんと仕事をしている」


「料理が入って初めて器を使える、とも言えます」


「その話は、食べ終わってから続けよう」


 今度はガドが料理を優先した。


 木の箸で、太いうどんを二本持ち上げる。


 麺の表面はつやがあり、茶色いつゆが薄く絡んでいる。ガドは息を吹き、一本だけ口へ入れた。


 外側は柔らかく、なめらかだった。歯を入れると、中心には少しだけ弾力が残っている。小麦の味に魚だしが加わり、かむほど塩気が穏やかになった。


「この太い麺もおいしい。柔らかいが、かむところが残っている」


「うどんです。煮すぎると柔らかくなりすぎるので、土鍋へ入れてからは長く煮ていません」


 ガドは二本目を食べた。


 今度は、麺と一緒に薄いねぎを少し挟む。ねぎの香りが魚だしを引き締め、同じうどんが少し軽くなった。


 次に、白身魚をさじへ乗せる。


 箸を触れただけで、身が大きくほぐれた。口へ入れると柔らかく、つゆより淡い魚の味が残る。きのこは反対に、歯を押し返す弾力があり、かむと吸っていたつゆが出た。


「魚は柔らかい。きのこは噛み応えがある。同じ鍋でも、全部が同じ柔らかさではないな」


 ガドは食べながら、ときどき土鍋の縁を見た。


 料理を食べ始めてしばらくたっても、湯気はまだ細く上がっている。金属鍋なら火から下ろすとすぐ表面の泡が消えるが、厚い土鍋には蓄えた熱が残っていた。


 もちろん、いつまでも熱いわけではない。


 最初にはっきり見えた湯気は少なくなり、つゆも静かになっていく。それでも木の器よりゆっくり冷めていた。


 ガドは、白いかぶをさじで半分に割った。


 力を入れなくても、すっと切れる。中まで茶色いつゆが染み、口へ入れると柔らかく崩れた。かぶ自体の淡い甘さに、魚としょうゆの味が重なっている。


「これは、ほくほくというより、しみて柔らかい。おいしい」


「朝から煮ておきました」


「先に柔らかくした物を土鍋へ入れたのか」


「はい。生のまま全部入れると、根菜が煮える前にうどんが柔らかくなりすぎます」


 ガドはうなずいた。


「器だけで時間をそろえるのではなく、材料の方も先にそろえるんだな」


「そうです」


 橙色の根菜は、かぶより少し固かった。かむと甘さが出て、しょうゆのつゆによく合う。


 食事が半分ほど進んだころ、卵の白身は余熱でほとんど白くなっていた。黄身の表面にも薄い膜が張っている。


 ガドは黄身の端へ箸を入れた。


 中から熱でとろりとした濃い黄色がゆっくり流れ、つゆへ広がる。


 うどんをその部分へ通して食べた。


 卵の黄身が麺へ絡み、魚だしとしょうゆの角を丸くする。最初のさっぱりした味より濃くなったが、バターやチーズを加えたような重さはない。


「卵を崩す前と後で、つゆが変わる。これもおいしい。後半は味が少しやわらかくなる」


「卵をいつ崩すかは、好きに決めてください」


「もう崩した」


「次に来たときの話です」


「次も同じ鍋を使うつもりか」


「割れていなければ」


 ガドは土鍋を見た。


「その言い方は陶工を不安にさせる」


「普通に使えば大丈夫だと書いてありました」


「なら、普通に使え」


 ユウトは素直にうなずいた。


 ガドは食べる速度を少し落とした。


 急がなくても、つゆはまだ温かい。


 冷たい料理を避けるとき、いつもは最初の数口を早く食べる。器が冷める前に腹へ入れようとして、味の違いを考える余裕はなかった。


 今日は、うどんを一本ずつ持ち上げてもよい。魚ときのこを交互に食べ、途中で水も飲める。


 水は常温だった。冷たすぎず、口に残ったしょうゆと卵の味を薄くしてくれた。


 土鍋の中のうどんは、初めより少し柔らかくなっている。表面がつゆを吸い、箸で持つと重くなった。その分、卵の混ざったつゆがよく絡んだ。


 ガドは最後に食べる物を決めた。


 土鍋の底に残っている、いちばん厚いかぶだ。


 食事の初めに食べたかぶより長くつゆへ浸かり、卵の黄身も少しついている。


 先に残ったうどんを食べる。


 短い一本を箸で取り、ねぎと一緒に口へ運んだ。熱さはもう落ち着いている。小麦の味、魚だし、卵のまろやかさを、一度に感じられた。


 次に、最後のかぶをさじへ乗せる。


 息を吹かなくても食べられる温度になっていた。それでも冷たくはない。


 かぶはさじの上で形を保っているが、舌で押すだけで崩れた。中までつゆがしみ、最後に根菜の甘さが残る。


「最後まで温かくて、おいしい」


 ガドははっきり言った。


 土鍋には、卵の細かな白身と、ねぎの欠片が少し残っている。


 ガドはさじで集め、つゆと一緒に飲んだ。


 器の底が見えた。


 食べ終わっても、土鍋の外側にはまだ温かさが残っている。ガドは手を伸ばしかけ、ユウトを見る。


「触ってもいいか」


「布を使ってください」


 ユウトは厚い布を一枚渡した。


 ガドは布越しに、土鍋の側面へ指を当てた。口に近い部分は温かく、底に近い部分にはもう少し強い熱が残っている。


「熱が底だけに集まらず、壁へ回っている。厚さも大きくずれていない」


「食後の感想が、また器へ戻りましたね」


「料理は食べ終わった。今は器の番だ」


 ガドは布を外し、自分の右手を握った。


 薬指が、今度は掌へ届いた。


 薬指が動くようになったのは、温かいうどんだけのおかげではない。仕事場を離れ、乾いた上着へ替え、温かな店内で休んだ時間もある。それでも、冷えたままパンをかじるより、午後の仕事へ戻りやすかった。


 腹の中には、魚だしと卵の温かさが残っている。肩も、店へ入ったときより下がっていた。


 ガドは水をもう一口飲み、銅貨二枚を卓へ置いた。


「ごちそうさま。うどんは柔らかいが、最初は弾力があり、後半はつゆをよく吸う。魚、きのこ、根菜、卵で、食べるたびに味も変わった。何より、最後まで温かかった」


「ありがとうございます」


 ユウトは注文票へ書き足した。


『厚い土鍋。木の板へ乗せる。熱いので蓋は店主が開ける。厚い布を二枚用意する』


 ガドはその文字を読み、腰の縄を外した。


「鍋の周りの長さを測ってもいいか」


「何をするんですか」


「同じ物を作るとは言っていない。町の土で、俺ならどう作るか試したい」


「火にかけられる鍋を作れるんですか」


「すぐには無理だ。土の混ぜ方を変え、乾かし、焼き、火へかけて割れないか試す。料理を入れるのは、その後だ」


「どのくらいかかりますか」


「うまくいっても何週間か。失敗すれば、もっとだ」


 ユウトは、空になった土鍋をもう一度見た。


「明日できると思ったか」


「少しだけ」


「土は、店主の都合では乾かない」


「卵も時間と交渉できませんでした」


「卵より土の方が頑固だ」


 ガドは縄を土鍋の周りへ一周させ、長さの合う位置へ新しい結び目を作った。次に、高さと持ち手の幅も測る。


「同じ大きさにするんですか」


「比べるための基準だ。俺が作るなら、持ち手をもう少し大きくする。蓋のつまみも、布でつかみやすい形にする」


「できたら、見せてもらえますか」


「割れなかったらな」


 ガドは縄を腰へ戻した。


 扉を開けると、午後の風が首の鱗へ当たった。店へ来たときには冷たく感じた風が、今は心地よい。


 歩き出す前に、ガドは両手を一度握った。指はまだ少し重いが、器を持つには困らない。


 川沿いの仕事場へ戻ると、見習いが薪を積み終えていた。


「親方、昼は何を食べたんですか」


「土の鍋で煮た、太い小麦の麺だ。魚と野菜と卵も入っていた」


「鍋を食べたんですか」


「お前まで同じことを言うのか。鍋は食べていない」


 見習いは笑い、窯の前へ積んだ器を指した。


「午後は、この皿を入れます」


「分かった。先に縁を確かめる」


 ガドは乾いた皿を一枚ずつ持ち上げた。


 冷えて止まりかけていた薬指も、器の裏へきちんと回る。ひび、ゆがみ、底の乾き具合を確かめ、窯へ入れる順に並べ直した。


 その日の器を窯で焼き始めてから、ガドは余った土を少しだけ作業台へ置いた。


 ひだまり食堂の土鍋と同じ大きさを示す縄の結び目を、台の上へ広げる。


 まずは、いつもの器より厚い底を作り、布越しでもつかみやすい持ち手をつける。乾かす間にひびが入れば、土の混ぜ方からやり直しだ。


「何週間でも、何度でも割れろ。最後に割れない一つを作ってやる」


 ガドは温かいうどんの最後の一口を思い出し、にやりと笑った。


「あの鍋より、使いやすい持ち手をつけてな」


 土の中央へ親指を入れる。まだ鍋ではない土が、太い指の下でゆっくり丸く広がった。


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