三十三話 それは夏休みの終わりと言ったって構わない
ちゅんちゅん。
小鳥の鳴き声の中目を覚ました。
「そっか、二人ともあのまま寝ちゃったのか。」
ここ最近よく眠れてなかったのか聖は起きる様子がない。ふと二人の間に目を落とすと繋がったままの手。意識なんてあるはずないのに離れなかった、離さなかった。
想いは繋いだ手を介して伝わって行く。所詮は気分だ、本当にそんなことあるはずはない。ただ、触れ合って感じ合うことのできる体温なんてのはきっと本物で偽りようのない真実だと信じることができる。今なおそれは続いて一晩なんかじゃ到底足りない。まだまだこれからもっと。
最後の最後に言えた言葉なんてのも彼の導きあってこそなのだ。私はまだ私の力だけであなたに気持ちを伝えることもできません。私のこの病弱な体では一緒に歩いてデートもできません。対等ではありません。あなたが希望をくれたから私は明日を望みます。今度は私から伝えるから。
「好き、大好き...か。なんだってちゃちだと馬鹿にすらしたどこにでもあるような安っぽいラブソングみたいな言葉を使ってしまったんだろうね。」
未だ眠ったままの聖に目をやる。
今ならわかる。本当に伝えたいことっていうのはいざとなったらシンプルな言葉でしか表現できなくなってしまうのだろうってことが。別に安っぽい訳でもちゃちな訳でもない。それしか言えないのだ。そんな言葉でしか歌えないのだ。それが人なりの歌い方なのだ。
「時雨様...お時間です。」
「わかってるよ。だけど...もう少し...もう少しだけこのまま。」
いつかまた会えるのなら今度は私から会いにいく。あの日あなたが突然私の世界に降り立ったように。あなたが私を想い歌ってくれるならその鳴き声を頼りに。だから今は、
「さよなら。」
「お車の用意は出来ております。」
そして振り返ることなく病室を後にした。実際に手術を行うのは実家の近くにある都会の大病院。距離はあるし簡単には戻ってこれないだろう。
「お別れの挨拶はよろしかったのですか?」
車のドアを開けながら若葉が言った。
「いーよ。わざわざ起こすことないよ。」
ふとあの病室を振り返った。笑みを浮かべ軽く手を振る。
「だって...。」
♢
聞きなれない男性の声に目を覚ました。
「君、ねぇ君!こんなとこで何してんの?」
「えっ!あっ、俺?いやあの見送りをですね、するつもりだったんですけどなんでか寝ちゃったみたいですね。あはは...。」
我ながらなんとまあおかしな事を言ってるのだと思うが寝起きで回らない頭をなんとか使ってひねり出した言い訳だ。こんなもんだろ。
「ふぅん。でもいいのかい?もう言っちゃったみたいだけど、走ればまだ間に合うかもしれないよ?ほら、ちょうど車に乗ってるのが見えるよ。」
職員のお兄さんがほらほらと窓の外を指差した。
「いいんです。それに言いたいこと、最低限の聞きたかったことなんてのは全部昨日までに済ませましたから。」
けれどもっと聞きたかった。一緒にやりたいことだってたくさんあった。時間が足りなかった。できなかった。
「それに...。」
ふと窓の外に目がいった。ちょうど時雨と目があったので軽く手を振った。そういえばなんか手があったかい。
「「また会えるから。」」
時雨の口も同じように動いていた気がする。




